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フレイアの星 ☆

「やっと君はここまで来てくれたんだね」


 突然、声が響いた。

 振り返るとそこには。

 まさしく、夢の中と同じ銀白色のマントを靡かせ、

 微笑んでいる─────彼。


 加川ルカ、の姿があった。


「本来の姿で逢えて嬉しいよ。……アルティシア」

「あなたは、一体……!」


 彼こそは毎夜、私の夢の中に現れ、私に呼びかけていた謎の人物に他ならなかった。

 やはりという想いと、何故という疑惑感がないまぜになりながら、それ以上は言葉も出ない。


「思い出してくれ、アルティシア。僕のことを、君自身の姿を。そして僕たちの故郷──────フレイアの星のことを」

「星……フレイア……?!」


 彼は頷くと、私の前へと歩み寄ってくる。

 そして、私の額に人差し指を突き立てたのだ。


「加川! てめえ、柊美に何する気だ!?」

「何もしない。ただ、アルティシアに前世の記憶を完全に正しくクリアに取り戻してもらうだけだ」


 神秘的な紫の美しい彼の瞳に吸い込まれるように、私は気が遠くなり始めた。

 そして私の脳裏には、再び夢の情景が浮かび上がってきたのである。


 薄い紫色の限りなく透明な大気の中、生い茂る白き生物たちの壮麗な歌声。

 響く、響く……。

 植物達の思念波に囲まれた中、神殿がそびえ立つ。

 聖なる、選ばれし者しか踏み込むことの許されぬ。


 ここは、聖域──────


 意識が数々の扉を通り抜けてゆく。

 最後の室に到達すると、そこには。

 巨大なコンピューター組織に覆われた中、神秘の祭壇を前にして、一人の少女が跪き、『祈り』を捧げていた。

 腰までもある豊かな絹糸のごとき亜麻色の髪を持った少女。

 室中のコンピューターを作動させ、外界の植物達の意志を統制している少女。



挿絵(By みてみん)



「──────あれは……。私……?!」

「そうだよ、ティシア。それが地球に転生する前の君の姿だ」

「転生ですって!?」

「そうだ。アルティシア─────それがフレイアでの君の名だ」


 彼は更にたたみかける。


「君は、フレイアにはべる植物達をこよなく愛し、統制する能力にたけたフレイアの王女であり、同時にその際だった力で神に祈りを捧げる巫女だった」

「王女? 私が、巫女……」


 呟きながらも、まだ事態を把握できるほど完全には、私は覚醒していない。


「そして……」


 いいかい、ティシア─────よくお聞き。


 そう言いたげに、彼は思念で私の心にそう呼びかけると、再びはっきりとその口を開いた。


「君は僕の、たった一人の妹だ」


「なんだって!?」


 声をあげたのは颯一郎だった。

 私は言葉もなく、おぼろげな前世の記憶へと、今度は自ら意識の触手を伸ばし始めていた。


 様々な映像が湧き出るように去来する。

 神殿から離れた下界には、初めて見る街と人々の姿があった。

 街の外れには『市』が立ち、時折物々交換さえも行われ、その側を小恐竜の背に乗り悠々と移動していく人々。

 男は剣をさし、女は(しゃをまとい、動植物と睦み合う──────フレイアの民。

 一転、地下で星を制御する常識を遥かに越えたコンピューター群。

 古代めいた外の風景が嘘のようにそこでは、見事に進化した文明の結晶が集中している。

 フレイアの星──────それは、雄大な自然と科学的な物質とが見事に融和している独特の文明を誇ってる星ではなかったか。


「そうだ。ティシア。フレイアは一見未開だが、星の中枢は機械が支配していた。それが表に出ないほど、フレイアは卓越した文明と大自然を維持していたんだ」


 私の心を読んだらしい彼の言葉にハッとして、私は目を開けた。

 そこには、私の顔を見つめている深い彼の瞳が、あった。

 紫色したその瞳に再び吸い込まれてゆく。

 懐かしい。なつかしくて……。


「─────にいさま……ソルティア兄様!」

 

 私は、はっきりと彼の名前を思い出していた。


 ”兄様……ソルティア兄様”


 極上の紗の裾を翻しながら神殿の中を駆けてゆく、確かに私に他ならぬ姿が、見えた。


 ”アルティシア……!”


 彼は微笑みながら、私を両腕で抱きとめる。

 私達はかつて、仲睦まじく暮らしていた。

 フレイアの星で───── 


「僕達の星は平和だった。大気は優しく、植物達は歌い、そして人々は科学力を過つことなく、大自然と共に穏やかな日々を送っていた。そう……あの日までは」

「あの、日……?」

「覚えていないかい、アルティシア。あの忌まわしいサラムの侵略を……」

「サラム」


 そう呟いてみて私は、あっと声をあげた。

 思い出した。覚えている。あれは。

 サラム……それは、フレイアの星を破壊する侵略者。

 彼らは、フレイアの植物の持つ貴重なエキスに目をつけ、それを奪わんとフレイアに侵攻してきたのだ。

 我らは勿論それを拒んだ。

 星は全面戦争へと突入したのである。

 平和で優しいフレイアの民にサラムは脅威だった。

 美しいフレイアの星は徐々に荒廃していき、私達は生命の危機に晒された。


 そして──────


「何故……」


 そこからの記憶がない。

 何故、私は今、『地球』にいるのか。

 どうして、私達は離れ離れにならなければならなかったのか。


「それは僕が仕組んだ事だ」


 静かな瞳で、彼──────ソルティア兄様は、呟いた。


「仕組んだ……?」

「そう。君は祈りを捧げる力で勇敢に戦った。けれど星は危機に瀕した。それは僕達、王族の身にさえ降りかかってきたんだ。王であり、王妃であった僕達の父上と母上が……息をひきとった時、僕は。僕は、君の身を案じ、君だけはどうしても生き延びて欲しいと願ったんだ。だから、遂に或る夜」


 彼は一旦言葉を止めた。

 どこか遠い目をした。


「或る夜、僕は戦い疲れて眠ってしまった君を、そっと大神殿の祭壇へと運んだ。そして君を、グレートマザーコンピューターに連結し、君の肉体を消滅させて、フレイアと酷似している惑星、地球へと転生させてしまったんだ」


 息を飲む私をよそに、彼は更に言葉を継いだ。


「極東の島、日本を選んだのは、四季が豊かだったからだ。そこで君はきっと幸せに生きてくれると僕は信じて、身を切られる想いに耐えて、君と別れを告げたんだ。それがフレイアでの……地球で言うところの約二年前の事だよ」

「二年ですって……?そんな、今日でもう私は、十七になるのに……」

「それはフレイアと地球とでは、公転周期が違うからだ。フレイアでの時の流れは地球に比べて著しく遅い。フレイアは、太陽の光があまり届かないほど遠く太陽系の果てに位置している。植物達が白いのもその為だ。フレイアの生物は、地球の植物が有する葉緑素と呼ばれるようなものを持たないんだ。従って光合成活動も行わない。覚えていないかい?彼らのエネルギー源は、フレイアの特殊な大気だ」


  私は暫し声もなく、ただ呆然と立ち尽くすだけだった。



作中挿絵は、汐の音さまの「自由絵一覧」より15番の絵を使わせて頂きました。

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