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33話 索敵と進軍

 第438部隊の戦闘を走る機体はアレク機であった。

 しかし、その機体はアラシア共和国主力戦機であるアジーレでも無ければ、次世代量産型試作機のクロスアイでも無い。


 頭部は特徴的な十字型のバイザーカメラとなっており、胴体は流線型の装甲で覆われている。

 これだけ見れば最新機のクロスアイであるが、両腕と下半身は角ばったボックスを組み合わせた様なデザインであり、これは紛れもなくアジーレのものであった。


 要は半壊したアレク機のアジーレにクロスアイの予備パーツを取り付けた現地改修機である。

 書類上はアジーレで登録されているが、部隊内では専ら"フェイカー"の愛称で呼ばれていた。


 そのフェイカーであるが、愛称こそ偽物なのだが、乗り手は本物のエースパイロットであるアレクである。


「遅い!」

 コックピット内でアレクが声を上げ、同時にフェイカーの右手に持たせたアサルトライフルが敵の装甲トラックを撃ち抜く。


「何の!」

 その後に続くのはアレクの部下であるジョニーのアジーレであった。

「ぜいっ!」

 更にもう一人の部下であるロッドの乗るアジーレが左腕に持たせたレーザーカッターを煌めかせる。


 彼ら2人はアレクがトールの元を離れて、ストーンリバー基地の守備隊に配属された頃から率いてきた部下である。

 その頃からアレクに散々鍛えられ、共に各地で戦ってきた優秀なパイロットであった。


 ジョニーは第1分隊、ロッドは第2分隊を率いている。

 そして、それらの指揮を執っているのがアレクであった。


 先程から第1、第2分隊は敵を次々と捕捉しては撃破していく。

 それはスムーズに進んでいく流れ作業の様であった。


「更にその先、緑の看板のビル4階に敵です」

 そのアレク分隊に敵の位置情報を的確に伝えているのが、茂助の率いる第3、第4分隊であった。


 彼らが使用しているクロスアイ。

 特に電子戦装備の索敵能力はアジーレのそれを遥かに上回り、赤外線、熱源、動体探知、その他様々なセンサーを駆使して敵の伏兵が潜んでいる建物を瞬時に判別するのだ。


 そうなれば敵の伏兵よりも先にこちらが敵を撃てば良いだけの話である。

 無論、感の良い敵歩兵はそれよりも先にロケット砲などで狙い撃ってくるが、先行するアレク分隊はそれを毎々防ぐなり避けるなりする為に、無駄なことであった。


「大方、装甲を持つ兵力を囮にして誘い込み、我々が敵陣の深くにやってきたところに、周りの建物に伏せていた歩兵で攻撃する事を考えていたんだろうね。それよりも先にこちらが伏兵を見つけるとは思わなかったみたいだけど」


