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30話 指揮官達の悩み

 戦闘終了後、第438独立部隊は基地へ帰還。

 部隊司令部として間借りしているプレハブ小屋へ各部隊の隊長が集まっていた。

 それぞれの手には戦闘結果報告書が握られている。


「アーデルセン隊、アレク機と3番機大破。3番機パイロットが重症?」

 司令官であるトールが報告書を確認する。

「あぁ、コックピットに直撃した」

 アレクは平然と答えた。敵の撃った弾がコックピットを貫通して中のパイロットが怪我を負ったのだが、この部隊では珍しいことでは無かったからだ。


「全治1ヶ月か」

「ここの食事はアラシアよりも良いからな。2週間もあれば復帰するさ」

「あまり無茶をさせるな。いずれは今よりも無茶苦茶やることになるんだ」


 アレクの言をどういう理屈だと思いながらトールは答える。


「というか……、お前は自分の機体が大破してるのに何でピンピンしてるんだよ」

「ぶっ壊れたのはコックピットハッチ周りだけだからな。外装壊れても内部が無事なら生きているさ」

「今回は運が良かった訳だ」

「そういう事だ」


 2人は肉食獣の様な笑顔で向かい合う。


「メイ・マイヤー曹長です」

 癖のある髪の毛を揺らしながらメイが入ってきた。

 そのまま報告書をトールに渡す。

 渡された報告書をトールは面倒臭そうにパラパラと確認した。


 アレクとメイが雑談を始める中、トールの手が止まる。


「……第6分隊の弾薬消費量、多すぎやしないか?」

 それはメイの指揮する分隊であった。彼女は第5、第6分隊の指揮を受け持っている。


「あー、あの分隊は徴兵組で練度がねぇ……」

 メイは罰の悪そうな顔になりながら答えた。

「この請求書はヒノクニに回すんだ。余所の国の金だからって山田のオッサンにアレコレ言われたくないからね。射撃訓練を徹底させてくれ」

 いっその事、アレクの奴に全部隊員の訓練でもさせてみようか等と考えた時である。

 やや遠慮がちに扉が開き、その先に茂助が暗い顔をして立っていた。


 報告は聞いている。

 彼の部隊から唯一の戦死者が出たのだ。

 それも茂助からしてみれば、初めて自分が直接指揮を執っている部下が戦死したのである。

 戦闘中はテンションが上がっていたのか、何とも思わなかったのだが、戦闘が終了した後にそのプレッシャーを感じ始めたのだ。


「報告書です」

 トールは黙ってそれを受け取る。

 その表情を見てトールが口を開く。


「君の部下は全員職業軍人だ。こういう覚悟もあるはずだ。変な話だけど……、あまり気に病むな」

「はぁ……」


 茂助は気の無い返事をする。


「明日、本土から物資の配送部隊が来る。それまでに遺品の整理をして本土に送れるようにしておいてくれ」

「了解です」


 茂助はまだ何か言いたい事でもあるのか、その場に留まる。

 そして口を開いた。


「トール准尉が初めて部下から戦死させた時ってどうでした……?」

 その質問にトールは一瞬ではあるが、ジロリと冷たい視線を向けた。

「あ、失礼しました」

 トールと茂助は同い年である。しかし、トールは上官であった。この質問は気安かったかと歯噛みする。


「……いや、良いよ。俺の場合はあの民間人に変装した時か」

 約2年前である。

 懐かしいような気もした。


「エイク伍長の部下の事か?」

 アレクが口を挟んだ。

「当時は部下と言えるか微妙だけどね。直接俺が指揮を執った部隊での戦死者というならそうだろうさ」

 そもそも、その当時トールが率いていた部下は全員この場にいる。

 彼が戦死させた部下は、その全てがエイクの率いていた歩兵部隊の者であったのだ。


 その後の補給部隊の頃にも数人の戦死者が部下の中にいたが、基本的には後方任務が多かったので、この時に戦死した者は半ば事故死の様なものとトールは思っていた。


