2.少女は夢を見る
訪問有り難う御座います!
サブタイトルになった水面の夢の話です。
理想ですね。
大きく開かれた口。もへ〜という効果音が似合いそうな間抜け面。
「へ〜、あたしと別れた後そんなことがあったの」
水面は真剣に話しているのに、頬杖をついて話を聞いているのは和歌だった。
「もう!すごく怖かったんだよ!!」
頭をぽかりと叩くと、ようやくまじめに聞いてくれる気になったようだ。
「ごめん、ごめん。水面にとっちゃ、大変な事よね」
「うぅ〜…」
告白が大変なことでないと言える人の方が、少ないだろう。そう言えてしまう和歌が凄い。
「よしよし。それでどうしたの?逃げたの?……断ったの?」
頭を撫でながら聞いてきたのはその二つ。一応断ったかどうかも選択肢に入れているが、逃げたと思っているのだろう。付け足しのように述べた《断った》という選択肢がそれをよく表している。
そうだ。流石、よくわかっている。水面が断れるはずがない。
「…」
「逃げたのね〜。大丈夫、教室まで来たらあたしが何とかしたげるから。そうね…帰りも今日は一緒に帰ろうか」
「…」
「断るのも、あたしが言ったげるよ?」
「…」
「…ん?違うの?」
小さく頷く。
「断れたの!?」
首を横に振る。
「じゃ、なによ。…まさか」
☆★ ★☆
「言っとくけど、罰ゲームとかそんなんじゃないから」
最初からそんなことは少しも頭になかった。告白の言葉を聞いたときから頭の中は真っ白だ。
そういうことも考えられるのかと、言われて気づいたが、既に否定されている。
それを嘘だと疑わないくらい、水面は純粋だった。
「好きです、付き合って下さい」
よく聞くおきまり文句。すぐに返事をすればいいのに、声が出なかった。というより、頭がまだ働いていない。
好き?隙?杉?スキー?好き、嫌いの好き?
「いや、会ったばかりなのにすぐに好きになれって事じゃないから。あぁ…初めは俺のこと知ってもらうって感じで付き合ってくんない?」
☆★ ★☆
今まで好きになった人はいない。初恋は本の登場人物だ。
友人達との恋バナで出てくる理想の恋人は、優しくて、本好きで、一緒に図書館通いのできる人。
「付き合うことになったの!?」
「しー、しー!」
慌てて和歌の口を塞ぎ、教室を見回すも、誰も気がついていないようだった。
関係のない人に興味本位で耳を澄まされることは、勘弁したい。
「違うの、返事は待ってくれるらしいの」
「…水面にしては珍しいね」
「…」
正直流されたのだ。返事も何もないまま、彼は言いたいことだけ言って、走り去ってしまった。逃げる間もないし、断る間もない。
しかし、嫌悪感は抱かなかった。図書館で本を取ってくれたとき、怖いと思うと同時に、少し素敵だと思っていた。ああいうタイプは怖いと思うが、憧れもするのだ。それに、彼はピアスをしているだけで、あとは特に派手でも何でもなかった。
髪は普通に黒だったし。
「…あれを派手でないと言えるあんたが凄いわ。ピアスだけって…」
「え?」
「ま、取り敢えず弁当食べよ。ほら、とってきな」
水面もお腹は空いていたので、先のことは弁当を食べてから考えることにした。
窓際の和歌の席から離れ、一旦反対側、廊下の自分の席まで取りに行く。
大変なことをしていると自覚はしているが、どうすれば一番いいのかが分からない。自分に好意を持ってくれる人に対し、水面は恐怖を感じている。嫌悪感は感じなかったが、これから好きになることはないと分かっているのに、返事をしなかった。好きになる努力は無理だろうが、知ろうとする努力すら出来ない気がする。
「はぁ〜…」
「水面、いる?」
「ひゃぁ!!」
頭上で、今一番色々な意味で会いたくない人の声が聞こえた…気がする。そう、あくまで気だけだ。
恐る恐る鞄から顔を上げ見上げると、廊下の窓から顔だけ覗かせて自分を見る彼の姿があった。
ぱちりと目が合う。
「あ、いた。昼一緒に食わない?」
満面の笑みを浮かべられ、断れるわけがない。
窓際の席に視線をやると、運悪く、和歌は人に囲まれていて水面の状況に気がついていないようだった。
そのまま半ば引きずられるようにして水面は教室を後にした。
有り難う御座いました。
次は彼の名前が分かります。




