※ 君と僕との出会いのキセキ 第十七話 ~ チェンテーズィモ・イル・ヴァレンティーノ 前編 ~ ※
霧島祐也趣味は小説のWEB投稿。レオさんこと文月玲央奈と出会い、彼の人生は変わった。二人は初詣を通し、お互いをさらに意識する。
そして、時は流れ、セント・バレンタインが近づいてきた。
※ 君と僕との出会いのキセキ ~ チェンテーズィモ・イル・ヴァレンティーノ(セント・バレンタイン)前編 ~ ※
正月は過ぎ、一月五日を持って、冬休みは終了した。そして、時は流れて、2月初旬。とうとうこの日が来てしまった。僕はとても憂鬱な日を過ごしている。そう、僕は……僕は……
” 僕はとうとう、玲央奈に伸びきった髪を刈られる時が来たのだ…… ”
今日は待ち合わせの約束の日、土曜日。駅の噴水前で僕は恐怖に震えていた。だって、玲央奈に首を狩られるんだもの……
「……何物騒なこと言ってんのよっ! 」
この言葉で僕の心臓は信じられないぐらいに飛び上がった。一瞬黄泉の世界を旅立ちましたとも……ええ。慌てて声がした方向を向くと、かなり近くに腕を組んだ玲央奈がかなりのジト目で僕を見つめているね。まさか……僕の声聞こえてたの?
「アンタブツブツ言ってたよ……丁度いいから本当に狩ってあげようか? 」
「イエ……エンリョシマス」
あまりの無用心さに、僕はどんなに考え事をしても呟かないことを誓った。玲央奈は軽くため息を付くと、僕の服装を調べる。時たまフムフムとか聞こえる。最後は僕の匂いをクンクン嗅いで「……一応合格」と言ってくれた。今までダメ出しばかりだったので、緊張の時間は過ぎ去った。でも、次はカットマイ……
「そんなに首落としたいわけ? 」
おっと……無意識に僕は呟いていたようだ。気を付けないと、本当に僕の命は今宵で潰えてしまう……。玲央奈は呆れ顔になりつつも、タクシー乗り場にあるタクシーに僕を乗せて、目当ての床屋に連れて行った。
「……アンタねぇ……今時床屋って……美容室っていいなよ」
「…………」
もう、僕は病気かもしれない。呟かないことを誓った瞬間に誓を違える僕は……と頭を抱える僕を、玲央奈は哀れみの目で見ていた。あの、僕って同情の目で見られるほど可哀想なものだったのかぃ? そう思うとネガティブスパイラルで鬱になりそう。
微妙な雰囲気のままタクシーは目的地についた。そこは地元でも有名で” お高い ”美容室だった。そこのカリスマ美容師って言うのがかなりの腕らしい。って、前テレビで放送されてたんだよね。玲央奈ってここの常連さんなのかな。
「うん、そうだよ。ここの店長さんと私仲がいいのよ」
「へぇ……! あれ、僕の思考と玲央奈会話が成立シテル……」
「え? アンタ私に話しかけてたんじゃないの? キモッ」
ひ、ヒドイ。いや、今日はおかしい、何かがおかしい。良く分からないけど、ただ、昨日はレオさんとのチャットで僕の毛の刈り出しについて、詳細を聞いて、恐れおののいて、一睡もしてないだけなんだよね。……多分そのせいかな?
