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(六話)誰も知らない道の奥から、木馬に乗った少年がやって来た






『しまった! だから言ったのに!』


「えっ! ミミどうしたの!? 大丈夫⁉︎



『……ルーナ、これ、ただの布じゃないよ』


「え? なにかあった?」


『ボクの魔力が少し戻ってきた……。この世界の“母さま”の加護か、あるいは別の力かもしれないけど……本当に効くみたいだ』


「やったじゃないミミ! これで帰れる?」


『まだそこまでは無理。でも、魔法が少し使えるようになるかもしれない』


「じゃあやっぱり良い人だったんだね、あのおじさん」


 串焼きも美味しかったし、お菓子もくれた。すっごい良い人だったで賞あげたいくらい。

 ハギレ屋さんのおじさんは「微妙で賞」くらいかな。


「ねぇミミ。ハギレ屋さんに戻っていっぱいその布もらう?」


『嫌だよ! ボクが、メイド長の持ってるはたきみたいになっちゃうじゃない。それに大事な事……お金がない!』


「キター!」


『何それ?』


「わかんない。今、頭に浮かんだだけだよ」


『変なの……まぁお金が有っても戻らないけどね』


「あっ騎士の格好をした子供たちがいるよ」

 向こうから、子どもの兵士を連れた小さな騎士が木馬に乗ってやってきた。


『目立たないよう、道の脇に寄ってよう』

 ミミはそう言いながら、わたしのマントを咥え道端へと引っ張った。


「あんな小さい子が騎士になれるの?」


『あれは本物の騎士じゃなく、仮装だよ。こっちの世界でもハロウィンには、仮装するみたいだね』


「なんだ。コスプレか」


『こすぷれ?』


「ん? ニセモノって“こすぷれ”って言うの?」


『ルーナが言ったんじゃない。こすぷれって』


 変なミミ。魔力は少し回復したみたいだけど、ご自慢の耳が悪くなっちゃった? ミミの耳……うぷぷ。


「ミミってば変よ。わたしはニセモノって言っただけなのに。うぷぷぷ」


 そこまで言った時、道の方から怒鳴り声が聞こえた。


「貴様!私の事を、変な偽物呼ばわりしたな!」


 怒鳴り声のした方に目を向けると、先ほど見かけた、小さな騎士がいた。

 よく見るとわたしより歳上、でも十歳は越えていなさそうな少年が、、眉を釣り上げこちらを睨んでいた。


「ミミ、あの子怒ってるよ。どうしたんだろね」


『だ・か・ら! 念話でってあれ程言ったのに! きっとルーナが「ニセモノ」言ったのが聞こえて、自分の事を揶揄って笑ってるって思ったんじゃないの』


 ミミは呆れたように首を振りながらベンチにうずくまった。

 まったくわたしを助ける気はないみたい。


『ほら、睨んでるよ。理不尽かもだけど、面倒そうだし早く謝っちゃいな』


「えっと、あなたの事をニセモノって言ったわけじゃ……」「変なとも言ったぞ!」

「それも……」

「笑ってもいたな!」

「だから、ミミとおしゃべりしていて、あ、ミミってこの子ね。この子とわたしがニセモノって言ったとか言わなかったって言い合ってて……」

「ほう、猫と一緒に私の悪口で盛り上がっていたと。なるほど……猫に押し付ける気か?」


 なんなのこの子、すっごいしつこくて面倒……。

「そうじゃなくて、ニセモノは別にアナタの事では無く、えっと、確かにニセモノとは言ったけどそれは悪口とかじゃなくて……」


「もうよい! それより貴様、被り物をしたままとは無礼であろう! 上級魔導師の扮装をしている所を見れば、おそらく貴族の令嬢であろう。フードを取って名を名乗らぬか!」


 うっわぁ。めんどー事確定だわ。絶対アレ高位貴族のわがまま息子に違いないわ。しかたないわね。お母さまに叩き込まれた宮廷作法で大丈夫よね。多少違っても大丈夫でしょ。わたしには秘技“あたち5ちゃい”があるし。

