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56話 対応策

 暗いコックピットの中、背もたれに身体を沈み込ませる。

 シーケンシーは息をついた。


 今回の任務は威力偵察。

 敵のトーチカが存在すると思われる場所に部隊を展開。

 状況に応じて交戦、隙を見て撤退する様に指示を出していた。

 作戦進行はシーケンシーの予想通りに動き、味方部隊は大した損害も無く作戦は終了する。


 ただ、1つ予想外の事が存在した。

 アレクである。

 勿論、本人はそんなパイロットがいる事は知らないのだが、異常に腕が良い機体がいたという事だけは分かる。


 新型のタイプγに機種転換をしてからは、面白い様に敵機を翻弄していたのだが、今回の敵には逆に翻弄される事になったのだ。


 シーケンシーはその事で追い詰められた様な気分になり、それを落ち着かせる為にコックピット内に閉じ籠もっていた。


「出るか」


 ある程度、落ち着いたところで胸部のコックピットハッチを開ける。

 軽い空気音と、鼻にこびり付く機械油の臭い。目の前には他の隊員達が使っているタイプγが並ぶ見慣れた格納庫の光景が目に入ってきた。


「どうかされましたか?」

 黒と銀の縁取りがされたパイロットジャケット姿の部下が尋ねる。

 しばらく機体から降りてこないのを疑問に思ったのだろう。


「敵の中に妙に動きの良い機体がいた。気付いたか?」

 部下は少し考え込む。

「増援の部隊ですか? 確かにあの部隊は中々の腕前みたいでしたが……」

 その部隊の中でも一番動きが良い奴だとシーケンシーは内心で思いながら機体から降りた。


「……まぁ、良いさ。先の戦闘記録をディスクにコピーしておいてくれ」

「はい。終わったら渡しにいきます」

「ン……」


 聞き終えてシーケンシーは格納庫にベージュの軍服を着た人物がいる事に気付いた。


「これは、星乃宮大佐」

 笑みを浮かべて近付く。

 気付いた星乃宮も同じ様に笑みを浮かべた。

「久しぶりだな。シーケンシー大尉」

 2人は昔からの友人である。


「一体、こんな所に何の用だ?」

 言いながらシーケンシーは格納庫の外へ歩き出し、星乃宮もそれに付いていく。


「視察だよ。ワース方面攻略部隊の司令は私なんだぞ」

「ご苦労な事だ」


 お互いにくだけた口調で話す。

 格納庫の外に出たのは、部下の前ではこんな会話を見せる訳にいかないからである。



「それよりも……、11月くらいに大攻勢作戦があるかもしれん」

 星乃宮は声を低くして言う。

 こちらが本題であった。

「ほう」

 シーケンシーは興味深そうに頷く。同時に2人の背後の格納庫へ向かう為に近付いてくる整備兵が見えた。


「まだ確定では無いがな」

「なるほど。……で? 俺に何をしろと?」


 星乃宮は戦機の部品を持った整備兵が横を通り過ぎるのを待ってから口を開く。


「この基地……、というよりこの地域は死守して欲しい。それと、モスク連邦には手を出すな」

「それは分かるが……、モスク連邦?」


 この基地を失いたくないのは何となく分かる。アラシアに攻撃を仕掛けるなら、この基地が敵の制圧圏に一番近い。

 しかし、モスク連邦に攻撃をしてはならない理由が分からない。


「あぁ。上手くいけば予定している大攻勢作戦でこの辺りは全て帝国の制圧下になる」


 その言葉を聞き、理由は話せないという事をシーケンシーは察する。

 おそらく、何らかの策謀を張り巡らせている最中なのだろう。

 いずれは話してくれるだろうと思い、詮索はしないでおくことにした。






/✱/






 真暦1085年6月13日。

 アレクの部隊は偵察任務を与えられ、敵の制圧地域の様子を伺っていた。

 その途中、敵の哨戒網に引っ掛かったらしく、目標地域に入って15分もしないうちに交戦状態になる。


「充分だ。後退するぞ」

 アレクは約5分も戦闘を行うと撤退命令を出す。

 制圧任務を与えられた訳では無いので、戦闘による無駄な消耗を避ける為であった。

 そして、何よりも自機の調子が良くなかった事も大きな理由である。


 基地に帰って来たアレクに、副官であるリーファが尋ねた。

「改装した機体は如何ですか?」

 従来のアジーレよりも、こざっぱりした見た目のアレク機に視線を向ける。


 青い壊し屋との戦闘後、アレクはそれまでに使っていた自機の運動性や機動性では対抗出来ないと思い、改装をさせたのであった。


 それは格闘戦仕様とでもいうべきものであり、一部の装甲を取り外して軽量化を行い、駆動系を運動性や機動性が向上する様にチューンさせたのである。

 しかし、これには問題点もあった。


「確かに動きは良いが射撃時の安定性が最悪だ。FCSの設定だけではどうにもならないな」


 確かに運動性などは上がり、従来のアジーレよりも素早く動くことが出来るようになったのだが、腕が軽くなった影響で射撃時の反動を抑えきれず、照準を安定させる事が出来ずに命中率が悪くなったのだ。

