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リノベーション・サガ   作者: 悪役
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遅滞からの脱却

何か寒気みたいなものが体を突き抜けていく感触が瞳を薄く開けさせる原因となった。


……んむぅ?


寝惚けているのを理性があれば判断出来たのだろうが、寝惚けている最中故にそんな事も気づかないままぼーっと目を開けていく。

視界に最初に入ったのは灰色の天井であった。

ボケた思考は何で天井が灰色なんだろう? と思う。

思考とは別の記憶が自分が知っている天井とはこういう色ではなかっただろうにと告げてくるのだが、肝心の思考がボケているので答えに繋がらない。

そして次に見えたのは顔だった。


……かお?


何故、顔があるのだろうか。

何かのホラーみたいな説明だが、実際には単純に人がこちらを覗き込んでいるから見えているだけなのだが寝惚けている彼女にはそれすら理解できない。

理解できないが……何となく目覚めた方がいいような感覚が襲ってきたので意識が急激に寝惚けから解放されつつある。

そうして再び見たのは灰色の天井であった。


……?


よく見れば天井が遠い。

一戸建ての家の天井というよりも工場の建物に近い感じの高さ。

間違いなく、普段、自分が寝起きしている場所ではない。

つまり、自分が寝た後にここに移動した事になる。

そして、次に見たのはやはり顔であった。


あ……加山君……


つい、一日前に出会ったばかりの少年なのだが不思議な事にもう数十日くらいの付き合いがあるくらい感じれるようになった相手だ。

何故だか知らないがその表情は見た事もない程、幸福そうな表情を浮かべている。

何かいい事でもあったのだろうか、と思いながら、ようやく少し震えるくらいの寒さを感じ、何故だろうと思い、下を見ると───何故か下着が見えた。


……は?


意味が分からない。

何時の間に、私は服を脱いで寝る習慣を作っていたのだろうか。夢遊病だろうか? 恐ろしい。

脱いでいるというよりも前のボタンが開いているというものであったのだが、寒いのと微妙に脱いでいる事には違いない。

そして、よく見ればそのボタンを外している手と腕があり、その腕は目の前の幸福そうな顔を作っている少年に接続しており


「痴漢ーーーー!」


反射神経が躊躇わずに彼の顎を下から手が打ち抜いた。

結構、加減無しで放たれたアッパーは相手を見事に飛ばし、放物線を描いていく。

殴り飛ばした彼が何故かやり遂げたような表情を浮かべているのがむかちたが最後はぐしゃっと落ちて、正義は果たされた。

シーーン、となる空間が音のように聞こえて仕方がないが、何も後悔はない。

だが、やはり悪はしぶといらしく直ぐにがばっ、と起きる。

両足がないのからこちらには来ないがそれでも心底心外という表情を張り付けてこちらを見ている。


「待て……君は大きな誤解をしている」


「例えば?」


自分でも冷たい言い方と半目をしているのが分ったが、止める気が余りない。

だが、彼は負けじと不思議なポージングを取りながら説明シークエンスに入る。


「いいか? 君は今まで寝ていた……というよりは気絶して寝ていたのだ。ここまでなら普通に寝かせてあげるべきなのだが、不意に君が苦しそうに身を捩ったり表情を浮かべたりしたのでね。夢見か……もしくはどこか痛むのかと思った。ここまではいいか?」


成程。

それなら理解は出来る。

夢か痛みか。

起きて忘れてしまったからか。何も思い出せないが、そんな風に苦しんでいる私を見て、彼は何とかしようと思ってくれたのだろう。

少しだけ罪悪感が心の中で浮かぶ中、彼の説明は続き


「故に君を楽にしようとするには俺は考えた───これは心臓マッサージをしなければ、と」


「───そこが致命的間違えです……!」


そんな馬鹿なという表情でくねくねと体をくねらせる変態を見て、とりあえず体を隠す。


「待つんだ! 俺は君の事を心底心配に思ったこそ心臓マッサージをしようとしたのだ……! そこには決して義務以上の劣情は勿論あったに決まってるが何か問題があるのかね!?」


「ひ、開き直りましたね!? 開けっ広げに叫んで許されると思ったら大間違いですよ!」


「生物は一度は親や周りに素直に生きて下さいねと教育されるだろう? 俺はそれをこの年まで実践できるよう努力しているだけだ。それを悪いというのならば間違いなく俺ではなく周りの人間と教育が悪いのだよ」


