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164話 小山源明を監視せよ

 真歴1088年9月11日16時28分。

 88レンジャーにヒノクニ軍に協力してカイエス地域へ侵攻せよという命令が下る。


「第9大隊と合流して、ね」

 その命令を聞いたオリガはやや不満げであった。

 というのも、先の戦域で第9大隊はオリガの意に反して勝手に戦端を開いた事があるからだ。

 また、同じような事があってはたまらない。

 どうしたものかとオリガは例の大隊長と面識があるアレクとサマンサを呼び出す。


「しかし、我々がある程度動けたのはあの部隊が後方で補給などの妨害を行っていたからですよ」

  882中隊のサマンサが言う。

 それは間違いでは無い。

 しかし、あまりにも好き勝手に動かれてしまっては協力どころでは無くなる。


「いっそ連携なんてしないで我々も好きに動いてみては?」

 アレクはやや投げやりな意見を言う。

 その方がお互いにストレスを感じる事なく任務を遂行出来るだろうと笑う。


「それも1つの手かも知れないけどね」

 オリガもそう思わない訳では無い。

 第9大隊はこちらとの連絡も無く勝手に動いてはいたが出鱈目なそれではなかった。

 アラシアの動きに合わせる、あるいはやろうとしている事を先読みしている節すらあったのだ。


「少なくとも無能な指揮官のやる事では無い。だからこそ判断に困るのだけど……」

 第9大隊の司令官である源明をアレクと茂助は低く評価していたが、オリガは逆に高く評価していた。

 つまり油断ならない人物だと思っていたのだ。


「……やはり互いに独自行動をとるのは無しね。ヒノクニの軍人は野心的な人物が多いと聞くわ。変に動いて彼らに戦果を横取りされたなんて言いがかりを付けられたくないもの」

