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リノベーション・サガ   作者: 悪役
3/6

これからと現在

嫌な予感といったものは勿論、消え去ったりはしなかったが、命の恩人である少女のお願いに応えない程恥知らずのつもりではない。なので彼女に押されるまま、彼女がおじさんという人物のいる部屋に向かった。

外の様子などを見たいが、やはり予想通りこの家は地下にあるので窓などついてない。

地上にある方がそれは息苦しさはないし、生き埋めされる可能性はあるのだが警報がなる度に外に出られるのでは危険と言う判断から家は地下シェルターと同様な造りになっている。

その判断自体は間違ってはいないので文句の付け所はない。


「空気穴が塞がったらかなり苦しんで死ぬがね……!」


「盛り上がる煽りを言うのは止めましょうよぅ……」


苦笑しながらこちらの車椅子を押してくれる少女は、段々とこちらの付き合い方を理解してくれたのか。

冗談にも苦笑で済ませてくれる。

この仲が良くなる、という感触は不思議な感じだがいいものだと素直に思う。

そうか、と今更思う。


これが人生初の異性の友達……!


気付かずに素晴らしい存在を手に入れていたとは。

いや、だがよく考えればこっちが勝手に思っているだけで相手に伝えていない。

それに友達になるには


軍学校の屋上で殴り合うのが青春だと言われている!


うちの父が昔、そんな事を言っていた気がする。

では、友達になるには彼女を軍学校に連れて行って殴り合いをしなければいけないのだろうか?

そこまで考え、先程の光景を思い出す。

いや、肉眼では見ていないのだが恐らく外側から見たらこうなっていただろうという光景だが。

普通のベッドが涙目で慌てている少女の細腕で三回転くらいベッド返しをしている光景を。

友達になるにはあのレベルのパンチを二桁以上喰らわなければいけないのか。


試練か……!


素晴らしいモノを手に入れるには並大抵の努力では手に入らないという事なのだろう。

必要なのは根性か。

今度は半年くらい入院するかもしれない。


「……あのぅ? さっきから凄い真剣な顔をしているんですが……」


「いや、済まない───大事なモノを得るには人は必死にならなければいけないという当たり前の真理にぶつかってね」


「???」


努力するというのは命懸けなものだな……と思いながら、せめて腹筋くらいは鍛えようかと思っていつつ、目の前のドアに向かっているのを見るとそこが例のおじさんがいる場所らしい。


