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43話 地下へ

 その遺跡は、以前訪れた時と雰囲気がかなり変わっていた。

 辺りに散乱していた瓦礫は片付けられ、天井からぶら下がっていた鉄骨は撤去され、あちこちに設置された電灯が下に降っていく通路を照らしている。


「随分と綺麗になってますね」

 アジーレのコックピット内、頭を覆う様な形のVRモニターに映し出された遺跡を眺めながらザザが呟く。

 所々に青いビニールシートが貼り付けられてるのが目に入った。おそらく、その部分は未だに片付けられていないのだろう。


「おかげで進みやすいね」

 トールが答える。

 少し左にカメラアイを動かすと、鉄板で覆われた壁の隙間から排水管の様なパイプが走っているのが見えた。


「随分広いですね。これが1000年前のものとは信じられませんよ」

 それはトール達が初めて遺跡の内部に入った時に漏らした感想である。茂助はこの遺跡に訪れたのは初めてであり、同じ感想を漏らしたのだ。


「こんな事でも無いと中には入れないからね。よく見ておくと良いよ」

 呑気そうにトールが言う。

 しかし、口ではそう言いつつも内心では“こんな事”など起きて欲しく無かったと思っていた。


「修学旅行なんかで来れれば良かったですね」

 茂助が言葉を返す。トールの内心を察したからだ。

 通信機からトールの苦笑する声が聞こえた。


「しかし、随分と降りてますがセンサーに反応がありませんね」

 ザザが話題が本来の目的に切り替える。

 熱源、パッシブ、アクティブ、それぞれのセンサーに人影らしきものは見られない。


「茂助、どうだ? そちらのクロスアイの方がセンサーの精度は良かったはずだが?」

「反応ありません。……あと、センサーの精度はどの機体も変わりませんよ」


 茂助の乗るクロスアイは所謂試作機であり、見た目だけで無く、操縦系や火器管制システム、更にセンサー系が新型のものとなっていた。

 しかし、それは数ヶ月前の話であり、現在はトール達の使うアジーレもクロスアイと同じ仕様へと改修されている。

 今や茂助の操縦するクロスアイはアジーレと外見が違うだけの機体となっていた。


「広い空間に出ます」

 ザザである。

 下り坂が平坦な道に変わると、その言葉通りに広い空間へ出た。


「何だいここは?」

 そこには高さ6メートル程の金属製のボールの様な物が左右の壁に敷き詰められていた。

 ボールの正面には円形の扉の様な物が見受けられる。

 その幾つかは開いており、中に調査用の資材が置かれているのが見えた。

 