「今度は周りに責任を押し付けました……!?」


自由過ぎる。

ネガティブ人生を送って来たのにどうしてこの人はこんなにもハチャメチャな性格をしているのだろうか。

もう少し法律を気にするべきな気がする。

というか


「一体ここはどこで……」


どうして私は寝ていたのか。

そう訪ねようとして息を吸うようにして倒れる前の記憶を唐突に思い出した。


「───あ」


まるで映画の1シーンを見ているかのように客観的に思い出す。

自分は彼の為に作り置きしていた料理を厨房に取りに行き、それを盆に乗っけて持っていこうとしていたのだ。

そしたら途中でいきなり目の前が真っ黒になったのだ。

それが停電によるものだと気付いた時は首に何かがかかり、絞められ───そこから先は都合よく何も覚えていないことに気づき、本当に数秒、体が時間凍結したかのように止まり


「───ぅっ」


吐き気が一瞬で体を支配し、そのまま手を口に当て、逆らおうとする意志が浮かぶ前に胃から込み上げるものがそのまま口に逆流するかというタイミングで


「───落ち着け君」


口元に運ばれた両手を彼が握ってくれた。

手を握られた恥ずかしさよりも手を握ってくれた事実に莫大な安堵が体を駆け巡るのが分かったが───またもや唐突に。握られている自分が赤く見える幻を見たような気がして思わず、離そうと暴れようとするがむしろ彼は更に握る力を強め


