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第五章 第二節

 実際、メアリーは怖かった。扉の掛け金を掛けていたことに感謝したぐらいだ。

「大丈夫、ちゃんと聞こえてるわよ。ねえ、フォースターさん? 返事はしなくていいわ。そのまま聞いていてちょうだい」

 シャーロットの落ち着いた声が響く。彼女は十四歳だが、口調は大人びていて母親のライアン夫人にそっくりだった。

「私たち、難しいことを言ってるわけじゃないの。あなたの元々の家へ帰ればいいだけの話なのよ。それとも、あの魔術師の家へ行けばいいわ。魔術師協同組合の人……名前は忘れちゃったけど」

 ルーシーがくすりと笑った。シャーロットは続ける。

「お父様に話そうなんて思わなくていいのよ。黙っていなくなればいいだけだから。お父様が手配した侍女がいない日なら、簡単に抜け出せるはずよ。この家は、そりゃあ貴女にとっては快適かもしれないけど、あなたがいるような場所ではないってことは理解できるわよね? あなたの母親はちゃんと自分の身分をわきまえていて、誰にも言わずに王宮を出て行ったそうよ。あなたにも同じことが出来ないはずはないわよね?」

 シェイラは何も答えなかった。メアリーももちろん、何も言うつもりはない。

「さあ、もう行きましょうか。ここは寒いわ」

 シャーロットがそう言って、扉の向こうに再び足音が起こった。しかしすぐに、ルーシーが叫んだ。

「ねえ、お姉さま! このことをお父様に言ったりしないように、ちゃんと言っておかなきゃダメよ。ねえ、早く言ってちょうだい!」

「大丈夫よ、フォースターさんはちゃんとした方だから、誰かに話したりしないわ。それにお父様だって、本当はフォースターさんが邪魔なのよ。フォースターさんが出て行ったら、お喜びになるはずよ」

 シャーロットの声は少しずつ遠ざかっていた。

「ねえ、本当にもう行くの? あの子、本当に出て行くかしら? 早く出て行ってもらわなきゃ困るわ! ねえ、もっと言ってやりましょうよ!」

 ルーシーとジョージは部屋の前を行ったり来たりしているようだった。ルーシーは部屋と姉の間を往復して大声で話しかけ、ジョージはなぜか興奮して奇声を上げながら走り回る。度を越した騒々しさが暫く続き、やがてシャーロットが弟を叱りつけ、妹を宥めた。三人が話す声と足音を、メアリーは耳をそばだてて聞いた。徐々にそれらは遠ざかり、声は聞き取れなくなって、やがて、三人の気配は完全に消え去った。

 メアリーは彼女らがもう戻ってこないと確信してから、シェイラに話しかけた。

「行ってしまったようですね」

 それが合図だったかのように、二人はほぼ同時に深いため息をついて座った。メアリーは安堵から少し笑い、主人の顔が相変わらず深刻なのを見て、すぐに止めた。そして緊張が解けると、今度は腹が立ってきた。

「なんなのかしら! あのお嬢様たちったら……」

 汚らしい言葉が口から出かかったが、ここは冷静になることにして、言うのを止めた。自分より身分が高い上流階級のお嬢様、お坊ちゃまたちに対して、どういう風に言って罵ってやれば面白いだろうかと、メアリーは考えを巡らせたが、その間にシェイラの方が話し始めた。


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