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166話 対空砲を破壊しろ

 10月20日深夜3時。

 ルーラシアのペイジー空軍基地に攻撃が開始された。

 手始めに連弩から基地に向けて砲撃が行われる。

 それに合わせて敵の残存していた航空部隊が連弩に向けて出撃。

 これの迎撃に出たのはアラシアの884中隊であった。

 この部隊は対空戦車が配備されており、何とか敵の航空機に対して攻撃を行う事が可能だったのだ。


「始まったな。行くぞ!」

 連弩の周囲で戦闘が始まった事を確認するとアレクの率いる部隊がペイジー空軍基地に向けて移動する。

「ミス・ノックスをはじめとする女性陣のエスコートは883中隊が承った。それ以外の野郎共は自分で何とかしろ」

 そして隊長のダッシュ大尉の軽口と共に883中隊の戦闘ヘリが先制攻撃を行う。


「敵も戦機を出してきましたぜ」

 ダッシュ大尉の副官であるアーガイルが言う。

 空軍基地とはいえ、その防衛の為に多数の地上戦力が配備されていたのだ。

「よーし、各機高度をとれ。4つ脚なんかに墜とされるなよ?」

 敵部隊が攻撃を始めるなか、ダッシュの率いる戦闘ヘリは高度を上げながらこれらに対して反撃を行う。














/✽/


















「……いい感じだ。敵は88レンジャーに釣られてくれた」

 ペイジー空軍基地の外。

 暗がりの中でウルシャコフが呟く。


「敵は次々と外に向かってますね。これなら我々だけで基地を制圧出来るのでは?」

 調子付いた部下が言う。

 ウルシャコフはそれを咎めようとした時だ。


「伏せろ……!」

 フェンス越しにルーラシアの主力戦車が音をけたたましいたてて通り過ぎて行く。

 その後を歩兵戦闘車が続いて行った。

「……無理ですね」

 それらが通り過ぎた後に部下は自身の言葉を訂正する。


「あの格納庫から出ていきましたね。……いや、まだ何両かあるな」

 双眼鏡を覗き込みながらソージが言う。

 どうやら敵の格納庫内にはまだ戦車や戦機などが待機状態にあるらしい。


「やるか?」

 ウルシャコフが尋ねる。

 これ以上、敵の戦力を前線に向かわせる訳にはいかない。

「やりますか」

 ソージもそれに答える。

 そして部下に目配せをすると、フェンスを破壊させて進入路を作らせた。


「行くぞ」

 ウルシャコフとソージは部隊を小集団に編成して散開して動くように指示を出す。

 それらは暗がりや物陰を音を立てずに移動していく。

 途中で見回りの兵に出くわすが、それも音を立てずに始末した。


「よし、後は中に入ってコイツらを破壊するだけだな」

 格納庫の入り口前でウルシャコフが中を覗き込む。

 そこには数機のタイプγと1台の主力戦車が駐機状態で鎮座していた。


「こちらもOKです」

 ウルシャコフとは反対側の方向にソージ達も到着して彼に手で合図を送る。

 その時であった。


「誰だお前は!」

 駐機状態の戦車から1人の士官が顔を出したのである。

「チィっ」

 ソージはマシンガンですぐにそれを蜂の巣にした。

 その銃声を聞きつけたのか奥から何人もの兵が足音を立ててやって来るのが聞こえた。


「しまった……」

 ウルシャコフはここで敵に気取られた事に歯噛みする。


「お前らぁ! 出入りの時間だ!」

 見付かったのならこれ以上隠れることはあるまいとソージは叫びながら新たに現れた敵兵に向けて発砲する。

 それを合図に隠れていたガンナーズネストの面々も姿を現した。


「おらぁ! 帝国兵は皆殺しじゃあっ!」

 ソージが鬨の声をあげる。

「おお!」

 それに続くようにガンナーズネストの者たちがそれぞれ得物を持って騒ぎ立てながら暴れ出す。


「囮になるのが仕事とはいえ、これでは本当にカチコミだな」

 ウルシャコフは苦笑しながらもこの場をガンナーズネストに任せて別の目標には向かうことにする。


「あの通信アンテナを破壊するぞ」

 それは航空管制や他の基地などと通信する為の巨大な通信アレイである。

 格納庫に戦力がなければそこを破壊する予定だったのだ。


「そらそら! 砲弾をプレゼントだ!」

