『商品No17捨てられた猫』 商品ランク☆☆
ニャオーン。俺は猫。ペットとして人間に飼われていたが母ちゃんと一緒に夜の浜辺に捨てられた。
夏の照りつける太陽の下、俺と母ちゃんはどこにも行くあてなどなく、しばらく放心に近い状態でさまよい続けていた。
浜辺にはカップルや、海水浴を楽しむ若者たちが際どい水着を着用しながらキャッキャウフフと騒ぎながら、波と戯れていた。
ヌーディストビーチでもあるのかマッパの男女も多数いたが、俺は猫なので何の興味も湧かなかった。ちなみに俺はまだ去勢はされていない。言っとかないとな、誤解されるのは心外なのでな。
「母ちゃん」
「何だい? ボッキー」
そう俺の名前はボッキーだ。
俺達を捨てた飼い主が、自身がインポだったので、病気が治るようになのか、当てつけなのかは分からないけど俺にそんなふざけた名前を付けやがった。まあ、仕返しはしたがな。元主人が風呂に入っているときにこっそりと俺も風呂に侵入して元主人の股間を引っかいて、傷跡を残してな。あ、もしかしてそれで俺達捨てられたのかな? まあ、真相は今となっては藪の中だがな。
「あんた、今日の晩飯を取ってきなさいよ」
母ちゃんは俺に鋭い瞳を向けてきた。
「嫌だよ。自分で捕ればいいだろう? 自分の食事ぐらいは自分で捕ろうよ」
「あんたそれでも私の息子かい? 私の足を見てごらんよ。ほら私は足が悪くて碌に歩くことも出来やしないんだから」
そう言えばそうだった、俺の母ちゃんは最近になって足腰が弱ってきて走ることはおろか、歩くことさえもままならなくなってきているのだ。加えて元主人に捨てられてから、半日以上何も口にしていなかった。元主人は俺達に普段からもたいして餌をくれなかったので、常に俺達は栄養失調気味だったので、たとえ半日足らずであったとしても空腹は堪える、しかもこれから先に餌にありつける保障はないのだからその精神的な不安も加算されて、肉体的な影響は避けようもなかった。
「分かったよ、母ちゃん。俺が餌を取って来るよ」
「本当かい? あんた実は優しい奴だったんだね」
「いや、母ちゃん今まで俺のことなんだと思っていたんだよ」
「どら息子?」
「そりゃないですぜー、母ちゃん」
まあいいや、これから母ちゃんの信頼を回復していけばいいだけのことしな。
「じゃあ、母ちゃんあそこで待っていてくれよ。もしかしたら二、三日はかかるかもしれないけどな。辛抱してくれよ」
俺は母ちゃんにここから数十メートル先に見える廃墟を爪先と肉球で示し、言った。
「はいよ」
母ちゃんは頷くと、のそのそと廃墟へと向かって行った。
餌か、俺は餌を探すべく浜辺を歩き回った。
浜辺を抜け、草むらをかき分け、歩いていると古びた、というより朽ち果てた小さなドアが土に埋まっていた。ドアは小さく、まるで家によく付いている猫専用のドアのようだった。ドアの下の部分だけしか埋まっていないのでそのドアを潜ることは可能だった。
「ニャハハッ。まるでどこでもドアみたいだニャア」
俺はテレビで昔見たことがあるネコ型ロボットのアニメを思い出し、面白半分で潜ることにした。
昔はご主人と一緒に、ご主人の膝の上でアニメなんかをよく見ていたものだったけどニャア。
ふいに悲しみが思い出の一ページの中から降りてきて、徐々に心の中に悲しみが降り積もってくる。
俺はドアを潜った。
ピカーン。
急展開が待っていた。
俺は異世界へと飛ばされた。
何だよ。本当にこのドアは異世界へと通じるどこでもドアみたいなやつだったのかよ。
でも、飛ばされた先にあったのは淡い広大な景色の中にたった一つぽつんと存在している一軒家だけだった。
