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85話 激戦、オクエイ市

 真暦1084年7月15日14時23分。

 源明の指揮する陸戦艇“連弩”と戦機部隊はオクエイ市内へ突入した。


「何をやっているか!」

 この報せを聞いた守備隊司令官は大声で怒鳴る。


「気持ちは分からんでも無いがね。怒鳴る暇があるなら砲撃支援と要塞砲の準備をしてもらいたいものだ」

 ダンチェッカーが1人呟く。

「要塞内の部隊はイザという時の為に出さないとさ」

 連絡を受けたハントが頭を掻きながらダンチェッカーの元へ現れた。

 つい先程まで戦闘をしていた為か、顔色に疲れが見える。


「自分の身を守りたいだけだろう」

「要塞内の部隊は司令の子飼いばかりだからな」


 文句を言いながら2人は迫撃砲や自走砲を持つ部隊を集めて、砲撃部隊の編成を始めた。


「だが、こちらの方が早い」

 一方、ヒノクニ軍。

 連弩のブリッジで源明が呟く。


 連弩の前方ブロック上方に備え付けられた収束型メーサー砲の準備が完了した。

 これは、今回初めて使用される兵器だ。


「さて、上手くいくかね?」

 目標はデルカ山要塞の砲台。

 理論上では充分射程内である。

 砲術士官が源明に視線を向けた。


「撃て」

 源明は上に持ち上げた右腕を振り下ろしながら明確に言う。


 直後、収束メーサー砲から光が発せられる。

 同時にデルカ山の頂上付近が赤熱した後に爆炎をあげた。

 データが正しければ、こちらを狙う事の出来る要塞砲バンカーを破壊したはずだ。


「チャージまで10秒!」

 収束型メーサー砲はルーラシア帝国が使用していた物に比べると、射程距離が長く、砲の冷却時間と充填時間も短い。

 

「続けて120ミリ砲撃て!」

 続けて連弩の側面に取り付けられた2連装砲が火を噴いた。

 砲弾はややあってから地面ごと敵部隊を吹き飛ばす。

 これは地上部隊への砲撃支援であった。


「メーサー砲準備完了!」

「第2射撃て!」


 メーサー砲の第2射が放たれ、再び敵要塞から火の手が上がる。


「収束メーサー砲、良い感じですね」

 源明の隣で千代が言う。

「こういう方法ではね」

 答える源明の言い方には何処か否定が含まれていた。


 連弩に搭載された収束メーサー砲は砲撃間隔が短く射程は長い。

 しかし、ルーラシア帝国が使用していた物に比べると、放出される原子熱線の有効面積が狭く、照射時間も短いのだ。

 つまり、掃射の様な範囲の広い攻撃が出来ないのである。


「要塞の壁が厚かったりしたら、表面を焼くだけで有効打にならない可能性もある」

 万能の兵器など存在しない。

 それは分かっているが、これだけ大きい船体なのだから、近い物は欲しいと源明は思う。


「要塞からミサイル!」

 その叫びが聞こえると同時に船体各部に設置されたCIWSが起動し、フレアが打ち上げられた。

 それと同時にメーサー砲の第3射が放たれる。


 更に爆発が起こるデルカ山の要塞。

 源明はその様子をあまり面白く無さそうに眺める。

 しかし、本当に面白く無いのは当然ながら攻撃を受けているルーラシア帝国側であった。


「なにっ! メーサー砲をあんな距離から撃っただと!」

 ダンチェッカーは背後で爆炎を上げる要塞を見上げて声を上げた。


「あの位置は要塞砲のバンカーじゃあないか」

 要塞内で、最も射程の長く威力の高い砲である。

 爆炎を見ながらハントが呟く。

 普段はあまり余裕を崩さない人物なのだが、この時ばかりは焦りの色を見せた。


 ヒノクニがメーサー砲を使用したのは今回が初めてなのだ。

 しかも、その射程距離はルーラシア帝国側のメーサー砲よりも長い。


「砲撃部隊はどうした!」

 ダンチェッカーが部下に叫ぶ。

 その上空を要塞から放たれたミサイルが白煙を残しながら飛び去って行く。


「指定された位置に向かっているのですが、敵の曲砲支援で思う様に進めないみたいです」

 叫ばれた部下が申し訳無さそうに答える。

 ヒノクニの曲砲支援は連弩からだけでは無い。

 迫撃砲を装備したウルシャコフやソンハの率いる歩兵部隊や、アベル麾下の自走砲部隊が市内に散らばって砲撃支援を行っているのだ。


「もう既に3ブロックも突破されている……!」

 敵の進軍速度も速い。

「私がもう一度出よう」

 ハントがため息をついて言う。


「進軍してくる部隊は手強いぞ」

 それも当然である。

 攻撃部隊の先鋒はヒノクニ陸軍の大口翔大尉だ。


 彼はヒノクニの中ではトップクラスの戦機パイロットである。

 源明が彼のパイロットとしての腕を直接見たのは今回が初めてであるが、おそらくはかつての部下であったアレクサンデル・フォン・アーデルセンと同等か、それ以上であると見ていた。