《聞こえるかい?》

 ゼイ大尉の声が通信機から聞こえる。

「聞こえますよ。……何ですここは?」

 ボールの中に人間の熱反応が無いかを確認しながらトールが応答する。


《そこは避難シェルターだよ。正確にはそのボールがだけどね》

「このボールが?」


 信じられないとトールが答える。驚きよりも胡散臭い話を聞いた様な声のトーンであった。


《本当だよ。特殊な金属で出来ていて、核兵器の直撃にも耐えられるはずだ》

「核兵器っても色々あったんでしょう?」


 歴史の資料で断片的な事しか分かっていないが、先史時代に使われた核兵器には大なり小なりがあり、大きいものは島1つ吹き飛ばす程の威力がある事は周知の事である。

 このシェルターがどの程度の核兵器まで耐えられるのかトールは判断が付かない。


《それは……、分からないけどね》

 同じ事をゼイ大尉も思ったのだろう。言葉を濁す。

「今でも使えるんですかね?」

 言葉を挟んだのはザザである。彼の機体がボールの中を覗き込む。


《幾つかは修理させてみた。おそらく使えるだろう。……保証は出来ないけどね》

「そりゃあ大したもんですね」


 ザザよりも先にトールが答える。関心している様な言葉だったが、内心では全く信じていないという風であった。


「先へ進みましょう。ここにはいないみたいですよ」

 茂助である。

「そうだね」

「了解です」 

 トールはともかく、ザザの声は残念そうであった。

 興味深い物だけにに名残惜しいのだろう。


 それから、時間にして5分程進んだ時である。

 通信機からザッと言う音が聞こえた。


《敵が砲撃をしてきやがったぞ》

 アレクである。中継器を介しているとはいえ、地上との距離の関係上やや音質の悪い声であった。


「スタッフは屋内……、というか遺跡内部に避難。アレクは隊を率いて砲撃をしている部隊を叩いてくれ」

《あいよ。……まぁ、既にそうしてるがね》


 言われるまでも無いとアレクは答えた。

 それに対してトールはこちらが何を言わなくてもその通りに動いてくれる親友に満足感を覚えるが、同時に上官として正反対の考えが頭を擡げる、


「それにしたって、ウチの部隊は俺が命令を出す前から好き勝手に動く事が多くないか?」

 実際その通りである。

 副隊長であるサマンサをはじめ、何か起きた際にトールが命令を出してから初めて動き出すというのは、この部隊では稀であった。

 基本的に事後承諾である事が多い。


「今更何を」

 トールのそんな呟きに茂助が答える。

「源曹長、この部隊の指揮官は誰だ?」

 少々の憤りを含めてトールが尋ねた。


「トール・ミュラー少尉です。……書類上は」

「どういう意味だそりゃ」

「部下が好き勝手に動くのを止めないからですよ」


 茂助の言う通りである。

 最も、その好き勝手に動く人物がトールよりも優秀である為に止める理由も無いのだが。


「良いんじゃないですか? 少尉の言葉を借りれば、楽して仕事が片付くんですから」

「言うようになったじゃないか? その辺りの上下関係を真面目に守っていたお前が」

「世の中にはハッキリ言った方が相手にとって有益な事もありますからね」

「やれやれ、アレクの影響かね? 前はそんな事を言う奴じゃ無かったのに……」

「この部隊の特性ですよ。その最たるが少尉ですね」


 トールか指揮する第9小隊は、様々な偶然や思惑が交わった結果、我の強い隊員達が集まっている。

 通常、こうした種の人物が集まれば我の強い者同士で衝突が起こり、組織内部から崩壊する事が多い。

 しかし、第9小隊はそうした事が起きずに運営が行われている珍しい部隊でもあった。

 集まった人物が元々顔馴染みというのもあるが、その間にトールという人物が緩衝材になっているのも大きい。


 彼は昔から衝突の絶えないアレクという人物の側にいた事もあり、無意識の内にトラブルが起きない様に動き回っているのである。

 能天気な人物の様に周りから思われているが、彼は彼なりに気苦労のある人物なのだ。


「ここから先は戦機じゃ進めそうにありませんね」

 その先の道は土砂や瓦礫で埋まっていた。

 ザザの機体がセンサーを稼働させ、辺りの地形を調べる。


「いや、あそこから先に進めそうです」

 土砂の塊の端に人が1人通れるくらいの穴が開いている。その上には裸電球が吊り下げられていた。


「降りて進むか……。外と連絡が取れなくなりそうだな……」

 トールは嫌そうな声で呟く。

「戦機を待機モードにしておけば、機体が中継器代わりになってメットの通信機で外と通信が出来ますよ」

 そう言うと茂助機の胸部ハッチが開き、中からパイロット用のヘルメットを被った茂助が姿を現した。


「知っているよ……」

 トールはコントロールパネルで機体を待機モードにする。

 ヘルメットを被ると、シートの端に備え付けていた短機関銃を取り出してハッチを開く。


 同じ様に茂助とザザも機体から降りてくるのが見えた。

 

「この先か……」

 裸電球に照らされた通路は半ば土砂に埋もれていたが、確かに下へ向かって降っていくのが照らされている。


「何だってアラシアのスタッフは、こんな下まで降りたんですかね?」

 面倒だというザザの感想である。

「アグネアが見付かったのはこの先らしいね」

 ザザの疑問の答えをトールは予想して呟く。


「先に行きますよ」

 短機関銃を右手に持った茂助が薄暗い通路に足を踏み入れた。

 トールがそれに続き、最後尾にザザが続く。


 土砂と瓦礫、天井から規則的にぶら下がった照明。その中を3人の足音が進んで行く。

 時折トールが足元に転がっていた鉄パイプやらコンクリートブロックに躓きそうになる。

 それが何度か続いた後であった。


 バンバンバンという、3人には聞き慣れた銃声が連続して聞こえた。

「……!」

 3人は反射的に姿勢を低くして、無言のまま顔を見合わせる。


 ややあってから再び茂助を先頭に降り始めた。しかし、今度は3人とも足音を立てない様にである。

 そのまま少し進むと通路が開けて広い空間が見えてきた。


「……!」

 茂助が無言で合図をする。

 その足元には野戦服に身を包んだ男が横たわっていた。


「帝国か……?」

 小声でトールが尋ねる。

 その野戦服には所属国が分かるものが何も付いていない。


「どうも嫌な予感がする」

 ドロドロとした黒い不快感にトールは顔を歪めて呟いた。 

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