※ 君と僕との出会いのキセキ 第三話 ~ネットだけの関係~ ※
『君と僕との出会いのキセキ 』
あらすじ:霧島祐也は小説を書いてはWEB投稿する地味な少年。彼は、一部の女子生徒にいじめを受けており、徐々にエスカレートしていた。
そんな中、自分の小説のファンであるレオさんにその悩みを打ち明けようとした。だが、レオさんは彼を悩ませていた元凶、文月玲央奈本人だった。彼女は初めは気が動転して連載を中止させるが、改めて、祐也に小説連載を続けることを約束させる。そして、祐也も玲央奈に毎週くれるコメントを続けて欲しいと伝えた。
※ 君と僕との出会いのキセキ ~ネットだけの関係~ ※
二人だけの秘密。その言葉は魔法の言葉。それを言うだけで、男女は特別な関係になる。確かにそうだ。特別だ。今の僕たちは……
「おはよー」「あ、おはよー日曜日のあの番組どうだった? 」
月曜日の朝、お馴染みのグループ同士挨拶をして、その後、日曜日に見た番組の話をしていた。いつもの光景。僕にとってのいつもの光景は家に帰ってからの小説だったんだけど……
(レオさんが、文月玲央奈だったのかぁ。今でも信じられない……今日からいつもの光景じゃなくなるのかな……)
そう思うと、いつも当たり前のこと、それがとても大切に思える。僕とレオさんどうなるんだろう……そう思っていると、教室の戸が開く。聞き覚えのある声。いつもの取り巻きと会話をしているらしい。そう、レオさんこと、文月玲央奈だった。
「でさぁ。私がね…………」「ん? どうしたの? 」
急に玲央奈の言葉が詰まる。取り巻きの子が不思議に思って尋ねる。それに気がついたらしく、玲央奈は一言「な、何でもない」と、いつもと違う雰囲気で答えていた。僕は、彼女にあまり関わらないように、敢えて、顔を伏せて寝たふりをした。苦手な人とはあまり関わらないほうがいい。子供の頃学んだ唯一の教訓だった。
チャイムが鳴り、ホームルームが終わり。先生の言葉が聞こえ、そして授業が始まった。こう見えても僕は授業を真面目に受ける。先生の声と共に黒板に書かれる文字を書き写す。サラサラと書き続けるのだが、さっきから何か視線を感じる。何かジーッと見られているような……そう思いながらノートをとり続ける。その時、先生から予想外の声が聞こえた。
「文月さん、霧島くんばかり見ていないでちゃんと授業を聞きなさい」
「……ふ、ふぇ? え! あ、ハイッ! 」
玲央奈の気の抜けた声と共に、我に返った声が聞こえる。それとともに教室が笑いに包まれた。僕は何となく玲央奈の気持ちが分かったので、素直に笑えなかった。だって、自分の憧れた作者がいじめられっ子だったんだ。いつもの僕と違う。複雑な気持ちでずっと見ていたんだろう。心の整理とともに……
その時たまたま消しゴムが落ちて拾った所、玲央奈と目が合った。
” ゴゴゴゴゴッ ”
今にも殺しかねないような恐ろしい殺気を伴った玲央奈が見ている。気がつかなかったフリをして目を逸らし、その日は彼女を見ることがなかった。
その日の放課後、僕がいなくなった教室で、玲央奈とその取り巻きの女の子達が話をしていた。
「ねぇねぇ玲央奈、どうしたの? ずっとアイツ見てたけどさ」
「…………」
「ん? アイツに何かされたの? じゃああたしが仕返ししてあげるから」
「! 」
玲央奈は急に立ち上がると取り巻きの女の子の肩を少し強めに掴んだ。彼女の動きに取り巻きは後ずさる。玲央奈は少し興奮した顔をしながら意外なことを言った。
「……もう、アイツには関わらない。放っておこ……」「え? う、うん」
玲央奈の言葉に気圧されながらも、取り巻きたちは了承した。僕の知らない所で、彼女たちのいじめが終了したのだった。
今日は投稿の日、最近玲央奈達のいじめがなくなった。妙に平和でちょっとこの後が怖い気がする。そして、レオさんこと玲央奈にした僕との約束、彼女は本当に……そう思いながらも小説を投稿した。いつものようにすぐコメントが来ない。やっぱり彼女はもう見に来ないのだろうか……そう思っていると。
『毎週更新お疲れ様です。早速読ませていただきます。毎日のストレス、これからはこの小説で発散させてもらうね。夕霧さんありがとう』
レオさんからのコメントが来た。涙が出そうだった。レオさんいや、玲央奈は僕の事を分かろうと努力してくれている。まだ、僕本人に対する戸惑いもあるのだろう。だけど、ネットの世界では、リアルでは言えない事もすんなりと言えたりする。直ぐにコメントが来なかったのは彼女が悩んだ末に出した言葉なのだと思う。
『レオさん、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします』
そうコメントを書いた。すると、PC上にチャットのお誘いが来た。……レオさんからだ。今までは気にせず見てきたけど。さすがに玲央奈と分かると少し躊躇する。僕は通信ボタンを押して、チャットを始めた。
『チャット来てくれないかと思った』
『僕は、このブログにコメントしてくれないかと思ってた』
二人はお互いに思っていたことを、同時に書いていた。不意に笑いがこみ上げる。玲央奈も暫く書き込みがないから彼女も画面越しに笑っているのかもしれない。
『とにかく良かった。元気で』
レオさんからのコメント、リアルで話してる時より優しい気がするのは気のせいだろうか……
『学校にはちゃんと来てるからね。それより、学校が平和になった。レオさんが取り計らってくれたんでしょ。ありがとう』
『う、うん』
しばらくの沈黙の後、コメントが来た。
『だって、学校で怪我されたら、小説が投稿されないじゃん。前回の投稿されなかったとき、とっても心配したんだよ? だけど、自分がやったことだったからさ』
玲央奈はとても言いにくそうに言葉を選んで書いてきた。
『だから、もう、アンタに危害加えない。約束する。だからさ――」
” 小説、ずっと続けて、私待ってるんだから ”
彼女の言葉、これが彼女の本心だろう。僕は不覚にも自分のやってることで、危機を脱した。もうこの小説に一生頭が上がらないのかもしれない。
『うん、これからも楽しみにしててね』
『うん、待ってる』
彼女はチャットから退室した。ふと時計を見ると二時に……やばい、寝坊しちゃう! 僕は慌てて布団に入った。でも興奮して眠れない。
レオさんこと玲央奈。彼女は本当は悪い人間ではないのかもしれない。ただ、彼女と僕の出会いが悪かったのだろう。でも、初めから悪印象でいると、後は上がるしかないという。今そのような状態? そう思っていると段々睡魔が襲ってきた。
(小説、ずっと続けて、私待ってるんだから……か。もう投稿できないとか言えないな……)
苦笑いしつつも僕は心地よい眠りに誘われた。
ネットだけの関係END