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第四章 第四節

 ローガンがほとんど無意識に使った策略に、少女はひとたまりもなかった。再び拒否することが出来なくなり、かといってすぐに従うことも出来ず、口をへの字に結んで押し黙り、座ったまま動かなかった。今、「さあ、行きましょう」と促せば、シェイラは従うような気がしたが、ローガンはその言葉が言えなかった。かといって名案をすんなりと諦める潔さもなく、その瞬間、彼はどうしたら良いのか分からなくなって、ほとんど働いていない頭で懸命に次の言葉を探すことしか出来なかった。

「あのお、すみません、シェイラ様。おそらく、シェイラ様はお屋敷の庭園に出るのがお嫌なのですよね。それでしたら、お屋敷の屋上に出てみるのはどうでしょう?」

 二人とも黙ってしまったのを見かねて、メアリーが助け船を出した。二人は同時にメアリーの方を見る。

「屋上があるのですか?」

 ローガンが尋ねると、メアリーは頷いた。

「そうなのです。屋根の上ですけど、安全に出られるようになっているそうですわ。女中のリディアに聞いた話では、とても見晴らしが良いということです。けれど、そこへ出るのに女中部屋の棟を通るので、ライアン家の方たちは誰も来ないそうですわ」

 これを聞いても、シェイラは無言でメアリーを見つめていた。

「シェイラ様、それで良くはないですか? ナイトリー先生はどうですか?」

「私は構いません」

 ローガンが答えると、メアリーは自信たっぷりな様子になり、主人に向かっていささか強い調子で促した。

「シェイラ様、行きましょうよ!」

 シェイラは人形のように無表情になっていた。呆然としているようにも見えたが、ややあってから、

「分かりました」

 と、ただ一言だけ答えた。メアリーはローガンを見て、屈託なく微笑んだ。

 こうして屋敷の屋上へ出かけることに決まり、三人はそれぞれ上着を羽織って部屋を出た。そこからは無言で歩いた。途中、通りがかった使用人にメアリーが話しかけ、屋上への行き方を尋ねたが、そのやり取りは世間話が混じって必要以上に長いものとなった。彼女の使用人に対する態度はとても親しげで、温かみに溢れ、感じの良い笑顔が始終こぼれていた。その様子は、普段メアリーが自分に接するときの態度と同じだなと、ローガンは思った。その使用人は初老の男で、身なりからして低い身分なうえ、醜男と言わざるを得ない容貌だった。

 使用人と別れ、一行はメアリーの案内で進んだ。右手に庭園が見えている。部屋を出た時から、シェイラが身を固くして、何かにおびえるように辺りを見回しながら歩いていることに、ローガンは気づいていた。彼はメアリーの言葉を思い返しながら考えた。あの言い方からすると、シェイラはライアン侍従長の家族に偶然会うのが嫌だから、庭園に出たくなかったということになる。それほどまでに、彼女は煙たがられているということなのだろうか。


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