「念の為に聞いておきたいのだが、君のおじさんはどういった人なのかね?」


「どういった……うーーーん……」


表情を見ると説明していいのかしら? というのではなく、どう説明すれば……という感じであった。

つまり、一言で説明するには難しいという感じである。

一言で説明する事が出来ない人物───という事は周りの合理的な人間とは違うという事なのだろうか。

彼女の態度も嫌な人物に出会うわけではない。

今までそんな人物はそれこそあの悪友ぐらいしかいなかったというのに。

もしかしたら、俺は運が悪かっただけなのだろうか。

まぁ、今となってはどうでもいい事である。


「じゃあ、質問を変えよう。おじさんの名前は?」


何時までもうんうん、唸っている彼女を見るのは悪くはなかったのだが流石に悪いだろうと思い、簡単な質問に変える。

それに対しては、答えやすい質問だったが故に直ぐに頷き


「名前は藤山剛って名前です」


逆にこちらが驚いてしまった。





「ようこそ、加山君。調子はどうかね?」


初対面の老人……というにはまだ少し若く見える初老の相手と会った最初の一言は何気ない台詞であった。

多少の白髪は目立つが、まだ黒髪の方が多く残り、皺もそこまで目立っておらず、しかも


これは……


肉体の方はとても5,60の人間とは思えない程がっしりしているのが服の上からでも見える。

普通のカッターにジーンズという私服だが、その下は間違いなく、今まで鍛え上げてきた肉のそれだ。

年齢的には間違いなく、それが衰えている状態なのだからここまでの生き様が知れる。


全盛期の時はどんな怪物だったのだこの人は……


両足が健在の時の自分が、今のこの人と戦うとどうなるやら。


「……調子は万全です。手厚い看護、痛み入ります。藤山元中将」


「固い固い。気楽におっさんでも御老体でも爺でもいいから好きに呼びたまえ。それに家で既に終えた過去を持ち出すのも無粋であろう?」


かっかっかっ、と笑いながら、過去の猛将は笑って済ませた。


藤山剛。


この名を如何に合理を重んずる世界であっても、人気という意味で言うならば間違いなく人族の過去最大の英雄である名前である。

成果に関しては上げだしてはキリがない。

将としては言うまでもなく、兵としても強者であったとか。

てっきり、かなりのインチキが入っているデマだと思っていたのだが、こうして見るとデマではなさそうだ。

だが、相手が固くなるなくてもいいと言っているのであれば自然で良いということなのだろう。

この部屋もそういった固さを取る為か。

少し、広いかもしれないが周りは本やら何やらで囲まれており、俺から見たら右横になんかは人が入れそうな段ボールすら置いてある。更には機族の壊れた人形兵器でも持ってきたのか。鎧みたいな機械人形まで置いてある。

とりあえず、大きな段ボールを少し見て……眉を顰めながら元中将と相対する。


「では、期待に応えて御老体とでも? ともあれ、世話になったようなのでお礼を言わさせて貰います」


「ふむ……では、そのお礼の分、この枯れた老体に付き合ってくれないかの?」


「御冗談を……」


とてもじゃないが枯れているように見えないではないか。

かっかっかっ、と豪快の笑いをまたしながら、さらりと


「実は君の力が欲しい。協力してくれないかね?」


余りにもさらり過ぎながらも強烈な一撃を受けたような気分をこの場に与えた。


「……」


車椅子の後ろの方でギシリと唸るような音を聞く。

つまり、彼女の方もいきなりの発言に驚いているという事である。

だから、わざと自分も鈍感を装って発言に乗り掛かる。


「自分の器からはみ出ない程度なら……と言いたい所ですが、生憎、この通りの様でして。手伝う所か、掃除すらままならない身でして」


「ふむ……とりあえず敬語は抜いて構わないよ。というか、君の言葉で語って貰いたい」


そこまで言われたら仕方がない。

足を組もうとして……両足が無い事に気付き、仕方がなく腕を組む事で代用し


「では、言い直そう───いきなり初対面の初老の人物から力を貸してもらいたいなどと騙しの典型例みたいな手口を聞いて誰がはい、幾らでも! とおめでたく返事をするんだ?」


「───かっかっかっ! ナイスな返事だ! その口の悪さはどこで習ったのかね?」


「この程度で口が悪いなどと言っていたら人生積むぞ御老体?」


確かに! と言って笑う彼の姿に違和感を感じる。

またもやかっかっ笑いを繰り返す老人の姿を見つつ


「あの笑いのセンス……どう思う?」


「……え?」


ボーっとしていた彼女にとりあえず話を振ってみた。


「いいか? 正直に言うんだいや、言わなくていい。グッドなら親指を立て、最悪ならそれを下に向けるといい。それで何もかもが事足りる」


「だ、駄目ですよ! こんな人でも私の後見人なんですよ!?」


「うむ。奥ゆかしい答えだ」


え……と呟く彼女を悪いが無視して、藤山元中将の方を見ると笑顔で中指を立てていた。


「それがいい年した老人のする事かね?」


「それがいい年した子供のする事か?」


「無邪気な子供のする事だ。そう目くじらを立てないで欲しい所だ。大人なら子供の冗談を笑って許す器量が必要ではなのでは?」


「……ええい、この(わっぱ)……懐かしい口調で攻めてきおって……!」


最初のええいのみが耳に入り、残りの言葉をやけに小さく叫んでいたがどうせどうでもいい事を呟いているのだろうと思い、無視した。


「大体、突拍子もなく助けを求めるなど馬鹿以外の誰がすると思うのかね? やるのなら、そう。後ろの少女を色っぽく脱がせてお願い……と涙目で頼ませるくらいの用意をせずして誰が首を縦に振ると思う? 爺の頼みと美少女の頼みの重みは世界一つ分くらい価値が違うとその年で理解していないのか?」


