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魔術師の宴  作者: 由城 要
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第22話 共鳴する

 サリム・エーベルトの変質的な観察という行為。異常で陰湿な彼の思考を誰もが否定するだろう。百歩譲ったとしても頭がおかしいという評価が下されるのは間違いない。

 でも……エメリナ様には悪いが、俺にはサリムの考えが理解出来る。今の俺だって似たようなものだからさ。






- 共鳴する -





 俺はアラセリを連れて後ろに下がった。後の事はとりあえずフレイ達に任せていればいい。けれどアラセリ嬢は納得がいかないらしく、可愛らしい目をつり上げていた。


「アイルーク!」

「何かな?アラセリ」


 言いたい事は大体分かっているけれど、わざとそう聞いた。彼女もそれを察しているらしく、怒った顔でこちらを見上げてくる。


「どうして協力しないの!?今が非常事態だって分かっているでしょう!?」

「勿論分かってるさ」

「分かってない!それに、エメリナ様はフレイのフォローを頼んだはずよ!」


 ぷりぷり怒っているアラセリの顔を見ているのも楽しいけれど、これ以上怒らせると口を聞いてくれなくなりそうだ。

 俺は肩を竦めて、前方の三人に視線を向ける。ユーイが恨めしそうな顔してこっちを見ていた。にこやかに手を振ってみせると、もう駄目だ、と泣きながらリクに引きずられていく。

 フレイは無言のまま、デルヴァ召喚の儀式を見つめていた。


「エメリナ様は何かあったらフレイが決めろ、とも言っていた」


 俺の言葉にアラセリの表情が曇る。


「あれはエメリナ様じゃなく『フレイ自身の』判断だからね。従うも従わないのも自由さ。まぁ、もちろん俺は巻き込まれてあいつと心中なんて、まっぴらごめんだから断ったわけだけど」

「っ……」


 アラセリは口を真一文字に結んで、言いたい言葉を耐えているようだった。

 俺はアラセリからフレイの背中へと視線を向ける。あいつは勿論、自分が死ぬことなんて全く考えていない。ブチ切れてるのが背中を見るだけで分かる。いつもならしつこいくらい俺の我がままに文句を言ってくるのに、簡単に受け流したのがその証拠だ。


「フレイ……」


 アラセリがそう呟きをもらした時、上空の空気が変化した。竜巻のように雲が回転を始め、徐々にデルヴァの本体が作り出されていく。時折雷の閃光が辺りを照らし、強い風が吹き付けてきた。

 前方に立ったリクがルートに指示を出す。ルートは深く頷いて駆け出すと城の壁を駆け上がり、素早い動作で暗雲に近づく。そして壁に捕まった状態で深く息を吸うと、次の瞬間、吐き出された息が業火となって雲を覆う。

 形容できない奇怪な音が響き渡った。炎が燃え盛る音なのか、それとも風が作り出した音なのか。リクはその気配を察知してユーイに声を投げる。


「反撃がくるぞ、ユーイ!」

「なっ!?ちょっと、待っ……」


 焦った声を出したユーイが結界を展開させるのとほぼ同時。突然俺たちの前に出現したのは、あの中庭で見た精霊だった。鳥に分類するには可愛げのない巨体を踊らせながら、鋭いクチバシを振っている。それが前方に3羽、後方に3羽。


「な、なんなんだ、これは……」


 ユーイがそう声をあげるのも無理はない。サリム・エーベルトは上空ではデルヴァの契約を行い、下界では計6体の精霊を操っている。普通の魔術師なら考えられない魔力の許容量。流石、当代最高の魔術師だけはある。

 俺はちら、と後ろの精霊に視線を向ける。精霊はまるで餌箱の餌を喰らうように俺たちに群がるが、ユーイの結界に弾かれて食事にありつけずにいる。オルディオはデルヴァに対して数分も持たないと答えたが、精霊6体の攻撃を全て防いでいるのなら及第点と言っていい。

 しかし本人はやはり動揺の色が隠せないのか、泣きそうな顔でフレイに叫ぶ。


「おい、フレイ!やっぱり無理だっ。アイルークも言ったが、負け戦だぞ、これは!」


 必死の呼びかけにも応じず、フレイはずっと何処かを見つめている。僅かに伝わってくる魔力の気配から察するに、ヴァルナを顕現させるつもりだろう。

 俺の隣にいるアラセリも、フレイへの魔力供給に忙しいらしい。彼女の後ろに現れたサーティが両手を広げ、そしてパチン、と手を叩いた。その瞬間、アラセリの魔力の気配がさざ波のように一気に引いていく。

