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第二章 ツンデレ美少女が頑張ってツッコむ

「で? どういう話なんだよ?」

 俺はえめるに聞く。

 オリエンテーションしかなかった入学二日目の、既に放課後となっている。

 途中何回か休みがあったが、A組と時間が合わず先に話すと双美が怒るからと、話してはくれなかったため、この時間となった。

「さっさと言いなさいよ。あたしも暇じゃないんだから」

「いや、お前は別に付き合わなくてもいいんだぞ?」

「何よ? あんなことしといて、あたしには説明しないっていうの?」

「いや、別にいいけどな」

 隣でツインテールがいらいらしながら言う。

 こいつは別に聞く義理はないんだが、どうも理由を聞きたいらしい。

「そう言えばお前、何て名前なんだ?」

「今更!?」

「いや、朝聞ける状態じゃなかったしな。あ、俺は金山由大って言うんだ」

「……あたしは熱田紗歌恵(さかえ)よ」

 俺が名乗ったので、渋々という感じで、ツインテールが名乗った。

「さかえ? 栄えるって書くのか?」

「違うわよ、こう」

 紗歌恵は黒板に「紗歌恵」と書いた。

「ちなみに俺はこうだ」

 俺もその隣に「由大」と書いた。

 書いてから、並べて書くと意味ありげな気がして気恥ずかしかった。

 なんていうか、間に線入れて傘書けば、相合傘になるし。

「ちなみに私はこんな字です」

 えめるはその隣に「えめる」と平仮名で書いた。

「口で言え。書かなくていいだろ」

 その後双美や美来も書き始め、ただの自己紹介タイムになった。

「それで、ゆーだいの趣味は何だよ? ボクは運動全般だぜ!」

 双美が元気よく宣言しつつ聞いてくる。

 ほら脱線しただろ。

「ゆーだいじゃねえし、趣味とか今どうでもいいだろ。今朝の事話せよ!」

「ではそろそろ場も温まったことですし、本題に入りましょうか」

「いや、温まってないから」

「我々は昨日、入学式に結成した『素敵な出会いを求める純白な乙女の会』略称ないをめるなの、です」

「その略称で通すのかよ」

 そもそも、純白な乙女ってイメージじゃねえだろお前ら。

 いや、可愛いけどさ。

「活動内容は素敵な出会いを求めること」

「まんまじゃねえかよ」

「だから今朝、出会いを求めたのです」

「いや、素敵から全力疾走で離れて行ってたけどな」

「……あれでは駄目だったのですか?」

 えめるが不思議そうに俺を見上げる。

「心から疑ってなかったのかよ! 駄目に決まってんだろ!」

「ふむ。やはり素人が集まっても意味がないのですね。略称も素乙女会(しろおとめかい)に変えますか」

「いや、もっとすべきことがあるだろ」

「そうです! 我々はこの部を学校公認の部にしようと思っています」

「それは無理だろ」

 恋愛のための部活なんて認められるわけがないしな。

「既に大府(おおぶ)先生に顧問をお願いしています」

「了承済かよ!」

 大府(おおぶ)先生は、俺たちの担任で、若い独身女性の先生だ。

「『女子力を磨いて将来いい女になるために努力する部活です』と言ったら快く」

「また、微妙に騙してないところがムカつく! てか、三人で部活なんて出来るのか?」

 あまり良くは知らないが、部活って最低五人くらいいなきゃ駄目なんじゃなかったか?