「大丈夫だ」


根拠もない一言をくれた。


「……あ」


その一言に力んでいた体が一気に力を失った。

何の根拠もない言葉で、しかも他人の言葉だ。

本当なら、こんな言葉で自分を許すのは言語道断な気がするが───嘘でも支えてくれる人がいたという事実が堪らなく嬉しい。

きっと、数秒後には惰弱な自分と罪悪感を感じる事は間違いないけど……そういえば大丈夫だ、と言われたのは何時以来だっただろうか───






とりあえず、自暴自棄は避けられたと加山は思う。

自分が殺人をしたと思った少女には落ち着いた時に、襲った相手は死んではいないという事を説明した。

それを信じてくれたかどうかは知らないが、それでも彼女が冷静さを再び失わなかった事は事実だ。

だが、まぁ、やはり力を振るったという事実は拭えないのか。

体育座りをして、体を抱き抱えている。

まるで夜の闇に怯えるのを堪えている様に見えるのは決して誤解ではないのだろう。

彼女のその怯えに理解出来る……とは言える立場ではないのだが、一方的にそう思っただけだ。

そう思っているとポツリ、と彼女が弱弱しくもはっきりと彼女の口から言葉が溢れてきた。


「……解ってはいるんです……もう、こんな……迷ったままじゃいけないって……」


膝をギュっ、と音がなるような感じで更に力を込めながらこちらを見ずにただ話を続ける。


「でも……さっきのように対峙するとどうしても私……自分が酷く場違いな存在に思えて……戦うどころかいるだけで何もかも───」


彼女が口を濁した部分を敢えて俺は何も理解していない振りをして聞き逃した。

そのこちらの無言をどう捉えたのか。


「聞きたかった事ってこれなんですよね……?」


膝で隠していた顔をようやく、といった感じでこちらに向ける少女。

まるで直ぐに眠りにでも落ちそうな微笑で彼女はこちらを見てくる。

その笑顔を見て、俺はどう応えればいいのかを悩んで……結局、沈黙を選び彼女の言葉を聞く事を選択した。

こちらの再度の無言を彼女はクスッ、と笑い


「多分、加山君は頭がいいので大体、想像出来ているんだと思いますけど───私、竜族なんです」


サラリ、と彼女は真実を告げた。


「───」


確かに予想はしていたから別に驚きはしなかった。

勿論、どういう経緯かは依然不明だ。

恐らく、助け出したのは元中将だろうけど竜との接点がどこにあるか謎だ。

だから、それに関してはそれこそ今は無視する事柄だ。


「成程。それならば先程の連中に狙われるのも無理はないっといったところなのだろう」


「……そうですね。私、その気になればこの街くらい一人で壊せるかもしれないんですよ?」


クスッ、と疲れたかのように笑う姿を見て、俺は素直にただ、そうかと答えただけであった。

すると答えが不満だったのか。

それだけしか返ってこない事に疑問の表情を顔に刻み


「そうかって……それだけなんですか?」


「何やら君は自惚れている様だが───街を一つ壊す事などその気になれば人間でも出来る」


ミサイルのスイッチを押すのでもいいし、爆発工作でもいい。

最も簡単な方法は異世界の来訪を知らせる警報のスイッチを切ることかもしれない。

その気になれば一日でこの街は滅びるだろう。

何も竜だけの芸当ではない。

そう答えると本当にびっくりしたという表情になり


「おじさんと同じ事を言うんですね……」


「それは遺憾な事実だ」


まさかあんな爺……英雄と同じなどと言われるとは……


せめて、もう少し若々しいのと比較して欲しいものだ。

それに俺はあそこまで性格が折れ曲がってはいない。

自分はあれよりも上なのだから。


「でも……私はそれこそ機族の兵器も獣族の攻撃も魔族の魔法も余り効かないんですよ?」


「だが、不死身ではないのだろう?」


でなければ彼女以外の竜はどこかに生きている事になる。

不死身と言うのはその生物に死が内包されていないという事だ。

まぁ、世界が崩壊するという事に巻き込まれたらどうだか知らないが、不死身なら彼女以外にも他世界に逃げて生き延びる事など容易い。

まぁ、その可能性はない事ではないのかもしれないがそれでも限りなく低い可能性だとは思われる。


「それにだ。君はどうも勘違いをしているような気がするから一応、言っておこう?」


「……? はい?」


小首を傾げる姿が小動物っぽいなぁ、と思っていると竜というのも意外にそういうのなのかもしれないと思いつつ


「俺は世の中には人を殺す理由はあっても殺していい理由はないと思っている」


「───」


殺すのと殺していいのではそれは何もかも違う。

殺すというのは徹頭徹尾己の理由を持って殺すという意味であり、そこに善悪の概念はあったりなかったりである。

殺していいというのはそれではまるで殺す事が許される事であるかのようではないか。


「許されていい殺人、認めてもいい殺人なぞどこの世界にもあっていいものではないと俺は思っている」


人を殺すなどまともな理由では正当防衛以外にあるはずがない。

だから、戦争というものがあるのだ。

人が最後に縋り付く理由など簡単なものだ



───死にたくない。生きたい。



その本能の訴えがこうして殺人を許容する。

人を殺していいから殺しているわけではない。殺さなくては生きれないから殺すのだ。

そうでなくてはただの快楽殺人者の群れである。


「で、でも……例えばその人を殺したら世界が救われるっていうそんな馬鹿みたいな理由が罷り通るような事があったら───」


「そんな世界滅びればいい。一人殺されれば救われるなどというくだらない世界など馬鹿げている」


生きる為に世界があるのだ。

死ぬ為に世界があるのではない。

勿論、この考えが世界から見たら傲慢に見えるかもしれないが、俺はこの意志しか頭にない。

他人の考えで揺らぐようなモノは意志とは言えないし、変えるつもりもないからだ。


「だから、別に君が戦う必要性など存在しない」






本当に私は、彼が何を言っているのか理解できなかった。

翻訳されているから言葉が理解出来ないというわけではないというのに、まるで本当に異世界の言葉を聞いているように錯覚する。

でも、やはり意思とは別系統の脳がその言語を正しく理解して受け止めてしまう。



戦う必要性はない。

戦わなくてもいい、と。



「そ、そんな事……!」


「何故ないと言うのかね?」


先取された台詞に何故かどうしようもない感情を覚えるが、それでも憤りに近い感情が口を動かす。


「わ、私は……最後の竜であって……!」


「君が最後の竜なら戦わなくてはいけないなどと誰も決めてなどいない」


「戦力としてもとても強くて!」


「強ければ戦わなくてはいけないなど誰も決めてなどいない」


「そ、それに皆さんもこちらの意思を待ってくれているのに!」


「待っているからそれがどうした」


彼の全否定に何故か、自分の全てが否定されているような勘違いの感情が芽生えてぞっとする。

いや、それはあながち間違いではない。

何故なら


それを否定したら……私はこれから何をすれば……


きっと呆然としてしまっただろう。

そんな私を───彼は自嘲の意味の苦笑をしながら


「まぁ、俺もこんな風に柄に合わない人気低下の説教をしているが、その実、戦う理由とやらを忘れている馬鹿だ。半分は戯言だと思って聞いていいのだが───やはり嫌々戦場に行くのでは生きて帰って来られる確率は低いのはどの世界でも同じだ」


