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今日、恋をします

布動俊介は戸惑っていた。

伊藤三月と鉢合わせし、言葉が見つからないのだ。


一時間前、事の発端は基山葉月と有川有栖の喧嘩である。

若干見慣れつつある光景を中立で見守っていた。

しかし基山葉月が地雷ともなる言葉を踏んでしまう。


「ぺったんこ!!」

「こっれから大きくなるんだかっらぁぁあああああああああああああああああああああ!!!」


言葉と同時の盛大な回し蹴りが基山葉月の腹にめり込んだ。

男子顔負けの華麗な足技に、布動俊介は目を丸くする。

小学生相手に胸の話をする基山葉月の愚かさにも非はあるが、いささかやりすぎな光景である。

しかも有川有栖は格闘技のような構えの体勢で倒れた基山葉月を見ている。


「…葉月!?大丈夫か!!?」

「あ、きゃ!私ったらつい有川流の技を一般人に…」

「うぐぅぉおお…俺も悪いがそっちも酷いぞ有栖…」

「ご、ごめん!!葉月、歩ける!?」


なんとか立ち上がった基山葉月は腹を抱えて動けない。

有川有栖は近くにあった水道でハンカチを濡らし、服をめくって青くなりかけてる所に押し当てる。

そして家が格闘道場という有川有栖の知られざる事情を知ることになる。


「本当にごめん。私正統後継者だから技を直伝されてて…いつもは使わないんだけど」

「うん、気付かなかったよ。葉月帰れそうか?」

「あと少しは無理だ…なんか湿布とか欲しいぞ…」


そこで布動俊介は近くにある薬局へ向かう。

薬のコーナーで打ち身に効く湿布を手に取ろうとして、同じコーナーを見ている少女に気付く。


「三月?」

「……誰だっけ?」


泣きそうな顔で首を傾げる伊藤三月の言葉に、布動俊介は肩を落とす。

その後思い出したように女狐の配下その一と言われる。

名前すら覚えておらず、その上に散々な印象を告げられる。

そして何かを話そうとして言葉が見つからず、最初の状況へと戻る。


「…」

「………えっと、僕布動俊介。三月は南だけどなんでここに?」

「…」

「…その、えっと…話しかけてすいません」


無言に耐え切れなかった布動俊介が意味なく謝る。

その直後伊藤三月は堪え切れなくなったように小さな笑いを零す。


「冗談。謝らなくていいよ…私はおつかい。二葉がお菓子の材料が地元にないって言ってたの」

「え?二葉が作るの!?」

「うん…ぐすっ、どうせ私は料理下手よ…」

「…あれ?健斗さんに渡したクッキー…ひっ」


伊藤三月が涙目のまま恐ろしい眼光で睨む。

余計なことを言ったと本能で感じ取った布動俊介は、何でもないですと誤魔化した。

そして湿布を持ってレジへと向かう。


「誰か怪我したの?」

「あ、ちょっと喧嘩で…いつものことだからいいんだけど」

「…私もついて行っていい?」


いきなりのお願いに布動俊介は戸惑う。

なぜなら伊藤三月とは相性最悪の有川有栖もその場にいるからだ。

しかし布動俊介を見る目は有無を言わせぬ力があった。


「良い…です」

「なんで敬語?」


そう会話しつつ、会計を済ませた二人は店の外に出る。

基山葉月と有川有栖がいる公園と足早に向かう。






帰ってきた布動俊介を見て笑顔になった有川有栖。

しかしすぐに伊藤三月の顔を見て不機嫌そうになる。


「濡れ女!?」

「三月だもん、ぐすっ……悪女が」


早速火花が散る女子バトルを横目に、布動俊介は基山葉月に湿布を渡す。

基山葉月は湿布を受け取るが、早速展開された女子バトルが気になって痛みを忘れたらしい。

静かに立ち上がりそろそろとその場から離れようとする。


「こらっ、葉月!!怪我人はじっとしてなさい!!!!」

「誰に傷つけられたか知らないけど、あまり動くと悪化するかもよ」


睨み合いつつ二人は心配で声をかける。

しかし基山葉月としては悪化してもいいから離れたかった。

布動俊介が諦めたような目で基山葉月の肩に手を置く。


「耐えよう…」

「うぐぅおお…ジョシコワイ…」

「で、なんで俊介くんと一緒に?」

「薬局で会った……実は兄二人とはぐれたから、目立つかなって」


伊藤三月は顔を俯かせて小さく呟く。

