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第十一章 第六節

「『この手紙をお読みになっているのは魔術師サイモン・ハート殿か、或いはその後任の方かもしれません。ご存じの通り、わたしたち母娘は生活を営むに当たり様々な面で貴組合からの支援を賜って参りました。ハート殿をはじめ魔術師の方々のご厚情には感謝に堪えません』……ご厚情って何かしら? 感謝に堪えないって、感謝してないってこと? わたし、合っていますか?」

「厚情というのは親切な心のことです。感謝に堪えないというのは、とても感謝しているという意味ですよ」

「そうなのですね、では……『わたしは娘のジェマが大人になり自立して生活ができるようになる日まで、母親として責任を持って育てる決意でいますが、もともと身体が丈夫な方ではない上に最近は体調を崩すことが多くなり、その決意が果たせないという不安がよぎるようになりました。つまりジェマの自立より先にわたしが死んだ場合に備えて、この手紙を残します。わたしは意識あるうちにジェマの父親について、その真実を書き残さなければなりません。この手紙はジェマに託し、その時が来たら貴殿に渡すよう申し付けます』……どこか間違っていませんか?」

「完璧ですよ、シェイラ様」

 すると、シェイラは嬉しそうに微笑んだ。ローガンは既に最後まで読んでいて、便箋の一枚目の内容は分かっていた。けれどシェイラの方は再び懸命に文字を追い始めた。

「『ジェマの父親について、一部の方には暴力を振るう夫であるという説明をしていましたが、これは偽りです。本当は、現ギャザランド国王のルパート・ジョセフ・チェスター陛下がジェマの実の父親です。到底信じては貰えないでしょうが、これが事実です。証拠としては、陛下より頂いた指輪がありますので、手紙と一緒にジェマに渡しておきます。

 ここで、今まで偽名を使っていたことをお詫びします。わたしの本名はエミリア・フォースター、ジェマの本名はシェイラといいます。ぜひお願いしたいことは、この名前を以て王室に問い合わせて欲しいということです。王室がシェイラの存在を認めるかどうかは分かりません。しかし先方にその気があれば、何がしかの支援を得ることが可能でしょう』」

 一枚目が終わった。シェイラはすぐさま二枚目を上にして続きを読み始めた。

「『ただし懸念が一つあります。矛盾したお願いをするようですが、万が一、王室がシェイラ自身を引き取りたいと言った場合には、どうか行かせないでください。王宮は恐ろしいところです。わたし自身が、かつてそこにいながら、夜逃げ同然に逃げ出してきたことから、この意味を察してください。出来ることなら経済的支援だけを引き出したいというのが、わたしの勝手な希望です。

 もし王室が何も認めなかった場合には、シェイラの行く末は魔術師協同組合の厚い温情に頼るより他ありません。いずれにせよ、どうか今まで私たち母娘に与えて下さったのと同じ支援を、引き続きシェイラに与えてください。わたしは魔術師の皆さんが先進的な思想を持ち、情に厚い方々だと信じて止みません。我が国が恥ずべき非文明的制度の犠牲に供するなどということは、ゆめゆめないものと固く信じています』」

 そして手紙は約二年前の日付とエミリア・フォースターの署名で締めくくられていた。シェイラは最後まで読むと、二枚の便箋の裏を見たり、封筒の表裏と中身を見たり、まるで探偵のように手紙を調べた。

「これだけですね、終わりです」

 他に何も書かれていないことを確認して、シェイラが言った。

「凄いではないですか、全部読めましたね。意味は分かりますか?」

「ええ、概ね大丈夫です。でも、これだけなのですね。わたし、もっと何か書いてあるのじゃないかって、勝手に思っていました」

「分かりますよ。わたしも実はそう思っていました」

 二人は顔を見合わせた。

 エミリアが魔術師協同組合に宛てた手紙は、当たり前と言えば当たり前なのだが、宛先に対する内容しか書かれていない。彼女が最期に心を残した者たち、すなわち愛する娘と、かつては愛していたであろうその父親へのメッセージが何か書かれているのではないかと、二人が期待したのは見当違いだったのだ。

 ローガンは少し考えてから、手紙の感想を口にした。

「けれど、お母様がどれだけあなたの事を心配していたかがよく分かるじゃありませんか?」

「そうですね」

 シェイラは何度も頷いた後、ぐすりと鼻を啜った。そして手紙に目を落としたと思うとハンカチを取り出して、目元を拭いたり鼻を押さえたりして泣きながら読み返し始めた。ローガンはもらい泣きを堪えながら、好きなだけ泣かせてあげるのが良いだろうという気持ちで見守った。


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