41話 再び遺跡へ
真歴1082年12月1日。
第9小隊は命令通りに、例の遺跡へ向けて出発していた。
向かう部隊はアレク率いる第1分隊と第2分隊。
それにゼイ大尉に借りた書籍を返したいトールと、暇を持て余していた源茂助である。
「前回は置いていかれましたからね。今回は着いて行きますよ」
とは茂助本人の談であった。
目的地に向けて荒野を進んでいくトール達が異常に気付いたのは、14時23分の事であった。
目的地が近くなったので、ゼイ大尉の部隊に通信を入れたのだが繋がらないのである。
「どういう事かな?」
トールが不思議そうに呟いた時である。
「おい、ありゃ何だ?」
隊員の1人が言う。
見れば遺跡のある方角から煙が上がっていたのである。
「銃声もしますよ」
茂助が自機であるクロスアイに搭載されたセンサーの反応を見ながら声を上げた。
「何かあったらしいな。急ぐぞ!」
移動速度を上げ戦闘態勢に移行する。
目的地が近付くにつれて、その音の正体がハッキリと聞こえてきた。
それはトール達にとっては聞き慣れているが、ヒノクニの完全制圧下の遺跡では有り得ないはずの戦闘音である。
「どうなっている?」
「敵の反応……、識別はアンノウンだ」
「と言っても帝国軍しかないだろうよ」
それぞれが思い思いの意見を言いながら状況把握に務める。
《お前達何者だ!》
トール達の通信に突然そんな声が割り込んできた。ヒノクニのものである。
「こちらアラシア共和国、第439小隊、トール・ミュラー少尉。こちらの発掘スタッフを回収しに来た」
同盟国である自分達に何者は無いだろうと、トールはワザと澄ました声で答えた。
《……代わってくれ。トール少尉?》
声の主が変わる。
今度は聞き覚えのある声であった。ゼイ・ウェン大尉である。
「どうも。何やら荒れていますね?」
答えながら自機のVRモニターに映るアンノウンの反応を確かめる。
戦機である事は間違い無さそうだ。
《分からない。いきなり戦機と歩兵が襲いかかってきたんだ。識別信号もアンノウンで、敵の姿からは何処の国のものかも……》
「帝国軍でしょう。アラシアがそんな事する訳も無いし、モスク連邦は北方戦線ですよ」
言いながらトールは部下からの通信を受ける。敵の戦機はタイプβであった。
この機体はルーラシア帝国の主力機であるが、アラシアやヒノクニでも後方部隊や訓練機などに使用されている。
北方のモスク連邦でも、一部の仕様を変更して主力戦機となっていた。
国籍を隠して使用すれば、何処の所属かを特定するのは難しいだろう。
《歩兵ならともかく、戦機は守備隊の装備では対処出来ない。支援をしてくれないか?》
ゼイ大尉の口調から狼狽しているのが分かる。
「了解。戦機の数は?」
《6機確認している》
「それなら充分対処可能です」
こちらの戦機は10機である。
数の上では有利であった。
「なら俺達が片付けるぜ」
アレクから通信が入る。
「任せた。第1、第2分隊は敵の戦機を叩いてくれ。茂助は俺と来て発掘部隊を攻撃している歩兵の排除だ」
アレクのフェイカーが動き、それに部下のアジーレが続く。
センサーの反応とマップデータを頼りに第9小隊は敵の右側面に回り込む。
遺跡守備隊は遺跡から掘り出された資材で即応のバリケードを設けていた。
その隙間から機銃やロケットランチャーで戦機を相手にしていたが、旗色は悪い。
バリケードの内側には既に敵の歩兵が入り込んでいるらしく、中からも銃声や爆音が響いていた。
「行くぞ!」
アレクのフェイカーがタイプβの前に躍り出る。
数機のタイプβが右手に装備させたサブマシンガンの銃口を向けるが、アレクの部下であるジョニーとロッドの機体が先に射撃を行う。
同時に1機のタイプβがアレクのフェイカーに撃破される。
正面から突っ込んだアレク機が左腕に装備させた盾の先端で胴体を刺突、そのまま胴体のコックピットを潰したのだ。
「遅いぞ!」
そのままアレク機は撃破した敵を通り越して、周囲の敵に右腕のアサルトライフルで射撃を開始する。
更にジョニー率いる第1分隊とロッド率いる第2分隊が突撃。
敵のタイプβはそれぞれ左腕に装備された丸型の盾で防御しながら、右腕のサブマシンガンで応戦する。
「単純な動きだな」
ロッドは敵の動きを見て嘲笑う。
次の瞬間にはロッド機がタイプβに左手に持たせたレーザーカッターを振り下ろして両断していた。
「流石だな」
それを見ながらジョニーも敵の後方に回り込んで射撃。
敵機の上半身が炎上、ややあって爆散する。
「残り3機!」
誰かが叫ぶ。
「それはどうかな?」
不敵にアレクが笑う。
左側面、至近距離に敵のタイプβが迫っていた。
1秒も無かったであろう。アレク機が左腰に備付けられたレーザーカッターを振り抜き、迫る敵を切り上げる。
残り2機。
敵を斬った手応えはあった。確認の必要は無い。
次は正面。
間髪入れずにアレク機は右腕に装備させたアサルトライフルを撃つ。
放たれた弾丸は狙い通りに敵の胴体に当たり、その機能を停止させた。
残り1。
最後の機体はアレクの後方で味方の十字砲火で撃破された。
「敵戦機沈黙。……歩兵部隊も片付いたそうです」
ロッドから通信が入る。
戦闘終了であった。
「隊長ズルイですよ。1人で3機なんて」
ジョニーが笑いながら言う。
「お前達が遅いからだよ」
同じように陽気な笑いでアレクも答えた。
「……こいつら、無人機ですよ」
部下の通信が入る。
陽気な空気は一瞬で消え去り、隊員達の心に疑念が浮かび上がった。
「ここの守備隊が全滅しなかった理由が分かったよ」
無人の戦機は、動きがある程度パターン化されている。
それさえ分かれば倒す事は出来なくても、動きを読んで攻撃を回避し続けるのは難しい話では無い。
生身の兵士でも、ある程度の数と重機関銃やロケット砲があれば対処は可能だ。
「……しかし、何で無人機なんだ?」
ロッドが言う。それは隊員達全員の疑問であった。
「何かの陽動だろうな」
それ以外には有り得ないとアレクが言う。
/*/
「……こうなった以上、色々と大尉には聞いておかないといけないですよ」
トールは何時もよりも低い声で言う。
何故、この遺跡が敵に襲われる必要があったのかを問わなけれぱならない。
ここは確かに崩壊戦争前の貴重なエリアなのだが、あくまで民間用の避難シェルター跡という触れ込みであり、襲われる理由が無いはずなのだ。
「あぁ……、そうだね……」
何時もの惚けた雰囲気と違うトールを見てゼイ大尉は言い淀む。
その後ろではアラシア共和国からやってきたスタッフが何やら囁き合っていた。
ゼイ大尉の額から汗が流れる。
誤魔化すことは出来そうに無いと思い、腹を決めた。