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Blue scent  作者: uka
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 八月も終わりに近づき、残すところあたし達の予定も最後の一つになっていた。

 そうして今日はその最後の予定、彼女発案の向日葵を見にいくのと、それに夜からは花火を予定している。先日四人で買い物にいった際にコンビニのもの以外にも一心が大量の花火を買い込んでいたので夜は相当賑やかな事になるだろう。

 あたしは自然と笑みを漏らしながら待ち合わせた駅前へと向かう。

 時刻は三時前、もっとも暑い時間。

 八月ももう終わりだというのに随分と気温は高く、今年は残暑も厳しそうだ。

 待ち合わせの時間より早く駅前につくと、既に彼女があたしより早くきてベンチに腰掛けてスケッチブックを広げていた。


「早いね」


 声をかけるとすぐに気づいた彼女が視線を向けて手を振って迎えてくれる。


「ずっと楽しみにしてたからさ、つい気持ちがはやっちゃって」


 彼女の手元に目を落とすと駅前の噴水を中心とした小さな広場をスケッチしていたらしい。ただその風景の中に実際は存在する人物は描かれていないようだった。


「手持ち無沙汰だったから描いてたんだけど、もう夏休みが終わると思うと寂しい気分になっちゃってさ、絵もなんか調子が悪いや」


 彼女のいう通りその絵はいつも彼女が描いている絵に比べると、少し寂れているような、そんな悲しさを感じる風景だった。それはそれで絵としては味があると思うけど。


「そう? あたしはいい絵だと思うけど」

「らしくないと思うんだよね、こういう絵は。私が目指すべきものじゃないっていうか」


 そう言って彼女はスケッチブックを閉じて、画材を片付ける。

 あたしも彼女の手元から視線をあげると、ちょうど一心と幸助が一緒にやってきたところだった。


「二人とも早いな」

「待たせちゃったかな?」

「あたしは今来たとこ」

「私もちょっと前だから気にしないでいいよ」


 あたしの方は嘘でもなんでもないのだけれど、彼女のは社交辞令だろう。先程の風景画はパッと見でもかなり細部まで描きこまれていた。彼女の筆の速さでも多分十分やそこらでは足りはずだ。

 まぁ野暮な突っ込みはいれないでもいいだろう。それよりもこの炎天下それだけの時間外で彼女のが待っていた事の方が心配だった。先日の山の件もあるしそれとなくあたしは気遣っておく。


「ここにくるまでで結構汗かいちゃったし、ちょっと飲み物買ってくるけど、何かいる?」

「じゃあ俺コーラ」

「私はミルクティー」

「女子に持たせるのもあれだし僕はついてくよ」


 二人からお金を受け取って駅のコンビニで飲み物を買う。その間に二人には切符を買ってきてもらうことになった。目的地はまだ聞いていなかったのでどれくらい電車に揺られるかわからないけど、ついでに道中で食べるお菓子も適当に見繕って二人のもとへと戻る。


「それでどこまでいくの?」

「そんな遠くないよ、五駅先だから」

「案外近いんだね」

「俺ももっと遠出になるかと思ってたんだが」


 渡された切符には確かに五駅先の駅名がハッキリと記されている。まじまじとそれを見つめるあたしを尻目に彼女は嬉しそうに語る。


「道の駅に併設されたそんなに広くない向日葵畑なんだけどさ、逆に名前があんまり知られてなくて穴場になってるみたい」

「そんなところあったのか」

「積極的に外にでかけるタイプでもなかったしねあたし達」

「だね、今年は小日向さんがいたから、随分賑やかで楽しい夏休みを過ごさせて貰ったけど」

「そーそー、この私に感謝してくれていいんだよ。灰色の青春を送る君達に手を差し伸べた天使にさ」


 彼女がおどけながら偉そうに胸をはる。そんな仕草までいちいち可愛くて、彼女らしくて、笑いが周りへと伝播していく。彼女にはそんな不思議な、人を笑顔にする力がある。

 そうしてふざけている内にホームに電車が滑り込んでくる、誰からともなくあたし達はその電車へと乗り込んでいく。これから向かう場所へ、これから訪れる楽しい時間に期待しながら。




