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第四章 第八節

 その後、メアリーが切り出して三人は部屋に戻ることになった。メアリーも近くにいたので先ほどのシェイラの話が聞こえたはずだったが、彼女がそれに触れることはなかった。メアリーもショックで何も言えないのだろうと、ローガンは思った。

 帰りの道中は、ローガンが使い物にならなくなってしまったために、最初から最後までメアリーが一行を先導する形になった。ローガンはというと、どこをどう通って帰ったのかも覚えていない有様で、彼の意識の中では、メアリーに引きずられて帰ったぐらいの感覚だった。

 今はシェイラの部屋になっているライアン邸の客室に戻り、一息ついてから、ローガンは通常の授業を始めた。思った通りだが、気持ちが乱れて集中できなかった。シェイラの隣に座ってその横顔を見つめ、風で乱れた髪や、細い首を眺めていると、様々な想いが込み上げてきた。

 さっきからローガンの様子がおかしいことに、シェイラも気が付いていた。彼女は遠慮がちに尋ねた。

「あの、どうかされましたか? もしかして体調が悪いのですか?」

「いいえ、全く」

 と、答えたものの、本当はものすごく胸の辺りが気持ち悪く、頭も痛かった。これは病気ではなく、怒りを抑え込んだためである。他にも何か別の感情を抑え込んでいるような気がしたが、彼はそのことは考えないことにした。

 シェイラにもメアリーにも不審がられながら、正午になり授業が終わった。ライアン邸を後にしたローガンは、次は本業の神殿に行かなければならない。歩いている間に、胸の気持ち悪さも頭痛も、ますます悪化していった。神殿に着くと、彼は奴隷の少年を呼んで、幾つかの用事を頼んだのちに、自分は体調不良なので家に帰ると告げた。こんなことは初めてだった。

 下宿に戻り、ベッドに横になった。そうしてじっとしていると、気持ち悪さと頭痛は徐々になくなっていった。そして入れ替わりに、どうにも抵抗できない強さで、抑鬱がローガンに襲いかかってきた。仕事を休んで家で寝ているというだけで彼を落ち込ませるには十分だったが、この止めようもなく奈落の底へと落ちて行くような気持ちの原因は、もちろんそんなことではない。

 シェイラを外に連れ出す計画に一人で夢中になり、強引に連れだした身勝手な自分への嫌悪感。そして、聞くことが堪えられないほどの、彼女の過去。

 結局、シェイラは外に出てみて、どうだったのだろうか。ローガンは藁にもすがる思いで、考えを巡らし始めた。彼女は外に出て、少しでも気持ちが晴れたのだろうか。

 ローガンはシェイラの言葉や表情のひとつひとつを思い返した。しかしやがて、そういうことをしている自分がますます嫌になった。それは、彼女が自分のおかげで少しでも元気になったという証拠を見つけて、自分を慰めたいためだけの行為なのだから。


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