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20話 手強い相手

 時間は少し戻る。

 それはトール達がジョッシュ要塞に撤退する途中、敵の反応を発見した時であった。

 丁度、同じ様にトール達から見た敵軍。

 つまりはルーラシア帝国軍、ニック・ダンチェッカーの率いる部隊も接近するトール達を敵部隊として捉えていたのだ。


「冗談じゃあない!」

 ダンチェッカーはタイプβのコックピット内で叫ぶように声を上げた。

 現在、彼の率いる部隊はジョッシュ要塞へ攻撃を行っているのだが、その後方から敵の部隊が接近しているということになる。


 センサーの捉えた敵の数は多くない。

 しかし、こちらも主力部隊が要塞への攻撃に出払っており、ダンチェッカーのいる指揮所の防衛部隊の数は敵とほぼ互角、あるいはそれ以下であった。


「敵はどうして後方から現れたのだ?」

 ダンチェッカーはコントロールパネルに周辺地図を表示させて、敵の現れた方向を確認した、

 その先にはジョッシュ要塞の防衛拠点があり、そこにもルーラシア帝国軍の部隊が攻撃を仕掛けているはずなのだ。


 ダンチェッカーはそれを確認するとタイプβの胴体上側のコックピットハッチを開き、そこから頭だけ外に出す。


「通信兵! ポイントDにいるだろう味方部隊に繋げ!」


 ダンチェッカー機の足元で通信機を弄っている兵士に声をかける、


「了解です」

 通信兵が答え、ダンチェッカーは戦機のコックピットから慣れた動きでスルスルと降りる。


「繋がりました」

 ダンチェッカーはすぐに受話器を受け取る。


《ダンチェッカー中尉? こちらは敵の防衛拠点を制圧したところだ》

 凛とした声が聞こえ、ダンチェッカーは苦々しい顔になる。

 通信の相手はルーラシア帝国のエースパイロットである李・トマス・シーケンシーであった。


「だろうな。そちらで取り逃がした敵部隊が我々の後ろから襲ってきたのだ」

 敵が現れた方向を考えれば、今接近している部隊は間違い無くシーケンシーの部隊から逃げて来たものであろう。


《手負いの部隊だ。そちらの秘密兵器とやらで何とかなるだろう?》

「そこまで便利な兵器じゃあ無い。大体我々はジョッシュ要塞を攻撃している最中なのだ」

《それは済まない。如何せんそちらの動きは機密扱いとやらで、こちらは分からなかったのでね》


 シーケンシーの言葉にダンチェッカーは苛立ちを募らせる。

 元々、ダンチェッカーはシーケンシーという人物を好んでいなかった。

 それはシーケンシー側も同じらしく、彼らが言葉を交わす時は皮肉と嫌味が飛び交う事が多々あった。


「とにかく部隊をこちらに向けてくれ。要塞を墜としても、中心部隊の我々がやられれば意味が無いのだぞ?」

《それは分かるが、我々もその部隊に手傷を負わされていてね。なるべく急がせるが、準備に少しかかるぞ》

「何でも良い。急がせろ」


 そう言ってダンチェッカーは通信を切る。

 舌打ちをして「なんて奴だ」と呟く。

 敵の奇襲に対して、シーケンシーを頼らなければならないとあり、不機嫌な顔になる。


「そうヒステリーを起こすなよ。今、前線で手の空いている部隊をこちらに戻すように指示を出した」


 フランクな態度の男が声をかけた。

 整ったブロンド髪はダンチェッカーよりも若く見える。

 しかし、彼はダンチェッカーと同い年であった。

 名前はビーン・ハント。ダンチェッカーの副官である。


「奴はいつもそうだ。パイロットは自分達が主役だと勘違いをしている。苦労をしているのは自分達だけだとな」

「シーケンシーはそこまで馬鹿では無いよ」

「そもそも、この作戦には私だって反対だったのだ。功績を立てたい……、フェイとかいう派閥の差し金だろうに」

「だからシーケンシーも苛立っているのさ。……しかも年末のゆっくりしたい時期にこれだ」


 苛立つダンチェッカーに対してハントは宥めるように言う。

 ダンチェッカーもそれでやや落ち着きを取り戻す。


 その時である。

