ANDOLL*ACTTION
クラリスの体、西洋人形であるロボットの部品は扇動涼香の墓の横に埋められ、簡単なお墓も作られた。
崋山優香がクラリスとした賭けに勝ったため、こうして欲しいと扇動岐路と御堂正義に頼んだのだ。
西洋式の墓であるため、近くには教会が建っている。これは扇動岐路の死んだ妻がクリスチャンだったため。
扇動岐路の妻、扇動涼香、クラリス、三つの墓が並んでいる。
たまにしか吸わない煙草に火をつけ、御堂正義は扇動岐路に尋ねる。
「お前はこれからどうすんだ?長年の失踪…職は?」
「これから探すさ。美鈴も普通の学校に行かせるより、飛び級できる知能を持っているから学費もかかるしな」
「はは。そう言う割には嬉しそうだ…なら良い就職先を教えてやろう」
「ほう?なんだ?」
「超一流企業で子供向け玩具の開発、そしてアニマルデータ復元だ。社長はエリア管理委員会会長で幼馴染。どうだ悪くない条件だろう?」
「ふっ、全くお前は…ではよろしく頼む」
二人は握手を交わす。
昔、まだアンドールも開発する前にそれぞれの道を進む際にも握手をした二人。
今度は同じ道を進むために握手をする。その光景を娘と義理の息子、そして娘の幼馴染と父親が眺めていた。
「岐路も戻ってきたなら遺跡の調査も進められるな。これから忙しくなるし、那岐、妹や弟の件はまた今度な」
「最初から期待してない。いいから仕事行け親父」
<年とっても変わらない友情…那岐、健斗とあのような関係を築けるといいな>
「お父さん…良かった。でも住む場所とかどうするんだろう?」
<ふええぇええ…と、時計台は駄目なんですかぁああ?>
「時計台は無理だな…今度はあそこ封鎖を解いて一般公開と鐘の管理をするらしいし。あーあ、アタシの秘密基地がぁああ」
<霧乃様。貴方も女性なのですからもう少し御淑やかな言葉遣いを>
「しかも完全体のリスリズがすっごい説教臭い侍女早変わりだぜ、ぎゃあああああ」
一気ににぎやかになった子供達の会話に、籠鳥那岐の父親は微笑む。
まだ一億近いデータが眠っており、そのどれもがクロスシンクロで体を乗っ取る危険性がある。
しかし今回の時計台で二十人近い子供達、誰一人欠けずに乗っ取られなかった。
それは国民が女王の言葉を信じ、そしてアンドールとして子供達と触れ合った日々を希望ある未来と信じたから。
子供達は子供達同士で、大人は大人同士で話を進めていく。
明るい未来を創るため、時を超えた出会いが希望ある未来に繋がると信じて。
いまだ雪降る北エリアで電話片手に玄武明良が怒鳴っている。
「だから!!俺の家なら部屋余ってるから監視の意味を込めて扇動親子を住ませろと言ってんだ!!」
<そうだそうだ。主も一人じゃ寂しいのだよな、ばあさんや>
<そうねぇ。早紀もこの家に住んじゃったらどうだい?>
「え、えへへへ…実は高校に行ったらそうしようかなー、なんて」
「お嬢様、この執事田中が全力でサポートさせて頂きます!!」
「うがああああ!!後ろで余計な注釈と老人の気遣いと人生設計の話をするんじゃねぇええええ!!」
顔を赤らめつつ玄武明良は猪山早紀達に向かって怒鳴る。
実はエルがガトの奥さんと分かって以来、猪山早紀は玄武明良の家によく泊まるようになった。
すると心配した執事である田中もやってきて、あっさりとアニマルデータの正体がばれた。
しかし老人同士で気が合ったのか、今では茶飲み友達のように若い二人をサポートしようと余計な気を使っている。
その光景を傍らで眺めていた時永悠真と絵心太夫は、楽しいなぁとしみじみ呟いている。
「ふむ、まさに終わり良ければ全て良しの漫画の晴れやかなる最終回のようではないか!!めでたい!!」