「そこは大丈夫です。校則確認したら、最低三人となっていました」

 そうなのか、結構少なくていいんだな。

「そこで、かえりん」

「なんでその名前で定着させようとしてんのよ!」

 自分以外に突っ込むやついると楽だなあ。

「では言い換えましょう、コーチ!」

「コーチって何よ! 坂本龍馬とか鰹のタタキとか知らいなわよ!」

「それは高知だ。ていうか、お前までボケるのかよ! 失望したぞ、えっと紗歌恵!」

「な、なんであたしだけ失望されんのよ!」

 ちょっとボケてみたら思った以上に恥ずかしかったのか、真っ赤な顔で紗歌恵が怒る。

「コーチは人に物を教える人を言います」

 脱線しかけた話を、えめるが元に戻す。

「分かってるけど、なんであたしがコーチなのよ!」

「ふむ、説明するしかありませんね。そう、我々素乙女会(しろおとめかい)はみんな素人なのです。ですから指導してくれるプロが必要なのです」

「プロって何のだよ」

「素敵な出会いを指導してくれるインストラクタです」

「いるのかよそんなの!」

「目の前にいます。コーチ!」

「コーチ!」

「コーチ!」

「……ちょっと待ちなさいよ! 誰がコーチよ!」

 紗歌恵が一瞬だけ満更でもない顔をしてから、怒り出した。

「素敵な出会いのプロとして、我々を指導していただきたいのです」

「プロじゃないわよ! ……それに、そんなのがあるなら、私だって指導して欲しいわよ!」

 だろうな、俺だって指導して欲しい。

 出会いってのは大抵偶然で、特に素敵な出会いってのは奇跡みたいなもんだ。

 それを演出出来る手段があるなら、知りたいよな。

 いや、今朝のは違う。

「とにかく! 駄目なものは駄目! あたしに指導なんて無理に決まってるでしょっ!」

「ふむう。指導者がいないと部が成り立ちません……」

 えめるがしょんぼりした顔で落ち込む。

 ああ、こいつも落ち込むんだ。

 何か、そういう存在じゃないと思ってた。

 リーダー格のえめるが落ち込むので、双美も美来も落ち込む。

 紗歌恵は目が泳いでるな、自分の言葉でみんなが落ち込んだから、慌ててるんだな、案外いい奴め。

「別に雑誌の特集なんかをみんなで読むだけでもいいだろ」

 俺はその空気を変えようと、そんな提案をしてみた。

「もぁお?」

 えめるが、日本人には発音が難しい言葉とともに顔を上げる。

「雑誌とかにそういう特集があるだろ? みんなでそれ見て勉強するだけで違うと思うんだが」

「なるほど、あの『私の初体験記』とかですか」

「違う! それはもう少し後でいい!」

 最近の女性誌にはそんな特集もあるのかよ。

 ……ちょっと読んでみたくなった。

 あと、えめるみたいな見た目だけは美少女がそんな事言うと、いろいろ想像してしまって……その、困る。

「なるほど、文献を見て勉強、というのも一つの手ですね」

「なあ、ボクが読んでる月刊熱血スポーツにも特集あるか?」

「読んだことないから知らんが、多分ない」

「そっか……」

 双美がしょんぼりと肩を落とす。

「じゃ、私の読んでるアネゴキャンは?」

「あるかも知れないが、高校生向けのはないかもな」

 美来は十年後に読めばいいよその雑誌。

「じゃ、私のハレンチ書院──」

「あるけど参考にするな! ていうか、読むな!」

 えめるの出会い感覚がおかしい理由が分かった!

 こいつ読んでる本が女の子向けじゃなねえ!

「……まあ、部費が出るかどうかは知らんが、ないならみんなで金出しあって買うってのはどうだ?」

「それです! 早速設立申請に行ってきましょう!」

 えめるが右手を突き上げて言う。

『おー!』

 二人が呼応して、三人は走って出て行った。

「……なんだ、あれ?」

「知らないけど……はあ……」

 紗歌恵はほんの少しだけ名残惜しそうな顔をした。

 もしかして、仲間に入りたかったのか?

 そういう事言えそうにない、素直じゃなさそうな奴だしなこいつ。

 ま、いいや。

「じゃ、俺は帰る」

「あ、うん、じゃ」

 俺は紗歌恵と別れて家に帰った。


          ■


「大変です! よっしー、大変なのです!」

 登校してきた俺に、朝っぱらから大声で寄ってくるえめる。

 俺に抱きついてくるレベルで寄ってくるので、思わずのけぞった。

 こいつのテンション下がる時ってあるのかよ。

「聞かずに分かるが、俺には大して大変なことじゃない」

「大変なのです! 場合によっては日本の将来が危機です!」

「規模が大きいな! 何が大変なんだよ?」

素乙女会(しろおとめかい)が認められなかったのです!」

「そうなのか、残念だったな」

「もっと驚いてください! 振り返ったらゲイマッチョが全裸で立ってた位に!」

「そりゃ驚きだ! ダッシュで逃げるくらい驚きだ! だが、今の話にそこまで驚く事実はない!」

「このままでは、日本の少子化が加速し、先細りですっ!」

「いや、お前が五人生んでも概算で考えると、出生率0パーセント上昇だぞ?」

「そうです! その通りです!」

 何が言いたいんだこいつ。

「でも、十人ならどうかな?」

 えめるの背後からにやり、と笑いながら腕を組んだ双美が現れる。

 わざわざそれ言うために来たのかよ。

「いや、多分0パーセントのままだと思うが……」

「じゃ、十六人なら?」

 さらにその背後から美来が現れる。

 さりげなく六人産むつもりだこいつ!