三人で買い物に来たらしいが、気付いた時には姿が見えなかったらしい。

とりあえず目的を済ませ、デバイスに公園にいると連絡を入れてはいると言う。


「一哉と二葉も来てるのか…南エリアは今日暇?」

「暇じゃないけど…なんかボスの調子悪いらしくて、錦山さんが好きに行動していいって」

「南のボスって…あの目つき少し悪いけど将来性ありそうな?」

「そう。なんか辛いこと…あったみたいで」


そう話していると伊藤三月を呼ぶ声が公園の入り口から聞こえてくる。

伊藤一哉と伊藤双葉が小走りでこちらへ向かってくる。

その二人に向かい伊藤三月は顔面めがけて買い物袋をフルスイングする。


「わるっ…!?」

「おわっ!!?」

「二人とも…私からはぐれてどういうつもり?手間暇かけさせないで」


なんとか避けた二人だったが、伊藤三月が怒っている姿に顔面を蒼白させる。

それはまるで女王と下僕のような姿である。


「やべー。三月が怒ってる…はは…」

「笑い事じゃねぇよ!!早く謝るぞ!笑顔も怖いが怒りも怖い!!」


苦笑いを零す伊藤一哉の頭を掴み、伊藤二葉は怒鳴りながら土下座する。

そこで布動俊介は三つ子の力関係を把握する。


「み、三月…出会えたんだからそんなに怒らなくても…」

「部外者は黙ってて」

「はいっ!!」


低くのしかかるような声に布動俊介は返事だけでなく敬礼もする。

基山葉月もつられて同じ体勢をしており、有川有栖だけ呆れたように見つめている。


「まー、勝手にはぐれられたら怒るのは当然よね」

「…だよね。うん、私は間違ってない」


さっきまで喧嘩していた二人がお互い顔を見合わせ、分かりあったように頷く。

なんでこんな時は仲が良いのかと、男子四人は気まぐれ女子心に疑問を抱く。

悪女気質と女王気質、ぶつかり合いつつも似ている性質を持つ二人。

そんな二人を見て四人は気付かれないように溜息をつく。


「とりあえず私は馬鹿兄二人と南に帰る。ほら二葉、頼まれてたもの」

「あらもう帰っちゃうの?もう少し遊んでいけばいいのに」

「…東には好きな人いるけど、南には大切な人がいるの」


そう呟きつつ穏やかな笑みを見せる伊藤三月。

妹の珍しい普通の笑顔を見て、兄二人も同じように笑う。

顔が似ている三人だが性格も違えば、笑う表情もいくつか違いを見つけられる。

布動俊介は伊藤三月が見せた笑顔に胸の鼓動を速めた。

しかしその鼓動の意味を理解することはできなかった。


「じゃあね女狐…じゃなくて有栖」

「あのねぇ…私も勝手に三月って呼ぶからね」

「ははは素直じゃな、いたたたた!!つねるなぁあああ!!」

「じゃーな、また今度遊ぼうぜ!なはは!」

「その前に一哉は勝手に一人で行動するの直しやがれっつーの」

「またなー!…ん?苦しい?」


布動俊介は心臓の辺りを押さえつつ首を傾げる。

その様子に気付いた有川有栖は目敏く伊藤三月を見る。

すぐ直後に基山葉月を引き寄せ、協力しなさいと強制する。

一体なんのことか理解できてない基山葉月だが、有川有栖の眼光に負けて頷く。


「邪魔者を一人消せる上、俊介くんに彼女出来るパーフェクトな計画よ!!フフフ…」

「うーむ。そうだから健斗さんも相手にしないんじゃっあいたたたたたたたた!!」


余計なことを言う基山葉月の足を軽く踏みつつ、有川有栖は計画を練り上げていく。

二人の変な様子に気付かず、布動俊介は伊藤兄妹が見えなくなるまで手を振り続けた。



南エリアにある家に帰った伊藤兄妹は、台所でクッキーやゼリーを作る。

伊藤二葉を主力として伊藤一哉が細々とした片づけ、伊藤三月は時間を計る分担である。

なぜなら伊藤三月には家事能力が残念ながら欠落しているので、兄二人は手を出さないよう言っているのだ。


「明日ボスがいたら食べさせよーぜ!んで、さっさと立ち直れーって怒ろう」

「ははは。いなかったらどうする?」

「三人占めしちゃおうよ。ぐすっ、二葉のせいで体重増えちゃうね」


嘘泣きをしつつ伊藤三月は伊藤二葉をからかう。

そのことに伊藤二葉が怒り、伊藤一哉が笑いながら宥める。

なんだかんだとこの三つ子は仲が良い兄妹だった。

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