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165話 ペイジー空軍基地攻略戦

 真歴1088年9月20日。

 第9大隊はカイエス地域のペイジー空軍基地の制圧を第1目標として侵攻を開始。

 それぞれの中隊は運河沿いの停泊所や防衛拠点を制圧。

 運河を通る船舶はガンナーズネストが臨検を行い、軍用の物資を運搬しているものはそのまま徴発する。

 その一方で民間の船舶に関しては船員に対して迷惑料として金銭を握らせて情報を得ていた。


「あぁ、迷惑をかけたね」

 源明はそう言って臨検された船の船長にいくらかの金銭を渡す。

「へへ、アンタみたいに物分りの良い人が多けりゃ良いんだがな」

 船長はそう言うと運河の航行予定表を源明に渡す。

「お互いにね」

 これでこの数日間にどういった船舶が運河を通るのかが分かるというものだ。

 この情報は運河沿いを進んでいる中隊へすぐに送られる。


「そのお金は何処から出しているんですかね?」

 やや冷たい目で千代が源明に言う。

「……軍の予算は使えない。私のポケットマネーだよ」

 軍隊にいれば衣食住は用意されるので、給料を使う事は少ないのだ。

 まして源明のような佐官クラスになると、そこそこの金額が給与されるので多少使っても気になる事は無い。


「習慣付けないで下さいね?」

 それを千代は悪癖だと言って咎める。

「善処はするよ」

 源明は気まずそうな顔で答えた。


「小山少佐。少し良いか?」

 そこへアレクが駆け込んでくる。

 助かったと源明は「勿論だ」と彼の元へ向かう。


「いい報せだ。ウチのオリガ中佐が空軍に話を付けて空挺部隊が編成出来るそうだ」

「空挺部隊? 本当か?」


 空挺部隊がいれば空から敵の基地に直接降下して攻撃する事が出来る。

 敵に対してかなりの有効打を与えられるはずだ。


「降下するのは881中隊の戦機小隊だな。おそらくオリガ中佐もいるはずだ」

「待て。戦機を降下させるのか?」


 戦機部隊が降下すると聞いて源明は驚く。

 確かに装甲車などを空中から投下する話は稀に聞くが、戦機を降下させるのは初耳である。


「そうだ。まぁ、そちらじゃあまり聞かない話か」

「そりゃあな。そもそも戦機を投下したら着地時に脚をやられそうなもんだが」

「俺もやった事あるが意外と平気だったぞ」

「そちらのザンライとかだと可能という事か……」


 戦機を投下した場合、着地時の衝撃で脚部が破損する事はパイロットであれば誰でも予想がつく。

 故に戦機を空挺部隊として使用した実績がある事に源明は驚いたのだ。

 しかし、それはザンライというアラシアの新型だから成功した事であり、従来のアジーレやタイプβでは不可能な事だろう。


「空挺部隊が出撃出来るのは10月5日だ」

 つまりそれまでに空挺部隊が降下出来る状況にしていかなければならない。


「分かった。空軍基地の対空砲の破壊と、周辺地域の確保だな」

 源明もそれを理解する。

 対空砲があれば空挺部隊の郵送機が迎撃されてしまうし、周辺地域が確保されて無ければ降下部隊が基地を制圧したとしても、そこで包囲されてしまい孤立する可能性も考えられるのだ。