「ま、巻き込むタイミングがおかしいですよぅ! お、おじさんも"そうだった……"っていう風な表情を浮かべるのは止めてください……!」


ふむ。


「───では、そろそろ本題に戻ろうか」


「うむ、そうだな」


後ろからの視線を強く感じたが深く気にしないようにしておいた。


「では、とりあえず言わせてもらおう───力をなどと言われてもその内容すらも語られていないのに貸すわけがない。つまり、話さない限り俺は聞く耳もない。以上だ」


「では、内容を語ったら力を貸してもらえるとでも?」


「その内容が俺の処理能力を超えず、且つ馬鹿げた事ではない限り……と言いたい所だが不可能だね」


「何故? と聞いても?」


「何故? と問う必要があるか?」


ふんっ、と鼻を鳴らしながら両足をわざと揺らし、ぷらぷらと中身のないズボンを示す。

事務仕事とかならばまぁ、まだ手伝えるが明らかに元中将の笑顔からはその程度の内容でない事は確かだ。

現場復帰など望み薄などではなく皆無だ。

まぁ、機族辺りの技術力ならば義足くらい出来そうな気もするが、敵世界に対して義足作って~と言って鉛玉が返されないわけがない。


「ふむ───そういえば儂の趣味の情報収集で、どこぞの少尉が近くの兵を助けて戦車に轢かれたという噂を聞いてね。その少尉は結果、両足切断と退役をしたというものがあったのだが、この話を聞いてどう思う?」


「馬鹿で阿呆な話だと思うね? 何が悲しくて周りの合理主義者を助けようとしたのだろうねその少尉は? そんな物好きは今頃、昨日の空襲で死んで墓の下で後悔しているのだろうな」


目の前の苦笑を心底、面倒臭いと思いつつ話は続ける。


「つまり、結論は出たな。どんな大層な話かは知らないが、俺が聞いても無意味だ。もっと有望な人間に話した方がいい」


「その結論を決めるのはこちらの方だな」


「……正気か?」


「この世界で正気を問うかね?」


「ならば、言い直そう。馬鹿かね?」


「ならば、こちらも言い返そう───我らは最大級の馬鹿を仕出かしたいのだよ」


疑惑が呆れに変換されても仕方がないと思って欲しい所だ。

全くもって何を言いたいのがさっぱりだ。


「余りにも遠回し過ぎる言い方は結構だ。法螺でも嘘でもいいから簡潔に目的を言って欲しいな」


「おや、そうかね? なら、簡潔に言おうではないか───世界平和だよ」






「何を……」


馬鹿な事をと呟こうとして呟けないぐらいの息苦しさを感じながらも、目の前の老兵を見る。

その表情は笑ったままだ。

笑ったままだが───その眼は間違いなく本気であると語っている。


「正気や馬鹿というレベルではない問題だぞ……!」


馬鹿げた事を吐いているとか妄言などといったレベルではない。

こんなものは御伽噺を現実に成立させると言っているのと同じレベルだ。

不可能なものを可能に変えるなどというのは奇跡を百乗くらいかけるものだ。


「人族、獣族、機族、魔族、それら全てを平和に向けさせると?」


「無論だとも。中々、愉快で壮大な計画であろう? わくわくせんか?」


「自殺型愉快犯の集まりかか、そっちは。そんな事を───」


「───出来る筈がない、と断言する根拠は何かな?」


その冷静な言葉に、ようやく熱くなりかけた自分を自覚する。

何時の間にか椅子から腰を微妙に上げかけているし、手すりにかけている両手が握力の限りに握っている。

それを少しずつ、元に戻していく。

らしくない。何故、ここまで熱くなってしまったのやら。

深呼吸も小さく一回し、調子を少しずつ取り戻しながら対処する。


「……根拠は当然、幾つかある。時間を取っても?」


「構わんとも」


了承を得れたので、少し襟元を緩めながら頭を回転させる。


「一つは感情面の問題だ。人族と機族は例外にしてもいいとしても、間違いなく他の種族が感情的に許せるとは思えない」


「全くもって道理だ。獣族は弱肉強食を重んじるが仲間意識は強いし、魔族はプライドが高い。予想される反発の一つではある」


人族とて感情自体はあるのだが、それよりも合理を優先する性質だ。

そういう意味ならば、感情面では一番説得しやすいかもしれないがそれ以外はどう出るかなぞ火を見るよりも明らかな結果になるが───交渉というのが感情のみで動くものではない事は知っているので、これはそういう意味でならこれを最大の問題にするわけにはいかない。