 いつの間にかソージ達は敵の主力戦車を強奪しており、それから放たれた砲弾が敵兵や基地の施設などを破壊していく。

 これなら彼らだけで大丈夫だろうとウルシャコフ達はその場を後にした。

















/✽/


















 一方その頃。

 ガンナーズネストのジャック・ダーストンは少数の部下を率いて基地内の対空砲を破壊しようと動き回っていた。


「ソージの兄貴達が派手に暴れ回ってますね」

 先程から基地の内部で騒ぎが起きている。

 その音を聞いた部下が言った。


「流石だよ。基地の警備兵はそちらに向かっているね」

 ダーストンはソージの仕事振りに感心して答える。

 あとは彼らが持ち堪えている間に対空砲を破壊しなければならない。

 その数は8門。


「ここからは4つの班に別れて行動だ。……くれぐれも見つからないようにな」

 ダーストンは3人で1つの班を編成して、それぞれ2門ずつ対空砲を破壊するように割り当てた。


「よーし、行くぞ」

 いつもの軽薄な表情が真剣なものに変わってダーストンは走り出す。

 2人の部下のそれに続く。


 基地の外では88レンジャーや連弩の部隊が攻撃を仕掛け、基地内ではソージやウルシャコフが暴れている。

 その対応の為か、対空砲までのルートには驚くほど人員がいなくなっていた。


「基地内に侵入者だってよ」

「俺達もそちらに?」

「いや、ここの見張りだってさ」

「そうか。ま、適当にやろうや」


 それでも完全にいなくなった訳では無く、やる気の無さそうな兵士が雑談をしている。


「もう少し警戒心を持つべきだな」

 ダーストンは音を立てずに2人の後ろに立つと1人をナイフで始末する。

「おまっ……!」

 もう1人の敵兵も部下が素早く始末した。


「死体はその物陰にでも隠すんだ」

 その死体は空調の室外機の物陰に放り込まれた。

 ちょうど暗がりになるのですぐには見つからないだろう。


「ダーストンの兄貴、対空砲の周りを見てください」

「なんだ?」


 部下に言われてダーストンは双眼鏡で目標の対空砲を見る。

 その周囲には6人程度の兵士が何時でも対空砲を使用出来るように準備していたのだ。


「こちらよりも人数が多いな……」

 敵兵はそれぞれアサルトライフルなどで武装している。

 マトモに正面から行くのは危険である。


「……この死体使います?」

 先程倒した兵士の死体を室外機の影に放り込もうと抱えていた部下が尋ねる。


「なるほどね」

 つまりこの死体から服を奪って敵兵になりすまそうということだ。

 使い古された手ではあるが、混乱している今なら有効かもしれないとダーストンは思う。

「じゃあ、よろしく頼むよ」

 ダーストンはニヤリと笑って部下に倒した敵の軍服を着るように命令した。

 そして、2人が着替え終わるとそのまま対空砲へ向かわせる。


「た、助けてくれ……!」

 対空砲である。

 何時でも撃てるように準備していた所へ軍服を着た2人がやってきた。

 ルーラシア兵に扮したダーストンの部下である。

 何も知らない帝国兵はその2人が血で汚れた軍服を着ているので負傷者だと判断した。


「敵にやられたのか!」

 2人に駆け寄った敵兵はこの近くまで敵が侵入したのかと驚きの声をあげる。

「待て。お前達はどこの部隊だ?」

 そんな中で砲撃士官らしき男が尋ねた。


「はい。第12小隊であります」

 士官の質問に対して対して臆すること無く嘘の答えを言う。

 その直後である。


「ま、嘘だけどね」

 2人に気を取られている間にダーストンはルーラシア兵の背後に回り込みサブマシンガンを放った。


「何……、だれっ!」

「ぐわっ!」


 規則的な銃声と共に兵達が声をあげて倒れる。

 ほんの一瞬の出来事であった。


「お見事」

 部下がダーストンに感心の言葉を投げる。

「そちらも見事な演技だったよ」

 それに対してダーストンも軽薄な笑いを浮かべて返答する。


「さて、早いところ済ませようか」

 その言葉と共にダーストン達は急いで対空砲に爆薬を仕掛け始めた。















/✽/

















 