 爆音が響く。


「敵が侵入してきました!」

 部下の叫び声が聞こえた。


「装甲のある戦機部隊を並べて、その隙間から機関銃で敵を迎撃しろ!」

 しかし、その指示が出た時には既に敵部隊は拠点内にスノーモービルと歩兵で構成された部隊を侵入させ、乱戦状態に陥り迎撃どころでは無かった。


「ハント、済まないが私の戦機を使って敵を迎え討ってくれ」

 混戦状態の味方を見ながら嘆息するとハントに声をかけた。

「頼まれた」

 ハントも苦笑してそれに答える。





/*/





「戦力はほぼ互角、エイク伍長が仕事を終えるまでに全て片付けるつもりだったが……、そうはいかないか」

 アジーレの狭いコックピットの中、3面モニターに囲まれながらアレクが呟く。

 動きの良いタイプβが1機、敵部隊の中に混じっていたのである。


 敵のタイプβは、頭が無く胴体先端にカメラアイ等のセンサーが存在する特徴的な前面をアレク機に見据え、右手に持たせた戦機用のアサルトライフルで射撃を行う。

 アレク機はその射撃を左腕に装備させた盾で防ぎながら撃ち返す。

 しかし敵機も左腕に丸型の盾を装備しており、アレクの射撃を防いでいる。


 お互いに少しでも敵に弾を当てようと左右に、あるいは交差するように動き続けていた。


「こちらの敵にも腕の良いパイロットがいるのか……」

 アレクが舌打ちをする。

 残りの弾数は少なく、予備の弾倉も無い。

 ならば格闘戦に持ち込むかと思ってみるが、先程から相対している敵機は徹底して一定の距離を保つように移動して接近出来ない。


 援護を頼もうにも、他の機体も手一杯であった。

 サマンサ機は歩兵戦闘車に追われ、メイの機体は部下の機体とフォーメーションを組んで別の戦機部隊を追い回し、茂助機はエイクの指揮下で敵の兵器を破壊しに向かっている。

 トール機はパイロットが藤原千代というヒノクニの下士官であり、トールよりも腕は立つようだが次々と襲ってくる敵機や歩兵に手を焼いているようであった。

 歩兵部隊も全て敵兵器破壊に向かっている。


「青い壊し屋以外にも腕が立つのがいるか……」

 目の前のタイプβがライフルを構えた。

 すぐにアレクはその場から自機を移動させながら盾でコックピットでもある胴体を防御させる。

 この盾も何時まで持つか分からない。


「エイク伍長はまだか……?」

 焦りの言葉を吐いた瞬間、すぐ横でサマンサの乗るアジーレが敵機のタイプβによる体当たりを喰らうのが見えた。


《きゃあっ!》

 通信機からサマンサの声が聞こえた。

 しかし、体当たりを喰らわせたタイプβはメイの乗るアジーレによって背後からレーザーカッタで縦一文字に斬り下ろされていた。


《ありがとう》

 サマンサが礼を言う。しかしメイからの返答は無かった。次の瞬間にはメイの機体は別方向から現れたタイプβに背後を取られ、その場からすくに離脱することに集中しなければならなかったからだ。


《援護します!》

 メイの部下であるターニャである。


「何とかなるか」

 サマンサとメイは平気そうだとアレクは息をつく。

 次の瞬間、コックピット内にガリガリと金属を削る様な硬い音が響く。

 敵の歩兵が軽機関銃で弾幕を張っていたのだ。


「邪魔な!」

 アレクはそれに向けて最後の弾丸を放つ。モニターに弾切れの警告が表示され舌打ちをした。

 そして敵機に視線を戻す。

 一瞬、敵機の動きが止まった様に見えた。

 アレクはその隙を見逃さず、一気に間合いを詰めて左手に装備させたレーザーカッターを振り下ろす。


 しかし、入りが浅い。

 敵機の正面にあるセンサーを焼いただけで、致命傷にはならなかった。

「墜ちろ!」

 アレクは構わず二撃目を入れるが、敵は左腕を振り上げ盾にした為に再び致命傷にはならなかった。

 それでもレーザーは左腕を盾ごと焼き切った為に左腕を動かすことは出来ないだろう。

「ええい!」

 アレクは構わず三撃目を加える。

 これは右腕に防がれるが、敵のライフルごと右手を斬り落とした。

 