「次は当然、利の面だ。勿論、戦争が続く事によって起きる経済、物、人などという問題はあるが───この戦争は勝てば膨大な土地を得る事が出来る。無論、それ以外も世界によって違うが」


世界を丸ごと一つ侵略し、得る事が出来るのならそれは間違いなく莫大な利益だ。

今まで失ってきたモノの補填には十分過ぎるものであり、更には破壊の規模には各世界にとっての未知な技術や物を得る事が出来るかもしれない。

これに勝る利というのはかなり難しい。

世界と対価に得るモノなどこの世にあるはずがない。

世界という品の前では金も名誉も地位も女も負けるものである。


「更に、世界平和をするには信用というものが必要だ。どういう風に世界を平和に導くのかは知らないが、人族が主導となるのならどう足掻いても信用性は皆無と言われても何も反論が出来ない。むしろ、俺もその点に関しては擁護しよう」


信用という言葉は大嫌いだが、必要な言葉なので使うしかない。

信用は間違いなく必要だ。

始めた後も、始まる前にもその信用がなければ何も出来る筈がない。

ましてや世界平和などという荒唐無稽。

それは人族はおろか獣族、機族、魔族と異世界人に対しても勝ち取らなければいけないというのなら難事という以外に何と言う。

ただでさえ、人族は嫌われ種族だ。

信用を勝ち取るというのは不可能……とまでは言わないが、当然、厳しい課題の一つである事は確かだ。

これ以外にも細かな事情などは数えたら幾らでもあるだろうが、今はとりあえずこの程度でいいだろうと思い、結論を先に出す。


「19の小僧でもこの程度の問題点が出されるのだ。貴方から見たら問題点はもっとあるくらいは理解しているだろう。山積みし過ぎてどこから手を出すかも考え物だ」


人族の英雄から見たら、それこそ山のような問題である事は承知のはずだ。

あらゆる意味で世界平和なぞ問題だらけなのだ。

戦争をし続けるよりも難問だ。

問題の積み重ねを受けた元中将は苦笑しながら、それに頷く。


「間違いなく、その通りだ。問題は山積み過ぎて山どころか星にまで届きそうだ。塵も積もれば山になるという格言は中々使いやすい───が、それも最悪な天災が迫っているというのならば別だ」


「最悪の天災……?」


それが最悪の兵器とかならば解ったが、天災というのはどういう事だ。

天災が最悪というのは勿論、解っているが、天災というのはあくまで一世界の恐怖だ。

そういう意味で言っているならば、理解できるが……もしもこれが全世界共通のという意味で言っているのならばどういう事になるというのだ。


「どういう事だと、聞いても?」


「それを語るにはこの戦争の始まりについて語らねばならん」


「……つまり、遠回しで婉曲な話からか」


結局、回りくどくて時間がかかる話になるらしい。

組んでいた腕を手すりに肘をつけて、その拳に顔を乗せる形で溜息を吐く。

だが、ここまで聞いておいて聞かないという選択肢も自分にないのも確かだし


「ここまで聞いたら協力しなければ、という奴か?」


「そこまで狡い三流悪党台詞は言わんよ」


信用するべきか、しないかを確認するべきかと思うが、よく考えれば自分は再起不能の身だ。

もう、この時点で煮るも焼くもお好きにという状況であった事に気付き、ならば別にどちらでもいいかと思い


「さて……長い話というのならば後ろで色々と呆然としている御嬢さんへの椅子とジュースくらいは貰えるのだろうか?」


と、適当に言っておいた。






「まず、最初に聞いておこう。君はこの戦争が起きた理由をどこまでをどんな風に知っている?」


「典型的な教科書知識でしかないがな」


聞こう、と言われるので自分もそれなら、と応じ、答える。


「戦争の発端はあの"扉"の出現……つまり、32年前……貴方もまだ20代の頃だ」


「その頃は儂は自分の事を俺と言ってた青春時代だったのぉ……」


つまり、発端の当事者の生き残りである。

今の人族に、その頃からの生き残りは果たして何人いる事やら。


「生まれていなかったのでどういう状況だったかは知らないが……かなりの騒動が起きたのではないか?」


「起きた起きた。それはもう儂等のような軍人はそれこそさっさと武器を集めて異様な扉に集まってがたがた震えていたわい───まぁ、出てきたのは余りにも予想外な生物だったが」