「敵、爆撃機接近! 数は2!」

 一方で連弩も敵の攻撃を受けていた。

 それも空からのものである。


「2機ならCIWSと迎撃ミサイルでどうにかなるね」

 ブリッジの艇長席で胡座をかきながら源明が返答する。

 現在、敵の空軍基地は88レンジャーとウルシャコフ達が指揮する部隊とで外と中から攻撃を受けていた。

 その隙を狙ってダーストン達が対空砲を破壊している予定である。


「特にこれといった連絡が無いという事は上手くいっているのか……」

 源明が呟くと同時に連弩から迎撃ミサイルが敵の爆撃機に発射される。


「ミサイル目標到達まで5、4、3、2、弾着!」

 ミサイル士官がレーダーを確認しながら言う。

 それからやや遅れてその結果が画面に映し出された。


「……1機撃破! もう1つは外れです!……うわっ!」

 その報告と同時に爆音と振動が連弩を襲う。

 敵の爆撃機が放ったミサイルによるものである。

 

「直撃? 損害状況は!」

 ミサイル爆発の余韻の残る中で源明が声をあげる。


「はい。……いいえ、近くで爆発しただけで当たってはいません」

 副艇長である城前が艇内状況が映し出されたモニターを確認して報告する。

 敵のミサイルはすんでのところでCIWSに迎撃されたのだろう。


「残った爆撃機は旋回して再攻撃を仕掛ける模様です」

 レーダー管制官が報告する。

 当然だが、敵は何としても連弩を破壊したいようだ。


「爆撃機に向けてメーサー砲を撃て。こけ脅しで構わない。その間に迎撃ミサイルを準備するんだ」

「了解」


 連弩に搭載されたミサイルシステムは後付けされたものであり、一度発射すると他の陸戦艇よりも再装填に時間がかかるのだ。

 その時間を何らかの方法で稼ぐ為に源明はメーサー砲を爆撃機に向けて放つように指示を出す。

 そして連弩の前部ブロック上に搭載された2連装メーサー砲から続けざまに光の束が放たれた。

 そして、そのうちの1本が爆撃機を捉えて飲み込む。


「お、当たりました。爆撃機撃墜です」

 観測手がレーダーに映る敵撃破のサインを見て喝采の声をあげた。

「やったじゃないか」

 爆撃機は航空戦力の中でも動きが遅いとはいえ、空中で動き回る目標である事には変わらない。

 それをメーサー砲で撃ち落とすというのは難しい事なのだ。

 それを成功させた事に源明も声をあげる。


「報告です。ダーストンの部隊が全ての対空砲を破壊したと、ウルシャコフ少尉を中継して連絡が入りました」

「よし、いいぞ!」


 ダーストン達はどうやら目標を達成したようだ。

 その事に源明は手を叩いて喜ぶ。


「……しかし、敵に追われているので砲撃支援を要求しています」

 通信士は付け足して言う。

 おそらくダーストンもウルシャコフも敵の基地で派手に暴れるたのだろう。


「分かった。ウルシャコフ少尉に砲撃目標に向けてビーコンを撃ち込むように伝えてくれ。連弩は前進、少尉達を回収するぞ」

 後は88レンジャーの空挺部隊が何とかするだろう。

 源明は指揮下の部隊に後退の指示を出しつつ、連弩に砲撃を行わせて前進させた。

 そして約2時間後に全ての部隊の回収を終える。

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