 敵のタイプβは後ろに数歩下がる。

 それを見て、アレクは攻撃の手を止めた。

 タイプβの上部に付いているコックピットハッチが開き、中からパイロットが現れるとそのまま機体から降りてアレク機を一度見上げる。

 そして、そのまま走り去って行った。


 アレクはその様を見ているだけで、敵兵に対して何もしなかった。


 戦闘中、抵抗する手段と意志が無くなった機体に追い打ちをかけるように撃墜するのは潔くないという、戦機乗り共通の不文律の様なものである。


 この時のタイプβに乗っていたパイロットがビーン・ハントなのだが、そんな事をアレクは知る由もない。


《各機、聞こえるか? 例の兵器の破壊に成功した。要塞へ後退するぞ》

 通信機からトールの声が聞こえた。

 どうやらエイク達が、アベルの命令を遂行したらしい。


「了解した」

 アレクは安堵して返答する。これ以上の戦闘は難しいと考えていたところであった。


「そうか。だから敵の動きが止まったのか」

 先程の敵が見せた隙である。

 おそらく、新型兵器が破壊された通信でも受けたのだろう。


「エイク伍長、流石だな」

 機体を後退させながら言う。

《いや……、エイク伍長だけじゃないらしい》

 やや罰の悪そうな声でトールが答える。


《第438独立部隊、聞こえるか?》

 ハキハキとした男の声が聞こえた。

《聞こえますよ》

 トールが応答する。声の雰囲気からトールは声の主を知っているようであった。


《おぉ、坊やか。無事で何より》

 再び返答。どうにもアレクの記憶にない声である。

「誰だ?」

 サマンサとメイに聞いてみるが2人も知らないと答えた。


《第1小隊の大口翔少尉だ》

 トールが声の主を紹介した。

 第1小隊、つまりはヒノクニの部隊の者であった。


《ショウ・オオグチと言った方が分かりやすいかね?》

 大口翔がフフンと笑う様に言った。

 

 話を聞くと、エイク達が例の秘密兵器に接近したと同時に、第1小隊もこの秘密兵器に接触をしたらしい。

 この第1小隊は要塞への敵襲と同時に防衛拠点から呼び戻された部隊である。

 呼び戻されたと同時にアベルの命令で敵兵器の破壊に向い、その途上でエイク達と合流したという。

 そこでエイク達と第1小隊とで協力して、敵の兵器を破壊したのであった。


《とりあえず俺達は要塞へ帰還する。どうも、例の青い壊し屋がこっちへ近付いているらしい。ここは第1小隊に任せるぞ》


 438独立部隊はそのまま要塞へ向かった。

 その途中で要塞を攻撃している部隊とすれ違う。

 この敵部隊は指揮所が第1小隊の攻撃を受けている事を知らされ、その防衛の為に後退する途中であった。

 よほど急いでいたのか、この敵部隊は438独立部隊を無視して後退した為に戦闘にはならなかったのである。


 1081年、1月1日。

 午前6時28分。全ての戦闘は終了した。

 ジョッシュ要塞を攻撃していたダンチェッカーの部隊はシーケンシーの部隊と合流したと同時に撤退したのである。

 その後、第1小隊が敵が侵入に使ったであろうトンネルを発見したのだが、それは既に爆破されて何処に繋がっているのかは分からず終いであった。


「トンネルとは厄介だな」

 要塞内で報告を聞いたトールは苦笑する。

「全くだ。他にもあるんじゃないのか?」

 アレクはボロボロになった自機を眺めていた。

 そこへサマンサの走り回っている姿が目に入る。


「奴は何をしているんだ?」

 アレクが尋ねた。

「俺がシーケンシーに手紙を出したろう? あれを外部に漏らさないように伝えているのさ」

 それを聞いて成る程と頷く。

 戦中に敵に手紙を出すなど軍規違反もいいところだ。

 ましてや外部であるアラシアが独断でやったとあればヒノクニにとっては面白くないだろう。


「しかし、今更軍規違反も無いだろう」

 アレクの私物持ち込みに始まり、エイク達が行っている任務中の飲酒、更に言えばトールはかつて独断でアベル達と合流して拠点奪還をした事がある。

 アレクはニヤリと笑う。

 その横でトールは「あまり笑えんぞ」と苦い顔をした。

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