「エイクさんからは、前の上官と違って最善を尽くした結果だから気にするなと言われたよ」

 トールは肩を竦めた。

 実際、その当時の自分ではそれが最善であり全力であったと思う。

 それでも戦死者を出したという事実は苦々しいものであったか。


「俺は逆に開き直るしか無かったな」

 アレクである。渋い顔をしていた。

「開き直る?」

 意外な言葉を聞き茂助がアレクに視線を向けた。


「俺の部隊はストーンリバーから引っ張ってきた……、上から見れば跳ねっ返りばかりだからな」

「自覚してたんだ」


 茶々を入れたのはメイである。

 彼女はトールの指揮下を離れた後も、アレクの部隊と共に戦ったことがあった。


「跳ねっ返りだが、他の連中に文句は言わせない程度の戦果は上げてきたつもりだ。……まぁ、嫌がらせで普通なら戦死してもおかしくない任務ばかり請け負っていたけどな」

「私の部隊はそれに何度か巻き込まれたけどねー」

「生きてるじゃないか。……まぁ、それはともかくだ。俺の部隊から戦死者が出て、暗い雰囲気になると喜ぶ馬鹿共が周りにいたからな。危険な任務だろうが、戦死者だろうが笑ってやる事にしているよ」


 それは自嘲では無く、死の恐怖と隣り合わせの状況を笑い飛ばしてやろうという反骨精神であった。


「メイはどうなんだ?」

 アレクが尋ねた。

「私?」

 メイは考え込む。

 彼女は自分の所属していた分隊が全滅した為に、新たな分隊の再編成の結果として分隊長へ就任、トールの指揮下に入った経歴がある。


「私の場合、部下が云々以前に同僚が全員戦死してたからねぇ……。生きるのに必死で何時の間にかそういうのに慣れていた感が強いかな?」

「そういえばそうだったか」

「それに、初めて持った部下も元犯罪者だったものね。割とアレク軍曹と立場としては近いかもね」


 メイの初めて持った部下は全員女性であり、それぞれが過去に犯罪を犯していた。

 その内1人は戦死、残った2人のターニャとジェシーは現在もメイの部下として、それぞれ分隊長を務めている。


「そうですか……」

 茂助が嘆息して呟く。


「こうして話してみると……、結構ワケありな連中多いなココ」

 アレクは苦笑ともつかない笑みを浮かべる。

「今回に関してはそういった連中を意図的に集めた感があるね」

 嘲笑うジーン・ランドルフ中尉の顔を思い出しながらトールが答えた。


「私も、ヒノクニから来た家の関係で軍務に就いていますから……。不満という訳では無いですけど」

 源家はヒノクニの政治闘争に敗北してアラシア共和国に亡命している。彼もまた訳があって軍に入っているのだ。


「……遺品の整理に行きます」

 ややあって茂助は敬礼をすると、そのまま回れ右をして司令室から出て行った。先程よりかは動作に落ち着きが戻っている。


「じゃあ私も……。機体の調子も見たいし」

 後を追うようにメイも敬礼してその場を立ち去る。

 司令室にはトールとアレクだけが残った。


「……もし」

「あ?」

「もし、俺が最初からメイの部隊を茂助と一緒に行動させてれば戦死者は出なかったかな?」


 トールは独り言のように言う。


「どうかな? あの時は俺と茂助、どちらがアタリを引くか分からなかったし、本隊のお前のとこが襲撃を受ける可能性もあった。判断としては間違っていない」


 もっとも、その提案をしたのは部隊ではおそらく一番の戦術眼を持つサマンサであったが。


「言っても仕方の無いというのは分かってるが、そう思わずにはいられないな」

「まぁ……、な」


 これはゲームなどでは無く現実なのだ。

 戦死したのが先程まで生きている人間という事を思えば当然の感情である。


「だが、その一方で戦死者が出たと聞かされた時、一番初めに考えたことは、補充要員をどうするかとか、源部隊の戦力評価はどうなったかとか、人間を数字の1つとしてしか見ていない事だったけどね……」