 大口の乗る戦機、“白銀丸”は特徴的な頭部の角飾りを持つ。

 その機体は左前腕に大型のレーザーカッターを装備して、タイプβを次々と斬り捨てていく。


「お前達は俺ほどの腕を持ち合わせていないんだ! 必ず1機の敵に対して2機でバディを組んで戦え!」


 要塞からのミサイルが上空を飛ぶ下で、大口は地上の敵を排除する為に奔走する。

 ルーラシアの地上部隊にはタイプβだけでなく、新型の2脚型である閃光の姿も見えた。


「邪魔だ!」

 白銀丸は右腕に装備したサブマシンガンを撃ち、これらを撃破して進む。

 その後方で要塞と地上部隊への砲撃を繰り返す連弩にミサイルが直撃した。


「被害は!」

 艇長である源明は声を荒らげて尋ねた。


「2番から7番までのCIWSが大破! 右翼の120ミリ砲の砲身がやられてます! ……あぁ、前部装甲を貫通して3階の5番から8番ハンガーが破壊。ただ、現在まで使用されていなかったとの事です」

「まずいな……。対空防御力がかなり落ちたぞ」


 前部ブロックのCIWSの半数が破壊され、120ミリ砲も片方が使えなくなった。

 対空防御や攻撃力は半減したといって良い。


「……そこのホーネット通りに船を入れろ」

 眼の前に展開されている市内の地図を見ながら源明が命令する。

「敵の射程内ですよ?」

 隣にいた千代が疑う様に言った。

 命令を聞いた操舵長も源明に視線を向ける。


「仕方ないさ。そこの周りにある建物の陰に隠れながら砲撃を行うしか無い」

「……了解」


 やや躊躇いがちに操舵長は操舵用レバーを握る。

 後退すれば味方への砲撃支援が弱くなる事を考えればそうせざるを得ないのだ。


「移動している間も攻撃は続けるんだ」

 動き始めた連弩には、まだ収束型メーサー砲と左翼の120ミリ砲が残っている。

 攻撃は続けられるのだ。


「思い切った事をするな。ウチの艇長は」

 連弩の側にいた亜里沙が言う。

 彼女は護衛部隊として艇の近辺に部隊を展開していたのだ。

「私達は大口大尉の援護に向かえとの事よ」

 同じ様に護衛部隊を率いていたリリーが答えた。


「艇と戦闘可能な部隊は全て前に出す……。早いとこ決着を付けろって事だな」

 シンプルで良いと思いながら亜里沙は部隊を前進させる。

「最近、退屈していたのよね。その鬱憤がようやく晴らせるわ」

 実際はそこまで退屈していないはずのリリーも亜里沙の部隊に続く。


「流石脳筋女」

「よし、全部隊亜里沙機を盾にして突撃」

「おいやめろ」


 進軍を開始する護衛部隊。

 その上空を連弩から放たれた収束メーサーが光の線を薄っすらと曳きながら飛ぶ。

 それはデルカ要塞の司令塔を破壊した。


「司令塔がやられました!」

 その報告はすぐに市内で戦闘をしているダンチェッカーとハントにも届く。


「司令、副司令ともに戦死した模様! 指揮系統は滅茶苦茶です!」

 ダンチェッカーは顔を顰める。

 しかし、保身ばかりで融通の効かない基地司令と副司令が戦死したと聞き、内心でガッツポーズをした。


「どうしたものかな……」

 ハントは自機である閃光のコックピット内でその報告を聞く。

 丁度、アサルトライフルで敵の鋼丸を撃墜したところであった。


「こちら42中隊、隊長のニック・ダンチェッカー大尉だ。司令官と副司令が戦死したとの事なので、臨時に全部隊の指揮を私が執る」


 全隊通信である。

 その内容にハントはおやおやと苦笑した。

 実際のところは、1中隊の隊長であるダンチェッカーが守備隊全ての指揮を執る事などあり得ないのだが、指揮系統の混乱に乗じてこの人物はそれをやってのけたのだ。

 言ったもの勝ちとはこの事だろう。


「まずは要塞内にいる守備隊は全て出撃。41中隊はコレクト4番街の敵を排除しろ。続いて43中隊は……」


 司令官を失い、他にどうしようもなくなった部隊はその指示通りに動き出した。

 司令塔ブロックが破壊されたにも関わらず統率のとれた動きを見せる敵に対してヒノクニ軍の司令官であるアベル・タチバナ少佐は顔を曇らせた。


「司令官は存命ということかな……?」

 嘆息してアベルが言う。

「あるいは下の指揮官が優秀なんでしょう。ウチみたいにね」

 艇長席で源明が答えた。

 その視線は敵の動きが表示された液晶パネルに向けられている。


 これは泥沼になるかもしれないない、いや既になっているか。

 源明は味方と敵の動きを視線で追いつつ、自分が敵ならこの先どうするだろうかと思案していた。

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