※ 君と僕との出会いのキセキ 第三十一話~ 玲央奈の秘密 ~ ※
小説のWeb投稿が趣味の霧島祐也。彼は文月玲央奈と出会い、人生の大きな転換期を迎えた。玲央奈の祐也改造計画は大詰めになり、最後はダイエットを残すのみに、そんな中、祐也は玲央奈に対して自分の中で何かを意識した。
それと同時に、玲央奈に対して不思議に思っていたことがあり、兄である隼人に相談、七月中旬の隼人と黎苑さんのモデルの仕事についていくこととなったのだが……
※ 君と僕との出会いのキセキ ~ 玲央奈の秘密 ~ ※
「はい~! という事で、こちらのご夫婦のファッションチェックです」
日曜の朝、久しぶりに僕はボーッとテレビを見ていた。最近疲れ気味で、起きても頭が活動しないことがあり、コーヒーを飲みつつ、兄貴と一緒にニュース番組を見ていた。
その時流れているやつが最近流行っている大人気コーナーである。ダサい夫のファッションチェックをして、その採点をしつつ、ファッションプランナーの方が旦那様の服のコーディネートをするというやつだった。結構このコーナーに出てるプランナーさんは大物が出ていたりする。一週間で決まったプランナーさんがいるようで、このコーナー月曜日から日曜日で七人編成でローテーションしてるらしい。
「お、祐也見てみろ」
ニヤニヤ笑いながら隼人がテレビに映っている人を指差す。黒髪が綺麗な純和風の美人の女性だった。兄貴の話だと四〇代後半と言ってるんだけど。全然見えない。
「ヘヘッ。キレイだろこの人」
「う、うん。だからどうしたの? 」
僕の質問に隼人はおかしくてたまらないという表情をした。わけがわからない僕はジト目でこの頭がおかしくなった兄貴を見つめる。
「ハハッ! この人の名前な、文月佳代って言うんだぜ」
「へぇ。そうなんだぁ」
「……お前、ここまで言って分からないのか」
ため息をつく隼人。ボーッとしながら服を選んで、旦那さんをコーディネートしている文月佳代さんを見ているが……全く分からん。タイムオーバーだと言わんばかりに隼人は肩を落として言った。
「この人はな、本名は文月佳代子。玲央奈のお母さんだよ」
「へぇ……!! ええええええ!? 」
僕は驚きで目をこすった。……超いてぇ!! 驚きのあまりに画面越しの文月さんを見つめていると、隼人はその姿が面白かったのがバカウケしていた。
「アハハハハ!! お前ってそんな面白い反応するんだな。久しぶりに腹の底から笑ったぞ。本当だ、この人は黎苑と玲央奈のお母さんだ」
隼人の話だと、玲央奈の母、佳代子さんは、有名なアパレルデザイナーで、あの僕が着ている服も、彼女がデザインしたものらしい。
” バッロ・ディ・アンジェリ自体が、玲央奈のお母さんが経営している店だった ”
驚きに驚きが重なり、今自分が何を考えているのか全くわからなくなった。そんな中、隼人は服を手早く着替えると僕を呼んだ。
「さて、そろそろ仕事だ。行くぞ祐也」
「あ、うん。もうそんな時間か」
気がつくとこの旦那様改造計画というコーナーは終わり、ニュースはゴシップ系の内容になっていた。ついさっきまでこの画面にいた人が玲央奈のお母さんとか、未だに信じられなかった。
僕と隼人は、迎えに来た黎苑さんの車に乗り、目的地へと向かった。都心から少し離れた所に撮影所があった。撮影所は沢山のスタッフと信じられないほどの撮影機材などがあり、圧巻であった。皆こんなすごい器具で撮影とか受けてるの? 何、あのバズーカ砲みたいなレンズは……
「あ、隼人さんお久しぶりです。このお仕事引き受けてくださって感謝致します。アラ? この可愛い子は? 」
「あ、佳代子さんお久しぶりです。はい、コイツは俺の弟で、祐也っていいます」
隼人の紹介で、僕は「よろしくお願いいたします」と言って、頭を下げた。その姿をついさっきテレビで見ていた佳代子さんは「アラアラ~」と微笑んで見つめている。
「さすが、隼人さんの弟さんね。とても可愛いわ。まるで、貴方の中学生の頃にそっくりよ」
「!! 」
僕はショックを受けた。まぁ、兄貴は中学の時から身長一七〇センチあったから、ねぇ。僕は身長伸びないから……アレだよね。
「あ、ああ。そう言う意味じゃなくて。ああ……どうしましょう」