「だから、そのくらいじゃ変わらないんだよ! 日本の人口何人だと思ってるんだ」

「それは平成何年度の統計で答えればいいですか?」

「答えなくてもいいっ!」

「脱線しないでください!」

「お前が脱線したんだろうがっ!」

 俺は拳をえめるのこめかみに当ててぐりぐりしてやった。

「ぎゃー!」

 そんなに痛くはないはずだが、えめるは思いっきり悲鳴を上げた。

 何ていうかさ、昨日はこいつが可愛かったからどことなく遠慮してたんだが、こいつは駄目なやつだ。

 遠慮したらつけあがってくるから、叩いておかないと。

「何をするのですか!」

 えめるはそんな俺に抗議する。

「さっさと話を進めろ」

「ふんがー!」

 意味不明の叫びを上げながら、えめるが襲いかかってきた。

 が、走ってもすぐにへばるような虚弱体質のこいつがクリティカルな攻撃が出来るわけもなく。

「ふがっ! ふがっ! ふんがぁぁぁっ!」

 野獣のように叫びながら、ぽかぽかと叩いてくるが全く痛くもない。

 その叫びだけでも疲れないか?

 案の定、すぐに息が切れてやめた。

「はあはあ……よっしーは近々ひどい目に遭うよう全力で祈ってやります」

「もっと他に頑張ることがあるだろう……まあ、ちょっとは悪かったよ」

 肩で息をして、カチューシャもずれてて、何ていうか、あまりにも悲壮感が漂っていたえめるに同情して、俺は思わず謝った。

「分かればいいのです。あ、コーチ大変です!」

 一息つくこともなく、今度は入ってきた紗歌恵の方に走っていった。

 元気な奴だな、さっきまでヘタってたのに。

「だから、コーチじゃないっての! 何よ大変って?」

「よっしーが話を聞いてくれないのです!」

「大変な話変わってんじゃん!」

「とりあえず二人! よっしーを捕らえるのです!」

「おうっ!」

「はーい」

 えめるの指示を受けて、双美と美来が俺の両脇をがっしり掴む。

「こっ! ちょっ!」

 普通に女の子に両腕を抱きつかれてんだけど!

 女の子の力で押さえつけたその腕は、振りほどこうと思ったら出来ないわけじゃないと思うが、俺には出来なかった。

 ていうか、こうやって抱きつかれると胸が押し付けられるわけで、双美の申し訳ない胸でも柔らかくって、美来の胸なんてもうさ! もうさっ!

「コーチからも、めってしてやってください! 優しい側でも厳しい側でもいいので!」

「するかっ! 優しい側って確実にそこに愛があるじゃないの!」

 紗歌恵がとても的確に突っ込んだ。

 うん、そうだろうね! 多分それで怒られたら確実に言うこと聞いちゃうよね!

「うむう、行き詰まった!」

「本題から全力疾走で離れていってるからだ! 本題を言え!」

「部の存続には最低三名なのですが、部の設立には倍の人数がいるそうです」

「急に本題に戻るなっ! あ、すまん勢いで突っ込んでしまった」

「やれやれ、よっしーは変な人ですね」

「うわぁぁぁぁっ! この世で一番言われたくない奴に言われた!」

 怒鳴ってたら俺も疲れたし、多分えめるも疲れてるし、紗歌恵も状況を把握していないので、ゼロからえめるに説明させた。

 脱線するたびにこめかみを痛めつけていたら、俺の腕も疲れた。

 痛くなるの分かってて脱線するこいつも凄いと思う。

「そんなわけで、一人足りないのです!」

 えめるが結論まで述べたが、最後の言葉にはどうしても突っ込まざるを得なかった。

「いや、ちょっと待て。三人の倍って六人だろ? なんで後一人なんだよ?」

「なんでも何も、私、マミ、タミー、部長、よっしーの五人は決まってるとして──」

「ちょっと待て、その前提は間違ってる」

「部長ってもしかしてあたしのこと?」

「もちろんですが?」

「なんで当たり前みたいに言ってんのよ!」

 紗歌恵は怒ってはいるが、まあ、こいつは昨日も仲間になりたそうだったし、部長はともかく、入部するのは問題ないだろう。

 だが、俺はどうだろう?