「あと15日……、いや14日か? 色々と準備もあるだろうから10日程度で完了する必要があるな。……やれるか?」

 時間に猶予は無い。

 アレクから見ればかなり厳しい条件だというのが本音である。

 やや顔を曇らせながらアレクは源明に可能かどうかを確認した。


「まぁ、何とかやらせてみる。……当たり前だがお前の部隊にも動いて貰うぞ」

 源明もそれは同じ考えであり、自身の持つ中隊とアレクの部隊を合流させてこれに間に合わせようと指示を出す。


「Gエリアの制圧ですか」

 まず源明が指示を出したのは第2中隊の玉堂大尉であった。

 彼に制圧を命じたGエリアは運河からペイジー空軍基地までの補給ルートがある。

 まずはここを確保しなければならない。


「重要エリアですな。しかし私の中隊だけでは戦力不足です」

 淡々と玉堂が言う。

 重要エリアの制圧を命じられるのは手柄を挙げるチャンスなので構わないが、それを実行する為の戦力が足りない。


「分かってる。88レンジャーから1個小隊、それとガンナーズネストの戦機部隊を回す。数で言えば3個小隊にはなるだろう」

「そうなると連弩の守りが薄くなりませんか?」


 連弩の守備部隊はガンナーズネストが務めている。

 その部隊を割いてしまったら大隊司令部である連弩の守りが薄くなってしまうはずだ。

 玉堂は源明の事をあまり好んではいなかったが、すぐにでも戦死して欲しいという程では無かった。

 故に軍人として大隊司令部の守りを薄くすることについては難色を示す。


「ウルシャコフの小隊もいるし、残った88レンジャーもいるから問題ないよ」

 少なくともアレクとウルシャコフの部隊を手元に置いておけば問題無いと源明は考えて玉堂に返答する。


「アラシアのエースがいる部隊ですか。あまり頼りすぎると調子に乗りそうですな」

 源明の答えを玉堂は気に入らなかったようだ。

 自軍の総指揮の守備を他国の部隊に任せるのが不愉快なのだろう。


「そう思うのであればなるべく早くやってくれ」

「……了解」


 致し方ないと玉堂は返答する。

 この直後、彼は部下の小林亜理沙中尉にGエリアに部隊を展開させて攻撃するように命令した。


「え? じゃあ私達は例の“富士”とかって陸戦艇に行くの?」

 そして玉堂の元へ向かうことになったのはメイ・マイヤーの小隊である。

「そういう事だ。ま、うまくやってくれ」

 出向する事に不満そうな顔をするメイに対してアレクが言う。


「同じく富士へ出向するガンナーズネストのイテン・マタイだ」

 不満そうな顔のメイをまったく気にも留めずにイテンが挨拶をする。

「はぁ。ま、よろしくねー」

 頭部の中心だけわずかに逆立っているというイテンの髪型を眺めながらメイが返答した。


「後の部隊はそのまま指定の地域の制圧を継続してくれ。連弩はペイジー空軍基地へ向かうぞ」

 源明は次々と指揮下の部隊へ命令を行う。

 その姿はマトモな大隊長のそれであった。


「少し見ない間にしっかり少佐をやっているのな」

 連弩の側で源明のそうした姿を見たアレクはそんな感想を漏らす。

 かつて一緒にいた頃は軍人らしからぬ人物であったのに、今や少佐らしい事をキチンと行っている事を可笑しく思ったのだ。












/✽/

















 真歴1088年10月15日。

 玉堂の率いる第92中隊はポイントGの制圧を完了する。

 当初の予定より大幅に遅れた日時での制圧であった。

 というのも、敵は予想以上に練度が高く統制がとれた部隊だったのである。

 それに対して玉堂はガンナーズネストとメイの率いる第2小隊で遊撃隊を編成させ、敵の各拠点や移動ルートに奇襲を行わせて戦力の分断を図った。

 そこへ第2中隊の本隊が孤立した敵を叩くという方法で制圧を完了したのである。

 この各個撃破を繰り返すという方法をとった為に時間がかかったのだ。


「くそ、予定時刻より大幅に遅れた……! これでは小山のガキに笑われるぞ」

 玉堂は悔しそうに言う。

 しかし、これは自身や味方に原因があるのではなく、敵が予想以上に強かったという事であった為に致し方ないとも思う。


「もっとも88レンジャーの本隊も上手くいってないみたいですね」

 富士の副艇長が冷静に言う。

