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第十章 第五節

 クリスはこの変化に気づいていないのか、構わずにテーブルの全員を順に紹介した。その間中、ドノヴァン嬢は顔をひきつらせていたが、最後に自分の名が呼ばれて、ようやく平静を取り戻したようだった。彼女は胸に手を当て、深呼吸を一つして、こう言った。

「ああ、驚いた! ああ、本当にビックリしたわ! もう、嫌になっちゃう!」

 彼女の眼は大きく見開かれて、シェイラを凝視していた。

「あなたシェイラなのね。あの小さかったシェイラが……、信じられない! 子供ってすぐに大きくなるのね。わたし、エミリアだと思ったのよ。本当にそう思った! エミリアは死んだって聞いていたのに、突然目の前に現れて……心臓が止まるかと思ったわ!」

 シェイラは唖然としていたが、何か返事をしなければと思ったらしく、弱々しい声で応えた。

「お久しぶりでございます、ドノヴァンさま。私はシェイラです」

「うふふ、わたしのこと覚えているわけないわよね?」

 ドノヴァン嬢は一同を見回して続けた。

「なあに、この集まりは? 王宮の話を聞かせて欲しいって、エミリア・フォースターの話をしろってことなの?」

「正にそういうことなのですよ、ドノヴァンさん。さあどうぞ、座ってください」

 サイモンがそう言うと、女魔術師は一瞬怪訝そうな顔をそちらへ向けた。けれどクリスが椅子を引いた席に腰を下ろすと、右隣のローガンに向かって優雅に微笑みかけた。間近で見ると、実に細かく化粧が施された顔であることが分かる。かといって元が不美人というわけではなく、顔立ちはむしろ整っていて、丸顔に愛嬌のあるやや垂れた眼が可愛らしい。表情は生き生きとして、確かに皺はあるものの、若い頃の美しさはほとんど何も失われていないように思われた。

「まあいいわ、話してあげる。何が聞きたい?」

 ドノヴァン嬢は身を乗り出してテーブルに両肘をつくと、明るい調子で今度は左隣のクリスに向かって言った。

「ええと、エミリアさんとは親しかったのですか?」

 クリスは少しうろたえてサイモンに目配せしてからそう訊いた。

「親しいってほどではないわ。でもまあ、話したりはしたかな」

「どんな人でした?」

 今度はサイモンが尋ねた。

「どんなって……、見た目はこの子と一緒よ。ホントそっくり。もう少し歳は行っていたけど。髪はもっと明るかったかな。大人しい子だったわ。エミリアが王宮にいた時は、色々あって本当に大変だった! わたし、あの頃のことを思い出すと、今でもお腹が痛くなっちゃうくらいなのよ。こう言ってはなんだけど、エミリアがある日突然いなくなってくれて、わたし正直ホッとしたの。それで王妃様の機嫌も良くなったし、王室が平和になってくれて、わたしも王宮で安心して暮らせるようになったのよ」

「エミリアはある日突然いなくなったのですか?」

「そうよ」

「ふうん……。そういえばドノヴァンさん、何も飲んでいませんね。ジェイク、何か持って来て差し上げて」

 サイモンが言いつけると、弟子はすぐにフォークを置いて立ち上がった。

「あら、悪いわね」

 ドノヴァン嬢はジェイクに微笑みかけ、満足げに見送った。

「ダンスが始まりましたね! 楽しそうですよ」

 クリスが身体をねじってダンスの列を見やりながら、大きな声でそう言った。確かにさきほど楽隊が演奏を開始し、ホールの中央では男女が列になって踊っていたのだが、ローガンにはクリスがずいぶん唐突なことを言い出したと思えた。ローガンの頭の中は十一年前の王宮になっていて、そこにはシェイラの姿をしたエミリアが立っており、ドノヴァン嬢の話す一言一言が響いていたのだから、現実の世界で音楽が始まったことにも言われて初めて気が付いたくらいだった。

「メアリーさん、良かったら踊りに行きませんか? なんだか楽しそうですよ!」

 クリスはそう誘いながら、もう立ち上がっている。ローガンはこの行動にびっくりした。そして来る時の馬車でのやり取りがあったから、メアリーは断るに違いないと思って、クリスを気の毒に思った。メアリーは少し迷っていたが、「そうね、そうするわ」と、誘いを受けた。ローガンは、クリスに何か彼女の気に入る所があったのだろうかと不思議に思った。

「わたしも踊りたいな」

 ドノヴァン嬢が誰に言うともなく呟いた。ローガンは自分が何かしなくてはならないのだろうかという考えが浮かんで凍りついた。すると、メアリーと一緒に立ち去ろうとしていたクリスがさらりと「では次にお誘いしますよ」と答えて終わった。ローガンは助かったと思った。

「いやいや、すっかり話し終わってくれるまで、踊りになんか行かせやしませんよ」

 サイモンは立ち上がると、クリスがいたドノヴァン嬢の左隣の席に移動した。

「なによ、何をそんなに話せっていうのよ。わたしはエミリアとはそんなに仲良くなかったって言ったでしょ?」

「本当に? でもドノヴァンさんは魔術師協同組合の先代の会長と親戚でしょ? 魔術師でもなんでもないエミリアが、なぜか我が組合を頼り、組合員になれたのは、ドノヴァンさんと会長の口利きがあったからなんじゃないの?」

 サイモンはいきなり核心に触れた。ドノヴァン嬢は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに弱々しくおもねるように笑った。

「やだ、やめて。そんなこと言わないでよ。あなた何か調べたのね? でも勘弁して。わたしはエミリアの失踪とは関係ないの。……あの後、国王陛下は彼女を捜そうとして、わたしに直々にお尋ねになったのよ。わたしは『何も知りません』って答えたわ。……そういうわけだから、この話はもう終わりにしてちょうだい」

 ドノヴァン嬢は気まずそうに体を揺らすと、いきなり手近にあったローガンのコップを掴んで飲んだ。

彼女を挟んで、ローガンとサイモンは顔を見合わせた。サイモンが目を見開いて、ローガンに何か目配せをした。「ほらね」という意味だと、ローガンは思った。


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