 こいつらを嫌いじゃないし、一緒にいるのが嫌ってわけでもないが、この怪しげな部活の趣旨を全く理解していない。

 そもそもこいつらの部活って、なんとか乙女の会じゃなかったっけ?

「なあ、お前らの部活の名前なんだったっけ?」

「『素敵な出会いを求める純白な人々の会』ですが」

「そう、部活の名前に乙女ってついて……ない!?」

 昨日と変わってんじゃん、いつの間に変えたんだよ!?

「素人会はあと一人必要なのです!」

「いや、当たり前みたいに俺入れるのやめろ! あとその略称恥ずかしいからやめろ!」

「……よっしーは私たちと部活するの嫌なのですか……?」

「嫌なのか?」

「嫌なの?」

 三人が上目遣いで俺をじっと見つめてくる。

 やめろ! お前ら可愛いんだからそれは卑怯だろ、三人がかりで!

「嫌……じゃ、ないけどさ……」

 三人から目をそらしながらそう答えるしかなかった。

「それではあと一人です!」

 えめるが大声で言う。

「だからちょっと待てって!」

 俺の声なんてもう聞いてない。

 大声で言ってみて周りの誰か乗ってこないかと、暗に募集してるんだろう。

 だが、ちょっと知ってる俺だって逃げたくなるようなこの状況で、誰かが名乗りを上げるわけがない。

 いや、雰囲気だけじゃない、三人がそれぞれ三方を睨むように向いて、探してるんだよ、生贄(いけにえ)を。

 みんな目を逸らすし、人によっては教室から逃げ出してるし。

 流石に止めるべきかな、紗歌恵が止めるのを待つかな、そんな事を考えていたその時。

「そこのあなたっ!」

 えめるは哀れな生贄(いけにえ)を設定した。

「私……ですか?」

 不思議そうに、だが、驚いたようにえめるを見ているのは、ゆるふわの髪が可愛い、小柄だがスタイルのいい、魅力的な女の子。

 そう、俺が昨日話してた奈那って女の子だった。

「あなたは素敵な出会いを欲しているでしょう!」

「え? あのう……その……」

 戸惑う奈那。

「おい、お前ら──」

「出会いたいでしょう! 出会いたいですよね? 出会いたいに決まりましたっ!」

 えめるが強引に話を進める。

「あなたも今日から素人会の一員です。よろしくお願いします!」

 一方的に決めたえめるが、握手する手を差し出す。

「あ……はい……よろしく、お願いします……」

 奈那も手を伸ばす。

 流されちゃってるよこの子!

 しっかり握手しちゃってるよ!

 周囲からは同情の視線。

 だがみんな、巻き込まれたくなくて何も言わない。

 流石にここは俺が言うしかないか。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 俺がツッコむ前に、もう一人のツッコミ担当(紗歌恵)が動いた。

「何ですか、部長。今六人目の部員が見つかったところです」

「そういうのは少なくとも本人の意思を確認しなさいよ! 強引に入れてどうするのよ」

 至極まともな事を言う紗歌恵。

 だが、それはつまり、自分(お前)は意思確認の上で入っていることを認めてるって事だぞ?

「ふむう、では確認しましょう、なななん」

「はい? 私の事ですか?」

 奈那が首を傾げ、おそるおそる聞く。

「素人会は美少年美少女しか入れませんが、貴女はその入会試験に合格しました、おめでとうございます!」

「えっと、あの……ありがとうございます……?」

「何で上から目線なんだよ! しかも若干詐欺入ってるし! あと美少年美少女とか自分で言うな」

 美少年はともかく美少女は認めるが、それは人が認めるものであって自分が言うものじゃない。

「それで、素人会に入りませんか? 友達も沢山出来て、楽しく毎日が過ごせますよ?」

「あ、はい……」

「えぇぇぇぇぇっ!? 入るのかよっ!」

 流される子って可哀想!