玲央奈はタクシーの精算を済ませると、早速店に入る。僕も恐る恐る後ろについていく。すると、店の中は思ったよりファッショナブルなところで、でもどちらかというと、男じゃなくて女の子が行くようなお店なんだよね……絶対僕ひとりだったら行けないや。扉の呼び鈴で店の人が気がついて駆け寄ってきた。
「あ、玲央奈さん~いらっしゃい」
「お久しぶりです。真理絵さん」
玲央奈と真理絵さんと言われた店長らしき人(多分この人がテレビに出てたカリスマの人)だと思う。指と指を絡めてニコニコ顔で話をしている。ん~これが女子の会話なのかな? ちょっと場違いな僕は居場所がないような気もする。しばらく彼女たちは近況を話し合い、談笑していた。しばらくと言っても、十五分……長いよ。どれだけ話の内容が尽きないのか、その方が段々気になってきた。
「あはは、そうなんだ! あ、あれ? あっ! ごめんなさい。お客様お待たせしていましたね」
「アレはゴミなんで、私たちのお話が終わってからでも十分大丈夫ですよ」
……この人たちは何て失礼なんだろう。その言葉でよく分かった。二人は(真理絵さんはこちらを気にしながら)話をしていた。それでも追加で十五分……結局三十分僕は優雅な放置プレイを受けた。これから首を狩られるというのに、こう言う攻められ方されるとは思わなかったよ。
「ほら、ね? 」
「あ、アハハハ……」
玲央奈と真理絵さんが僕を見てゴニョゴニョ話していた。玲央奈はほらほらと面白がって、真理絵さんはどう反応したらいいのか迷いながら取り敢えず乾いた笑いをしていた。……僕は何かまた呟いたりとか、失態とかしたのかな?
「じゃあ、祐也もそろそろメインイベントね。椅子に座って拘束具をつけなさい。そしたらお望み通り首狩ってあげるわ」
「!! 」
僕は咄嗟に椅子を蹴飛ばすように出口に向かって走り出す。しかし、そんなことは当然玲央奈は分かっていたようで、出口には数人の女性店員達が待ち構えていた。
「お客様は紙様(お金)です」「お客様には逆らえません」「店長には逆らえません」
と口々に僕には全く関係ない言葉を言いつつ捕縛した。そして嫌がる僕を鏡のある作業椅子に座らせ店長さんはニッコリと笑いながら近づいてきた。怯える僕に彼女は笑顔を向けて話した。
「大丈夫よ。ちゃんとお仕事はするからさ。で、どんな髪型がいいの? 」
「ん……ん~良く分からないんで、適当にしてください。あと前髪が入るとめんどくさいので、眉毛の上まで切ってもらって……後は適当に両サイドと後ろを刈上げてください」
と、僕が言うと、真理絵店長は困った顔をした。それに合わせて後ろからも殺気が感じられた。
「適当にすんなっ! 」
玲央奈の怒号と共にスリッパで勢いよく僕の頭を” スパアアァァン!! ”と音を鳴らせた。豪快な音の後、強烈な痛みが頭頂部を襲い、「おおおぉぉぉっ! いてええぇぇ! 」とうめき声を上げた。
僕が呻いている間、彼女たちは綿密な打ち合わせをして、僕の髪型を決めていた。後ろでは真理絵さんがチラチラと僕を心配そうに見つめていた。
たっぷり時間をかけて僕は髪を……本当に切ったのか?と思うぐらい髪はハサミを通して切られていなかった。床屋だったらバッサリ切って、後は刈り上げて、二十分ぐらいで終わるはずだった。かれこれ二時間経ってるけど終わんない……玲央奈と真理絵さんは笑って話をしながら僕の髪が仕上がるのを待っている。しばらく寝ていてよくわからなかったけど、髪を切らずに何か何度もすくように髪の毛を切っていた。その理由は、べったりしていた髪の先端を軽くさせることにより、より立体感を持たせるようにするためらしい。んで、軽くパーマをかけて髪型を作るそうだ。ん~これが散髪なんて、納得いかない気がするんだけど、口答えすると怖いから何も言えない(泣)
「さて、計画通りに行けば、あと少しで終わるんだよね」
