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第八章 第六節

「そもそも、今さら王妃がシェイラ様を呼び出すなんて、おかしいとは思いませんか? 正直、何か裏があるとしか考えられないですね」

「裏って?」

「復讐とか」

「どうだろう」

 サイモンは少し笑いながら首を傾げた。

「『謝りたい』だなんて、馬鹿なことを言って。ギャザランド王国の王妃が妾の子供に謝るわけがないじゃないですか!」

「まあ、普通はそう思うかな」

「私が思うに、『謝りたい』というのはプライス夫人が考えた嘘なのです。シェイラ様をライアン侍従長のもとから引き離して、王妃の所へ連れて行くための」

「そうかなあ」

 サイモンは否定的だった。

「以前にバラノフ嬢から聞いた話なのですが、王妃はライアン侍従長と非常に仲が悪いそうです」

「それは知ってる。メレノイじゃ結構有名な話だからね」

「なので、普通に呼び出しても出てこないと思ったのじゃないでしょうか。だってね、プライス夫人が突然現れたのは、国王陛下とライアン侍従長がメレノイを離れた翌日なのです。いかにも怪しいと思いませんか? 国王陛下やライアン侍従長に知られては都合が悪いのです、きっと」

「なるほど。それは確かに、そうかもしれない」

 サイモンはそこでコーヒーを一口飲み、思案顔で続けた。

「けれど、『謝りたい』っていうのは意外と本当かもしれないな。わざわざそんな嘘をつく必要性がないように思う」

「では、本当に王妃が『謝りたい』と思っていて、現に『謝った』と思うのですか?」

 そんなこと絶対に有り得ない、と言わんばかりの勢いだったが、サイモンは冷静に返した。

「それは判らないよ。謝ったかもしれないし、謝らなかったかもしれない。『謝りたい』と思ってはいたけど謝らなかった、かもしれないしね」

 ローガンは少々がっかりしたが、気を取り直して断定的な調子でこう言った。

「私は『謝りたい』なんて思っていなくて、そして謝らなかった、だと思います」

 サイモンが一瞬だけ声を上げて笑った。そしてこう言った。

「けど、僕もライアン侍従長がいれば、シェイラを王宮へは行かせなかったと思う」

 一転して確信するような調子なので、ローガンは訝しみながら応じた。

「それぐらい仲が悪いという事ですか?」

「実はそれだけじゃないんだ。シェイラのお母さんのエミリアの手紙に、『王宮には行かせないでほしい』と書いてあったんだ。ライアン侍従長はそれを知っているから、もし屋敷にいれば、彼なら招待を断ってくれたと思う」

 初耳であった。ローガンには、サイモンが今頃になってとんでもなく重要なことを明かしたという風に思えた。

「それって、どういう意味ですか? なぜ王宮には行かせるな、と?」

「王宮は恐ろしいところだから、もし王室がシェイラを引き取りたいと言っても、行かせないでほしい、と書いてあった」

「恐ろしいところって、どういう意味ですか?」

「具体的には分からないけど、エミリアは王宮の生活がよほど嫌で抜け出したわけだから、彼女にとって王宮は辛くて恐ろしい場所だったんだよ。シェイラに王宮に行ってほしくないと思うのは自然なことだと思う。ただ僕は、そんな心配は無用だと思っていたけど」

「どうしてですか?」

「一般的には、上流階級の偉い人たちの私生児というのは無視されることが多いみたいだから。それが女の子だったら、特にそう。ひどい話だけど、養育費だけでも出してもらえるのは、まだ良い方なんだってさ」

「本当にひどい話ですね!」

 憤慨するローガンをよそに、サイモンは続けた。

「けれどシェイラの場合は……、エミリアは王室が引き取りたいと言うかもしれないと考えていた。そして実際、お金だけではなくて、一時的にせよ国王の侍従長が引き取った。そして今度は、王妃から呼び出しが……。普通とは違う感じがするね」

 ローガンは何度も頷いた。

「お母様は、暴力を振るう夫から逃げていると言って、実際は国王陛下から逃げていたのですよね? よほど王室を恐れていたということです。けれど自分の身に何かあった場合は、シェイラ様は父親を頼るより他に仕方がない。困窮して……最悪の場合、奴隷に身を落とすかもしれないと考えたら、父親の正体を明かすしかなかったのでしょう。それなのに、シェイラ様は不用意に王宮に行ってしまうなんて……!」

「遊びに行っただけでしょ? また帰ってくるのだから大丈夫だよ」

 サイモンは呆れたような笑いを浮かべた。そして、ライアン侍従長が帰ってきたら、すぐにこの事態を報告すれば良いと提案した。彼はまた、堂々巡りに心配し続けるローガンをなだめて、魔術師の仲間で王宮の内情が分かる人間もいるので、フォースター母娘のことを何か知らないか訊いておくと請け負ってくれた。

 やがて、大神殿の方角から午後一時を告げる鐘が鳴り響いて、サイモンは事務所に戻ると言った。本来はこれが鳴る前に帰らなければならなかったのかもしれないと、ローガンは不意に気が付いて焦ったが、本人は急ぐ風でもなかった。

「じゃあ、また」

「今日はありがとうございました。どうぞお気を付けて」

 二人はその場で別れた。

 別れてから、ローガンはまた魔術師に関する話が出来なかったことに気が付いた。


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