 この呟きはアレクに聞こえなかった。

 どうも人を率いる立場になると、数値でしか物事を評価出来なくなりそうであり嫌悪感を覚える。


「失礼します」

 再び遠慮がちに扉が開く。

 そこにいたのはボリュームのある髪を左右で分け、丸眼鏡にそばかすが特徴のシャルロッテ・クリスティという女性であった。

 彼女は第438独立部隊の整備班班長である。

 作業中であったのか、黒ずんだ汚れの目立つ空色のツナギを着ていた。


「よう、シャル」

 アレクが挨拶をする。

「あ、どうも……」

 突然声をかけられシャルロッテは顔を赤らめた。

 このアレクという男は相変わらず俳優顔負けの容姿だと見惚れてしまう。


 トールはその様子を面白そうに眺めていた。

 ふと、このアレクという男は自分が色男だという事を認識しているのだろうかと疑問に思う。

 そんな視線に気付いたのか、シャルロッテがトールに向き直る。


「機体の修理なのですが……」

「うん?」

「アレク機以外は突貫修理をすれば明日の朝には作戦行動が可能にまで出来ます」

「アレク機以外は、ね……」


 アレクの戦機はこの部隊の主力であった。出来れば彼の機体は出撃出来るようにしておきたいところなのだとトールは思案する。

 自分の機体を渡すか等と考え込んだ時だ。シャルロッテが再び口を開く。


「その事でゴードン大尉から提案が」

「大尉から?」


 ゴードンとは整備班のオブザーバーの様な人物である。

 本土から主力部隊が来れば、部隊全体の整備班を統括する予定であった。


「第3、第4分隊に配備しているクロスアイ。あの機体の予備パーツを使って補修したらどうかとの事です」

「出来るのかい?」

「クロスアイは現行のアジーレを改修する為の試作機ですから、パーツの互換性は問題ありません」

「使い勝手はどうだろう?」

「多少変わりますが、いずれは全てのアジーレが同じ仕様になりますから……」


 アレクが口を挟む。


「だったら早いか遅いかの違いだな」


 その言葉にトールは頷いた。


「ならそちらを優先してやってくれ。機体を壊した分、アレクには働いてもらう必要がある」

「壊さなくても働かせるだろう」


 アレクが苦々しい顔で言う。

 本人もこの部隊では自分やその部下が主力であり、一番働かされる自覚があるのだ。


「他の機体は良いんですか?」

 シャルロッテが眼鏡の奥の瞳をクリクリと動かす。

「欠員が数名出ているからね。今日明日出撃という事も無いだろう。……早く終わるに越したことは無いけど」

 茂助の部隊からは戦死者、アレクの部下には重症者、メイの部下にも怪我人はいるのだ。

 予備のパイロットでもいれば良いのだが、そういった者はこの部隊にはいない。

 なら動ける人間を何時でも動かせるようにしておこうと考えたのである。


「分かりました。ではアレク機の改修を優先します」

 シャルロッテは敬礼する。

 そしてアレクに視線を向けた。

「……アレク曹長。よろしけば、データの入力なとがありますので一緒に来てもらえますか?」

 やや緊張した様な上ずった声であった。部隊のエースパイロットという事もあり緊張しているのだろう。


「あぁ、良いよ」

 それに対してアレクは気軽に答えた。自機の改修という事に僅かながら喜びもある。


「じゃあ、俺達は行くぜ」

 そう言うとシャルロッテを連れる形で司令室を後にした。

 その途中でサマンサと会ったのだが、彼女はアレクと隣にいるシャルロッテを見比べると、僅かに不機嫌そうな表情を見せる。


「何だよ?」

 アレクは不思議そうな顔で尋ねた。

「いえ、自機を改修するよりもトールの機体を譲ってもらえば良かったんじゃなくて?」

 冷たい声でサマンサが言う。


「どの道、全機改修予定だから大して変わらないだろ。出撃も今日明日って事は無いだろうし」

「……まぁ、確かにね」


 それだけ答えるとサマンサは仏頂面のまま「それじゃあ」と言い残して司令室に向かって行った。


「たまに機嫌が悪いが……、何だろうな?」

 隣でサマンサに気圧されるように縮こまっていたシャルロッテに尋ねた。

「ストレス……、じゃないですか?」

 おずおずと答えるシャルロッテ。

 それを聞いて、トールの副隊長ということを考えると有り得る話だとアレクは納得した。

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