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5.恋心

訪問有り難う御座います!



「へぇ〜……あの水面がねぇ」

ジュースのストローをくわえながら、和歌の目がじっと水面に向けられる。物凄く、居心地が悪い。

「な、何? 和歌」

「あんだけ怖がってたのに」

「怖いけど、優しいよ」

「あ、怖いのは怖いんだ」

「いや、怖くないよ」

「どっちよ!」

怖い雰囲気の人ではあるが、何故か怖いとは思わなくなったのだ。きっと和斗でなければ、以前と変わらず怖いと思うだろう。何故かは分からないが。

不意に、ぽかりと口を開けた和歌が笑い出した。つられて水面も笑えてきた。

楽しく笑いながら和歌と《和斗》について話をする。こんな日が来るとは思ってもみなかった。

「和歌と水面ちゃん、何の話してんの?」

「あ、(あきら)君」

話の輪に入ってきたのは、和歌の幼なじみの明だった。

「あぁ? あんたに関係ないでしょ」

ストローをくわえ、しっしと和歌が手を振る。

こんな態度をとってはいるが、同じテニス部に入るぐらい、この二人は仲がいい。羨ましいくらいに。

「汚いなぁ。ジュースが散るだろ」

既にいくらかは散っているのだが、それは言わないでおこう。何となく、和歌の沽券に関わる気がする。

「何しに来たのよ」

「いや、別に特にこれといって用があったわけじゃないんだけど」

「はぁ?」

和歌の眉間にしわが寄る。どうして和歌はこんな態度をとるのに、仲良くしていられるのだろうか。謎だ。

「それにしても、和歌と違って水面ちゃんは今日も可愛いね」

「えぇ!?」

大きな手が頭に乗せられる。

「気安く水面に触ってんじゃないわよ。この変態」

「別に頭撫でるぐらいいいだろ」

「はぁ!? あぁ……」

いつもだとここで大喧嘩を始めるのに、何故か今日はあっさりと和歌が引き下がった。別に水面としては喧嘩の原因になるのもごめんなので有り難かったが、あまりにもいつもと違いすぎて不思議な感じがした。

そういえば、廊下の方を見ていたような。

廊下を見るも、特にこれといったものはなかった。いつも通り、生徒が歩いているだけだ。

「ん〜……じゃ、俺は行くね」

「あたしからも、よろしく言っといて」

「はいはい、っと」

そのまま明は教室を出ていった。

本当に何がしたかったのだろうか。謎だ。

「よろしくって、誰に?」

「廊下の覗き魔さん」

「覗き魔?」

とは何だろうか。まぁ、覗き魔というからには、覗き魔なのだろうが――

「それで、返事はしたの?」

ぎくりと顔が強張る。

考えていたことも、一瞬のうちに、吹っ飛んでしまった。

いつかは聞かれると思っていたが、まさかこんなにも早く聞かれるとは思ってなかった。何となく聞かれたくなくて、何となくその話題を避けていたことが、話を振られなかった大きな要因だろう。

「……してない」

「まだしてないの!? もう、迷惑なら迷惑って言っちゃいなさいよ」

迷惑じゃない。そんなこと、少しも思ってない。でも、好きとかそういう気持ちも分からなかった。

「まだ、してない」

「まだ?」

でも、それではいけないと分かってもいる。

「話さなきゃいけないな、とは思うの」

「そう……」

廊下の喧騒は次第に静まり、ずずっとジュースをすする音がやけに響いた。

「まぁ、頑張ってね。水面にならいい答えが出せるよ」

「……うん」

「図書館行く約束してんでしょ。ほら、噂の彼、桜並木で待ってるよ」

窓の外を見ると、木の一つに寄りかかる和斗の姿が見えた。そわそわと時計を確認している。待っていてくれているのだろう。

思わず笑みが漏れた。

「……もう答えは出てると思うけど」

「え?」

「何でもない。じゃ、あたし部活に行くね」

水面も急いで和斗の元へ行かなくてはならない。これといって約束の時間を決めているわけではないが、待たせるのはよくない。

「部活、頑張ってね」

和歌を見送ると、急いで水面も帰り支度をするのだった。


有り難う御座いました。

これからもおつきあい下さい

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