NTR男の独白
昨今のNTRブーム(?)に対して、作者が思ったことです。
DVDに映っていたのは数日前に別れた彼女だった。
会話こそ無いものの、まるでアダルトビデオのように事に及んでいく。
相手は学校で一番の不良と呼ばれる男だった。
金髪に、耳ピアス、第二ボタンまで開けたワイシャツ、ヒザ下までまくったズボン、かかとを履きつぶした上履き。典型的な不良だった。
そいつは素行も悪く、遅刻、欠席、赤点は当たり前。他校の生徒との喧嘩や、万引きをして、それを咎めた店員を病院送りにしたり、女生徒を妊娠させて捨てたと、悪事を挙げれば切りがない。
上の下くらいの僕の学校に、なんでこいつが入学できたのかは、学校中の生徒の疑問であった。同時に、なにかあると直ぐに殴る男は、蛇蝎の如く嫌われていた。
彼女も、そんな男が大嫌いだった。
優等生である彼女。勉強が好きで、常に成績トップ、運動神経抜群で体育の成績も良い。人当たりが良く、友だちも多い彼女は基本的に誰とでも仲良くなれた。
だが、そんな彼女も、人に合わせることをせず、ただ自分の好き勝手に振るまい、他人を怪我させる男は大嫌いだった。
そんな彼女が今、毛嫌いしていた男と交わっていた。
テレビに映る彼女は僕の見たことのない表情をしていた。頬を赤く染め、眉尻は下がり、細めた目から涙を流している。だらしなく開いた口から、絶え間なく声が漏れている。その声は、この行為が決して一方的なものではないと告げていた。
……だが、そんな彼女の姿を見ても、僕の表情は変わらなかった。一定の間隔で瞬きをするほかは、口を歪めることも、手を握りしめることもない。
彼女に別れを告げられてから数日間、学校も休んで泣き続けたせいだろうか。僕の感情は麻痺してしまったのかもしれない。
胸をヤスリで撫でられるような痛みはあるが、心臓を押えてうずくまるような痛みはない。
始まって30分は経つというのに、いまだ終わる気配のない映像を見ながら、僕はぼんやりと彼女との思い出を振り返っていた。
彼女とは入学後に知り合った。偶然、席が近く、5人でグループワークをするときに一緒に活動することになったのが切っ掛けだ。それ以来、彼女とはよく話すようになり、入学してから一年半後、今から半年前に付き合い始めた。
告白は彼女からだった。
週末に二人で遊びに行ったとき、彼女を送っているときに、道端で突然、彼女が切り出した。
「好きです。あなたのことを考えるとドキドキするの。ずっと私にあなたでドキドキさせてください」
彼女の言葉にすっかりやられてしまった僕は、彼女と付き合うことにした。
誤解しないで欲しいのは、僕も彼女のことを好きだったことだ。ただ、本当に可愛くて、人当たりの良い彼女には、成績も上の下くらいの僕じゃあ釣り合わないと思っていたのだ。週末に遊びに行くのだって、彼女にとっては男友だちと遊びに行く感覚なんだろう、って思ってたのだ。
交際してから、彼女のことをより深く知るようになった。彼女はイチゴが好きだった。それぐらいなら交際前から知っていたのだが、イチゴが好きと言っても、イチゴの酸味にこだわりがある。酸っぱ過ぎるのはもちろんのこと、甘いだけのイチゴもダメらしい。甘い果肉の中に、ほんの少しだけ酸味があるのが好きらしい。パフェ一つにしても、好みのイチゴを使っている喫茶店を探しに週末デートをしたものだった。
彼女は皆で何かするのが好きだった。それぐらいなら交際前から知っていたのだが、皆で何かをするといっても、彼女はその過程が好きだった。皆と一つのことに本気になって向き合い、意見を出し合ったり、協力して何かを作り上げていく。彼女はそういったのが好きだった。
僕は週末の喫茶店めぐりのさいに、彼女に聞いたことがある。皆と協力し合うのが好きなら、何故、部活に入らなかったのか、と。
「私ね、恋愛がしたかったの。ドラマのような恋をして、毎日ドキドキするの。本気になってそのことだけ考えちゃうくらい」
部活に入ってしまえば、それだけを考えることはできなくなる、それが彼女の理由だった。
それを聞いた僕は少し心配になってしまった。彼女の本気の思いに、僕という彼氏は応えられているのだろうか、と。
「なに言ってるの。私、あなたのこと好きになって、それまで以上にドキドキしてるわよ。恋は盲目っていうけど、こんなになっちゃうんだね。本当にあなたしか見えなくなっちゃった」
その日の夜、僕は彼女と結ばれた。
僕も彼女も経験はなく、手際の悪さは言葉に尽くせないものだった。だが、彼女は嬉しそに微笑んでくれた。
「幸せよ」
そう言ってくれた。
それが一ヶ月前の話だった。
彼女は今、僕を振り、大嫌いと言っていた男に抱かれている。
僕が見たこともない表情で、聞いたこともない声で男に抱かれている。
別れを切り出したとき、彼女は終始、うつむいて喋っていた。気持ちを抑えるように平坦な声で別れの言葉を紡いでいた。
そんな彼女の面影は画面にはない。
彼女の様子から伺えるのは一つだけ、ただ、快楽を受け入れ、感情をさらけ出していた。
……僕の心は動かない。
思い出の彼女と、画面に彼女を比べる。心の中で疑問符が踊っていた。
なあ、本当にいいのか? その下卑た表情の男は、きっと甘いところはほとんどないぞ?
本当にいいのか? 君が部活を諦めて求めたものが、そこで得られるのか?
本当にいいのか? 君の体を物みたいに扱っているそいつから、君の望んだドキドキを得られるのか?
「本当にそれでいいのか?」
答えはもちろん、なかった。
自分の適応力がないせいか。最近NTR見ても心が動きません
昨今のNTR作品って、ほとんどが快楽堕ちなんですよね。
心とか一切関係なしで、他の男に入れられたら、その時点で試合終了。
偶に心まで奪われるのがあるけど、お前本当に主人公のこと好きだったの? とか、それだけで心変わりしちゃうの? とか、そんなことばかり思ってしまいます。
おかげで興奮しなくなりました。
いや、作品は素晴らしいですよ。そういう作品だって思えれば違うんでしょうが……。これが年取って頑固になるってことなんでしょうかね。