第四章 第五節
使用人の部屋がある棟に入ると、途端に建物の造りが質素になる。狭い階段を三階まで上がって、さらに続く階段を上がると、梁が剥き出しになった広い一間の屋根裏部屋だった。そこの斜めになった天井にある窓に、メアリーは進んでいく。
「うわあ、なるほどね~」
窓を開けて、メアリーが叫んだ。
「思ったより大変かもしれません」
後の二人を振り返り、メアリーはしかし、笑いながらそう言った。
ローガンが続いて窓から顔を出す。すぐ前方に屋敷の他の棟の壁が迫り、視界は遮られている。その壁に梯子が立てかけられていて、身長ほど上にある屋上に突き出ているのだ。屋根の端と、隣の棟の壁との間に隙間はなく、梯子の足場もしっかりしていて危険はなさそうである。ローガンは見上げながら、そう高くはないので自分は難なく登れるだろうが、二人の女性にとってはどうなのだろう、と考えた。振り返ると、メアリーとシェイラは対照的な顔をして立っていた。メアリーは子供のように瞳を輝かせ、シェイラは既に疲れ切っているように無表情だった。
「私が先に行きます」
そう言って、ローガンが一番に出ることにした。実はシェイラの顔を見て「引き返す」という選択肢が頭をよぎったのだが、メアリーを前にして言い出しにくかった。それに加えて、ローガンは未だに、ここを上って外の風に吹かれながら素晴らしい景色を見れば、シェイラの疲れた顔が笑顔に変わるだろうと、しつこく信じていたのだった。男である自分が先に行って女性たちを引き上げることは当然だけれど、シェイラはここまで歩いてきて疲れたかもしれないから、なおさら力強く引き上げなければならない。そう考えると、ローガンは何故だか異様にやる気が湧いてきて、屋根の上に腕を突っ張り、颯爽と窓から飛び出たのだった。
下を見ると、メアリーはその場にあった木箱を窓の下に設置していた。それに乗って窓をくぐると、上半身が屋根の上に出る。そこからはローガンが手を貸し、順調に上がることができた。
「こんなの子供の時以来だわ!」
メアリーは興奮して声を上げた。
どうしてこの人は、主人を差し置いて先に来るのだろう、とローガンは思ったが、それをここで指摘するつもりはない。
続いて、シェイラが出てきた。窓を抜けることに必死になっていて、ずっと下を向いているからローガンが手を差し伸べていることに気づかない。少しもたついたものの、彼女も無事に出ることが出来た。ローガンは苦笑いしそうになるのを抑えて、次は梯子を上る。身長よりも若干低いぐらいの高さなので、二、三歩で到着した。次にメアリーを引き上げ、シェイラの番となるが、彼女はやはり自分の手元や足元しか見ていないので、手を差し出しながら見守っている家庭教師に気づかないのだった。
ともあれ、三人とも無事に屋上に到着し、ローガンはほっとして辺りを見回した。そこは奥へと細長く続く平らな屋上で、何本もの煙突が等間隔に突き出ている。左右は屋根の斜面なのだが、頂点だけ平面に作られて、その周囲は低い胸壁に囲まれていた。梯子で登った際にはそれを乗り越えて中に入ったのである。
そして景色はというと、メアリーがはしゃぎ、後の二人が思わず無言で眺め入るほどの美しさだった。建物自体は三階建てなのだが、高台の頂上にあるから、メレノイの街を一望できるのだ。特に北側から南西側にかけては遮るものが何もなく、今日は空気も澄んでいるのか、ここからは遠いはずの海が、街並みの向こうにキラキラと輝いているのが見えた。