 駅に降り立って歩くこと数分、目の前には広大な向日葵畑が広がっている。テレビでみる地平線を埋め尽くす程、というわけにはいかないものの黄色い花の絨毯が目の前にはひろがっている。


「圧巻だな」

「綺麗だね、本当に、凄く」

「学校の桜並木とはまた違った凄さがあるね」


 皆がそれぞれの感想を漏らす中、あたしは感想を口に出す余裕もなくただ呆然とシャッターを切った。これはきっと言葉にしても仕方のない感情で、写真にしても誰かに伝わるかはきっと怪しいけれど、シャッターを切らずにはいられなかったのだ。

 数枚の写真を撮った後あたしはようやく口を開いた。


「向日葵ってこんな花だったんだ」

「逞しい花だよね」


 彼女は一歩踏み出し近くの向日葵にそっと触れた。


「好きなの、向日葵?」

「うん、花の中では一番好きかな、こんなに大きな花を付けて、それを支えるためにがっしりとした茎を持って、常に太陽の方、明るい方を向き続ける。私もそんな風に生きたいと思うよ」


 常に明るい方を、それは確かに彼女に良く似ていた。いや、一心に似ている、というのが正しいのだろうか。どちらにしろ、彼女に良く似合う花だと思う。


「せっかくだから、皆で撮らない?」


 そう言って彼女があたしが持つカメラを指差した。


「そういえばまだ四人での写真撮った事なかったな」

「変な話だよね」


 それは単にあたしが写真に写るのがあまり好きではなかったからで、寿命が縮むとかそういう迷信を信じているわけではなく、単純に写真写りが悪いし、自分の写真なんて見ても楽しいとも思わないからずっと避けていたので。

 とはいえ皆撮る気まんまんのようだし諦めてあたしもフレームの中に収まる事にする。

 向日葵畑をバックに、三人がフレームに収まるようにベンチの上にカメラをセットする。タイマーをセットしてあたしも三人の方へ駆け寄る。出来るだけ目立たないように一番端の後ろ側へ、少ししてシャッターの落ちる音が聞こえる。

 初めて全員で撮った写真は、技術的には大した事もないなんの変哲もない普通の写真だったけれど、きっとこれから先大切な一枚になるだろう。

 写真を撮り終えてからぐるりと向日葵畑を見て周り、道の駅で休憩をとる事になった。

 皆外のベンチに腰掛けて少し距離の開いた黄色い絨毯を眺めている。

 そんな中彼女が鞄に手を伸ばして、スケッチブックを取り出して、しばらくその表紙を眺めた後、何を思ったのかしまってしまった。


「絵、描かないの?」

「いつもの癖でちょっと取り出しちゃっただけ」

「別にまだ花火するには早いしいいんじゃない?」


 そう言って他の二人に同意を求めるように視線を飛ばせば、


「特に予定も組んでないしな」

「僕もここから見てるだけで飽きないし」

「ほら、気にしなくてもいいんじゃない?」


 そう言っても彼女は首を振って「いいんだ」と笑った。


「発案した時はスケッチもするつもりだったんだけどさ、写真は君がとってくれるだろうし、後でそれ見て描けばいいかなって思って。それに予定だと夏休み皆で集まれるの今日が最後でしょ?

