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マイズ山のものぐさ賢者  作者: 流堂志良
第一章 マイズ山の賢者 
5/43

竜の神殿

 長年立ち入り禁止とされていた遺跡はかつて竜の神殿だった。竜達が北へと去った後こうした神殿が各地に残されている。

 しかしそんな遺跡と化した神殿でも守り手は残されている。マイズ村の遺跡もそうだった。

 この遺跡には炎の竜の一族レイムが守人として残されている。そのレイムは神殿への侵入者を見つけてどうしたものかと困っていた。前にも一度神殿の前まで村の少女が来てしまったことがあるが、そのときは幸いにも中に入らずに帰ってくれた。

 ただの侵入者であるならば自分の姿を見せて威嚇してつまみ出せばいい。

「困ったな……」

 小回りの利く人の姿に身を転じ、身を潜めながら竜は侵入者を陰から観察した。

 侵入者は三人。二人は人間だが一人は気配が違った。

「天使……だって?」

 その気配の持ち主の正体に気づき、レイムは歯噛みする。天使は竜の天敵とも言える存在だ。

 大昔、この地に北大陸から人間が押し寄せたときに天使と争いを繰り広げたことさえある。

 本来彼が持つ力を行使すれば、天使を退けるのは難しくない。しかし相手に人間の魔法使いがいることと、もう一つある事情により彼は全力で侵入者を退けることができない。

 神殿の奥には彼ら一族が奉る宝玉が納められている。侵入者の目的はその宝玉だろうが、人間や天使に扱えるわけもなく、不用意に触れれば宝玉に込められた力が暴走するかもしれない。

 レイムは万が一宝玉が暴走したときに、宝玉の力を抑える為に神殿を守っているが、そもそもその前に暴走を起こさせないのが最善だ。

 どうやって彼ら侵入者を追い出そうかと思案していたレイムだが、神殿の奥で魔力が膨れ上がるのを感じて魔力の膜を張り、顔をしかめた。

 彼らの歩みのペースから考えて宝玉に接触したとは考えにくい。

 おそらく何か魔法を使い接触しようとしたのだろう。

 考えた次の瞬間には、大地を揺るがす衝撃と熱風が神殿の奥からレイムに襲いかかる。

「くっ……!」

 熱風こそ神殿の外に漏らさなかったが、衝撃まで抑えることはできない。

 恐らく外には地震のような揺れとして出てしまっただろう。

「おやおや、守人がどこに隠れてるのかと思えば。こんなところにいましたか」

 神殿の奥から白い翼を持った青年が現れる。レイムは笑みさえ浮かべて彼に近づいてくる天使を警戒してじりっと後退する。

「お前と一緒に侵入した他の二人はどうした……」

「さあ? さっきの熱で灼かれてしまったかもしれませんね。さすが炎の竜の宝玉。我々の手には余りますね」

 てっきり宝玉を奪いに来たのかと思いきや、天使は軽く肩をすくめただけで全く残念そうではない。

「まさか貴様……宝玉を暴走させるためだけに……!」

 相手の狙いを察したレイム大きく身構える。

「ふふっ……我々の目的は、貴方もご存じでしょう? 守人の貴方さえいなければ宝玉は抑えれない。私と戦いながらいつまで保つでしょうね」

 持ち上げるように掲げた天使の手のひらに魔力の光が灯る。

 対するレイムは魔力の障壁を全力で展開した。

 次の瞬間には天使から魔力の矢がいくつも竜の身体に殺到する。

 宝玉の暴走を抑えるのに力を割いたために、突き刺さる矢が障壁を削るのに耐えきれない。

 かといって障壁に魔力を割けば暴走は抑えきれずに、宝玉から炎が吹き出し神殿を中心に火の海になるだろう。

「ぐっ……」

 暴走を抑える方に専念しても、障壁が破られればレイムの命も失われて同じことになる。

 じわじわと削られていく障壁に、レイムは悔しそうに呟いた。

「すみません……王よ……。私はリトカ達との約束を……守れない……」

 その時だった。レイムの背後から魔力が膨れ上がり、天使の放った魔力の矢を吹き散らす。

「!?」

 驚いた天使が攻撃をやめて、レイムの背後に視線をやった。

 レイムも警戒しながら近づいてくるその魔力の持ち主を振り返る。

「いつの間にこの国に入り込んだ? 天使」

 口調に怒気を含ませて、一歩一歩近づいてくる青年はライリアルだった。

 レイムは彼を知らなかったが、天使はライリアルを知っていたようだ。

「これは私としたことが……この近くに貴方がいると知っていれば近寄らなかったのに……」

「ここは竜の領域だろう。何をしに来たかは知らないがさっさと去れ」

 ライリアルが天使を睨みつけて手のひらに魔力を込める。

「……目的も半分は達成しましたし、ここは貴方に免じて退散しますよ。何よりここで貴方と戦うのは分が悪い」

 天使は諸手を上げて降参の意を示す。

「ここから、だけでなくこの国からもさっさと出ていくんだな」

「わかっていますよ。次に貴方と会うのは戦場です」

 憎々しげにライリアルを睨みつけて、天使は神殿の出口へと飛び去った。

 天使がいなくなったがレイムはまだ安心できない。

 暴走を押さえ込まなければならないし、目の前にいる青年が何者かを知らない。

 天使との会話を聞けば、彼らとは敵対しているようだが。

「大丈夫か?」

 ライリアルの問いかけに、レイムは答えれなかった。警戒を解かずにライリアルと対峙する竜にライリアルは笑いかける。

「私は近くの山にすむリトカだ。敵ではない」

「マイズ山の……すまない。助かった」

 レイムは彼の言葉でようやく警戒を解き、障壁に割いていた魔力で暴走して熱を高める宝玉を全力で鎮めようとするが、全てを押さえ込むには魔力が足りない。

 悔しそうに顔をゆがめたレイムにライリアルが問いかける。

「何があったんだ?」

「天使が……人間を使って宝玉を暴走させたんだ。さっき天使とやりあったせいで抑え込めるだけ魔力が残っていない。早くここから出た方がいい」

 レイムは表情を曇らせたライリアルを促して共に、洞窟をくりぬいて作ったその神殿から外へ出た。

 するとそこにはアーノルドとティアレスが待っていた。

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