 特にアサルトライフルやサブマシンガンをフルオートで撃っていると、5秒もしない内に照準がズレてしまうのである。


「武器にフォアグリップを付けて、デフォルトを両手持ちに変更しますか?」


 戦機は基本的に片手で武器を持つ。

 人間と違って、戦機は機械制御であるが故に射撃時の反動を抑える力が強いことに加え、照準なども各種センサーと火器管制システムを連動させて合わせているからである。

 その為、生身の人間なら両手で扱う様な武器を片手で使用する事が可能なのだ。

 しかし、それでも機体の仕様によってはそれらが難しい場合もある。


「駄目だな。それだと格闘戦に素早く移ることが出来ない」

「何も戦機で殴り合いをする必要は無いと思いますが……」


 確かに戦機は近接戦闘用の兵器である。

 だが、基本はアサルトライフルやサブマシンガンといった射撃による攻撃が基本であり、盾による刺突やレーザーカッターによる斬り合い、機体の腕部による殴り合いなどは想定されていなかったのだ。

 しかし戦機同士で近接戦闘を行う場合、射撃よりも直接機体をぶつけた方が効果的なダメージになる事が多々あった。

 それがやがて、刺突可能な盾やレーザーカッターといった格闘戦用の装備の開発に繋がったのである。


「俺もそうしたいが、青い壊し屋に射撃を当てるのは至難の技だ。直接殴るでもしない限りは奴を倒せない」

 これまでもアレクは青い壊し屋と対峙した事があるが、その時に行った射撃はほとんど命中しなかった。

 例え当たっても致命的なダメージにはならず、無駄に弾を消費しただけという結果に終わっている。


「じゃあどうします?」

 リーファが尋ねた。


「散弾銃でも持たせるか……。M-120だかっていうセミオートの奴があったろ?」

 散弾であれば照準をそこまで気にする事無く射撃を行える。

 もちろん、アサルトライフル等に比べたら有効射程距離は短くなり、特定の場所だけを狙うような事も出来なくなるが。


「ありましたね。陳情しておきますか?」

「頼む」

「あと、あの装備は最近になってソードオフなる仕様もありますがどうします?」

「……通常仕様で良い。そこまで敵に接近して撃とうとは思わないし、何よりアレはやたらとジャムが起きるって話だろ」

「まぁ、無理矢理改造した物ですから……」


 戦機の兵装は歩兵のそれと比べたら、未だに発展途上なところがある。

 その為か、欠陥が多い兵装が生まれる事が多々見られた。


「とりあえず散弾銃と弾薬は頼んでおきます。他には何かありますか?」

「後は、各分隊長に聞いてくれ。……ただ、予算を越えないようにな」

「了解しました」


 アレクはオリガ中尉から弾薬の消費量が多い事について注意された事を思い出す。


「何やら大変そうですな」

 背後から野太い声がかかる。

 ニコライ軍曹であった。


「まぁ、色々とね」

 アレクはやれやれと肩をすくめて答える。

 機体の換装に、それに合わせた兵装の調達。やる事は多い。


「おかげでこちらは色々と発見しましたがね」

「何の話だ?」

「アーデルセン准尉が敵を引き付けてくれたおかげで、こちらも偵察がしやすいという事です」

「……俺達は囮か?」


 ニコライは歩兵部隊を率いている。

 当然、戦機よりも目立たない為に偵察にはこちらの方が適していた。

 そこで、目立ちやすい戦機と目立ちにくい歩兵を同時に偵察へ出す事で敵の目を戦機に向けさせ、その隙に歩兵はより深い場所まで侵入して偵察を行なっていたのである。


「適材適所ですよ」

 ニコライは悪びれることも無く笑って言う。

「まぁ良いさ。戦機なんてそんなものだ。……ところで、色々と発見したと言っていたが?」

 これで何も無ければ皮肉の1つでも飛ばしてやろうと思いながら尋ねた。


「はい。敵の陣地に掘削作業用の戦機がありました」

 それは戦機の両腕を取り外して、代わりにショベルやら掘削ドリルを取り付けた現地改修機であった。 

「工兵部隊か……」

 新しい基地でも建造する気だろうか?

 アレクは幾つかの可能性を思案する。


「敵は新たに塹壕を張り巡らせているみたいでした」

 ニコライはそんなアレクの表情を見ながら言う。


「防御を堅めている訳だ。今更な話だが……」

「ここで防御を更に堅めるあたり、何かどうしても守りたい物でも出来たのでしょうか?」

「発掘兵器か……? またアグネアが見付かったとかだったら冗談じゃ済まないな」


 まさかとは思う。

 しかし、あの兵器が過去に量産されていた事を考えれば使用可能な物が他に発見されてもおかしくは無い。


「准尉はあの場に居合わせたのでしたな」

「ああ。……軍曹は夕方が昼間に変わるのを見たことはあるか?」

「そんなまさか……」

「だろうな」


 それが可能なのがアグネアなのだ。

 しかも、威力を最低限まで落とした状態である。

 その常識外れな事態を見た時、アレクは世界には人類が使用してはならない物があるのではないかと思うようになった。


「まぁ、何かの作戦の一種だとは思いますがね……。オリガ中尉には報告をしておきますよ」

 ニコライは軽い調子で言う。

「そうだな」

 もし、アグネアが発見されたのなら守備を堅めるだけで済むとも思えない。

 実際はニコライの言う通りなのだろうと思い、その直後に先の戦闘のレポートを書かなければならない事を思い出した。

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