3.桜並木
訪問有り難う御座います!
三話目にして彼の名がーー
白に近い桜が、はらはらと舞い落ちてくる。青空も今日は淡い色だ。
「へぇ〜、水面、弁当なんだ。自分で作ってんの?」
「あ…はい」
「すげー」
連れてこられたのは、図書館へと続く桜並木の中だった。周りを見ると、数人弁当を食べているのが分かる。
入学したときからここで昼食をとってみたいと思っていたが、水面にはとても一人で食べに来る勇気はなかった。和歌は友達に引き留められるだろうし、二人で来ることはまず無理だと思っていた。
そんな憧れの道に、二人。この人と。
ちらりと隣を見る。そこには真剣に水面の弁当を見つめる顔があった。
「なぁ、水面の卵焼き貰っていい?」
「え、あ、どうぞ」
水面の彩りもよく、バランスもとれた弁当とは対照的に、彼は焼きそばパンを食べていた。今食べている物以外にもいくつか持っていたが、どれもパンだった。パンしか持っていなかった。体に悪くないのだろうかと、つい考えてしまう。
「美味っ!!卵焼き、俺甘いの好きなんだ。水面の甘くて美味しい」
「あの…水面って…」
思ったより会話が出来ているので、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あ、ごめん!呼び捨て、癖でさ。嫌だったら止めるから!」
慌てる姿が可愛くて、少し落ち着いて話が出来そうな気がしてきた。
「そうじゃなくて、えっと…何で私の名前を知ってるんですか?」
「え?普通に好きな子の名前ぐらい、調べたりなんかして知ってるもんじゃない?てか、告白したのに知らないとか問題だろ」
そういうものなのかと、恋愛初心者の水面には分からないことだらけだ。
「あの…」
「何?」
さっきから水面が何か言う度、嬉しそうにこちらを見てきた。まるで子犬のようだ。
「名前、私…何て呼んだらいいですか?」
「俺、まだ言ってなかった!?うっわ〜…緊張してて言い忘れた」
「緊張…?」
していたのか。
何だか、不思議な人だ。会って直ぐに告白してきたかと思えば、緊張したという。
少し耳の先を赤くしながら、簡単に自己紹介をしてくれた。
「俺の名前は《東 和斗》。《かずと》でも《かず》でもいいから」
「えっと、私は《東 水面》です」
水面が一応自己紹介をした途端――
「っ!!」
急に和斗は両手で顔を覆い、うずくまった。
あまりにも急な動きだったので、驚きのあまり弁当箱を落とすところだった。
「うぅ〜…」
「え、あの、大丈夫ですか?」
「ヤバい!」
そうかと思えば、急に起き上がる。その頬は少し赤かった。
「うっわ…嬉し。恥ずかし。嬉し!!」
「え?え?」
「水面と話せた。今、俺話してるんだって実感した!」
まさかの理由に驚き、一瞬間がが空く。
何だろうこの人は。何て純粋なのだ。
「…ふふっ」
「あ、笑うなよ」
きつい言葉遣いだったが、今では全く怖くなかった。それどころか、可愛いと思ってしまう。何故だろう。怖かったはずなのに。
知りたい。この人のことをもっと。
「和斗さんは面白いです」
「…っ!!」
和斗の目が大きく開かれた。
「あぁ〜…反則。ここで名前呼ぶなよ」
「え?」
そう言ったかと思うと、和斗はまた顔を覆ってうずくまってしまった。
どうしてだか分からずに狼狽える水面が、その耳の赤いことに気が付くことはなかった。
有り難う御座いました。
亀な更新が続くと思いますが、末永くよろしくお願いします。