だから


「君は君自身の視点で未来を考えるべきだ」


言われた言葉に、そういえばずっと考えていなかった言葉をつい、鸚鵡返ししてしまった。


「未来を……?」


「過去からでは君を意志を決められないのだろう? なら、考える場所が間違っているのではないかと思ってね。過去(今まで)で考えられないのなら未来(これから)で考えた方が君には適しているのかもという……まぁ、適当なアドバイスだ」


最後の最後で微妙に自信がなくなったかのように適当に言った言葉に思わず小さくだが口を歪ませてしまう。

どうせなら最後まで言い切ってしまえば良いだろうに。


未来を。


未来かぁ。

未来という言葉を主軸に考えると、考えがあるとは言わないがそれでも何故か過去の事を考えるよりもすっきりするように感じるのは現金なだけだろうか。

もしくはただ単に未来という言葉が何故かいい言葉に思える子供なだけだろう。

でも、確かに過去という考えで考えると幸福だった思い出も当然あるが、嫌な思い出の方が比重は大きい。

でも、未来はよく言われる言葉で例えるのならば白紙だ。

勿論、それはネガティブに考えれば今よりも最悪な未来に辿り着く場合があるという事だが、逆に言えば


今よりも幸福な未来があるかもと思うのはただの妄想ですよね……?


もしくはただの都合の良い願望。

砂糖の味しかしない甘々未来。

でも、子供の特権か。

未来を空想するのは楽しいと思える。

そう思った時点で自分に驚く。

久々に楽しいと思考するとは。

それもたった一言。

過去ではなく未来に目を向けてみてはというただ、そんな一言を聞いただけでこれはちょっと自分はチョロ過ぎではないだろうか。

なんだかなぁ、と思いつつ、苦笑していると


「そしてもう一つだけ。君の勘違いを正したい事がある」


いきなり彼からわざとらしい咳と共にそんな言葉を言われた。


「え……? も、もう一つの勘違いとは……?」


一体、何だろう? と本気で疑問に思っていたら何故だか心底、仕方がないという溜息を吐いて


「確かに君の種族の事も聞きたいと思った。それについては誤解でもないし否定もしないのだが……俺が一番に聞きたかった事はそんな事ではない」


「そ、そうなんですか?」


それは失礼な事をした。

確かに、こっちは勝手に彼に決めつけたような言葉を吐いてこちらの世界に引き込んでしまっていた。

私が隠している事といえばそれくらいだったので、きっとそれなのだろうと思ったのだ。

だが、彼からしたらまだ私は秘密の塊なのかもしれない。

なら、答えるのが礼儀というものだと思うし、先の彼が言う似合わないアドバイスのお礼をすると思ったから何です? と素直に答えると何故か彼は多少、言いあぐねたかのように詰まったが、結局、数秒で覚悟し


「単純に───ここまで来たのならば秘密にしている君の名前を聞かして貰いたいのだが?」


何だか今日はマンガみたいな表現を使うことが多い。

今度は間違いなくポカン、としたという表情を浮かべたはずだ。

それに形だけの苦笑をしている加山君を見ながら、呆然とした頭で考える。


いやいや、だってあんなに物凄く芝居がかった言葉と雰囲気で聞きたかったのは私の名前?


それこそ、彼のこれからに必要になるかどうかは謎なのに?