「───竜族。かつての最強異世界種族」


隣で椅子を貰って、座っている少女が今の言葉に反応したかのようにぴくっ、と動いたが、意図的に無視をした。

それにしても、今も十分にファンタジー濃密なのだが竜を見た事がない自分としたらどんなものだったのかは好奇心があるが、見る事はあるまい。

だが、当時の人間……周りの普通の人間については知らないが、目の前にいる元中将のような人間からしたらいきなり現れた異世界の存在というのはどうだったのだろうか?

今の俺達からしたら異世界人はいるものだという常識がある。

しかし、32年前は異世界人はいないものだが常識なのだ。

自分とは全く違う生物が、まるで隣人のように"そこ"にいると示唆された。

悪夢に近いものであったとしか思えないが、生まれていなかった俺がそれを理解するのは難しいだろう。


「そして、その竜族から侵略宣言を出され、紆余曲折を経ながらこの時ばかりは人族、獣族、機族、魔族の共同戦線を持って竜族を滅ぼした」


「───と、いうがとでも言いたげだね?」


「当たり前だ。こんなもの不満所か杜撰さに呆れが来る」


違和感を覚えない方が阿呆としか言いようがない。

情報操作というのは何時の時代にでもあるものなのだろう。


「……まぁ、結論を終わらせよう。竜族は滅んだが……逆に最強種族を滅ぼしたが故に互いの疑心暗鬼は拭い切れないものになった。後はもう戦争になるのは非常に簡単で当たり前の結果でした。ちゃんちゃん、と。まぁ、かなり簡潔に語ったが概ねこんなものだろう」


「まぁ、かなり略したが、概ねはそうだのう」


苦笑されたが、長話ばかりするのは隣の少女も飽き飽きするだろう。

恐らく、彼女にとっては知っている話ばかりなのだから。


「では……色々と情報規制され、隠された恥ずかしがり屋の真実というものを教授してくれるのだろう?」


「せっかちな性格だな。誰に似たのかね?」


「真似ようとする相手などこの世にいない事をもう忘れてしまったのか? 寄る年波には勝てないとよく聞くが、実体験している経験を是非に聞かせて貰いたい。出来れば五文字で」


「くたばれよ」


「断る───では話の続きを聞かせて貰おう」


眇めで見られるが気にする必要性が無いので無視した。


「そういえば君も長時間、話に付き合っているが体は大丈夫か?」


「え?」


長い間、放置されていたからか。いきなり語りかけられた言葉に反応するのに数秒時間を置いて、慌てて両手をぶんぶん振って反応した。


「い、いえ! 別にだ、大丈夫ですっ……どうぞお構いなく……!」


「そうかね? ああ、まぁ……ここまで色々聞いたのならば君にも聞きたい事があるから覚悟しておくように」


「え?」


二度目のえ? には取り合わずに、視線を元に戻す。


「では、隠された真実その一をパパッと発表しよう」


「うむ。では、隠された真実その一!」


じゃっじゃじゃーーん! とどこからともなく音が鳴ったが芸が細かい。

この老人、見た目と精神年齢が間違いなく狂っているタイプか、と思いつつ、とりあえず拍手でもしておいた。


「───実は竜族は侵略などしようとは思っていなかった」


「だろうな」


「……もう少し驚きのリアクションはないのかね?」


「では期待に応えて───な、何と!? そ、それは驚きの真実だな!? 己、人族のお偉い連中め……!」


「その挑発スキルはどこで鍛えたのだ……」


「現場と悪友で鍛えたな」


その隣で聞いていた少女は現場の苦労というのを垣間見た瞬間というのはこの事なのかと思った。

とりあえず、少女は相手になったであろう獣族や魔族の人に同情をした。

まさか、機族にもしている……とは思いたくない。


「一度、機族に対しても通じるかどうかと思い、目の前で三回転捻り唾飛ばしなどをしたのだが、怒ったというよりはヘイト値が高まったような印象だったな」


「やったんですか!?」


「当然だとも」


こちらの返事に頭を抱える始める少女に


……まさか。脳の病気か……!?