<最終回と書いて、次回作にご期待くださいだな!!>
<その案却下。俺達の日々はまだまだ続くだろうが>
「なんか漫画の最終回でまとめる予感?でも…終わりじゃないよ。命ある限り続いていくんだからさ」
雪は音を吸収するため、雪降る夜は静かだという。
しかし北エリアの騒がしさは雪ですら吸収できないほどであった。
南エリアの事務所も同じく騒がしくなっている。
「いや、ほんま…まさかギンナンが京都弁に近い方言やったとは…」
<困ったもんどすなぁ…って、なんでやねん!>
「あんまり変わらないよね、ぐすっ…」
<あー!!三月泣かしたらアタシが許さないわよ!!行くわよイッキ、ニキ、二葉、一哉!!>
<姉ちゃん、頼むから二葉達を巻き込まないいでくれよぉおおお>
<うぅ…一哉、ごめんねぇえ…>
「お前達は悪くない。ちっ、どこの兄弟も女最強かよ」
「あはははは。俺も女に生まれたら良かったなー」
むしろ悪化しているかもしれない、と籠鳥那岐は頭痛がする頭を押さえる。
そこに東エリアの三人がやってくる。
「三月~遊びましょうよー」
<サンキちゃん!ビーズキラキラしてるよ!!>
「一哉と二葉も!!俺とスリーフラッグで勝負だ!!」
<負けないぞ!!葉月と俺のチームワークを思い知れ!!>
「というわけで三つ子お借りします。いこう!!」
<うん!こんなに友達増えて僕嬉しいよ!!>
六人の子供達、六匹のアンドールが外にある広い公園に向かっていく。
その平和な光景に籠鳥那岐は頭痛が和らぐ気がした。
「…シュモン、もう焼かなくていいぞ」
<ああ…我はこの未来を選んで良かった>
記憶で見たシュモンが世話していた孤児達の子供を火葬していく姿。
その光景はもうどこにもない。ただお節介な赤い鳥のアンドールがいるだけである。
西では仁寅律音の母親、仁寅董子が仮退院により家でケーキを焼いていた。
仮退院により思い出深い西の家でまた住みたいという要望により、仁寅家はまた引越しをしていた。
しかし娘が元気になったことに老夫婦は喜び、引っ越し作業は楽しいものであった。
仁寅律音も少し部屋を飾るようになった。
まずは棚を作った。その棚には大会で貰ったトロフィーが飾られている。
そして引越し前に竜宮健斗達、転校する前にクラスで撮った写真。
もう一つは正式に西エリア所属となってエリアチームで撮った写真をフレームに入れて飾っている。
まだ味気ないものの、部屋は少しずつ年相応の少年らしい形になっていく。
シラハそれを喜び、そしてもう一つのことに悩んでいた。
「だから!!僕はボスになりません!!」
「驚天動地!!三顧の礼をすればかの有名な諸葛孔明のように了承してくれるかと…」
<意味不明な逸話を持ち出して…で、シラハ!俺は四字熟語以外のキャラ立ちをどうすれば…>
「あ、あの手伝った方がいいですか?」
<病人なんだから無理しない方がいいわよ?まぁ、楽しそうだから言っても無駄かもしれないけど!!>
「もー神楽、お前がボスでいいよ。面倒だし」
<ああ神よ…迷える子羊たる我等を救いたまえ…>
「カメルンは羊じゃなくてカメレオンなんだなぁ…」
<そいでもってオイもムササビ故>
「うふふ!律音にこんなに友達できてて…母さん嬉しい!腕を振るっちゃうわよ!!」
「お母さん無理しないで!!というか母さん思ったより料理下手だから止めてぇえええええ!!」
<そしてお前らも遠慮なく家に上がり込んで俺達に迷惑かけんじゃねぇええええ!!>
感情豊かになった律音と記憶を思い出したシラハ。
二人は同じく記憶を思い出した元部下と、まだ病人であるはずなのに無茶する母親に振り回されていた。