ガックリと肩を落とす僕を、慌てた表情でオロオロする佳代子さん。ん~何かこの人、精神年齢がとても若く感じる。そう思っていると隼人はニヤニヤ笑いながら言った。
「大丈夫ですよ。元々俺自体が規格外だったんだし。むしろ祐也ぐらいの方が、女の子にモテやすいと思いますよ」
「あ、そうよね。ん? そう言えば玲央奈が言ってた子って……まさか」
何かを思い出したかのように佳代子さんは僕を見つめる。そして、僕の服装をジロジロ見つめると、ニコッと笑った。
「予想通りね。この服装はあの子が選んだものでしょ」
「え? ええ、まぁ……」
この人、僕の服装だけでそれが分かるのか……プロは侮りがたし……
「だって、あの子の好みがバリバリ出てるじゃない。そうですか。貴方があの子の彼氏ねっ! 」
「「「ええええ!? 」」」
佳代子さんの言葉を受けて、僕と隼人、黎苑さんの三人は驚きの声を上げた。え? 彼氏? ど、どどどどう言う事!? 僕たちが驚いた表情をしていたのを不思議に思った佳代子さんは首をかしげて「アラ? 」と言う。
「おかしいわねぇ……正月に紹介したい男の子がいるってあの子モジモジしながら話してたわよ? 」
「「「……………………」」」
僕たちは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。多分、この話、玲央奈に漏れたら半殺しどころじゃないと思う。全員表情が青ざめていた。僕たちのただならない表情を見てさすがに分かったらしい。
「あ、ボーイフレンドってことね。まだ彼氏さんじゃないんだ……ショボン……」
……ん~なんと表現していいのかな。このとても可愛い中年の方? と言えば良いのだろうか、玲央奈のお母さんにしては結構性格が緩い気がします。でも、笑顔が最近見せる玲央奈に似ている気がする。その辺りは親子なのかなと思うんだけど――
” 何か、佳代子さんは純和風って感じなんだけど、玲央奈と黎苑さんとは決定的に髪の色とか違う。それだけは分かった ”
しばらく会話をした後、仕事の時間になったので、隼人と黎苑さんは服を着替えて、佳代子さんがデザインした服を被写体にして撮影を開始した。今回は夏に向けてのスタイリッシュな服装らしく、キリッとした服でありながら、風通しがよい薄い生地のスーツだった。普段のスタイルがいい隼人と黎苑さんは難なく着こなしている。いいなぁ……背が高いと。
「ウフフッいつ見ても格好いいわね。隼人さん」
佳代子さんは兄貴の堂々とした姿を見て嬉しそうに見つめている。だよねぇ。兄弟の僕でも見とれるぐらいに堂にいってる姿だもの。
二時間ぐらいだろうか、たっぷりと着せ替え人形のように様々な服を着こなした兄貴達は仕事を終えた。正直驚いた。ファッション雑誌とかで見ている華やかな姿。でも、その姿は何度も何度も写真を撮って、同じような姿勢の中からベストチョイスをしていく。構図を事前に決めていてそれを撮るのだが、自然にアクターがその構図よりいい姿をしたら、迷わずシャッターを押している。その瞬間を見逃さない。
「撮影って、すごいんですね……」
僕は隣にいた佳代子さんに呟いていた。すると、佳代子さんはニッコリと笑って言った。
「作るって言うのは全部そうだと思うわよ。ある程度方向性を決めていても、咄嗟でもっとイイモノが出来るかもしれない。そう思ったら直ぐに実行に移す。それがモノづくりをする人たちに共通するんじゃなくて? 」
「……そう、ですね」
僕はふと、自分の小説についてもそう思っていた。確かに方向性は決めて作っている。プロットも作って、山場を作って、色々決めてから作ってる。でも、自分の動かしてるキャラクターが自然に動き出したとき、僕のプロットよりいい動きをすることがある。その時は迷わず僕も、行く。
「フフッ。知ってるわよ。貴方、玲央奈の好きな小説書いてる作者さんでしょ? 私も暇なときに読んでるわ。若いのに、素敵ね」
「えええええ!? 」
僕は席を立ち上がって驚いた。こんなテレビに出てるすごい人に読まれていたなんて。そして、素敵だなんて。僕は興奮で顔が赤くなった。……それと同時に周りのスタッフ達に見つめられて更に恥ずかしくなったのは言うまでもない。
「フフッ。可愛い子ね。玲央奈が好きになるの良く分かるわ。何だか守ってあげたくなっちゃう……」