 だからさ、これ」


 言いながら彼女は、鞄を漁って四枚の切符を取り出した。


「一個先の駅なんだけどさ、せっかくだし皆の発案したこと全部やっときたいなと思って、水着姿は見せられないけどさ、海、いこうよ」


 彼女が差し出すそれを、あたしたちは受け取る。


「俺は……俺は今媛ちゃんの気遣いで胸がいっぱいだ」


 オーバーなリアクションで泣き真似をして見せる一心に皆が自然と笑い声を上げる。


「大げさだよ一心」

「逆に馬鹿にしてるんじゃないかと思う程ね」

「俺は大真面目だっての! ともかく、ありがと媛ちゃん」

「いえいえ。それより早く行こうよ、電車の時間見てなかったから」


 促されるままにあたし達は歩き始める。軽やかな彼女の足取りに惹かれるように。

 徐々に弱くなリ始めた日差し、それがほんの少し寂しく感じる。

 向日葵畑に背を向けてあたし達は駅へと向かう。

 夏の終わりを楽しむために。





 そうして一駅だけの短い電車に揺られ、彼女の案内でたどり着いた砂浜は、人影がなく、辺りにはあたし達意外に誰もいないようだった。

 不思議にに思って辺りを見回しているとその仕草に気づいたのか彼女が口を開いた。


「ここ遊泳禁止だからあんまり人が来ないみたい。まぁもうシーズンも終わりだし、時間も時間だし」


 そんなものだろうか?

 白い砂浜と青い海の綺麗なコントラストは先程の向日葵畑に勝るとも劣らない綺麗な景色だと思うのだけれど。


「散歩にくる人もいないなんて、もったいないね」

「あまり身近すぎると、かえってありがたみに気づきにくいものだから」

「慣れるって大事だけど、もったいないことだと思うよね」

「そうだな、媛ちゃんのすばらしさに慣れてしまったらと思うと、ぞっとしないぜ」

「はいはい、惚気は勘弁してよね」


 慣れるともったいない、か。

 幸助の言葉を頭の中で反芻する。

 確かに子供の頃、見るもの全てが新鮮で、毎日が楽しくて仕方なかった気がする。それは補正された思い出かもしれないけれど。本や物語も始めて読んだ時の楽しさは二度と味わうことは出来ない。

 でも慣れ親しむからこそ、見えてくるものもあると、思う。

 日常の中、今まで気づかなかったこと。例えば帰り道のとある家の前で咲いた季節の花。本を読み直すことで気づく、伏線や、掘り下げられていく登場人物の心情。それらははじめからは見えてこない。

 砂浜の風景を、皆の姿と共に写真に収める。この写真もきっと幾度となく見返すうちに気づくことがあるだろう。

 夕暮れに程近い、赤い日差し。

 彼女が麦藁帽子を外して、首へから後ろへとかける。

 栗色の紙が潮風に揺れる。


「暑いね」


 呟く彼女の服装はやはりいつものように肌の露出を極力避けた、暑そうな格好だ。


「飲み物買いにいくか」


 そう言って一心が辺りを見回す。


「この辺、自販機あるのかね」

「あ、私もいっしょにいくよ」


 彼女がそう言って一心の手をとる。

 あたしはどうしようか、考えている間に幸助が口を挟む。


「じゃあ僕等の分も頼むよ、僕は紅茶で、千歳は?」

「ん、あたしはコーヒーで」

「了解、んじゃいってくるわ」

「すぐ戻るから」


 二人が手を繋いで歩いていく。見える範囲には自販機は見当たらない。戻ってくるまでそれなりに時間がかかりそうだ。


「案外気が効くんだね幸助」

「そうでもないよ、別に二人のためってわけでもないしね」


 言いながら幸助は近くの流木に腰掛ける、あたしもその横に腰を下ろす。

 地平線に隠れ行く夕日が眩しい。

 カメラのメモリに夜の花火の風景を撮るだけの容量の余裕があるか確認してからその光景も写真に収めた。日に二、三枚だった写真のペースはこの夏で格段に上がった。多い日には三桁に届くこともある。あたしのなかで撮るという行為は、なくてはならない習慣となりつつあった。