 トールは自機のアジーレ内で呟く。

 通信回線は開いたままであり、その呟きを聞いたサマンサが口を開く。


「クロスアイの索敵能力は凄いけど、完全じゃないから油断しないで」

 厳しい口調であった。

 同時に後方に配置されていた第5、第6分隊のメイから通信が入る。


「敵の伏兵です。現在交戦中!」

 サマンサの言葉通りであった。

 索敵しきれなかった敵が後方から奇襲をかけてきたのである。

 その報告を聞きながら、流石に隠れている全ての歩兵を見つけるのは無理かとトールは嘆息した。


「茂助。行ってもらえる?」

 茂助に指示を出したのはサマンサであった。


「2人連れていこうと思いますが?」

「もう一度索敵をさせたいわ。1機は電子戦装備を」

「了解です」


 そのやり取りを聞きながらトールは、指揮官は俺なんだけどなぁと思う。

 しかし、サマンサの方が指揮官として優れているのは自分でも分かっている為に、何も言うつもりは無かったが。


 そんな中、アレクの部隊は前進を続けていた。

 アジーレが四脚を動かし、コンクリート製の雑居ビルや木造の古臭い平屋の並ぶ通りを縦横無尽に駆け回る。


「援軍は呼べんのか! 曲砲支援は!」

 敵部隊の隊長が叫んだ。

「ここでは射程外です! 増援もさっきからしばらく待てとしか返信が来ません!」

 その答えと同時に伏兵が潜んでいた建物に戦機による射撃が行われる。


「G地点、通信途絶」

「くそったれ!」


 部下の間抜けな声に苛立ちながら叫ぶ。

 同時に味方のタイプβが正面のアジーレに向かって斬りかかっていった。


「どこを見ている間抜けめ!」

 そのタイプβを横からアジーレが撃ち抜いた。

 それはジョニーの機体であった。


「今のは俺の相手だぜ?」

 タイプβに斬りかかられそうになっていたのはロッドの機体である。

 獲物を奪われたと不満気に呟いた。


「そちらが遅いんだよ」

 ジョニーは笑いながら答える。


「お前ら冗談やってる場合じゃないぞ」

 それはアレクの通信であった。

 ロッドとジョニーの機体を後ろに、彼は更に前進を続ける。


「突出しすぎだな」

 トールは自機の内部で部隊の様子が映されたコントロールパネルを眺めながら呟く。

 しかし、すぐにその考えを改めた。


「第438部隊、全速前進だ! 雑魚に構うな!」

 それは後方で敵の歩兵と戦闘に入っていたメイ・マイヤーの部隊へ呼びかけたものであった。


「味方と合流するのを優先する」

 副官であるサマンサがトールが出したその指示について思案を巡らせた。

 数秒でその結論を導き出す。


「了解したわ」

 結論、トールの指示に賛成。

 伏兵を放置するのには抵抗があったが、どの道大した戦力では無い。

 ここは味方と早く合流した方が良いだろう。


「ほら見ろ。俺らの動きが遅いとよ」

 トールの指示を聞いてアレクが自分の部隊に通信を入れた。

 アレク部隊はそれを聞いてケタケタ笑う。


「今、そちらに索敵結果のデータを送りました。先程に比べると精度は落ちてますが……、上手くやって下さい」

 アレク部隊の後方で索敵を担当していた第3分隊から割り込みで通信が入る。コントロールパネルにデータが表示された。


「おい、丸投げか?」

 ロッドが不満そうな返答をする。今までよりも精度の落ちた索敵データというのが気に入らなかったのだ。

「我々も暴れるんです。索敵ばかりやってられませんよ」

 レーダーに後方から第3分隊のクロスアイが接近してくるのが映る。


「そういう事かよ」

 ロッドはアレクの援護射撃を開始しながら呟く。


 それから15分ほどの時間をかけて進み、第438独立部隊は、前線で交戦中である第2小隊と合流した。


「こちら第438独立部隊」

「増援か、ありがたい」


 第2小隊の隊員から通信が入る。

 同時に第2小隊から、彼らの戦機が行った索敵や通信などにより集積された戦況データが各機のコンピューターに転送されてきた。


「何です? 随分悲惨な事になってますね」


 それを見たトールが思わず不快そうに言った。

 第2小隊の損耗率は5%を越え、その後方にいる第5小隊が出張っているのだが、これも敵の戦機に各個撃破されている状況である。 

 おそらく、その先の目標地点までのルートには敵の伏兵もいるであろう。


「異常に強い部隊がいるんだ。どうやら新型らしい」

 通信機越しでも味方が渋い顔をしているのが分かる。そんな声であった。


「おい、アレクどうにかしろ」

 トールが言った。完全に丸投げである。


「敵の交戦データを送れ。でなけりゃ、こちらも対処の仕様が無い」

 もっともな返事であった。

 直後に第2小隊から敵との交戦データが送られてくる。

 それを見たアレクはデータが映されたコントロールパネルを見て思わず声をあげた。


「これが新型? 敵は冗談をやっているのか?」

 それは驚くべき内容であった。

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