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62話 李・トマス・シーケンシー再び

 真暦1085年12月3日8時34分。

 撤退戦は第2段階に移る。

 それまで戦闘を行なっていた歩兵部隊の一部が脱出の為に輸送機へ向かい、戦機を中心とした部隊が残る。


「では我々はこれで」

 ニコライ軍曹がアレク機に敬礼をする。

「あぁ、ご苦労だったな」

 通信機越しにアレクが答える。

 第3小隊の歩兵部隊もこのタイミングで脱出する事になっていたのだ。


 ニコライ達がその場を立ち去ってから、数分後に戦闘が開始される。

 敵側から砲弾とミサイルが発射され、その後から戦機が進軍。

 更にその後方からは戦闘ヘリが続いていることが確認出来た。


「ヘリが来たら我々に任せてもらおう」

 第2小隊の隊長から通信が入る。

 この小隊には対空戦車が配備されているのだ。


「各機、弾薬の補給は良いな?」

 飛び交う味方の通信を聞きながらアレクは部下達の状態を確認した。


「全員完了しています」

 答えたのはリーファ軍曹である。

 彼女はこの小隊の副隊長なのだが、戦機のパイロットとしての腕前は良くない。

 その為、戦線に出る事は少ないのだが、今回ばかりは隊長であるアレクに万が一の事が起きた場合に備えて出撃している。


「リーファ軍曹、お前は後方から援護するんだ」

 リーファの乗るアジーレ電子戦仕様を確認しながらアレクが言う。

 今回、彼女の役割は電子戦仕様による索敵と通信の中継であり、戦闘では無かった。


「分かっていますよ。何時も私は後ろです……」

 リーファはやや不満そうに答える。

 彼女もパイロットであった。にも関わらず後方にいるように言われるのは、実力を認められていない様に思えたのだ。


「仕方無いな。軍曹が戦闘に出るなら訓練での成績を上げる事だ」

 ジョニーが諭す様に言う。

「ジョニー軍曹やロッド軍曹達が異常なんです」

 第3小隊に昔から配属されている隊員達の訓練成績を思い出しながらリーファが答えた。

 彼らは皆、訓練の上ではアレクに勝るとも劣らない実力を持っているのだ。


「無茶苦茶な隊長だから部下もそうならざるを得ないのさ」

 ロッドが笑いながら言う。


「喋ってる暇は無いぞ」

 3人に向けてアレクの言葉が飛ぶ。

「分かってますよ」

 返答と同時に第3小隊のアジーレが降り積もった雪を踏み抜いて進み出した。


 第3小隊は当初に割り当てられたエリアへ向かい、そこで戦闘を開始する。

 まず初めに3つの分隊を後方に配置し、一斉射撃を行わせた。

 その火線の隙間をアレク機を先頭に、ジョニー、ロッド、ザザの率いる部隊が前進して敵陣に穴を開ける。

 そして、後方にいた部隊を開いた穴に向かわせて、これを広げる様にして敵の連携を崩していく。


 戦機同士の戦闘は近接戦に移り、銃撃やレーザーカッターの格闘戦が繰り広げられ、その度に爆炎と共に地面の雪が舞い上がった。

 その舞い上がった雪の中、アレクは1機のタイプγを発見する。


 剥き出しのフレーム、出刃包丁の様な頭、そして青のカラーリング。

「李・トマス・シーケンシーか!」

 ルーラシア帝国軍のエースパイロット、青い壊し屋の異名を持つ男である。

 青いタイプγはいとも簡単に味方のアジーレを撃墜していた。


「青い奴だ! 奴には手を出すな!」

 アレクは通信で呼びかける。

「青い壊し屋か!」

 すぐにジョニー機が青いタイプγとそれが率いる部隊を確認した。


 アレクの乗るアジーレ格闘戦仕様が跳ねる様にシーケンシーの機体へ向かう。

 シーケンシーもそれに気付く。


「軽装の機体が向かってくる?」

 シーケンシーはコックピット内で呟き、機体の方向をそちらへ向けた。


「沈め!」

 アレク機が散弾銃を撃つ。しかし、シーケンシーの機体はそれを回避、発射された散弾は後ろにいたタイプγに当たり、これを吹っ飛ばした。


「散弾か……! 厄介な……!」

 面倒な敵と当たったとシーケンシーは歯噛みする。


「こちらの相手をしてもらう!」

 アレクはシーケンシーを引き付けようと接近しながら散弾銃を撃ち続けた。

 このパイロットを相手に出来るのは自分しかいないと考えたからである。それは自惚れでは無く事実であった。


 ジョニーはアレクに比べると格闘戦をやや苦手としており、接近された場合において対処出来ない可能性がある。


 ロッドはむしろその逆で、格闘戦を好む傾向があり、並のパイロットよりかはマシとはいえ、射撃の命中率に関してはジョニーやアレクに劣っていた。

 もしシーケンシーにロッドが当たれば、彼よりも正確な射撃を行うシーケンシーに撃破されてしまうだろう。


 アレクはバランス型からやや格闘戦寄りであるが、2人に比べれば射撃も格闘もバランスよく対処出来た。


「それでも相手にしないので済めば、それに越した事は無いんだが……」

 シーケンシーは手強い。

 それは何度か戦っているので身を持って実感している。

