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第十章 第三節

 サイモンは、今度は女性二人と魔術師の二人を紹介した。クリスは彼女たちに一礼すると親しげに話し始めた。彼はフルネームを名乗り、二十二歳でメレノイ王立大学の学生だが魔術師協同組合の職員としても働いていることと、家がサザンパレス地区にあるのでそこから通っていることを話した。そしてメアリーに話しかけ、その許可を得て隣の椅子に腰を下ろした。彼は初めはシェイラに近い側に立っていたのに、回り込んでメアリーの側に行ったことをローガンは見逃さなかった。

「お師匠様、食べていいですか? 腹が減ってるんで」

 ジェイクがそう話しかけた相手はサイモンだった。サイモンが「いいよ」と応じると、食べ物を取ってくると言って離れて行った。クリスは、テーブルにメアリーたちのグラスがあるのに目を付けた。

「バラノフさん、お酒がなくなっていますね。何か取ってきますよ、お料理と一緒に」

「あら、すみません」

 メアリーは小首を傾げながらクリスの方を向き、柔らかく微笑んだ。それを見ていたローガンは、彼女がその社交性と公平さから、礼儀としてライアン邸の御者にだって魅力的に微笑むのだと知っているから、クリスが何か勘違いするかもしれないと思い、可笑しかった。

「ちょっと待って! メアリー、君は何歳なんだい?」

 突然、サイモンが大きい声を出したので、一同は一瞬固まった。

「なんですか、急に。わたしは二十歳ですわ」

 メアリーが答えた。

「二十歳か、ならいいや。十九だったかと思ってドキッとしたよ。そうだ、ローガン、君は何歳なんだ? 念のため」

 ローガンは訳が分からなかったが、正直に「十九です」と答えた。すると、シェイラ以外の三人が一斉に声を上げた。

「ええ! 本当に?」

「あなた年下だったの?!」

「君、十代? 全然見えない!」

 ローガンは実年齢より年上に見られることには慣れていたので、またかと思いながら応じた。

「本当に十九ですよ。そんなに老けてますかね」

「老けてはいないけど、落ち着きっぷりが十九ではないよ……」

 サイモンは感嘆というよりは呆れたというような表情でローガンを見て、「……というか、十代で正神官になるとは……」と言葉を続けたので、ローガンは次に「優秀だな」と言われると思ったが、彼は急に話を切り上げてこう言った。

「まあいいや。じゃあ、ローガンは酒を飲んじゃだめだぞ。ギャザランドの法律では二十歳未満の飲酒は禁止されてるんだ」

「わかりました」

 サイモンが真顔になっているので、ローガンも真剣な調子で応えた。暫く全員が黙り、静かになった。

「わたくし、二十歳になっていて本当に良かったですわ」

 メアリーがそう言って、大袈裟に肩をすくめた。クリスは立ち上がると、サイモンに向かって責めるような目つきをした。

「さすがはお師匠様、真面目というか、何というか」

 サイモンは不思議そうに彼を見返して言った。

「何か不満でも?」

「いいえ、別に」

「さっさと取ってこいよ。僕は赤ワインと、つまみな」

「え~!」

 クリスが声を上げると、メアリーが面白がってクスクスと笑った。それを見ていたクリスは、サイモンに追い払われる仕草をされて顔をしかめながら料理のテーブルへと向かった。きっと心の中では満足しているのだろうなと、ローガンは思った。サイモンはクリスがいなくなった席に腰を下ろした。ローガンは、そこに座るのか! と思って笑いそうになったが、丸テーブルは七人分のセッティングであり、ローガンがすでにさり気なくシェイラの隣に座っていたので、サイモンとしては詰めて座るのが自然と思ったのかもしれない。

「それで、ハートさんは何歳なんですか?」

 ローガンはこの機を逃すまいと、急いでそう訊ねた。サイモンが「お師匠様」と呼ばれていることも気になったが、年齢の方が重要だった。

「僕は二十三だよ。ジェイクは一つ下だけど、問題ないだろ?」

「若く見えますね」

「よく言われる」

 二十代前半の男に言っても全く褒め言葉にはならないと思ったが、サイモンはニコリとした。子供みたいな顔をしているくせに四つも上なのか、と思うと同時に、シェイラとは九も離れている、とローガンは考えた。