どこか海外で、空がまるで湖に鏡のように映る場所があったけど、そこの景色にとても近い雰囲気を持っている。浅い湖に澄み渡った空が鏡のように反射している。その景色に蒸気のようなもやもやとした白い煙が合わさっていて、どこか神秘的であり、幻想的であり、ノスタルジックであり、草津温泉のようでもあった。……最後の例えは失敗したかもしれないニャン。
一軒家に入ると化け猫ならぬ化け狸がいた。
狸は二本立ちで立っていて、身長は二メートルを越えていると思われた。巨大で体格もまるでお相撲さんのようにでっぷりと太っていた。
「ここは一体どこなんですかニャン?」
「ここは、魂に迷いし者が訪れる場所たぬき」
「魂に迷いし者? 俺のことかニャン?」
「いや、お前以外に誰がいるんだよ。たぬきっ!」
たぬきは俺に逆切れした。口調の最後に取って付けたようにたぬきと入れながら。
「あなたに能力を授けよう。たぬき」
「能力?」
「説明するの、面倒くさいから端的に言うね。たぬき。変身能力を与えるよ。たぬき」
そして俺はたぬきから変身能力を授かった。
たぬきが俺を元の世界に戻してくれるというので、言われるがままに従った。とは言っても何をするでもなく、ただ突っ立っていただけだが。
でも……。
「元いた世界と全然違うじゃないかー!」
俺は違う世界、具体的には動物が人間のような世界を築いている世界に送り込まれた。
その世界では動物は皆、二本立ちだった。俺は四足歩行の猫だったので、たぬきから授かった能力を使い化け猫に変身し、二足歩行になり何とか違和感なくその世界に溶け込むことが出来た。
そこで俺は好みのタイプの猫に会った。
そいつは性格が良く、グラマラスで乳も張りがあり、最高だった。けど、そいつは俺と付き合い始めてから病気になった。
何でだろうと思い、占い師に相談したら、「あんた異世界から来たでしょ。あんたの異世界から持ち込んだ、『異世界病』にかかってあんたの恋人は病気になったんだよ」とか言われて、俺はショックを受けて、占い師の指示に従い、山に登ったりして薬草を採ってきて、それを恋人に飲ませて、恋人は病気が治って。ハッピーエンドだった。と思ったら、元いた世界で母親に餌を取ってくる約束を今更ながら思い出したので異世界から帰ることにした。恋人も俺のいた世界に行きたいと行ったので、どうしようかと悩んでいたら、またあの不思議なドアを発見したので、それを潜った。今度は大きなドアだったので、化け猫状態でも潜ることが可能だった。そしてまた巨大たぬきの所へ行った。
たぬきは「間違って異世界に送ってしまってすまんたぬき」と申し訳なさそうな口調で俺達に言った。
たぬきは俺の恋人に能力を与えてくれた。その能力は俺のいた世界の猫と同じ四足歩行の猫になれる能力だった。
そしてたぬきは俺と恋人を俺の元いた世界へと送ってくれた。
俺と恋人は浜辺を一緒に散策していた。そして俺と恋人は化け猫の姿で海に素潜りをして、ウツボやウニや、伊勢海老を素手で掴むとその獲物を手に母親の元へと向かった。
母親は「あんた一体何者なんだい?」と最初は仰天していたが、俺が元の姿に戻ると、安心した表情を浮かべた。
俺が事の顛末を話すと、母親は「あんた色々と大変だったねー」としみじみとした口調で俺達に向かって言った。
え? それだけかよ。驚かなさすぎじゃね?
俺が言うと、母親は「驚いた所で腹は膨れないしね」などとどこか悟ったような口調で俺達に言った。
そうして俺と恋人と母親は獲物を探しながら、居場所を転々とし、今日も日本各地を歩き回っている。
もしかしたら今度訪れるのはあなたのお家かもしれないにゃん(ホラー風に)。