「また撮ってる」

「もうなんか癖みたいなもんで、学校始まったら授業中に無意識にカメラ撮り出しそうで怖いよ」

「千歳はそっち系の進路に進むの?」

「どうなるかわからないけど、一応そのつもり」

「じゃあ、皆バラバラだね」

「そうなるね」


 それで会話が途切れる。

 波の打ち寄せる音と、鳥の鳴き声だけが聞こえる。

 幸助もあたしと同じように皆散り散りになっていく事を不安に思っているのだろうか。

 言葉にしないけれど、一心も、彼女も、多分皆気持ちは一緒だと思う。だからこそこの夏は楽しかったんだと思う。


「前に、好きな人がいるって言ったの覚えてる?」


 唐突に幸助がそんな事を呟く。


「覚えてるよ。眼鏡もその人の為なんでしょ? それがどうかしたの?」

「近いうちに気持ちを打ち明けようと思う」


 その言葉に妙にドキリとする。

 そもそも気持ちを伝える気はないといっていたのに、いったいどういった心境の変化なのか。


「本当は言う気はなかったんだけど、卒業して会えなくなると思ったら、言わなくちゃいけない気がしてさ」

「悔いは残さないほうがいいもんね」


 そんな月並みな言葉しかあたしはかけることしか出来ない。幸助の力になりたいと思ってもあたしには色恋なんて分からないし。


「でも、怖いんだ。断られたらこの先どう付き合っていけばいいんだろうって、不安になる」


 その不安はあたしにも良く分かる。

 失敗するのが怖いのと一緒だ。

 でも、それは悩んでも仕方がないことで、気持ちを打ち開けると決めたのなら、それはもうなるようにしかならないわけで。

 あたしは幸助の背中を押すために、それを言葉にしようと考える。あたしが彼女に言われたのと同じように。


「悩んでも答えの出ない問いは、考えるだけ時間の無駄。答えが出てから考えればいいよ。もし答えが出ないなら、あとは勝手に答えが出来上がってくるの待つことしか出来ないんじゃないかな」


 あたしがそう言うと、幸助は驚いた顔であたしの顔をじっと見つめる。


「一心みたいなこと、言うんだね」

「付き合いが長いから」


 本当は、彼女からの受け売りだけど。彼女のそれも一心の受け売りのようなものだし、大きな違いではないだろう。


「でも、うん、ありがとう」


 その真っ直ぐな感謝の気持ちがなんだか恥ずかしくて、ごまかすように腰を上げる。


「それにしても遅いね二人とも」

「だね、道に迷ってないといいんだけど」

「ちょっとあたし探してくる」


 幸助の返事も聞かないままあたしは二人が歩いていった方へと駆け出す。

 砂浜から海沿いの道へと上がり、辺りを見回す。

 やはり周りに人影はなくて、海岸線に沿って曲がりくねる道路が長々と続いているだけだ。一体二人はどこまで行ってしまったのか見当も付かない。とりあえず当てもなく暫くの間ぶらぶらと歩く。

 それから五分ほど歩いただろうか、ようやく一台の自販機を見つけた。となれば二人の姿も近くにあるはずだ。

 眩しい太陽の光に目を細めながら辺りを見渡していくうち、小さな古びた屋根つきのバス停に二人の姿を見つけた。

 結構な距離があったし、二人とも歩き疲れて休んでいたのだろうか。

 彼女の体調を少し心配しながら近づこうとして、あたしは足を止める。

 二人は互いに向かい合って何かを話しているようだった。

 その内容は聞き取れなかったけれど、なんとなく何を話しているのかはわかった気がした。

 背の高い一心が腰をかがめる。

 背の低い彼女が爪先を立てる。

 二人の顔が近づいて、触れ合う。

 互いに気遣うようなその口付けの瞬間を、あたしは目撃してしまった。

 心がざわつく。

 苛立ち、不安、焦燥、怒り、悲しみ、驚き。それら全てのようで、それら全てと違う。心の中を激しく渦巻く感情。

 胸を締め付けられるような痛み。

 カラカラに乾いた喉は、暑さのせいか。熱に浮かされたかのように回らない頭で、とりあえずここから逃げようと思った。

 逃げる?