佳代子さんにニコニコされながらそう言われて、僕は顔を赤くして俯いた。その姿が更に可愛かったようで、頭を撫でられていた。僕は硬直して動けない。そんな姿を苦笑いしながら隼人と黎苑さんは見つめていた。
「さて、少し喫茶店に行こうか」
隼人の言葉に皆は同意する。実はこの仕事の次に大切な話があった。事前に佳代子さんにはその話が伝わっていたようで、喫茶店で話をしようと言っていた。隼人はその意を汲んでそう言ってくれた。
適当な駐車場があるカフェを見つけ、黎苑さんの車はそこに入った。そして、店に入って、コーヒーを三つ頼む。佳代子さんはウキウキしたようにショートケーキを頼んで嬉しそうにしていた。何となく、僕たちといても違和感がないぐらいに幼く見えるのが不思議だ。
しばらくして、コーヒーとケーキが出る。佳代子さんは嬉しそうに苺を取ると” パクッ ”と食べた。頬を赤くしながら「美味しい……」と言っていた。その姿を兄貴達は苦笑いしてみている。僕もしばらく静かに佳代子さんを見ている。すると、僕たちの視線に気がついて顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
「チョッ、チョット何私を見てるの? 恥ずかしいじゃないの! 」
アハハ……僕は心の中で笑っていると隼人は爽やかな笑顔で言った。
「佳代子さんがキレイだから見とれていました」
「や、やだぁ~隼人さんたら、お上手ねっ! 」
な、何だこのやりとりは……僕と黎苑さんは目が合うと苦笑いが自然と出た。この変なやりとりが終わった後、話は本筋に入った。
「ごめんなさいね。祐也さんの聞きたいことね。そう……ね。玲央奈は純日本人じゃないわ。あの子は日本人の私と、イタリア人の主人の間の子です。黎苑もそうよ」
「あ、やっぱりそうなんだ。玲央奈純日本人ってことにこだわってて、そんな事聞ける雰囲気じゃなかったから強引に純日本人だと考え込んでいました」
僕の話を聞いて、佳代子さんは困ったようにウンウンと頷いた。
「そう、ね。それで正解よ。余計なことを言うとあの子直ぐに怒っちゃうから。でも、本当はパパが一番悪いんだけどね……」
ため息を付くと、佳代子さんは話してくれた。玲央奈のパパは生粋のイタリア人だ。ある時、日本の文化というものに触れ、感動したらしい。その時に、知り合ったのが佳代子さんと言う訳だ。日本人の佳代子さんから様々な日本の文化を知る度に、日本での生活に憧れ、佳代子さんと共に日本に帰化したらしい。その時に、日本で生まれた黎苑さん、そして玲央奈。この二人を純日本人にしたいとパパが駄々をこねたためこう言う事態に陥ったらしいとのこと。
「まぁ、俺は直ぐにこの事実は分かったけどね。だって、周りと俺、姿が違うもん……オヤジと喧嘩して認めさせたけど。あのオヤジの思い込みは筋金入りだね」
「そうねぇ。玲央奈が二十になったらあの人は伝えるって言ってるんだけど……あそこまで強く思い込んでるから……下手したらパパのこと嫌いになっちゃうかもね」
玲央奈、結構複雑な環境に育っているんだね……そう思っていると、ふと気になったことがあり尋ねてみる。
「そう言えば、玲央奈のパパだけど、純イタリア人なんですよね? 見たら一発で分かるんじゃ……」
「うん、それなんだけどね……」
黎苑さんがため息を付いた。
「実は仕事が忙しいとか色々理由つけて、会わないようにしてるんだ。そこは徹底しててね。定期的に玲央奈の動画を送ったりして見せてるんだ」
「…………」
僕は口をあんぐりと開けていた。そんなありえないことが実際にあるなんて思ってもみなかった。これが玲央奈の秘密ってことか……
全ての真相を知った僕は、隼人が言っていた意味を理解した。
” 絶対に玲央奈に言うなよ。アレ、アイツにとって禁句なんだわ ”
” この話、玲央奈にするなよ。したらこの話はなかったことになるからな。それだけ大変な事なんだよ ”
確かに、禁句だ。そしてこの話をしたら玲央奈の事情を聞く前に、玲央奈が発狂して、それどころじゃなくなりそうだ。
” でも、そんなんで、本当に玲央奈は幸せなんだろうか? ”
僕は兄貴達の言ってることを理解しながらも、玲央奈のことを思うと、そう思って仕方がなかったのだった。
~ 玲央奈の秘密 ~END