それを私が竜とかそんな事は二の次に私の名前を知りたかったって。


「……新手の口説き文句ですか?」


「まさか口に出されて言われるとは思ってもいなかった」


そして、多少、自覚していると返して、しかし目で返答は? と聞かれているので今度こそ微笑しながら


「───」


と、本名を告げる。

それに対してやはり返ってきた反応は


「……?」


というものであった。

それに微笑が曇りそうになるが、そうすると彼がこちらを気遣うのはもう理解している。

だから、彼女はその微笑を維持しながら


「……カレンでいいです。多分、この言葉が私の名前に該当するものですから」


きっと、聞かされた彼からしたら何を言っているのだろうと思っているだろう。

しかし、彼はやはり頭の回転が速い。

直ぐに何故、私が彼に本名を告げないのか。

先程の音の羅列が何だったのかを直ぐに理解してくれた。


「……俺には君の名前を言う事が出来ないのか?」


「……はい。これは別に言葉の問題じゃないです。単純に生物としての器官の問題ですから」


「しかし、君の今の姿は人間ではないか」


「確かに今の私の姿は人間です。人間ですけど……どちらかと言うと竜という存在を人間のスケールに顕現させているみたいなものですから。この状態でも十分に私は竜なんです」


「ふむ……つまり、変身ではなく竜という属性のまま人間になっているという形なのか……?」


「ええと……多分、そんな感じです」


使っている自分が言うのもなんだが周りからしたらかなりの高等魔法である。

知り合いの吸血お姉さんが言うには


「理論吹っ飛ばして量の暴力だわーー! 質よりも量って事!? いやらしいわね! お姉さん大歓迎よ!? 私も偶にはドバドバ浴びたいわーーーーー!! ───血を」


かなり猟奇的だったので丁重に何かをお断りした。

まぁ、確かに魔族の人から見ても私の魔力量がおかしいのは認めているし、理論をすっ飛ばしての魔術ではある事は認めている。

それでも聞かされる側からしたら眉唾物の説明である事も理解できるので無理はしない。


「では、カレンと。しかし───確かに君にこの名は似合っているな」


ド直球の言葉に流石に頬が赤くなる事を止められなかった。

この人の羞恥の境界線が未だに理解出来ない。

それともからかっているのだろうか。


「そ、そういえば! ここは一体どこですか?」


「ああ。あの家に流石に留まるわけにはいかないという事なので、避難したのだが……避難した先はまさかの避難用のシェルターだ。しかも、超豪華版だ」


「ああ……それはきっとおじさんが別名義で買ったセーフハウスの一つですね。何でも登録した認証がないと入ってきた人は記憶をなくした後にこの前線基地から離れた街でオタクになって見つかるらしいです」


「成程。男ならいいが女が潜入したら恐ろしいな。その覚醒の方向性にもよるが……いや、男でもか」


でも、別に大した話ではないので深く語る必要はないだろう。


「まぁ、情報収集と言っていたがもう2時間近くになるが───」


「待たせたな二人とも! 儂、参上!」


「───御覧のようにこのファッキン爺は年齢詐称の可能性があるようだ」


「加山君加山君。無理矢理過ぎて話が通じてませんよ?」


唐突なおじさんの登場に焦ることなく胡乱な目つきで見ている彼に対して、何で加山君はおじさんに対してこんな挑戦的なんだろうと思うが、それは流石に踏み込み過ぎだろうと思い自重する。


「情報収集は終わったのだろうね元中将。でなければ俺とカレンのイチャラブ空間に侵入する罪はとてもじゃないが許されないのだが?」


「戯言は無視して、二人の青春ラブの会話はこの儂が聞き届けた……!」


隠そうともしない聞き耳発言に流石に恥ずかしくなって怒ろうかと思うが、おじさんは気にせずにサムズアップしてこちらを見る。


「では、この年齢=人生経験の儂がその青春の答え合わせを引き受けてやろうではないかっ」


「その年で俺達みたいなヤングの心理を理解するのは無理であろう。年寄りの冷や水という格言を聞いた事がないか? ああ……痴呆のせいで忘却したか。寄るな元中将。加齢臭がする」


「貴様! 年を取った事によるマイナス要素を全て言いおって……!」


「年寄りの妬みはよくないぞ。俺を見習いたまえ。実に純粋無垢だろう?」


「……もしかして加山君だけ翻訳が間違えています?」


それはきっと気のせいだ、と告げる彼を無視する。

ツッコミを入れた後に彼の会話を聞くと加山君時空に引き摺り込まれるのだ。

最近、理解した。

理化したけど、これからも何とか出来るだろうかと思うと不安になる。

餓えた獣と一緒にいて喰われるか、喰われないかと言っているようなものである。

何と恐ろしい。

実はここが本物の魔界なのではなかろうか。

そう冗談な事を考えていると急におじさんはまじめな声音で


「本来なら儂も気長に……とは言わんがもう少し時間をかけて悩んで欲しかったのじゃが、残念ながら世界というのがせっかちなせいか。若者の悩みの時間もくれないようでな───悪いが荒療治で行かせてもらうわい」