 言葉としてはおかしい気がしたけれど、ここにいて二人に見つかった気まずいのは間違いない。あたしは出来るだけ足音が立たないように走り出す。

 でもどこへ?

 冷静になるまでは幸助の元に戻るのもなんとなく嫌だった。

 あたしは当てもなく、息が上がるまでとにかく走り続けた。



 すっかり暗くなった人通りの少ない夜道を、家に向かいあたしたちは歩いていく。


「夏を満喫したって感じだな」

「それ山の時も言ってたじゃないか一心」

「でも実際そんな感じだったし」

「来年も遊びにこれるといいんだけどな」

「来年かぁ……」

「どうだろうね来年は、僕らも受験生だし」


 今日の出来事を楽しそうに話す三人の声がどこか遠い。

 あれから多少気分の落ち着いたあたしは道に迷っていた事にして三人と合流し、今日の締めである花火をして、電車であたしたちの住む街へと戻ってきていた。

 一番の楽しみになるはずだった花火の記憶は殆どない。

 一心と彼女が笑う姿を見るたびにあの情景がフラッシュバックして、胸中を言い様のない感情が渦巻き、それを抑えるのに必死だった。

 表面上はたぶん取り繕えていたと思う。写真もきちんと撮った。


「写真、プリントアウトしてアルバムとかにしたいな」

「思い出に浸るの早すぎだよ瀬名君」

「四人で初めての夏だしそれもいいんじゃないかな」

「千歳もそう思うだろ?」

「……そうだね」


 一心に話を振られて適当に相槌をうっておく。

 熱に浮かされたように思考が上手く働かない。


「元気ないけど大丈夫か千歳?」


 そう言って一心があたしの顔を覗きこんでくる。


「ちょっと、はしゃぎすぎて疲れたみたい」


 遊び疲れたのは嘘ではないけれど、些細な嘘に胸が痛む。

 作り笑いを隠そうと一心から目をそらそうとしたところで、彼女が逆側から伸ばしてきたひんやりと冷たい手が、あたしの額に触れる。

 反射的にその手を振り解こうとするのをすんでの所でなんとか留まる。


「熱はないみたいだけど、少し休憩していく?」

「なんなら僕が背負っていくけど」

「二人とも大げさ、大丈夫だからさ、帰ったらちゃんと写真の整理してから寝るよ」


 彼女の手を額からゆっくりと引き離す。それだけの行為になぜか酷く緊張した。


「写真は急がなくてもいいから帰ったらそのまま寝ちゃえよ」

「うん、体は大事にした方がいいよ」

「明日まだだるいようだったらご飯作りにいくよ」

「ありがとう」


 多分あたしはその時ちゃんと、笑えていたと思う。

 それから先の事はよく覚えていない。会話をしていたような気がするけど、あたしがその中に混じっていたのかどうかは定かではない。

 いつの間にか家に付いていて、お風呂にも入らず、着替えもせずに、べたべたの汗臭い格好のまま眠りに付いていた。




 その夜、夢を見た。

 彼女の夢だった。

 あたしは彼女と手をしっかりと繋いでどこかを歩いていた。

 あたしも彼女も幸せそうに笑っていた。

 周りには幸助も、一心も、誰もいなくて、その世界にはあたしと彼女だけがいた。

 いつの間にか二人であの砂浜を訪れていて、時間は夕方になっていた。

 彼女の頬が赤い。

 それは夕日のせいなのか。

 向かい合う彼女がその綺麗な瞳を閉じた。

 あたしは腰をかがめて彼女に近づく。

 彼女も爪先を伸ばしてあたしへと近づく。

 唇が触れる前に、あたしも眼を閉じた

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