(九話)黒い月の光を浴びながら わたしは教会の中へ
遅くなってすみません。気づいたら朝でしたー。
「さあ! 次行きましょ!」
わたしは子どもたちに向かって号令をかける。
『えー、もう充分じゃない? 教会にも行かないと』
呆れ顔のミミが言う。こっちに来てからほとんど呆れ顔でいるような気がする。
『ネコ食べショッキングだと、幸せが逃げちゃうわよ』
『なんだよネコ食べショッキングって。ネガティブシンキングだろ……その言い間違い「あたち5ちゃい」と同じ匂いがするなぁ……』
せっかくのお菓子の日なんだから、もっと大量にもらわないと意味がない。これくらいで終了なんてありえないよ。よそのお家にお呼ばれに行った帰りでもこれくらいならもらえるもの。
「とりあえず、あっちに行きましょう!」
わたしは適当に指をさした方へ歩いて行く。
子どもたちは、もらったお菓子を大事そうに抱え、満面の笑みでわたしの後ろをついてくる。
「ルーナちゃん、ありがとう!」「すごいね、ルーナちゃん!」
褒められて、わたしは鼻高々よ。
「よし、次はそこのお屋敷にしましょ。メイドさん四人が門前にいるし」
わたしたちの視線を感じたのか、四人のメイドさんは一斉に目を逸らせた。
「とりっく・お・ありーど」
わたしはメイドさんににっこり微笑んだ。
「ほら。みんなも言わないと」
わたしに促され緊張していた子どもたちがおずおずと声をあげる。
「……とりっくお……「とり……「あ・りー……「……りーど……」
「ほら、みんな声をそろえて。せーの!」
「「「「「とりっく・お・ありーど!」」」」」
子どもたちと同じように、顔が硬っていたメイドさんたちも一拍遅れて「はいどうぞ。“母さま”に感謝を」とそれぞれの手にお菓子を渡してくれた。
子爵邸からそんなに離れていないここでは、あの騒ぎを知っていたのか、多少ぎごちなさはあったが、揉める事もなくお菓子を貰えた。
「さ! 次行くよ!」
「ルーナちゃん。もうお菓子持てないよ」
「あ、そうだね。じゃみんなそれぞれこの袋に入れて。わたしがまとめて預かってあげるね」
「ルーナちゃん、それどこから出したの?」
「ふふふ、こんな事もあろうかと、事前に収納魔法で準備しておいたのよ」
ウチの万能メイドたちの秘技《こんな事もあろうかと》を見て、わたしもいつか言いたいなっと思っていた事が言えて大満足。
ん? 子どもたちが固まってる。
「ルーナちゃん……それって魔法?」
「うん。収納の魔法よ」
「魔法ーすげー!」
「魔法使える人初めて見た!」
魔法って珍しいのか。
「じゃこんなのはどうかな」
わたしは周囲に光の玉を浮かべて見せた。それをみんなの肩にひとつずつ乗せていく。
「暗くなって来たからちょうどよいでしょ」
子どもたちから歓声が上がる。いきなり歓声を上げた子どもたちを見た人たちが固まった。
『ルーナ……言わなくてもわかるよね……やりすぎ……』
そこからはもう、止まらなかった。
わたしたちは貴族街の家々を順番に回り、次々とお菓子をゲット。
マカロン、クッキー、金粉入りキャンディまで!
「ルーナちゃんすごい!」「ルーナちゃん、最強!」
「もっと回ろう!」「お菓子万歳!」
気づけば、子どもたちの袋はパンパン。
広場に戻る頃には、空から陽の光は消え失せ、満天の星を背景に、黒く大きな月がかかっていた。
「あら、この世界にお月さまは黒くて大きいのね。でも明るくないお月さまはちょっと寂しいね」
わたしのつぶやきが聞こえたのか、女の子がわたしに教えてくれた。
「母さまの日は、お月さまは大きくて黒くなるのよ。いつもはもっともーっと小さくて、すごく明るくてきれいなんだよ」
『月食かな。でも、太陽が二個あって、年に一回決まった日に月食が起こるって奇跡的だよね』
ミミはそう言うけど、そんなに不思議な事? 今日が“母さまの日”だからじゃないのかな。
“母さまの日”だからお菓子がもらえる。
“母さまの日”だから子どもたちは平等。
“母さまの日”だから加護が強くなる。
“母さまの日”だから月が大きく黒くなる。
なにも不思議な事ないと思うんだけど、ミミには言わない。きっと話がむつかしくなっていくから。
「わたしは教会に行くけど、みんなはお家に帰るんでしょ。じゃお菓子渡すわね」
収納からみんなのお菓子の入った袋を出していく。貴族街でがんばりすぎたので袋はいっぱい。小さな子は持って帰るの大変そうだな。
わたしは袋に重さがなくなる魔法をかけた。2時間分くらいで大丈夫かな。そして、ヒモをつけたので、少し浮かせて引っ張れば楽に持って帰れるでしょ。
「はい、これみんなのおかしね。こんな感じに浮かせれば重くないでしょ。あと、この袋の中に入れておけば6ヶ月の間は痛まないので毎日ゆっくり食べても大丈夫だからね」
「ルーナちゃん……これ」
「あは、“母さまの日”だからね。じゃみんな気をつけて帰ってね」
「ルーナちゃんも気をつけてね」「ルーナちゃんバイバイ」「母さまに感謝を」「ルーナちゃんにも感謝!」
子どもたちの肩に止まった光の球で周囲明るく照らし、大きな袋を宙に浮かべて庶民街へ帰っていった。
いっぱいお友だちができてよかった。来年もここに来たいな。
「さぁミミ、教会へ行きましょう!」
『ああ、そうだね。早くこの世界から脱出する糸口を見つけないと。お菓子に夢中になりすぎて、帰り方を忘れちゃだめだよ』
「分かってるってば! でも、教会に行けばまたお菓子もらえるかもしれないしね!」
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ルーナたちが去った後、遠巻きに見ていた衛士の一人が、仲間とヒソヒソ話した。
「あの嬢ちゃん、一体何者だ……」
「わからん。だが、あんな派手な魔法を使っても、どの屋敷からも苦情一つ出ない。……“母さま”絡みで、よほどやばいお方なんじゃねえか?」
「子爵様は顔面蒼白だったらしいぞ。もうあの子に関わるのはやめておこう。我々の仕事は平和を守ることだ」
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