 わたしは、怒ってる子に向かって最上級の正式な挨拶をする事にした。


「名乗りが遅れ申し訳ございません。お初に御目通り致します。わたくし父センジェネムリトーイ・レージェレイエロイロイ・ラーコーツィ、母レジーナノニ・ドンムルント・ドラーガフィーカが第一子、ゼイーザノニ・ルナインテロパ・ドラーガフィーカ・ラーコーツィ申します。“寡聞にして・・・・・ご尊名を・・・・存じ上げず・・・・・”、失礼を承知で貴方様とお呼びいたしますが、“誤解・・”とはいえ貴方様にご不快な思いをお掛けし、誠に申し訳ございませんでした」


 わたしはフードを上げ、カテーシーと共に一気に言い切った。


 フードを上げたわたしを見た少年は、始めは呆然と口を開けていた。だが、怒りのため赤みが差していた顔は、次の瞬間、さらに深く、濃い赤に染まってわたしを見つめていた。


 あ、やばーい。作法間違えたかな。さらに怒らせちゃったっぽい。これはアレを出すしか!


「えっと……あたち5……」


「い、いや、事情はわかったし、そ、そのー、あ、丁寧な謝罪受け取ろう。こちらの方こそ、いきなり怒声を浴びせ申し訳なかった」


 少年は何かを振り払うように首を振ると、わたしにそう言ってきた。


 ふふふ、わたしの秘技も進化したものね。年齢を言いかけただけで、怒りをおさえて謝って来たわ。

 そして、この少年も出来る子じゃないか、とわたしは思った。ちゃんと謝れる貴族の子って少ないんだものね。


『……いろいろ違うと思うよ。まあいいや。ルーナにはまだ早そうだし、これ以上関わらないように、とっとと行こうよ』


 わたしも同じ思うだったので、ベンチにいたミミを抱き抱えると、この場を離れる事にした。


「ならばわたくしも許しましょう。では失礼致します」


「お、お待ちください! おっとこれは馬上から失礼致しました」


 少年はそう言うと、木馬からひらりと飛び降りようとしたが、その時木馬は少年が降りやすくなるよう、膝を折って体勢を低くした。


 飛び降りようとする少年。同時に体勢を低くした木馬。


 結果、少年は地面にダイブする事に。


 あー痛そう。

 わたしは、少年がはずかしい姿を見られたくないだろうと思い、倒れている少年と、大慌てで抱き起こす兵士姿の少年たちを後に、足早にその場を離れた。心の中で木馬に“グッジョブ”を贈りながら。


 少年たちの姿が、完全に見えなくなるところまでやって来たわたしは、詰めていた息を吐き出した。


「ふぅ……。ぷふふ……。ぷふふふふふふ! べちゃって、べちゃってなってたよ!うはははは!」


『もぅー、そんなに笑っちゃ可哀想だよ』


 そういうミミも、わたしの腕の中で小刻みにふるえていたのを、わたしは知ってる。


「あの子、きっとこの国の王族ね」


『どうしてわかるの? 確かに無駄に偉そうだったけど』


「あいさつを受けなれてる感じだったわ。“5ちゃいのあたち”がちゃんと挨拶したからおどろいてはいたけどね」


『その“5ちゃい”やめなって。それより念話を使えって言ってるでしょ!」


『はいはい』


 まったくミミには秘技“あたち5ちゃい”の凄さが分かってないんだから。それよりお菓子よ。貰えるだけもらって一生分のお菓子を持って帰らないと。


「あ! あのお店、子供たちがいっぱい集まってる! 人気のおかし屋さんに違いない!」


『あそこお肉屋さんだよ。子供達にお菓子を配ってるんじゃない』


 配ってる! タダ!


「よし行こう! すぐ行こう! レッツゴー!」


『やれやれ、ほんとルーナはぶれないねぇ』




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