「ハートさんって、お師匠様なんですか?」

 メアリーが小首を傾げてサイモンの顔を覗き込み、そう訊ねた。ローガンは良い質問だと内心手を叩く。

「あの二人には以前、魔術を教えていたことがあるので、面白がってそう呼ぶのです」

「魔術って薬を作ることですか?」

「それも含めて色々です」

 これを聞くと、メアリーは急にローガンの方を振り向いた。

「ナイトリー先生、ハートさんはいつもこうやってはぐらかして、結局魔術を見せて下さらないのですよ!」

 これはローガンにとっては不意打ちで、とっさに「そうなんですか?」としか返せなかった。

「ハートさん、今日は何か見せて下さいよ。せっかく魔術師だらけの舞踏会に招待してくださったのですから」

 ローガンは一気に神経が研ぎ澄まされ、サイモンを凝視せずにはいられなかった。これは大胆なメアリーに感謝するしかない。なにしろ自分がサイモンに失礼を働かなくても、見たいものが見られる状況になりつつあるのだから。

「魔術師だらけの舞踏会に来て下さったことは感謝しますけれど、魔術を使う会合ではありませんから」

 サイモンはにこやかに答えたが、断ったことは明らかだった。やはり簡単に見せるものではないのかと思い、ローガンはがっかりした。だがメアリーは怯まなかった。

「そんなこと言わずに、簡単なものでいいから何か見せてくださいよ。ナイトリー先生も、シェイラ様も、魔術見てみたいですよね!」

 メアリーは一瞬だけローガンたちの方を向いて、そう言った。ローガンは、失礼の仲間に巻き込む気か、と内心舌打ちしたものの、図星であることは否めない。どう答えたら自分が失礼だと思われずに、サイモンが魔術を見せる気になるだろうかと瞬時に考えを巡らせたものの答えが出ず、ただ困って無意識に隣のシェイラを見た。シェイラは、不安げな表情でローガンを見上げていた。思いがけず目が合い動揺しながら暫く見詰め合ったが、ローガンにはその表情の意味がはっきりとは分からなかった。

「そうでもないみたいだよ」

 二人が何も言わないので、代わりにサイモンが答えた。メアリーが口を尖らし、大袈裟な表情で不満を表明する。そのわざと歪めた顔が可笑しくて、サイモンは笑い出す。

「メアリーはそんなに見たいのならクリスに頼みなさい。鳩でもトランプでも出してくれるかもしれないよ」

 メアリーはまだ不満げな顔をしていたが、それ以上は言わなかった。ローガンは、さらに粘ったら嫌味ぐらいでは済まない気がしたので、彼女が諦めたことにホッとした。やがて、クリスとジェイクがお盆に全員分と思われる量の料理と飲み物を載せて帰ってきた。口々に礼を言って、皆でそれらを分けてテーブルに並べると一気に場が賑やかになる。いつの間にかサイモンの隣にジェイクが座り、その隣にクリスが座っていた。最初は料理を褒めたり会場の感想を言い合ったりして皆で話した。クリスはメアリーと離れてしまったが、それについて何か言うわけでも、メアリーにだけ話し掛けるわけでもなかった。ローガンは、自分とシェイラ用のレモネードをちゃんと持って来てくれたクリスとジェイクのことを、良い人たちだなと思うようになっていた。話題が衣装に触れたので、ローガンはなぜ服装自由なのかと魔術師たちに訊いてみた。三人はお互いに目配せをし合ったり、服装が自由すぎる人たちのことを話題に挙げて苦笑いしたりしながらこれに答えた。要するに、魔術師はあらゆる階層にいて、その誰でもが組合員になれるのだが、全員が慰労舞踏会に参加できるように配慮している、というのが理由のようだった。


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