恐らく、この奇人な爺と接している内に発症してしまった世にも酷薄な病気だ。

それによって常識を疑うという症状から始まり、行動すらもおかしくなっていく末路が待っているかもしれない。

重い病気は発見速度が大事。これも後に質問する内容に入れとこう。


「で? 子供でも考えれば分かる様な内容を大層に語った元中将殿からは次にどんなドッキリをするか楽しみなのだが? どれ? 何か叫んだら面白いかもよ?」


「ショボーーン!」


「黙れくそ爺」


「ショボーーン……」


さっきから話が進まなさ過ぎる。

一体、誰のせいか問い詰めたい所だが、問い詰める事そのものが時間の無駄になりかねないので諦めて纏めることにした。


「侵略するのならばあの"扉"を作ると同時に侵攻すれば良かったはずなのに、わざわざ宣言など無駄な事をして自らが滅びる隙を見せるような馬鹿な種族ではあるまい。それで最強などと揶揄されていたのならば過去の人族はとんだ節穴揃いだ」


同時に歴史関連を纏め上げた人物は間違いなく無能だろう。もしくは余裕がなかったのか。

改竄するにも矛盾点が幾つも有り過ぎる。

習った歴史では竜族は魔族以上に傲慢な種族であった為、などと書かれているが、その言い訳が通用するのはせめてでも当時の人間達であって今の自分たちには通じない。

何故なら、俺達は竜族を知らないのだから幾らでも想像し、疑う事が出来る。

無論、史書が正しいという可能性もあるにはあるのだが。

今、否定されたのでそれはないだろう。


「ならば、竜族は一体、何を人族に……いや、世界全てに対し、何を望んだというのか?」


「簡単だ。それは実に簡単なモノだ。それ故に誰も彼もが必死になる(・・・・・・・・・・)ものだ。」


「……何?」


実に簡単なモノで誰もが必死になるもの?

金か? 否。実際に俺は生活できる程度があればいいと思っている人間だ。誰も彼もには当て嵌まらない。

地位か? 否。人や魔族はともかく獣族や機族に地位など聞いてもいらん、と返されるのが関の山だ。

女か? 否。俺はまだ理解できない事だが、確かに世界と引き換えに愛を守るというロマンはあるのかもしれないが、それだと機族がやはり当て嵌まらない。

あらゆる物や者を考えてみるが、中々───考え付いて、つい左を見る。

いきなり、見られた事に驚いた少女は、何っ? と言いたげな表情でこちらを見るだけに止まっている。

それに返事もせず、再び、元中将の方に向き直す。

なら、答えは


「───命かね?」


「中正解。掠ってはいるが正しいとは言えないな」


つまり、命は含まれているがそれだけではないという事なのか。

命は含まれており、しかしそれ以上の問題。


「食糧問題か?」


「否。小さい」


「環境問題か?」


「かっかっかっ───目に見えるまでの悪化があるように見えるかね?」


「……人口問題」


「腐るほど死んでいるのにどこも止まらんだろ?」


「……では何だと言う」


「解らんか?」


ガタリ、と両手を広げるように構えながら立ち上がる様を見て、思わず巨木のようだと考えながらも、その演技に付き合う。

ただ、老兵はにぃっ、と好戦的な表情を浮かべながら、俺に挑戦するかのようにも見える態度で示す。


「それは当たり前のようにある(・・・・・・・・・・)ものだ。人族も獣族も機族も魔族もそして竜族もその恩恵を当たり前に享受し、当然の権利の如く踏み締め、常識と言わんばかりに存在しているものだ。異常、奇跡、有り得ない、運命、神の創造など様々な思想を考え巡らしたものだ。そして、それは過去もこの瞬間にも存在し続けているものだよ!」


「そんなモノがどこの……」


世界に、と呟こうとして思考も動きも全て停止した。

待て。

待て待て待て。



そんな物語の様な結論(・・・・・・・)を出してもいいのか?



