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180話 戦後のアレク

 真歴1089年10月1日。

 アレクサンデル・フォン・アーデルセン大尉は自室のベッドで大の字になっていた。

 前線から離れてから半年ほど経つ。

 その間、彼は傍から見れば自堕落な生活を過ごしていた。


「ん……、明日は出勤か」

 そしてカレンダーに付けられた丸を確認して呟いた。

 しばらくその日付を眺めると目を閉じて寝る事にする。


「戦闘ストレス反応?」

 戦後しばらくしてアレクは医者から告げられた。

 彼は本土に戻ってから注意力の散漫や物忘れをはじめとしたケアレスミス、不眠や下痢に腹痛といった症状が現れるようになったのだ。

 それは2ヶ月ほど続き、いよいよ職務に支障をきたすようになり上官のオリガや当時付き合っていたサマンサから医者の診断を受けるように勧められた。


「まぁ、戦争後遺症とか戦争神経症などとも言われますね」

 そして一種のPTSDに罹っている事を告げられたのだ。

 しかし、これは別に珍しい事では無かった。

 アレク以外の隊員達の中にもこうした症状の者は数人現れており、その中には職場復帰が不可能と判断された者達もいる。


「とにかく今は休んで何もしない事です」

 そしてアレクは自宅療養と投薬治療を受けるように指示を出された。


「冗談じゃない。俺はまだやれるさ」

「地図の読み間違いをするような兵士が役に立つとでも?」

「あんなのものは一時的なものだ。二度と起きない」

「同じ事を一昨日も言ってたわよ」


 だが、アレクはこれをしばらくは無視して勤務を続ける。

 当然、サマンサはそれを咎めるも彼がそれを聞くことはなかった。

 しかし、訓練中にアレクの不注意で戦機が破壊される事故が発生。

 ここでようやくオリガが命令を出して、彼は医者の指示に従うことになる。

 この頃になるとサマンサはアレクとは同じ戦友としては信頼出来るが、恋人としては反りが合わないことを自覚して彼に別れを告げていた。

 それが精神的なショックを与えたのか、自宅療養に入ったアレクは部屋から出るどころか、ベッドからも動けない状態にまで陥る。

 それでも2ヶ月もすると落ち着いてきたのか1週間に1度基地に出勤してカウンセリングを受けられるまでに回復していた。


「……他の連中はどうしているんだ?」

 生暖かい毛布と微睡みの中でアレクは既に恋人関係を解消したサマンサや、ジョニーやザザをはじめとした部下達の現状を思う。














/✽/
















「くそっ! どうなっている!」

 アレクは茹だるような暑さのジャングルで突撃銃を手に叫ぶ。

 どんなに撃っても敵兵の数か減らない。


「隊長、こっちです!」

 背後から声がかかる。

 見覚えのある金髪の男だ。

 それは彼の部下であったロッドである。


「ロッドか? ジョニーはどうした?」

 アレクは手榴弾のピンを抜いて放り投げる。

 それが爆発したのを確認してからロッドの元へ向かった。


「これに!」

 そこにはタイプβが待機状態で鎮座している。

 どうやら戦機の準備が完了したようだ。

 これに乗れば歩兵部隊など相手では無い。


「……ザンライはどうした?」

 アレクは違和感を覚えながらタイプβに乗り込む。

「……今は……中です」

 ロッドの声だがよく聞き取れない。

 整備中だったかなどと思いつつ機体を戦闘態勢に立ち上げた。


「これでも喰らえ!」

 アレクは自機に装備させたショットガンを放つ。

 散弾が歩兵やその後方に控えていたトラックを破壊した。

 更にアレクは射撃を行い敵を撃破していく。


「よーし、各部隊は俺に続け!」

 敵を倒す事に気分が高揚していくのが分かる。

 敵部隊も戦機を投入してきたのか、炎上する木々の隙間からタイプγが姿を現す。


「機体の性能差は腕でカバーする」

 アレクの乗るタイプβはウェポンラックからダミーバルーンを放り投げた。

 ザンライの姿をした風船が敵の視界を奪い、その隙をついてアレク機がショットガンを撃ち込む。


「前に出過ぎだぞ!」

 突然、通信機からアレクを咎める声が響いた。

「源明か?」

 そこには何故かアラシアの量産機であるアジーレに乗る小山源明の姿があった。

 彼がアラシア出身である事を考えると分からなくはないが。


「どういう事だ……?」

 そんな疑問が湧き上がったと同時である。

「敵! 正面!」

 今度はサマンサの声だ。

 正面に青いタイプγの姿が見える。


「李・トマス・シーケンシーか!」

