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189話 東ルーラシア連合の動き

 真歴1092年10月1日。

 海藤の独断専行は東ルーラシア連合内の野心家達に火を付けたのか、次々と帝国に向けて攻撃を開始する者たちが現れた。

 当然、これに対して自重するように八海山は命令を出すが聞き入れた者は少ない。


「未だに安定した補給路の確保すらままならないというのに……」

 八海山は帝国に進軍し続ける野心家達を見て吐き捨てるように言う。

 実際のところ、彼はこの野心家達を本気で止めるつもりは無かった。


「閣下! セイリャン市の馬渕が帝国軍の反撃を受けて全滅! セイリャン市は帝国に制圧されましたぞ!」


 慌てた様子で腹心の結城信秀が駆け込んでくる。

 それに聞いた八海山は少し顔を上げて口を開く。


「……だろうな」

 セイリャン市の馬渕は志こそ高かったが、実力はそれに伴っていなかった。

 また人望があるとも言えない人物であり、今回は勝手に動いて自滅したようなものである。


「……如何しましょう?」

「構わん。あそこは戦略的には大した価値は無い」


 八海山は海藤から続く事態は、血気に逸って動くような問題のある人物を炙り出す良い機会と思っていた。

 新しい組織を編成するのに、この様な者は不要なのだと考えての事だ。


「失礼します」

 その時であった。

 扉が3回ノックされると八海山の秘書が入ってくる。


「どうした?」

「マスベイ閣下から例の件が上手くいったとの事です。モスク連邦のレッドスター社は我々に協力してくれる模様です」

「そうか。朗報だな」


 いい報せだと八海山の表情が緩む。

 レッドスター社というのはモスク連邦の石油会社であり、幾つかの油田も抱えている。


「これで数ヵ月後には原油が我々に供給される。見返りに我々の工業技術を提供する必要があるが、将来的には問題あるまい」


 八海山は結城に説明する。

 この時代でも原油は貴重な資源である。

 東ルーラシア連合は工業設備こそ整っていたが、エネルギー資源に関してはやや不安なところがあった。

 その問題がとりあえず解決した事になる。


「奴には戦前からモスク連邦に接触させていた。それが幸をそうしたな」

 その言葉を聞いた結城は憮然とした表情になる。

 そんな話は全く聞いていなかったからだ。

 八海山は自分の思惑とは別に勝手に動いている。

 彼の1番の協力者であるはずの自分を蔑ろにしているように思えたのだ。

















/✽/
















 10月5日。

 李・トマス・シーケンシーはそれまで訓練を行っていた兵士達を率いて、サンゲン市という市街地にいた。

 この市街地の外れには前回の戦争で廃墟となったエリアがあり、そこで新兵を訓練していたのである。

 しかし、10月に入って突如としてサンゲン市がヒノクニの部隊に包囲された。

 間違いなく海藤達の攻撃を受けた事による報復だろう。

 今だ戦闘となっていないのは、ここに青い壊し屋であるシーケンシーがいる事への警戒なのかもしれない。

 あるいはヒノクニ本国から攻撃の許可が降りていないかのどちらかである。


「まぁ、ここには民間人もいる。流石に攻撃してくることは無いだろう」


 市街地外縁の防御拠点でシーケンシーが言う。

 ヒノクニはあくまで帝国を支援する立場であり、本格的に参戦するとは思っていなかったのだ。


「油断はいけませんな」

 新たにシーケンシーの部下となったスーン大尉である。

「油断?」

 いつ戦闘が起きても良いように部隊配置と防衛ラインの構築はしている。

 油断しているつもりは無いとシーケンシーはスーンに批判的な視線を送った。


「この場合、ヒノクニは我々との戦争を望んでおり、それに至る理由を探していると思った方が懸命かと」

「それは流石に誇大妄想じゃないか? ヒノクニがこちら内戦に参加して何か得するかね」


 ヒノクニの狙いは帝国と連合の共倒れによって大陸内のパワーバランスが崩れる事である。

 ルーラシア帝国と東ルーラシア連合の内戦で生じる経済及び政治的な空白に入り込んで、第二のルーラシア帝国になり大陸の主導権を握ろうというのが目的なはずだ。


「正常な考えならそうでしょう。しかし、戦争をしようとする奴はマトモな考えなど持っていません。この手の輩に正論など通用しませんよ」


 その言葉にシーケンシーは確かにそうかもしれないと納得する。

 前回の戦争時、声高らかに戦争を賛美していた皇族やそれに連なる者達の言葉を聞いていれば分かるというものだ。

 彼らの言葉は威勢よく飾り付けられているが、肝心の中身は何の理論も無い精神論がほとんどであった。

 それを戦闘から離れた安全地帯で言うのだ。

 本来、そう言った者達は戦争を大局的な視点で見るのが役割である。

 そして、それが出来れば戦争賛美など出来る状況では無かったはずなのだ。


「それを理解出来る知能が無いとあれば、マトモな判断を期待するべきではないかと」

「確かにな。しかし、それは帝国の皇族連中だろう?」

「ヒノクニやアラシアの中にだってそうした奴は幾らでもいますよ」


 辛辣な言葉であるが、それは正しいのだろう。

 シーケンシーは苦笑する。


「シーケンシー大佐!」

 そこへ若い軍曹が駆け付けてきた。

 その表情からするに良い話ではなさそうだ。


「ヒノクニが市民救出の名目で攻撃を仕掛けてきました! ポイントS3です!」

 その報告を聞いてシーケンシーとスーンは苦々しい顔となる。


「わかった。俺も出よう。馬鹿な理由をつけて仕掛けてきた事を後悔させてやる」

 スーンの言う通りにマトモな思考をしていない者がヒノクニにはいるようだ。

 こうした奴を分からせるのには言葉は通じない。

 獣を相手にするのと同じように暴力によって応えるのみである。

 シーケンシーとスーンは憤りを胸に出撃準備を始めた。

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