余りにもありきたり過ぎる。

そして、何よりも余りにも危険過ぎる。

正しいと思いたくない馬鹿げたものだ。

アホらしいと心底にそう思う───そう思う、こちらの表情をまるで正しいとばかりに目の前の猛将が笑う。


「竜族が我々……いや、全世界に言ったことは宣言ではなく頼みであった」


先程までとは打って変わって静かになり、冷静になった……というよりはまるで思い出語りをするかのような雰囲気を醸し出しており、懐かしさと寂しさを等量に含んだ言葉で大きな事実を口にした。



「ただ一つ───世界が滅ぶ。止める為に力を貸してくれ……ただ、それだけであった」






少女はその事実を発したおじさんではなく、それを聞いた少年の反応を見ようとした。

この話を聞いたときに返される返事は大体、決まっている。

馬鹿げている。阿呆らしい。そんな妄想があるわけがない。

色々あるが、つまるところ反応はそんなわけがないと返されるのが常だ。

そして、その反応は同じ側なら間違いなく私もそうする。

だから、きっと彼も似たような反応をするのだと思ったのだが


「……」


確かに言い倦んでいる。

言い倦んで、悩んでいるのだが……思ってたのと様子が違って


むしろ、どちらかと言うと……


「それだと納得出来る部分があると思っているのかね?」


おじさんが私が思った通りの事を彼に言ってくれたので、自分は何も言わずに済んだ。

しかし、彼はその発言を受けても沈黙を選び続けている。

その様子に苦笑に近い笑顔を浮かべながら、両の手を後ろに組みながらこちら……というより彼を見る。


「何故なら、それだともう一つの謎も納得出来るからね───どうやって竜族の世界を滅ぼしたのかと」


滅んだ。

その言葉を聞く度に胸や頭が痛くなるが、これは私に対しての話ではないのだと思い、無視を努力した。

彼の為の話はまだ続くのだから。


「仮にも異世界最強種族。つまり、一番、神に近い種族の竜族が何故、負けたのか。そしてどうして竜族の世界は滅んだのか? これに関しても、君の長年の疑問であっただろう」


「……確かに。まだ竜族が負けた事については辻褄を合わせようと思ったら合わせれるが……一つの異世界が滅んだ事については何一つ分らないことであった」


ようやく開いた口が発したのは、今までの悩みを吐き出したものだったのだろう。

19年生きた彼が考えに考え、そして答えを諦めたテーマ。

それに笑いながら回答するおじさん。


「今、竜族の世界とは扉は接続不能になっている。頭だけは切れる君の事だ。考えた答えは竜族が滅んだ事によって竜族の世界との接続が不可能になった。もしくはどこかの世界に世界を滅ぼすような技術か力があると思ったのだろう? しかし、それならば私達や他の世界もやってしまえば良いと思っただろう? 幾ら土地が欲しいとはいえ必勝出来る策があるならば使わない手はない。隠しているのが人族ならもっと合理的に使うだろうに、と思って答えを出さなかった。そんな所ではないか?」


「……仰る通りで」


頬杖をついて溜息を吐く姿がまるで負けるのを認めるのが癪な子供の用に見えて、思わず可愛いと思ってしまった。

恐るべし、母性。

自身の人格改造まで施す領域にあるものですね、と内心で深く頷く。

とりあえずの説明を聞いた彼は一応は頷いたと感じの態度を貫いて、おじさんと改めて視線を合わせる。


「全ての全貌を知った……とは勿論、言わないし全てを信じたとも言わん。証拠も十分とは言わないし、口から出任せの頭が痴呆になった老人の言葉ともまだ捉えられる可能性がある。だが、仮に全てが真実と仮定したならば、ますます意味が分からない」


「何のかね?」


「俺に話した事と誘った事がだ」


改めてふらふら、と無い両の足を見せつけるようにしておじさんに問い詰める。

こんな時とかに二人が凄いな、と思う。

彼はまだ失って一か月以上も経っていない両の足をそこまで直視出来る事を。

おじさんはその両の足を見て、それがどうした? と心底そう思っている顔と感情をしている事に。


「元中将の言う通りなら間違いなく、どう足掻いても壮大な事をするのは決定だ。その中に再起不能なたかだか一般兵を誘って何の足しになる。マイナスが目立つばかりでプラスになりそうなものは何一つない。むしろ、俺が裏切って情報を軍関係者などに引き渡したらどうする?」


愉快な事にしかならない、と首を振って呆れを示す彼。

ああ、とそれについては満面の微笑を浮かべ


「その状態で儂に勝てるとでも?」


「……」


何だか今まで一番しくじったという顔をして、降参(リザイン)の合図か。両腕を取りあえず上げていた。

正直に何故彼がそこまで悔しそうにしているのかが分らない。

男の子ルール?