真理絵さんは僕の頭をすっぽりと被せて、ヘルメットのようなドライヤーを当てている。それが意外と気持ちよく眠くなる。玲央奈たちの笑い声が僕の子守唄になりつつあると、ドライヤーが外された。寝不足でうつらうつらしている僕の頭を固定させてそのまま髪に付けていたカーラーとかを外して、最終調整を始める。よくわからないので寝ぼけながらなされるままになった。そして、更に時間がかかったが、僕の髪のセットは終了した。
「おおっ! 決まってんじゃん! 」
気さくな女性店員さん達の軽い拍手と共に真理絵さんは胸を張る。玲央奈はとても珍しく目を見開いて驚いていた。ちょっと頬が赤い気がするのは気のせい? 女性店員達は口々に感想を言っているが、その言葉は僕を褒め称えているようで反対にこちらが恥ずかしくなる。僕って普段の姿が本当に良くなかったのかなと思ってしまう。……事実だが。
「よ、よし。こんなものね。祐也、鏡見てみなさい」
少し声が上ずっている玲央奈が僕に話しかけた。僕な寝ぼけていながら髪をセットしてもらっていて、その上、完成したら皆が僕を取り囲んでいた。それにより全く今の自分がどうなのか分からない。す、すごい緊張する。そして、取り囲んでいた女性店員達が僕の前から姿を消し、鏡から僕の姿が見えた。感想は……
” ……この人……誰? ”
あまりの変わりように僕は驚愕した。え? この人本当に誰? 当の本人が一番驚いているという事実。多分この時が僕の人生で一番驚いたかもしれない。それぐらいの衝撃だった。でも、やっぱり隼人に少し似てるかもしれない。鳩に豆鉄砲をしている僕の頬がギューッとつねられた。痛みで正気に戻るが、まだ信じられない。
「ほら、ね? 私の言ったとおりでしょ。任せなさいってさ」
「……う、うん……」
セットが終わったあと、僕は真理絵さんからこの髪型の維持の仕方を教わった。そして、髪のツヤ出しに使うようにと小瓶を渡される。これにより真理絵さんのレクチャーが終わった。ん~何か僕が僕じゃない感じだ。まるでどこかの芸能人? なぐらいの変わりように自分の頭の整理できてないんだけどね。
しばらくして僕たちは店を後にし、いつもの喫茶店に……僕はコーヒー、玲央奈はコーヒーとパフェ、相変わらずモリモリ食べるよなぁ。
「さて、これで祐也は大体オッケーね」
「ん? 大体? 」
玲央奈の微妙な言葉に僕は反応した。すると玲央奈はスプーンで僕の顔を指した。
「目の下にクマがある。後は少し化粧を覚えるのよ」
「け……化粧? 」
僕は予想外の言葉に驚いた。化粧って女性の人がするものじゃないの?
「まーそこは人によるんだけどね。美には常に” もうひと手間 ”ってのが重要になるのよ。そこに対して、手を抜くか抜かないか。それが後々差になっていくのよ」
もうひと手間、ねぇ……。これで十分イケルと思うんだけど、そこで僕がそう言うと玲央奈の機嫌悪くなりそうだし、ね。
「……化粧ってどういう感じにするの? 」
「ん~そうねぇ。薄く化粧する感じで、少し顔にファンデ付けて、後は目の周りのクマが消えるようにしていくといいかな」
口で説明されてもよくわからないや。まぁ、いづれ分かることだろうしね。
「取り敢えず今はこれで十分だし……十分……イイヨ」
「ん? 」
玲央奈が言った言葉の語尾が聞き取りにくくて反応すると、玲央奈は何でもないと慌てながら顔を赤くしつつ、パフェを食べ始める。ん~やっぱり口にクリーム付いてるよ……
喫茶店で少し休んだ後、僕たちは家に帰った。来週の金曜日は二月十四日。セント・バレンタイン……どうせ僕はまた一つも貰うことなく隼人のチョコレートに寄生するんだろうなぁ。甘いもの結構好きだし……ね。そう思っていると、隼人が家に帰ってくる。
「お……お前祐也!? びっくりした」
「な、何だよ。人の顔見たら驚いてさ」
「いや、驚かない方がおかしいだろ。お前整形した? 」
「…………」
僕は兄貴の失礼な言葉に憤慨したのだが、僕の急激な変わり様は平穏になった学園生活に新たな波乱を起こさせることとなったのだった。
チェンテーズィモ・イル・ヴァレンティーノ 前偏END