 スゥ、と息を吸う音が聞こえた気がした。次の刹那、黙っていたフレイが口を開く。


「イデア・トゥルーン・レ・ヴァルナ」

「――っ!?」


 背中に氷を滑らせるような感覚。思わず振り返ったのはユーイとリクだ。俺は2人と目が合うと、首を横に振ってみせた。

 俺は首筋に右手を置いて深く息を吐く。結界の前方に現れたヴァルナはこちらを振り返らず、此処からは背中しか見えない。

 固まっていたユーイが、数拍置いて我に返った。そしてギャア、と絶叫する。


「これはっ!?」


 俺たちの足下に広がるヴァルナ召喚の魔法陣。それは結界内だけではなく、この広大な中庭全体に広がっていた。

 白く光り輝く、陣の中央。フレイはそんなことには全く気付かず、空の上のデルヴァを睨み付ける。


「……」


 昔から何度も人に聞かれた。

 何故、里の子供達の中でもずば抜けて出来がよく、当代一の魔術師になることは確約されているというのに、フレイばかり目の敵にするのかと。

 俺はいつもその質問に、あいつがつっかかってくるから、としか答えなかった。勿論、あいつがエメリナ様の息子で、あの人の愛情を一身に受けて育ってきたっていうも原因の1つ。

 でもそれ以上に、俺はあいつの『見えない部分』が怖かった。


「おいっ、おいフレイ、聞いてるのか!?」


 前方でユーイがフレイに向かって叫んでいる。しかし本人の耳にはもはや俺たちの声なんて届いていない。

 俺は深く息を吐いた。

 ジイさんはあいつを魔術師にさせないために憎まれ役を買って出た。俺はわりと早いうちにそれに気付いたが、同時に疑問に思っていた。

 ジイさんがそうせざるをえないほどの才能を、あいつは持っているのか、と。


「これがヴァルナの……いや、フレイの力か」


 リクの言葉にユーイが顔を上げる。否定的な表情が浮かぶが、声が出てこないのは反論の材料が見つからないからだろう。

 俺は上空を見上げる。ヴァルナが右手を上げると魔法陣の四方から太い蔦が伸び、頭上の雲に巻き付いていった。形になりはじめたデルヴァが動きを止める。精霊の3体が異常事態に気付き、ヴァルナに攻撃を仕掛けるが、地面から槍のように突き出してきた巨大な岩に体を貫かれて絶命する。


「……ククッ」


 俺は抑えていた笑い声をもらしてしまった。振り返ったリクの怪訝そうな視線が突き刺さる。

 ユーイが混乱した表情でこちらを見た。


「アイルーク!どうゆうことなんだ!?」

「どうゆうことも何も、目の前で起こっていることが真実さ」


 俺は肩を竦める。


「勿論、アラセリ嬢の力もあるかもしれないが……フレイとヴァルナの力が共鳴していることが大きい」


 ジイさんがフレイを俺とは違った意味で特別扱いしていることに気付いた時、大分プライドを傷つけられたし、嫉妬もした。

 そして同時に恐怖した。


「あいつはいつも限界を勝手に自分で作っておいてそこで尻込みするんだが、今回はブチ切れてて忘れてるのさ」

「ブチ切れ……って、じゃあ、魔力のコントロールはヴァルナが?」


 ユーイの言葉に、俺はフィオを見る。フィオは首を横に振った。


「いや、ヴァルナも自制がきかないんだろう。相当煮えくり返っているらしい」

「なんなんだ、あいつら!?」


 数多くいる使役の中でもヴァルナは従えるのが難しいとされている。その気難しさ故に、契約を交わしてもその実力を引き出すのは至難の業。人格者と謳われたフォルカー伯父さんならまだしも、フレイみたいな自我の強い奴とそりが合うわけがない。

 合うわけがなかった、と言うべきか。唯一そうなる可能性があるとすれば、それはおそらく『利害の一致』。


「はははっ……」


 再び笑いが腹の中から漏れだしてきた。

 俺にはジイさんの嘘もフォルカー様の偽善も全く理解出来ないが、サリム・エーベルトの思考は何となく分かる気がする。

 見てみたい。魔術師としての才能も、何も関係ない。単なる純粋な興味と関心。ただ、それだけだ。

 異様なものを見るような目を向けるユーイとリク。その視線を受けながらも、笑いは止まらなかった。

 当の本人は外野の様子に目もくれず、ただ真っ直ぐに敵を指差す。ヴァルナがその指差す先を睨み付けた。

 そしてフレイは口を開く。


「再誕だろうが関係ねえ、もう一回ブッ殺してこいっ!!」

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