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第九章 第三節

「なんだか……感じが変わったように見えますね。気のせいでしょうか」

 ローガンが言うと、シェイラはさらに笑顔になった。

「それは髪型のせいだわ、きっと。王妃様が、髪は毎日きれいに結わないと女性として失格だって。それと、服も違うんです。前のは侍従長殿にいただいたもので、とても素晴らしかったのですけど、王妃様がこちらの方が似合うからと言って、くださったのです」

「へえ、すごいですね」

「ええ、王妃様は本当に素晴らしいお方です。私のようなものをサロンに誘ってくださって、こんな立派な服まで下さって、なんて寛大な方だろうって思いませんか?」

「そうですね」

 ローガンはシェイラの心酔ぶりに抵抗を覚えたが、とりあえずそう賛同した。

「それなのに、今日はお誘いを断ることになってしまって、王妃様に失礼なことをしてしまったのです。私のようなものが王妃様の誘いを断るなんて、あってはならないことですよね。分かっているのですけれど、侍従長殿はわたしに勉強をさせようとお考えで、プライス夫人に言って断ってしまったのです。本当にプライス夫人にも王妃様にも申し訳ないことをしてしまいました」

 シェイラは思い出したように暗い顔になって、言い訳を始めた。髪型と服が変わっても、性格は変わっていないようだ。

「あなたが気にすることは何もありませんよ」

「王妃様のお怒りがなるべく小さければいいのですが。もちろんサロンにはとても身分が高くて立派な方々がたくさん招かれていますから、私なんかがいなくても何の支障もないですし、誰も気が付かないですから、問題ないとは思うんですけど、でもやっぱり、お誘いを断るというのは無礼に当たりますよね……」

「当たりませんよ」

「そんなことはないです。やっぱり無礼ですよ」

 何の話をしているのか分からなくなってきたなと思いながら、ローガンはこう切り返した。

「王妃様は寛大なんでしょ? 誘いを断ったぐらい、気にしやしませんよ」

「そう! そうなんです。王妃様は寛大なんです。だって考えられますか? 夫の愛人の娘を自分の部屋に招いて、色々と気にかけて親切にしてくださるなんて! よほど人格の優れた方でないと出来ないことです。当たり前なんですけど、やはり一国の王妃ともあろうお方は、格が違うのだということがよく分かりました」

 シェイラはまた興奮気味になって、そう力説した。ローガンはあることを思い出した。

「そうだ、フランシス王妃はあなたに謝ったのですか?」

「謝る? 何をですか?」

「十一年前、あなたとお母様が王宮に住んでいた時のことをです」

 シェイラは首を傾げた。

「何のことでしょうか」

 ローガンは頷いた。

「わかりました。いえ、何でもありません。気にしないでください」

「ああ!」

 シェイラが叫んだ。

「謝りました! 確かに王妃様は謝りました! 今思い出しました。最初の日です」

「謝ったのですか?」

「はい。本当にびっくりしました。プライス夫人に聞いてはいたのですけど、本当に王妃様が謝るのを見ると、私、その時はもう緊張してしまって、ガタガタ震えてしまって、どうしていいか分からなくなって、とにかくもうお辞儀をしてお詫びしたのですけど、支離滅裂になってしまって、礼儀作法も分からなくて、とにかく最悪だったのです。けれど王妃様は、笑って許して下さいました」

「そうですか」

 謝罪したのは王妃のはずなのに、許すのもまた王妃の方だったようだ。しかし、それを差し引いても王妃が謝罪するというのは充分驚くに値すると思った。シェイラは続けた。

「王妃様はこう仰いました。シェイラの母親は愛人だったわけですけど、それは母親本人が悪いのであって、子供には関係のないことだと。だから『仲直りしましょう』と言ってくださったのです! 先進的な考え方だと思いませんか? それになんて心が広いのでしょうか!」

 ローガンはシェイラよりも年を取っている上に、世間に揉まれ過ぎて疑り深くなっているので、王妃が謝罪したと聞いてもシェイラの賛辞にそのまま共感することはなかった。手放しで何かを称える素直さは、シェイラが大人びた部分もありながら、まだ子供であることを示しているように思えた。

 ともあれ、彼女がとても嬉しそうに話すので、それはそれとして、ローガンも嬉しかった。興奮したシェイラは王妃賛美を続け、ローガンは首を傾げたくなるような部分がありつつも、それを微笑ましく聞いていた。

 しかし、彼女が彼女自身だけではなく彼女の母親を卑下し、比較して王妃を褒め称えた時には、一言意見しないではいられなかった。シェイラはこんなことを言った。

「実は、わたしの母はあまり良い母親ではなかったかもしれません。いつもイライラしていて、すぐに怒るし、怒鳴ることも多かったのです。それが王妃様は上品で、優雅で、母とは全然違います。そもそも高貴な方と、母とを比べる方がおかしいのかもしれませんが」

 ローガンは思わず言い返した。

「それは確かに比べることではないですね。働きもせず豊かな人間が、上品にしていられるのは当然でしょう。生活の心配がなければ心に余裕が出て、怒ることも減るものです。わたしも苦学生のころはいつも疲れていて、イライラしていましたよ。金持ちの息子が羨ましくて、不満が溜まって、怒りっぽかったと思います」

 シェイラは途端にしゅんとなってしまった。少し可哀相な気もしたが、撤回はしなかった。そしてお喋りを切り上げ、授業を始めた。


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