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第八章 第四節

 ここからが、少々難関である。約束があるわけではないので、彼にうまく会えるかどうか分からない。それに、突然訪ねたことをどう受け止められるか不安だった。離れ山で会った日は、「またメレノイの事務所に遊びに来てください」と言ってくれたサイモンだが、まさか本当に訪ねてくるとは思っていないだろう。

 魔術師協同組合の事務所は、イーストマンドッジ街の石造り七階建ての建物にあった。装飾のない窓が規則的に並ぶ、直線的な外観の建物である。メレノイ経済の中心地であるホール街からは二ブロック外れていて、馬車が行き交う道路に面し、周囲には同じ高さの建物が整然と並んでいる。

 それらには中小の事務所が入居するようである。時間帯からして昼食に出掛ける人々がバラバラと通りへ吐き出されていた。魔術師協同組合があるはずの建物からも男たちが出てきて、入り口前で躊躇しているローガンを物珍しげに眺めて行った。

 ローガンは中に入り、二階まで上がった。階段で若い男とすれ違ったがサイモンではなく、彼が魔術師なのかどうかも分からなかった。調べた住所では、魔術師協同組合の事務所は二階にあるはずだった。廊下に扉が並んでいる。その一つから中産階級風の男が出てきたので、ローガンは声をかけた。

「すみません。魔術師のハート氏はいらっしゃいますか?」

 中年の男は訝しむようにローガンの姿を一通り眺めて、無言で元の扉の奥へ消えた。

 何だったのだろうかと思いながら数分待っていると、同じ扉から男が現れ、後に続いてサイモンが出てきた。

「あ、君かあ」

 サイモンの表情は至って平静で、驚いた風でも迷惑そうでも、また嬉しそうでもなかった。ローガンは用意していた台詞を言った。

「用事があってこの近所まで来たものですから、一緒に昼食でもどうかと思いまして」

「うん、行こう行こう。ちょっと待ってて」

 力の抜けた調子でそう言って、サイモンは中に戻った。喜ばれたわけでもなく、来たことが当然であるかのような態度に、ローガンは却って安らいだ。まるで長年付き合っている友達同士のようだ。ほどなく出てきたサイモンは、黒いコートを着ていたのだが、それは生地の内側に綿が入っている、他では見たことがない変わった代物だった。モコモコとしたその上に、首にはキッチリとマフラーを巻いている。

「随分と暖かそうなコートですね」

 思わず本音が口をついて出た。サイモンは平然と答えた。

「そうだよ。普通のやつより絶対暖かいし、そのうえ軽いんだ」

 見た目が不恰好なのは問題にならないのだなと思うと、ローガンは微笑ましかった。

「君はその格好で寒くないの?」

 サイモンが尋ねた。

「大丈夫ですよ」

「そっかあ、ハイマントから来たから寒さに強いんだね」

「そうかもしれません」

 今のところモコモコになっているメレノイ人は他に見たことがないけれどと、ローガンは心の中で呟いた。

 建物から出ると、サイモンが尋ねた。

「どうする? ブリー街の方へ行ったら店が色々あるよ。それか、屋台で買って外で食べようか。モート川沿いに公園があるよ。ちょっと歩くけど」

 川沿いの公園という言葉が、ローガンには魅力的に響いた。

「その公園に行きましょう」

 迷わず答えると、サイモンが「えっ」と声を上げた。

「モート川まで行くの?」

「え、駄目なんですか?」

 自分で提案しておいてそれはないだろうと、ローガンは内心で苦笑いする。

「いや、ちょっと寒いなと思っただけ。いいよ、行こう」

 道を知っているサイモンが先に歩き出し、ローガンは後を付いて行った。連れ立って歩きながら雑談を交わしたが、本題は落ち着いてからにしようと、ローガンはシェイラの名を口にしなかった。すると、サイモンの方から持ち出された。

「シェイラは元気にしてる?」

 ローガンは急遽、本題を始めることになった。

 この四日間、授業が出来ないでいることとその理由を話すと、サイモンは目を見張った。

「そいつぁ凄い!」

「ええ、そういうわけで、今週は一度もシェイラ様に会っていないのです」

「気の毒に、すっぽかされるなんて! 事前に教えてくれないのはひどいね」

「まったくです」

「しかも毎日呼び出すなんて、どういうことだろうか。フランシス王妃がシェイラを気に入ったということ?」

 興奮気味になっているサイモンの反応が期待通りだったので、ローガンは気が楽になった。ローガン自身が、誰かにこういう風に語りたかったのだ。自ずとこちらの語気も強くなりながら答えた。

「そういうことのようです。バラノフ嬢が言うには、ですが。なんでも王妃がシェイラ様に会いたがっていたのは、謝りたかったからだそうです」

「謝る? なんで?」

「シェイラ様がお母様と一緒に王宮を出る前の、幼少の頃に、妾の子だということで冷たくしてしまったからだそうです」

「はあ? なんじゃそりゃ。ほんまかいな」

 サイモンは冷めたような笑いを浮かべた。ローガンは気分が良かった。


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