 オリガは嘆息しながら言う。

 それを聞いたアレクとサマンサの2人は内心でそれは絶対に無いと断言していた。


「まぁ、どの道882中隊には第9大隊に出向し貰うつもりだったからね」

「882全部隊ですか?」


 オリガの命令はアレクにとって喜ばしい事ではあるが、882中隊全てを出向させる必要はあるのだろうかと疑問に思う。

 せいぜい1個小隊を預けるだけで充分では無いだろうか。


「88レンジャーを軽んじられない為のプレッシャーを与える……、というより第9大隊の動きを監視して欲しいと言った方が正解ね」

 オリガは言葉を詰まらせながら言う。

 監視しろというのは穏やかな話では無いからだ。


「監視……?」

 不穏な言葉にアレクが表情を変える。

「私も詳しい事を聞いていないけど政治的な何かがヒノクニとアラシアであるみたいね」

 それはオリガも知らない事の様だ。

 一方でアレクとサマンサは思い当たる節があり、お互いに視線を合わせてそれを確認する。


 かつて、アラシアはヒノクニと共同で崩壊戦争前の遺跡を発掘し、そこで文明を滅ぼしたとされる大量破壊兵器“アグネア”を発掘していた。

 しかし、アラシアはそれを独占しようと目論んでいた事がある。

 結果的には源明がそれを遺跡ごと爆破してしまい、全ては無かった事になった。

 しかし、その事実を知ってしまった源明はアラシアに居られなくなり、それらのデータを持ち込んでヒノクニへ亡命したのである。

 もしアラシアとヒノクニの間で政治的な何かがあったとすれば、それに関することは充分考えられのだ。


「どんな事情かは知りませんがとりあえずは了解しました。俺の部隊は連弩へ合流します」

 アレクはとりあえず命令に従う事にする。

 この事は源明本人にも報せた方が良いかもしれない。


「頼むわね」

 オリガはアレク達の事情などは知らないので、お互いに顔見知りの人物を向かわせた方が監視も容易だろうという程度に考えていた。

















/✽/
















 9月15日。

 第9大隊と882中隊は運河沿いにある停泊所の1つをを占領して合流した。

 アレクと源明は約9ヶ月振りの再会である。


「……という事でお前らを監視するように上から言われた」

 簡単な着任報告の後、連弩の外でアレクと源明は2人きりで話し合う。

 そしてアレクはオリガから源明達を監視するように言われた事を明かした。


「だからお前達が来たか」

 源明はそれに苦笑する。

「……で? 何かあったのか、何かやらかしたのか?」

 アレクは単刀直入に尋ねた。


「いや、今回は多分私やアグネアは関係無いだろうね」

「……というと?」

「どうも向こうの弥生女帝が同盟に和平交渉を申し入れたらしい」


 この答えにはアレクも驚きの表情を見せた。

 今まで散々戦ってきた相手が和平したいというのだから当然である。


「これはまだ公式なものじゃない。水面下で話し合っている。……いや、話し合いの準備をしている段階だろうな」

 この話は源明もつい先日に蜂須賀大将か聞いたばかりの話なのだ。

 それも向こうが和平交渉をしたいと水面下で伝えてきたのみで、アラシア・ヒノクニ同盟は正式な返答はしてないらしい。


「そんな事があったのか。……監視というとのもお前が何とかっていう政治家の養子で、例の蜂須賀とかいう将校にも近いから情報を探れという事なんだろうな」

 合点がいったとアレクが言う。

 源明はヒノクニ政府の経済省の大臣である小山武蔵の養子であり、ズーマン地域侵攻作戦の総司令官である蜂須賀大将からも覚えられている人物である。

 何か和平交渉に関する情報を握っている可能性もあると思われたのかもしれない。


「しかし和平交渉をするなら、これ以上戦闘する意味も無いだろうに」

 つい先日に源明も思った事と同じ事をアレクも言う。


「今の内に少しでも占領地域を広げて戦後のルーラシア帝国に対抗出来るようにしておきたいらしい」

 蜂須賀は戦後になってルーラシア帝国に多くの土地や資源があれば、再度ヒノクニやアラシア共和国に戦争を仕掛けてくる可能性があると思っているようだ。

 もし戦争にならなくても経済的なイニシアチブをとられる事も考えられ、それを阻止したいという事らしい。


「しかし、和平交渉の際にはこちらが占領している地域を返還する事を要求されるんじゃないのか?」

 源明の説明を聞いたアレクが言う。

 かつてアレクや源明が参戦していたギソウ地域など、元はルーラシア帝国領であったところを占領してアラシアやヒノクニの領土としている場所は多い。

 それらは帝国からすれば当然ながら奪われた地域という認識なのだ。

 和平交渉になれば帝国から返還が求められるだろう。


「それはそれで返還を条件に軍縮と多額の賠償金の請求をすればいいさ」

 どちらに転んでもルーラシア帝国の弱体化に繋げるという事だ。

 その為には何としてでもズーマン地域を攻略しなければならないのである。


「……しかし、かつてアラシアはアグネアを独占しようとした事がある。帝国に遺跡を襲わせて、そのどさくさに全てを破壊しようとしてまでね」

 源明は苦々しい顔で言う。


 アグネアが発見された時、アラシアはヒノクニと共同でそれを発掘していた。

 しかし、一方で帝国にもその情報を流して遺跡を襲わせたのだ。

 その際に遺跡を全て爆破しようとしたのである。


 当然、爆破前にアグネアを初めとしたデータを全て内密に持ち出してからだ。

 これにより崩壊戦争前の貴重なデータを独占して他国よりも優位に立とうとした経緯がある。

 しかし、それも結局その場にいたトール・ミュラーこと小山源明によって遺跡ごとデータのほとんどを爆破され、残った物も彼の亡命の手土産としてヒノクニに渡った。


「おそらく、アラシアとしてはヒノクニが帝国との和平交渉のイニシアチブをとることを良しとしていないんだろう。だから何かヒノクニのスキャンダルのようなものを探しているのかもね」

 それがアレク達がやってきた理由なのかもしれないと源明は予想する。

 おそらく、他の部隊でもアラシアと共同戦線を張っているところが増えているはずだ。


「やれやれだな」

 そういう面倒な話には関わりたくないとアレクは頭を振る。


「何にせよ、今はこのカイエス地域の占領を考えないとね」

 小難しい事は上層部や政治家に任せれば良いと源明は話題を変える。

「そうだな。まず堕とす必要があるのは北の空軍基地だ。ペイジー空軍基地とかいう名前だっけ?」

 アレクも源明の言う事に同意して、まずは目の前の事を処理しようと思った。

 その結果が空軍基地の制圧である。


「航空戦力は地上部隊全員にとって厄介なものだ」

 特に的の大きい陸戦艇にとってはそうだ。

「88レンジャーの中には航空ヘリの部隊なんかもある。おそらく要請すれば動いてくれるはずだ」

 流石に戦闘爆撃機の類は88レンジャーに配備されていないが、戦闘ヘリによる航空支援や連弩による曲砲支援があれば空軍基地の占領もやりようはあるだろう。


「助かる。さて、そういった中でどう進めるかな?」

 源明はアレクに問いかけた。

 そして2人とも思案顔で脳内シミュレーションを開始する。

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