4.下校
話を思い出しつつの投稿です。
うん。以前の話と、だいぶん違いますね!
初めて昼食を一緒に食べてからは、何となく和斗と食べるようになった。大会が間近ということで、和歌が昼休みにミーティングに呼び出されることも少なくなかったので、寂しくない昼食は有り難かった。
そして、昼を一緒に食べることが当たり前となり始めたある日、久し振りに昼休み以外で和斗と会った。それは初めて会った時と同じ、放課後のことだった。
「あ、和斗さん」
「え?うわっ、水面!?」
声をかけただけなのに、和斗は驚き、嬉しそうに顔をほころばせた。
少し茶色がかった柔らかな黒髪。綺麗な瞳。すらりと長い手足。人懐っこい笑顔。整った顔立ちだと思う。
何故、特に面識のない私なんかをこの人は好きになったのだろう。第一印象は確かに悪く、怖がる人もいるだろうが、明るい彼のことだ。告白だってされたこともあるだろう。それなのに、何故自分なんかを……
「水面、これから図書館?」
「あ、私は今日はいいんです」
「じゃ、一緒に帰んない?」
それは思いがけない誘いだった。
言われた水面はどきどきしているのに、何ともないような涼しげな顔。別に一緒に帰ることぐらい、普通のことなのだろうか。
しかし、嫌な気はしなかった。途中までだろうが、何となく、和斗と話がしたかった。
以前は知ろうとする努力すら出来ないだろうと思っていたのに、今は知りたいと思っている。
「…はい」
和斗の笑みが広がった。
☆★ ★☆
誠華学園は部活動の活発な学校だ。だから、この時間、生徒の姿を外で見ることは殆どない。部活に入っていない水面の存在は、かなり珍しい。そんな水面とこうして並んであるけている和斗も、部活には入っていない珍しい生徒の一人なのだろう。
人が二人間に入れるぐらいの距離を置いて、二人は歩いていた。ぽつぽつ、和斗の質問に答えながら、進む。
「そうだ。前に水面に薦めてもらった本、あれ面白かった」
「本当ですか!!」
「何かさ、本自体は薄くて、話全体も簡単なようなんだけど、内容は薄くなくて」
「登場人物も、生き生きしてますよね」
嬉しい。読んでくれたのだ。
「あの最後の所。主人公がどうなるのか、ハラハラして」
「はい!あそこは私も好きです」
本の話を誰かと出来ていることが嬉しすぎて、水面はいつの間にか和斗と近付きすぎていることに気が付かなかった。
ふと顔を上げると、すぐ横に和斗の顔がある。
「あ――す、すみません!」
一瞬で顔を赤くし、水面は慌てて本の位置、二人分の距離まで離れた。
「あ〜あ、せっかく水面から近づいてきてくれたのに」
和斗は気が付いていたのだ。
更に顔が熱くなる。
「すみません……」
「水面さ、本の話するときだけ饒舌になるの気付いてる?」
「そ、そんなにですか?」
「あぁ、もうこれでもか! っていうぐらい、熱く語る」
「す、すみません……」
本の話に夢中になりやすいことには気が付いていたが、まさかそこまであからさまに変わるとは、思ってなかった。恥ずかしい。
「本の話する時の水面、目がきらきらして、可愛い」
「えっと……その……」
「あははっ。顔、赤い」
ふにっと頬を摘まれる。触れられたそこから、熱が広がっていくようだった。
「こ、これは……夕日の色です」
「…ぷっ」
「色なんです!」
「りょーかい。そういうことね」
話をしていると、いつもは少し長い距離だと思っていた駅への道も、すぐに歩き終えてしまった。
「水面、明日さ、図書館付き合ってくんない?」
「え?」
「あの本の続き、読みたくてさ」
本の続きが読みたい――じわりと胸に、暖かな気持ちが広がってゆく。
「はい!」
訪問有り難う御座いました。