 これがスポーツで無くお互いに命がけの殺し合いである以上、手強い相手と戦うのは出来るだけ避けたいところであった。


「糞! また外れた!」

 既にマガジン内の半分を青いタイプγに撃っていたのだが、全く当たる様子は無い。


「ええい! 鬱陶しい機体め!」

 シーケンシーはシーケンシーで何時もより大きく回避運動をしなければ被弾してしまう事もあり、アレク機に苛立ちを覚える。


「この軽装機だ! 援護を!」

 僚機に援護を指示するが、その僚機は別の機体との戦闘でそれどころでは無かった。


「この部隊、周りの奴らもかなりの腕だ」

 シーケンシーは自機の右腕に装備させたアサルトライフルで射撃を行う。

 しかし、これは回避された。


「外した……! 何っ!」

 アレク機が自機の左側に回り込むのが目の前の3点モニターに映る。シーケンシーは反射的に左腕の円形の盾を構えさせて全速で後退させた。

 同時にコックピット内が揺れて、盾が破壊された事がモニターに映し出される。


「これで防御は出来ないな!」

 アレクは目の前の青いタイプγの盾を破壊した事に内心で喝采しながら言う。

 だが、次の瞬間には自機のアジーレ格闘戦仕様に回避運動をさせなければならなかった。


「……っ!」

 シーケンシーの乗る青いタイプγはすぐに反撃に転じたのだ。

 シーケンシー機はアサルトライフルで射撃を行い、その弾はアレク機の左肩に当たる。


「させるか!」

 すぐにアレクも散弾銃を撃つが、同時にシーケンシー機の射撃がアレク機の左腕を吹き飛ばしたのだ。

 その反動でアレクが行った射撃は大きく外れる。


「糞が! 装甲が薄いからっ!」

 通常なら1発や2発程度当たったところで、肩の装甲が破壊される程度で済むのだ。


 しかし、それは通常の仕様の場合である。

 アレク機は格闘戦に主にした仕様で、通常のアジーレよりも装甲が薄く、少々の被弾でも致命的な破損をしてしまう事があるのだ。


「装甲が薄いのが仇になったな」

 一方でシーケンシーはアレク機にアサルトライフルを撃ち続ける。

 左腕を破壊した事でバランスが崩れ思う様に動けないでいる様に見えた。


「終わりだ!」

 シーケンシー機がアサルトライフルを撃ったのと同時にアレク機は背中を向ける。

 放たれた弾丸はアレク機のバックパックに直撃した。

 直後、胸部のコックピットハッチが跳ね上がり、中からパイロットが飛び出したと同時に機体の上半身が爆散する。


「脱出した? 大したものだ」

 この機体のパイロットは自分の射撃が避けられない事を悟り、機体に背を向けさせてコックピットへの直撃を避けたのだ。しかも、間髪入れずにそこから脱出したのである。

 少しでもタイミングが悪ければ機体と一緒に吹き飛ばされていただろう。


「まぁ、狙ったというより運が良かったのだろうがな」

 それは狙って成功する様な事では無い。

 機体から飛び出したパイロットは雪の上に転がり落ち、立ち上がってから恨めしそうにシーケンシー機を見上げる。

 燃える様な赤毛の青年であった。


「若いな……。チッ……!」

 アレクの姿を認めると同時に、コックピット内で警告音が鳴る。 

 別の機体が自機をロックしたのだ。すぐにその場を動かなければやられてしまう。


 機体から脱出したアレクはそのシーケンシー機から視線を外して走り出した。

 このままでは他の戦機に跳ね飛ばされてしまう。


「隊長!」

 ヘッドセットからジョニーの声が聞こえた。

 いつの間にか青いタイプγは姿を消している。他の場所へ向かったのだろう。


「やられた!」

「第2陣の脱出が完了しました! 次が最後です。我々も後退しましょう」

「分かった。こちらを拾ってくれ」

「えっと……。あぁ! 確認しました」


 すぐにジョニーの乗るアジーレが現れる。

 バケツの様な頭に1つ目、角ばった装甲の見慣れた機体だ。自分の機体より重厚さがあるそれは傍目で見れば頼もしくも思える。


「よし! 良いぞ、出せ!」

 アレクは背中に備え付けられたタラップに足を乗せて手すりに掴まる。


 これはジョッシュ要塞で戦っていた頃から必ず全ての機体に後付けさせたものであった。

 当時、部隊内には戦機分隊と歩兵分隊が編成されていた。

 しかし歩兵輸送車が配備されておらず、歩兵を輸送する手段が無かった為に、何とかして戦機で歩兵を輸送出来ないものかと改造を施したのである。


 結果的にこれはうまくいき、1つの戦機で3人から4人の歩兵を運べる様になった。

 また、これは歩兵の運搬だけでなく脱出したパイロットの回収などにも使える。

 こうした事からアレクは指揮下の戦機に、この改造を必ず行う様に命じていたのだ。


「乗り心地は最低だけどな」

 激しく揺れるので気を抜けば機体から振り落とされてしまうだろう。

 その為、当時の歩兵はロープやらフックを手すりに引っ掛けていたらしいが、今のアレクはそんな物を持ち合わせていないので自身の握力だけが頼りであった。

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