 88レンジャーは空挺部隊を編成する予定だったのだが、その為に使用する輸送機の調達に時間がかかっていたのである。

 それが原因でタイムスケジュールに大幅な遅れが生じていた。


「後は我々が敵基地の対空砲を破壊するだけだな」

 そして、この頃には連弩を中心とした部隊も空軍基地周囲の防衛拠点をほとんど陥落させている。

 特にこれらの戦闘ではガンナーズネストが活躍しており、最近やってきた教育担当のソージや古参のメンバーで工兵のジャック・ダーストンが目覚しかった。


「となると、基地の対空砲破壊も任される訳ですね」

 軽薄な口調でダーストンが言う。

 敵の基地へ潜入して対空砲を破壊する任務を与えられたのは彼の率いる部隊であった。


「今までの戦い方を見ると君らが適任だと思ってね」

 これまでの戦闘報告から源明はダーストン達が潜入や破壊工作に長けている事をよく理解していた。

 おそらく正規兵のウルシャコフ達よりも優れているだろう。


「では肝心の我々は?」

 その正規の歩兵部隊であるウルシャコフが尋ねる。

「騒ぎを起こして彼らが潜り込む隙を作る。我々の常套手段だよ」

 源明が笑って言う。

 つまりは囮作戦である。源明がよく用いる戦術であった。


「カチコミなら任せて下さい」

 ウルシャコフの隣でソージが不敵に笑う。

「これは……、心強いことだ」

 当のウルシャコフも肩を竦めて言う。

 無論彼もガンナーズネストの力は認めており、その言葉に偽りは無い。


「88レンジャーは連弩の護衛ですか?」

 そう尋ねたのは千代である。

「まさか。彼らはいの一番に出てもらうよ」

 そんな訳無いだろうと言わんばかりに源明が答えた。

 連弩の守備部隊を務めていたガンナーズネストの戦機部隊は、そのほとんどが第2中隊へ送られている。

 その後任にあたっていたのが882中隊であった。しかし今回は基地制圧の為に動いてもらうと源明は決めていたのだ。


「……まぁ、1個小隊は連弩に残ってもらうけどね」

 それでも882中隊所属の小隊であれば1個小隊でもそれ以上の働きをしてくれるはずだ。


 それらの連絡を受けたアレクは自分達が徹底的にこき使われている事に苦笑した。

「ま、毎度の事だけどな」

 そんな事を言いつつも部隊編成を考える。


「俺とサマンサの第1小隊、後はジョニーの第3小隊で攻撃を仕掛ける。ザザの第4小隊は連弩の護衛だ」


 つまり882中隊からは2個小隊がペイジー空軍基地への攻撃を行うという訳だ。

 また、これとは別に883中隊や884中隊といった連弩へ出向していない88レンジャーもこの攻撃に加わる予定である。


「つまり我々が空軍基地やその周囲で暴れて、その間に工兵が敵基地に潜入。対空砲を破壊した後に881中隊が降下して基地を制圧する訳ですな」


 作戦概要はこんな感じだろうとジョニーが顎を擦りながら言う。


「アイツらしい戦術だよ」

 アレクがそれに答える。

「でも我々は敵の航空戦力から攻撃を受ける可能性がありますので敵の動きには気を付けないといけませんね」

 こちらは全て地上戦力のみであり、敵の航空機などに対応する手段が無い。

 ザザはその点が不安であった。


「源明達の破壊工作が早く終わってくれるのを祈るしか無いな」

 これに関してはアレクも同じ想いであったが対処のしようも無い。


「一応、攻撃前には我々の空軍が制空権確保の為に動くらしいけど、どこまでアテになるのかしらね?」

 事前にアラシアの空軍が制空権確保の為に攻撃を行うという話をサマンサが告げる。

 攻撃を行うといっても基地や拠点を爆撃するのではなく、敵の航空戦力をおびき寄せてこれを攻撃するのが目的だ。

 対空砲は健在なはずなのでこれは当然である。


「空挺部隊もようやく編成出来たって話だ。そうなれば空軍も必死にやるだろうさ。……とりあえず各部隊作戦開始に備えてくれ」

 こうして各々の部隊は兵装の整備や弾薬の補給などに取り掛かった。

 そして10月18日にアラシアの空軍が2度にわたる攻撃を行い、敵の航空戦力にダメージを与える。

 アレクと源明はこの2日後に攻撃を仕掛ける予定となっていた。

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