「ねえ、考え直した方がいいわよ? えっと、奈那さんだっけ? こいつら変人だから」

「部長ひどいです! 一昨日の素敵な出会いをみんなで求めようって誓いはどこに行ったのですかっ!」

「知るかっ! あんたらでそんなことがあったかは知らないけど、あたしは誓ってない!」

「あ、大丈夫です。私もお友達が欲しかったので」

「奈那さーん! にーげーてーーーっ!」

 紗歌恵が叫ぶが、えめる、美来、双美の三人が奈那を囲む。

「よし、今日からボクらの仲間だ! よろしくな、なななん」

「よろしくね~、なななん」

 なななんが感染した!

「よろしくお願いします、共和奈那と言います」

 奈那が、丁寧に頭を下げる。

 うーん、これでよかったんだろうか?

 首をひねりながら、俺はそれ以上何も言わなかった。

「それではこれでクラブ結成です! 今日はパーティーです! オレンジジュースを買ってくるのです! 豪華十%果汁ですっ!」

「普段何%飲んでるんだよ? いや、それよりまずは創部届出せよ」

「では出します! 部長の胸くらい出します」

「なんであたしの胸が出てくるのよっ!」

 俺がコメントに困る前に紗歌恵が自分で突っ込んでくれた。

 ちなみに紗歌恵の胸はまあ、年相応なんじゃないか?

「……何見てるのよ?」

 紗歌恵は胸を腕で隠しながら俺を睨む。

 俺はそれには答えずに目をそらす。

「ではみんな名前と身長体重とバストと好きな下着の色を書くのです!」

「何でだよっ!?」

「私のやっている学園ゲームではみんな書いてありますよ?」

「それは十五歳がやっていいゲームなのか?」

「そんな事よりさっさと書いてください。おざなりな前戯のようにちゃっちゃとやってください」

「それもゲーム知識か!? お前は法を犯してるって事実を──」

「これはネットの知識です。十五歳でも閲覧可能です」

「……ぐっ」

 そう言われると何も言えない。

 俺はおとなしく創部届に署名した。

 ちなみに部活名は「乙女」を二重線で消して「人」に直してあった。

 俺が署名したので、紗歌恵も何も言わず署名した。

 突っ込んでへそを曲げられても面倒なので言わないが、やっぱり入りたかったんだろうな、こいつ。

 俺だってなんだかんだしょうがないな、とか言いながら署名したのは既に期待していなかった高校生活への期待を復活させたからだ。

 こいつらといるとこれからも疲れるだろうが、でも、それ以上に楽しいだろうと思ったからだ。

「さあ、後はなななんだけです」

「ああ、なななん!」

「ほら、なななん!」

 既に最初から署名してあるえめる、美来、双美の三人が奈那に署名を迫る。

 ていうか、双美はそろそろ教室帰れよ。

「あ、はい」

 奈那は既に慣れたのか、穏やかに微笑んで紙を受け取り、「共和奈那」と署名した。

 可哀想だとか犠牲者なんて言ってはいたが、やっぱりこの子と同じ部活になれるのはちょっと嬉しかった。

 この部員の中で一番普通の子だからな。

 紗歌恵も常識人ではあるけど、ちょっと棘があるし、そういうのなしで普通に話せてストレスもたまらなそうな子は奈那だけだ。

「出来ました! これで素人会創部です!」

 えめるが創部届を掲げる。

「おぉぉぉぉっ!」

 その大仰な仕草に、美来と双美が応え、拍手をする。

 えめるが紗歌恵を真っ直ぐ見ている。

 紗歌恵が少したじろぐくらい、無表情のままじーーっと見てる。

 ああ、拍手を促してるのか。

 紗歌恵もそれが分かったようで、ふん、と横を見て、俺と目が合った。

 しょうがないなあ、俺は紗歌恵を促すように拍手をした。

 すると紗歌恵も渋々と拍手をした。

 あれ? 気が付いたら六人以外の奴らもしてるぞ?

 ああ、双美が促して回ってるんだ。

 活動内容がどうしようもないこの部活は、クラス中の祝福を持って創部された。

 多分こいつらもどんな部活か分かってないんだろうなあ。

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