 青い壊し屋の異名を持つルーラシア帝国のエースパイロットだ。

 この男と渡り合えるのは自分しかいない。

 アレクはそのような熱量を持って青いタイプγに向かっていく。


「仕留めてやる」

 アレクの乗るタイプβとシーケンシーの青いタイプγが入り乱れて交戦する。


「くそ! 遅いぞ!」

 しかし、徐々にアレクの機体がシーケンシーの機体に付いていけなくなる。

 というよりいくら操作しても自機の反応が遅い。

 それどころか動きも重くスローモーションになっていく。


「くそ! 動けこのポンコツ!」

 シーケンシー機の攻撃を受けてコックピットが揺れる。

 その度にアレクの怒りのボルテージが上がっていく。

 そして目の前に青いタイプγが迫ると銃口を向けた。














/✽/














「畜生!」

 大声で叫ぶ。

 と、同時にアレクは自分の叫び声で覚醒する。


「……」

 そこはタイプβのコックピットでも戦場でも無かった。

 本土に戻ってきてから軍の紹介で借りたアパートの自室である。


「夢か……」

 体調がおかしくなった辺りから戦場の夢を見ることが多く、よく眠れなかった時期があった。

 最近は落ち着いてきたのだが、またその時のような夢を見ていたのだ。


「戦場で活躍する夢なら良いんだがな」

 実際のところは敵に追い詰められて殺される手前か、大怪我を負う内容がほとんどだ。

 ロクなものでは無い。


「よっと……」

 アレクは起き上がるとダイニングにある冷蔵庫を開ける。

 中には瓶入りのコーラが数本とポークビーンズの缶詰が入っていた。


「味気ねぇな」

 不満を漏らしながら窓に視線を向ける。

 外は既に暗くなっており、今から外へ買い物に向かおうという気にはなれなった。

 そのまま寝てしまおうかとも思ったが、何か腹に入れておかないと落ち着かない気分でもある。


「仕方ない……」

 適当に軍用のジャケットを上着にして近所のハンバーガーショップに向かう事にした。

 空腹では無いのだが、食べなければならないという軽い強迫観念によって何とか夜道を歩き出す。


「……アーデルセンさん?」

 その時である。

 反対方向からやってきた女性に声をかけられた。

「……誰だ?」

 それは茶色の長い髪と丸い眼鏡をかけていた。

 何処かで見たような気もする。


「第4整備部隊のシャルロッテ・クリスティ大尉です。かなり昔ですがアーデルセンさんの機体を改造したこともあります」


 それを聞いてアレクの目が大きく開く。

 まだ自分がトール・ミュラーの下で分隊長を勤めていた頃に世話になった、なかなか話の分かる整備士の姿を思い出す。


「シャルロッテか!」

 懐かしさと高揚感からアレクが声をあげた。

 しばらくはお互いの懐かしさを確認していたが、やがて立ち話はなんだと近くのハンバーガーショップに入る。


「え、じゃあ別れちゃったんですか?」

 ハンバーガーショップ内。

 アレクは愚痴を交えて自身の状況をシャルロッテに話していた。

 やがてアレクとサマンサが付き合い始めたが、お互いのすれ違いから別れた事へと話題が移る。


「戦場で長く一緒にいすぎたんだ。アイツといると戦場の気分が抜けない」

「そういうものですか」


 そう言いつつもシャルロッテは何となく納得はしていた。

 アレクもサマンサもお互いに我が強く、ぶつかり合ったのかもしれない。


「……すまないな。さっきから俺ばかり話している気がする」

 会話が止まったところでアレクが申し訳無さそうに口を開く。

 確かにハンバーガーショップに入ってから彼は一方的に話をしていた。


「……良いんですよ。戦闘ストレス症ってそういう事あります」

 シャルロッテは苦笑しつつもアレクの会話を受け入れていた。


「知っているような口振りだな?」

「私の彼氏もそうだったので……」

「そうだったのか」


 道理でとアレクは納得する。

 同時に疑問も浮かぶ。


「その彼氏はどうしたんだ?」

 そのまま何も考えずに疑問を口にした。


「……戦死しました。終戦の2日前です。戦機のパイロットだったんですが、戦闘になって他に出られる人もいなくて……」

「……そうか。済まなかったな」


 辛い事を思い出させた罰の悪さにアレクは顔を曇らせる。


「気にしないでください」

 それからは流石に会話も無くなり、しばらくした後に2人は外へ出て別れる事になる。

 だがお互いに禁止に住んでいる事を知り、シャルロッテはそれ以降も時々アレクと会っては何かと世話を焼くようになっていった。

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