もちろん仁寅董子と老夫婦もアニマルデータのことを知り、しかし子供達の楽しそうな姿を見て微笑んでいる。
例え過去から蘇えった存在だからといって恐れることはない。
むしろ心の傷を負っていた大切な子供を支えてくれていたことに感謝していた。
東エリアの事務所で相川聡史はソファの上に寝転んでいた。
「キッドも昔は仕事まじめだったんだなぁ。意外だ」
<俺様もまさかセイロンが上司だとは思わなかった…が、世の中には下剋上というのがあるしな。問題ない>
「聡史くん、それよりあの時の足の怪我は平気?」
<麻呂も心配で心配で茶も通らなかったのじゃ…>
「いや、アンドールは元々茶なんか飲まないんよ」
<そいつ昔からそうなんだべ。気にしない方がいいんだべ>
「足はもう平気…ただ、あのミュージックプレイヤーって処分したっけ?」
<確か優香が持っていたが…そういえば二人は?>
「寄るところがあるって。これから…僕たちはどうなるんだろうね」
東エリアの河原の芝生の上。
竜宮健斗は寝転んで空を眺めている。崋山優香はその隣で座っている。
「終わった…かぁ…いったいどこから始まっていたのかも分からないのに、終わりなんて不思議だよね」
「というか終わられたら困るんだよ。まだ一億もデータが残ってる…俺達はそいつらが生きていける世の中、エリアを作らなきゃ」
<ああ。クラリスの意思を俺は継ぎたい…>
起き上がった竜宮健斗の肩の上に乗るセイロン。
クラリスと最後に恋バナをしていた崋山優香は、ずっと聞きたかったことを切り出す。
「セイロンはさ、今クラリスのこと…どう思ってる」
<…愛している。体を失くそうと、彼女が死んだ後も…終わらない気持ちだ…>
恋を失くすと書いて失恋と読むが、終わる愛や恋という熟語はない。
セイロンの情熱さに触れ、竜宮健斗はどう思うのか。
崋山優香はちらりとその顔を見るが、変化はない。
どこまで子の幼馴染は馬鹿で鈍感なのだろうか。
崋山優香は人知れず溜息をつく。
「…俺、聡史と戦った時、クラリスの姿を見てさ…セイロンの気持ちも体感した」
<そうか。その後…俺の気持ちが混じったのではないかと不安だったが…平気のようだな>
時計台の中でセイロンはずっと不安を感じていた。
自分の気持ちがシンクロ現象で竜宮健斗の中に流れ込んだではないのかと。
しかし竜宮健斗は一切変わらなかった。
クロスシンクロでセイロンが迷っていた時も、竜宮健斗は自分なりの答えを出した。
それは竜宮健斗に気持ちが混じらず、己を保っていた証。
セイロンはその竜宮健斗の気持ちに動かされ、今の結果を選んだ。
もう不安は消えていた。竜宮健斗は竜宮健斗だった。
「もちろん!やっぱさ、セイロンの気持ちはセイロンのだけだよ…でもさ」
<ん?>
「あの時味わったのが恋なら…少しだけ興味が出たかな」
セイロンが慌てて崋山優香の顔を見る。
崋山優香もセイロンの顔を見る。
もしかしたら千載一遇のチャンスかもしれない。
二秒後、崋山優香は告白しようと口を開く。
しかしエリア管轄委員会からのデバイスへの連絡に中断。
エリア管轄委員会はこれからもエリアチームを続投。アニマルデータの管理に勤しむ。
そして何かしらのトラブルが発生した場合、ボスとその部下は全力で対処に向かうということ。
またアンドールの開発を支援する団体を増やすため、エリアチームには大会を盛り上がらせてもらうこと。
少しずつ大会でアニマルデータのことを広めていき、いつかは世界中で一億以上のアニマルデータが配信することを狙いとする。