時間がない。

荒療治。


その二つの単語で嫌でも予感というものが悪いものになる。

さっきまでの地位さけど確かにあった和やかな雰囲気は名残すら無くして消失した。

それだけで大体の事情を察する事は出来た。


もう、このまま日常に戻る事はないのだ、と。


同じ事を思ったと思う、加山君はそれを溜息を吐く事で整理し


「それは素晴らしい事とは思うのが、その具体的な荒療治の方法は───」


「何、お約束というものだよ───君が少し嫌な物を思い出せばいいだけだ」


嫌な物を思い出せばいい、という単語に、流石に加山君も顔を少し歪めるが、それでも文句は何も言わなかった。

でも、きっとそういう反応をすると思った。

だって、この人は理由を忘却しているだけで……きっと、もう覚悟している人なんだ。

私はその両方がない。

彼の言う、戦う以前の問題。


私は思う───戦う理由を見つけなければ、と。


彼は言う───戦う必要はない、と。


私はその二つの言葉。

どっちに重きを置くべきなのだろう。

竜としての価値を置くのならば間違いなく前者である事くらいは分かる。

余り、戦った事がない私でも理解している。

この身をどんなにか弱い少女に変身しようとその属性は竜という名の天罰に近い。

人が力を合わせれば、それを砕く。

獣が力づくで挑めば、それを壊す。

機械が力を作っても、それを潰す。

魔族が魔を持っても、それを滅す。

本当に自分が言うのもなんだが───天災と同レベルと言われても何一つ文句は言えない。

目の前にいる二人はそれを正しく認識しているのだろうか。

出会ったばかりの加山君も、助けてもらって長いおじさんも私をまるで人のように扱う。

二人は似たような事を私に告げた。


君がする事は人間にでも出来る、と。


それはきっと正しい。

彼と出会った時のように絨毯爆撃をしたり、獣族が数を揃えて侵略したり、魔族が大規模の魔法を使えば私と似たような戦果を出そうと思えば出せるだろう。

でも、私と決定的に違う部分がある。

人間、獣族、機族、魔族が私と同じような事をするのに多大な準備と労力が必要ではあるが、私はここで少し元の姿に戻って暴れればそれだけで被害は甚大だ。

手足を動かすだけで、きっと夥しい死を振りまけられるだろう。

そんな力の方向性を。


私は正しく選べるのでしょうか……?


自信は全くない。

そもそも、戦争という状況下では何が正しいのか。

何も見えないし、掴めない。

でも、出来れば


道を示すんじゃなくて……隣にいる人が……


例えば、自分が間違っているんじゃという猜疑に、そんな事はないと言ってくれる人。

例えば、罪悪に押し潰されそうに弱い自分に対して大丈夫だ、と竜である私にそう語ってくれる人。

どちらも多少の事故の否定が混じるであろう行いであるはずなのに、本気でそんな事を言う人。

ちらり、と彼を見る。

その無表情からは流石に何を考えているかは私では読めないのだが、それ以前に読もうとしている自分に驚きだ。

最早、自分を誤魔化す必要などないのだろう。

そんわけない、と思っていたし、余りにも短い付き合い過ぎるとも思っていた。

そういった事に興味がないわけではないが───普通に諦めていたものであった。

これに関しては絶望でもなんでもない。

ただ単に、一皮剥けば違う生き物の自分が姿形は似ていても生き物として別種の存在にそういった感情を向けるはずがないという感性から来るものであった。


そういった事を覚えれば人は変わるなどとよく言うが、竜の場合はどうなのだろう


と少しちょろいな自分と思いながら自分の頬に手を添えながら、とりあえず彼の車椅子を押そうと思った。

もう何もかもが動き始めると鈍い私でも予感を感じながら。







感想、評価よろしくお願いします。


タイトル通り次回から急展開……にしたいと思っています!!


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