マジコイ
筋金太郎は実は竜宮健斗以上にモテる男だった。
花屋である実家の手伝いをしていると、美少女お嬢様が偉そうにある花を指さす。
「薔薇を私に贈りなさい!!貴方自身の手で私への愛をこめて!!」
「これは珍しい品種なんだなぁ。少しお値段高いけど大丈夫なんだなぁ?」
「おーほっほっほっ!!それくらいの値段てお高いですって?なら百本!丹精込めて包みなさい!」
「毎度ありなんだなぁ」
レジを操作し、代金を受け取った後で可愛らしいラッピング用紙とリボンで包んでいく。
お嬢様はその姿をうっとりした顔で見ていた。
彼女は筋金太郎に足を挫いていた所を助けられて以来、アタックを続けている。
だがどうしても高飛車な言葉と態度になってしまい、素直になれなかった。
「太郎お兄!私向日葵の種欲しいけどあるー?」
「丁度今日入ったんだなぁ」
「わーい!太郎お兄大スキー!!いつか私のお婿さんになってね!」
幼稚園くらいの少女がラッピングしている筋金太郎に抱きつく。
彼女は近所に住む少女で、植木鉢を倒して泣いている所を筋金太郎に助けてもらったことがあるのだ。
素直なアタックをしているが、いつも子ども扱いされてしまう。
そのため早く大人になってナイスボディのグラマー美女になりたいと考えている。
「…太郎。かいわれだいこんって、どうやって調理するの?」
「いらっしゃい。そっちにフリー配布のレシピあるんだなぁ」
「そう…ありがとう」
ミステリアスで素っ気ない感じだがこちらも美少女。
少し電波が入っており、口数もあまり多くない。
彼女は同じ学校の上級生で、一人暮らしのため節約したいと考えていた。
そこで筋金太郎が家でも簡単に栽培できる植物を教え、無料の種などをプレゼントしていた。
以来、筋金太郎の花屋に頻繁に来てはレシピや種などを買うお得意様になっている。
「太郎!なんでこんなに女が集まってんだよ!?」
「ん?それは花屋だからなんだなぁ」
「だからって俺を差し置いてこんなに女に囲まれやがっ…べ、別にお前のことなんかぜんぜっん、気にしてないけどな!!」
「もう少し女の子らしくしたら可愛いと思うんだなぁ。一人称もアタシとかの方がいいと思うんだなぁ」
「う、うるせぇよ!!お、アタシ…って、お前に言われたから直したわけじゃねーぞ!?勘違いしてんなよ!!?」
活発そうなスポーツ少女といった少女は好き勝手に喋る。
彼女はどうにも素直になれない性格で、ついきついことを言ってしまう。
そのため誤解されて喧嘩していた所を、筋金太郎が仲裁してくれた恩がある。
たまに花屋に来ては筋金太郎と話すという、照れ隠しな行動をしている。
「あらん?今日は大盛況ねん」
「綺麗な花持ってるんだなぁ。今回も花瓶で?」
「ええ。渡してきた相手の魅力は太郎ちゃんには負けるけど、花は素敵だもの」
「褒めすぎなんだなぁ。オラはただの花屋の息子なんだなぁ」
「うふ。そういうところも…素敵よん?大人になったらウチの店に来なさいな」
派手なドレスを着た美女は、蠱惑的な雰囲気で話す。
彼女は近くの店で働いているホステスで、花を貰うたびに花瓶を買いに来ていた。
筋金太郎はそんな彼女の話を聞きつつ、優しい答えを返す。
だから彼女はこの店以外では花瓶を買わず、花を貰うたびに来店する。
「太郎くん、おはよう…」
「おはようなんだなぁ。今日もおばさんのお買いものなんだなぁ?」
「うん。前の苗とても良かったて褒めてたよ…」
「嬉しいんだなぁ。今後ともよろしくと言ってほしいんだなぁ」
「もちろん!で、私も…育ててみようかなー、なんて」
はにかみながら笑う少女は筋金太郎の幼馴染で同級生の少女。
母が園芸好きで、買い物する際は必ず新しい種がないか頼まれているのだ。
彼女自身は園芸に興味ないが、筋金太郎が嬉しそうに花のことを話すので少し気になっていたのだ。
それに共通の話題があれば距離を近づけられるのではないかと、そう考えていた。
「お兄ちゃん、私友達と遊んでくるねー」
「いってらっしゃいなんだなぁ。姉さんも仕事なんだなぁ?」
「ええそうよ。太郎、あんたいい男になってきたわねー。じゃあね」
遊び盛りで元気が取り柄の妹に、バリバリのキャリアウーマンである姉。
その二人を見送りながら次々と接客していく。
女姉妹に囲まれたせいか、筋金太郎は女性への扱いに慣れていた。
その堂々した姿は天性の素質でもある。
「おや太郎ちゃん。今日は賑やかだねぇ…しかも、こんな可愛い子達が一杯」
「そうなんだなぁ。おかげで花達も嬉しそうなんだなぁ」
「うふふ。相変わらず上手ねぇ…本当、あと少し若かったら良かったわぁ」
「今でも十分魅力的なんだなぁ。まるで桜なんだなぁ」
「ふふふ。もう、こんなおばさん褒めても何も出ないわよ!でも素敵よ」
老年の女性は常連客で、他愛ない世間話をしつつ苗を見る。
彼女は長年連れ添った夫と死に別れ、その寂しさを紛らわすために園芸を始めていた。
そして筋金太郎との交流が楽しく、またシルバー園芸サークルも作って活動するくらい元気になっている。
実は筋金太郎の容姿が若い頃の夫そっくりだということは秘密にしている。
そんな光景を最初から最後まで見ていた、実は遊びに来ていた袋桐麻耶の怒りは最頂点である。
「ギャルゲーかよっ!!!!!ぐぁあああああああああああああああああああ!!ゴリラのくせにぃいいいいいいいいいいい!!」
人知れず叫ぶ袋桐麻耶。
しかしいくら叫んでも筋金太郎がモテるという事実は変わらなかった。