その連絡に竜宮健斗は無邪気に喜び、世界中に広がったら世界大会開けるよなとはしゃぐ。
もうすでに恋の話など忘れてしまった竜宮健斗に呆れつつ、崋山優香は頑張ろうと声をかける。
そして思い出したように相川聡史から預かっていたミュージックプレイヤーをポケットから取り出す。
「これ誰に渡した方がいいかな?」
「…いや、こうしよう」
崋山優香からミュージックプレイヤーを受け取り、それを川の方へ投げる。
軽い水音と共に沈み、再度浮くことはなかった。
「楽譜は会長が預かってるっていうしさ、無理して強くなっても意味はないんだ」
「…でもちょっと、もったいなかったかもね…ケン達が起きるまでクラリスと話しながら聞いてたけど…いい曲だったし」
「タイトルは…確か…」
「そう確か…」
『ANDOLL*ACTTION!!』
二人は意図せず声を合わしてしまい、そしてお互いに吹き出しつつ笑う。
沈んだミュージックプレイヤーは既に頭の片隅に追いやっており、振り返ることもせずに東エリアの事務所へと向かう。
セイロンは一度だけ振り返ったが、しかしすぐに前を向く。
子供達と消失文明の人間であったデータ達。彼らは未来へ進んでいく。
だからといって過去は捨てない、捨てられない、捨ててはいけない。
まだ小さな背中にそれらを背負い、倒れそうになったら誰かの手を借りて立ち上がる。
どんなに遠い過去も今に繋がり、様々な出会いや事件を引き起こす。
そして命続く限り終わらない。しかし彼らはそれを苦とせず幸運とする。
なぜなら素晴らしい出会いが彼らを助け、導いてくれた。
だから彼らは進んでいく、幼い女王が残した言葉に従って。
希望ある未来を信じて。
NYRON中央エリア駅のホームに続く構内の片隅。
そこには子供しか入れない細い、通路というには細すぎる隙間があった。
隙間を通り抜けば、小さなホームが存在していた。
掲示板には一つの場所しか書いていない、あまりにも不自然な乗り場。
電光掲示板にはこう書かれている。
地底遊園地行、間もなく到着します。
出会いは終わらない。そして事件も終わらない。
新しい謎が子供達を待っていた。
【クラリス編終】
【遊園地編始動】
ブログ連載している小説を引っ張ってきました。はじめまして、こんにちわ。鯨丸です。いきなりですがタイトルを考えるのが大の苦手です。ですのでこのクラリス編では各話において有名作品名や名言やその他諸々のオマージュタイトルだったりします。分かりやすいのもあると思いますが、わからなかったら元ネタ探すのも楽しいかもしれません。クラリス編はクラリスが死ぬためのお話でした。生存ルートもいくつかありまして、涼香生存、両方生存も考えていましたが、結果は見ての通りです。はい。少年アニメ系のノリが好きで書いてきたやつなんですが…これ、子供に見せられるかギリギリだなぁと思いながら書いてました。イメージはコロコロ系ライトノベルです。しかしこのANDOLL*ACTTIONまだ続くんですってよ、奥さん。ここで終わらせたら綺麗なまま終われたのに…と思わずにはいられませんね。とりあえず続いてます。ちなみにブログの方ではその遊園地編も書き終わってますので、こちらにもいずれ上げたいですが、すぐに見たい人はあらすじのURLへどうぞ。それにしてもこのキャラの多さは…覚えきれた人がいたら私賞あげちゃいますよ。頑張ったで大賞ですよ。実は私もたまに忘れてたり名前間違えてるとか口が裂けても言えませんね。ええ言いましたけどね。とりあえず後書きが長くてもだらけるだけなので、ここらへんで失礼します。最後までお読みくださりありがとうございます。これからもよろしくお願いします。