「……ともあれ。無能である事には変わりない。様子を見ると書類整備などという簡単な雑務をしている場合でもないし、動き回る必要がある。粗大ゴミを連れ回しているようなものだ。ちなみに盾として使ってもそんなに効果はないと思われる」


凄い言い方……


自分をそこまで卑下……いや、これは本当に単純にそうだと思っている風に聞こえる。

自分への客観視が凄いのか、言葉を選んでないだけなのか。

どっちもかもしれないと思う。

それに関してはおじさんは顎を撫でて苦笑しながら


「言っただろう? 必要かどうかはこちらが決める事であり君が決める事ではない、と」


「……では逆に問いたい。貴方の必要かどうかの基準はなんだ? まさか、俺みたいにこの世界での異物だったら何でもいい……などと言うのならこちらから願い下げだが?」


「流石にそんな余裕もなければ意思がない人間には声をかけんよ───必要なのは悪名を背負う意志だ」


苦笑を消し、真面目な顔になりながらも懐から煙草を取り出し、ライターを取り出し、そのまま火をつける一動作が凄い手慣れたものだと変な事を思いながら、おじさんが意図的に開けた間を味わい……そしてその余韻を利用するかのように言葉が響く。


「残念ながら何もかもが余裕のない。なら、使えるものは何でも使う。武力を使い、道具を使い、技術を使い、口を使い、詐称を使い、命も使う。文字通り大盤振る舞いの世界平和と世界救出になる。そんな悪に近い行いをするのだから当然、意志がない人間など入れている場合ではない。何故なら必要となった場合はその命を捨てるなど当たり前だし、交渉に入れる事もあるからだ」


故に


「儂が必要なのは悪道を進む意志だ。決して、神話にも御伽噺にもならん。後世はおろか進行形で誰も彼もに謗られ、詰られる未来を迷う事無く進み、選んでいく諦めを排した人間が必要だ」


「……御高説は確かに正論だとも。ならば、尚更に俺は駄目ではないか。両足を失って諦めている今の俺は間違いなく貴方の目に叶わない」


「……大人ぶっていてもまだまだ子供だのぅ……自分の事が一番分っていない青春病……若いっていいのぅ……」


今度こそ完全に苛立った表情を見せる……加山君? でいいのかな?

加山君は露骨に舌打ちをしておじさんに問うた。


「さっきからちびちびと遠回しを……言いたい事があるなら率直に言えばいいではないか」


「じゃあ言ってやろう。儂は優しいからな───羊を装うならその牙をそのまま放置してどうするというのだ」





それはもしかしたら人生で一番の衝撃的な言葉だったかもしれない。

先程の世界平和宣言も世界崩壊宣言も世界救出宣言も、今の言葉に比べればショックは小さいかもしれない。


羊を装うなら牙を折れ。


何も出来ない()というのならばそのやる気()を折ったらどうだ、と。


「……遂に耄碌したか。俺のどこにやる気が───」


「ないと断言出来るのならば、わざわざ儂に問う必要があるのか?」


自分はもう再起不能だと言うのならば、他人に何を言われてもそう思えばいいではないか、と。

自分でも、それについては最もだと思う。

他人にどうこう言われた程度で揺らぐものならば、それは自分の中でしっかりと確定とした意見ではない。

つまり、それだと元中将の意見を肯定する事になり───


「諦めの意思こそが人を殺す。つまり、君はここで終わるようなキャラをしていないのだよ。むしろ君の始まりはここから(・・・・・・・・・・)だ」


それにどう答えば分からず、まるで本当に子供のように思考を停止してしまった俺を老人はむしろ開始の時よりも穏やかな目で見ており


「今日は少し性急過ぎたようだ。時間も遅いし、ここで休んでおくといい。続きは日を改めてだ」











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