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185話 逃亡、シーケンシー

「尾けられたな」

 シーケンシーはフンと鼻から息を漏らす。

「……尾行は自分も素人ですから」

 アルベルトは気まずそうに答えた。

 目の前には3機のタイプγ。

 更に歩兵戦闘車もその後ろに控えているのが見える。


「牧場長……!」

 そこへ従業員の1人がやってくる。

 ここにいる従業員のほとんどは元軍人であり、終戦後に行き場を無くした者達であった。

 それ故に、そこまでパニックにはなっていないようである。


「お前達は隙を見て逃げろ。俺がアレを引き受ける」

 あれらの機体は逮捕などと言っているが、実際のところは殺すつもりだろう。

 どうにかして追い払うより他は無いとシーケンシーは思考を巡らせる。


「そうだと思って、アレは既に起動してあります」

 従業員はニヤリと笑う。

 それを見たシーケンシーは手際の良さに呆れると同時に感謝もした。


《どうした! 出てこないのであれば、今度はそこの小屋を破壊するぞ!》


 先頭にいたタイプγのスピーカーから脅迫の言葉が響く。

 そして、右腕に装備されたアサルトライフルが木造の小屋に向けられた。


「……チッ、ビビってやんの」

 なかなか動きを見せないシーケンシーに対して1人の指揮官が舌打ちをする。

 彼がこの牧場襲撃の指揮官であり、それを決定した張本人であるサイ・トゥルメィル大佐であった。


「もう良い。ヤツが命乞いする姿も見られるかと思ったが……、全て破壊してしまえ」

 サイ・トゥルメィルの我慢はすぐに限界を迎え、自身の衝動を晴らすべく部下に命令をする。


「了解です」

 1機のタイプγがアサルトライフルの照準を合わせる。

 と、同時だ。


「反応……、うわぁっ!」

 アサルトライフルを構えたタイプγの胴体が突如「ガァン」という音をたてて吹き飛ばされる。

 側にいたトゥルメィルもその衝撃に身体をよろけさせた。


「な、あれは……」

 トゥルメィルが顔を上げる。

 そこには青い色で塗装されたタイプγがアサルトライフルの銃口を向けていた。

 それはかつて星ノ宮が秘密裏にシーケンシーへ渡した機体である。


《こちらは李・トマス・シーケンシーだ。令状もなくいきなり逮捕とはどういう事だ。しかも戦機まで持ち出して》


 青いタイプγのスピーカーから憤りの声が響く。


「ただの牧場に完全武装された戦機があるか!」


 トゥルメィルがもっともな事を言う。

 だが、これでシーケンシーは反逆者である事が確定したいう訳だ。

 そう思いなおすと「アレを撃破しろ!」と部下に命令する。


「撃破って……、青い壊し屋だぞ……?」

「そんな無茶な……」


 しかしトゥルメィルの部下は照準を青いタイプγに向けるものの動く気配は無い。

 それも当然である。

 先の大戦を経験した者なら青い壊し屋こと李・トマス・シーケンシーの強さは熟知しているのだ。

 余程の腕前があるか、戦力を揃えなければ返り討ちにあうのは明らかである。


《それが良い。たかだか2機の戦機と1台の歩兵戦闘車など30秒もあれば撃破出来るのだからな》


 そう言うとシーケンシー機はそのまま後ろに向けて歩き始める。

 どうやら逃走を図るようだ。

 しかしトゥルメィルはそれを許すつもりは無い。


「奴はブランクがあるのだ! あんなハッタリに騙されるな! 撃て!」

 トゥルメィルが怒りを露わにする。

 それに反応したのか歩兵戦闘車に備え付けられた機関銃がシーケンシーのタイプγに向けられた。


「舐めるな」

 同時にシーケンシー機のアサルトライフルが銃声と共に火を吹いた。

 その弾丸は歩兵戦闘車を直撃して1発で大破させる。

 そのままシーケンシー機のアサルトライフルはトゥルメィル指揮下の戦機にも向けられた。


「う……わ……!」

「ちょ……!」


 間髪入れず2機のタイプγも胴体から爆炎をあげる。

 ここまで10秒もかかっていない。


《私を倒したいなら今の100倍は戦力を揃えるのだな!》


 シーケンシーはトゥルメィルを嘲笑うように言う。

 そして、恨みがましい表情のトゥルメィルを尻目に、その青いタイプγは颯爽と走り去ってしまった。


















/✽/











 4月20日。

 アルベルトに連れられたシーケンシーは正式に星ノ宮と合流する。

 このニュースはすぐに公となり、帝国内部に衝撃を与えた。


「あの青い壊し屋も参戦したとあれば、我らに味方する者も増えるだろう」

 結城信秀は機嫌良く言う。

 それだけの人気がシーケンシーにはあった。

「奴は市民や兵達からの信頼が厚いですからね。続いて我らの味方になる者達も増えるはずです」

 彼の側近であり、反乱兵の指揮を務めているヴェスター大佐が答える。

 このヴェスターという男もシーケンシーの事はよく知っているだけに、この事態を好機と見ていた。

 一方で星ノ宮尊は複雑な心境でシーケンシーを迎える。


「まさか再び戦争に関わるとはな」

 シーケンシーが星ノ宮と再開した時、不機嫌そうな顔で言った。

「弥生女帝や、それに付いている皇族達が気に入らないということさ」

 星ノ宮は笑いながらシーケンシーの肩に腕を回す。

 傍から見れば親友が自軍に加わったのを嬉しく思ったように見えるだろう。


「……俺の妻と息子を人質に取られている」

 星ノ宮は小声で言う。

 それを聞いてシーケンシーは眉をひそめた。

「人質……? お前の嫁さんは結城信秀の娘だろう?」

 結城信秀は八海山の腹心である。

 その娘を人質にとって星ノ宮を動かすという事は、彼は上から信用されていないのかもしれない。


「親父殿は安全な場所に保護されていると思っているようだけどな」

 能天気なものだと星ノ宮は言う。


「一応、お前の親父さんは嫁さんを大事に思っているのだな」

「うまく言いくるめられただけさ」


 それからややあってから星ノ宮が再び口を開く。


「……まぁ、俺自身旧体制の皇族連中を嫌っているのはあるが、そういった奴らはこちらにもいるからな」

 その1人が自身の義父である結城信秀であった。

 星ノ宮は自身の妻を愛していたのは間違いない。

 しかし、その父親は選民思想の持ち主である事からよく思っていなかったのだ。

 これを機に八海山に協力してこういった者達を排除するのも悪くないと思い始めている。


「ま、しばらくは大人しく従っておくしかないだろう」

「……悪いが俺は協力的になれないぞ」


 戦争から離れてようやく手に入れた平穏な暮らしを奪われたシーケンシーは、親友の頼みとはいえ再度戦場に向かう事を良しとしていなかった。

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