※ 君と僕との出会いのキセキ 第二話 ~交じり合う点と線~ ※
『君と僕との出会いのキセキ 』
あらすじ:いじめられっ子の霧島祐也は小説を書いてはWEBで投稿している地味な少年だった。ある時、小説を投稿日に出すことができず、その時に心配してくれたレオさんに悩みがあることを伝えると、会って話そうという。土曜日に時間を作り、会ったのだが、そのレオさんはなんといじめっ子の文月玲央奈だった。
※ 君と僕との出会いのキセキ ~交じり合う点と線~ ※
出会いとは不思議だ。普段何気なく暮らしていても、違う場所で会うと印象がガラリと変わる。雰囲気もそうだ。いつもある世界、それが崩れたとき、新しい世界が見えるのかもしれない。
今それを僕は絶賛実践中だったりする……
「…………」
「…………」
僕と玲央奈は固まった。二人してどんな言葉をかければいいのか……正直わからない。要点をまとめてみよう。
まず、僕はいじめられっ子の霧島祐也、ペンネームは夕霧。レオさんは僕の小説が大好きで、よくコメントをくれる優しい人。で、そのいじめっ子が文月玲央奈……え? どういうこと?
まとめたらさらにわからなくなってきた。すると、固まっていた玲央奈が口を開いた。
「……あんた……誰? 」
その一言で完全に僕は固まる。その一言は完全に僕を見下している。というか眼中にない顔をしていた。そして、スマホの画面を見直して、何度も僕とスマホを目線が行き来していた。
「……ちょっとアンタの携帯見せてよ」
「え? な、何で? 」
嫌がる僕を彼女は半ば強引に奪うとまた固まった。信じられないという表情にも見える。しばらくして僕のスマホを投げて渡すと玲央奈は「あ”~」と声を上げていた。そして暫く間を置いて彼女は言った。
「私はレオ……さっきまで夕霧さんの小説のファンだった人でした! 」
「!! 」
僕は声を失った。あのレオさんが、嘘だ……絶望の声が聞こえる。玲央奈のいじめについて悩んでいた。それを当の本人に打ち明ける……どんな罰ゲームだよ。完全に彼女は怒りと動揺で我を失っている。折角のお洒落な服装が台無しだ。
「最低……アンタの書いた小説だったなんて……見るんじゃなかった! 」
「…………」
僕は落ち込んだ。今まで幸せの空間だったあの世界が壊れた。全てが崩れた。……もう、何も考えられない……。
「じゃあね! さようなら! 」
彼女はそう言うと立ち去った。噴水の前に僕ひとり。全てを失った僕は途方に暮れた。
(もう、小説書くの止めようかな……)
僕は、あまりのショックに小説を書く気がなくなった。ため息しか出ない。本当に落ち込んだ時、何も考えられないんだなと今更ながら気がついた。かなりの時間、僕は噴水の縁に座り頭を抱えていた。すると、目の前に気配を感じる。気がついて上を向くと彼女、文月玲央奈がいた。
「……あのさ、小説……やっぱり……続けて」
「……え? 」
さっきまでの怒気を含んだ声ではなく、沈んだ声だったが、少し懇願に近い声色だった。僕の落ち込みようで、小説がもう続かないと思ってくれたのだろうか。ポカンと見つめる僕の手を彼女は握った。そして、強引に歩き出す。
「えっ、ちょ、ちょっと! 」
「いいから付いてくる! 」
玲央奈の声に僕は静かになる。彼女の行った先は小洒落た喫茶店だった。木造建築の喫茶店で、中は二階部分まで吹き抜けで作られており、とても開放的だった。天井には回るプロペラでお馴染みのシーリングファンがついていた。凝った店内を見つめていると、玲央奈は店員に二名だと伝え、手をつないだまま席に向かった。その姿を店員はジッと見つめていたのが僕には見えたが、玲央奈は気がついていないようだった。
席に着くと、何故かキョロキョロしだし、ため息をつくと、彼女はやっと僕に話しかけた。
「ふぅ……で、この小説本当にアンタが書いてるの? 」
「え、うん……」
僕が同意すると、大きなため息と共に頭を抱える。
「そうなんだぁ……」
とても残念そうに見える。しばしの沈黙、そして、注文のコーヒー二つとパフェが来た。え? パフェ? よく見ると玲央奈も驚いていた。
「え? パフェなんて頼んでませんわよ」
「ええ、こちらからのサービスです。どうぞ」
店員からの気を利かしたサービスなんだろうか。店長さんとてもニヤニヤしてる。僕たちは付き合ってるように見えるのだろうか。むしろ本当はいじめっ子といじめられっ子なんですけど……疑問に思ってる彼女に、正直に自分の思ったことを言ってみる。すると、玲央奈は顔を真っ赤にした。
「そ、そそそそんなわけないでしょ! 何で私がアンタなんかと! 」
そこまで否定されると逆に清々しくなってきた。普段の立場と逆になってる感じもする。暫くプリプリしていたものの、パフェを食べていた。甘いもの好きなんだろうか……
またしばしの沈黙、その後玲央奈が言った。
「初めはちょっと……いや、かなり驚いたけど。本当に書いてるみたいね……ショックだったけどさ。あの小説本当に面白かったんだ」
「ありがとう。僕は皆から、そして、何よりいつもコメントをくれるレオさん……がいたから、あの小説を続けられるんだ。本当に嬉しいよ」
「……!! 」
僕の言葉に玲央奈は顔を赤くして僕を見つめる。そんな言葉を言われると思っていなかったようだ。パフェを食べる手を止める。
「あ、アンタが読んでくれって言うなら。……今後も読んで、あ、あげるわよ」
玲央奈は顔を赤くしたままそう言う。口の周りにクリームが付いてる。
「うん、是非そうしてほしいです。それと……」
僕は少し間を置いて、彼女に言った。嘘偽りのない僕の気持ちを。
” これからも僕にコメントをください。僕はレオさんの言葉、いつも楽しみにしていますから ”
この言葉は少し卑怯だったかもしれない。それはレオさんが僕の小説に対して使っているコメントでもあるから。少し驚いた顔をしながらも、玲央奈は言った。
「わ、分かった……」
そう言うと、玲央奈は残りのパフェを食べきると、コーヒーをがぶ飲みした。その勢いに少し気圧される。そして、また僕の手を握ると全部彼女持ちで会計を済ました。
「あ、コーヒー代払うよ……」
「……いい。いらない……」
彼女は喫茶店から出ると僕の手を振り払い、言葉少なに立ち去ろうとした。そして、家路につこうとする彼女が振り返って言った。
「今日のこと。学校では誰にも言わないでね。言ったらぶっ殺す! 」
「……はい」
彼女はそう言い切ると大股で帰っていった。折角のお洒落が……どうでもいいか。僕も家に帰り、小説を書き始める。今日は色々あった。
「あー月曜日どうなるんだろうかな……」
布団に入ってふと、文月玲央奈を思い出す。いつも投稿を楽しみにしていたレオさんと同一人物。本当に驚いた。
次の月曜日の学校、僕の立場はちょっとだけ変化していたのだった。
交じり合う点と線END