(四話)串焼きとお菓子とわたし
たどり着いたのはお菓子の街?
やった! お祭りだ!
でもお祭りの名前がちょっと違うぞ。
ルーナはこの街でお菓子を貰えるのでしょうか?
「うわー。すごいすごい! ミミ、お祭りだよ! 街中がお祭り! やっぱりハロウィンだね!」
門をくぐったわたしの目に映ったのは、真っ直ぐ続き石畳の大通り。
その道の両脇には、ピンクの小さなお花をたくさんつけた木が、ずらりと植えられていた。
どの木にも、いろんな色の細長い紙が、垂れ下がるように飾られている。そして、大小の顔だけの魔物がまるで木を守るようにとり囲んでいる。
「ミミ、ミミ! すっごいキレイ! ハロウィンだよ!」
うれしくて、楽しくて、ミミを持ち上げ、くるくるまわっているわたしに、一人のおじいさんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん“はろいん”なんてよく知ってたね。大昔はこの日の祭りを“はろいん”と呼んでいたそうじゃ」
「今は“はろいん”って言わないの?」
そっか、むかしは“はろいん”だったのか、いつのまにかハロウィンってなっちゃったんだね。
「ん? 今? 今はお嬢ちゃんも知ってる“母さまの日”“母子祭”とこの国ではそう言っておるの。クソッタレな……おっと“母さまの日”に出す言葉じゃなかったの。ごめんよお嬢ちゃん。えっと、隣の聖王国では、“御聖母様降臨の日”とか言って大袈裟な祭りにしておるそうじゃ。やり過ぎてまた“母さま”に怒られぬと良いがのう」
「やりすぎ?」
おじいさんは言葉をきって、少しためらう素振りを見せたが、話しを続けた。
「お嬢ちゃんは知らんか。120年ほど前じゃが、祭りの日には国の子供達を強制的に聖母教会に集めて、朝から晩まで母子像に祈らせておったのじゃ。“母さまの日”じゃから、もちろん子供達は怪我や病気からは守られておるが、長時間の拘束に体調を崩す子、倒れる子も沢山出たそうじゃ。」
そこまで喋って、わたしが立ったままなのに気付いたのか、おじいさんは、キレイに飾り付けられた街路樹の下のベンチにわたしを誘った。
「立ち話は疲れたじゃろう。あっちに座ろう」
近寄ってみると、木を囲んでいた魔物と思っていた物が、人の手で作られたランタンだとわかった。
「大きなナンキン?」
「このパンプキンのランタンか? お嬢ちゃんは古語を習っておるのか? 立派な衣装じゃとは思っておったが、高位の貴族令嬢かの。貴族令嬢にしては見かけぬ顔じゃが……」
「えっとね。わたしは今日おし…」
「にゃ!にゃにゃー!」
そこまで言った時、ミミが座ってるわたしの膝に飛び乗って騒ぎ始めた。
『ルーナ! 今「お城」って言いかけたでしょ。この世界ではどうかわかんないけど、ボクたちが魔界の者ってバレない方が良いよ。こんな街中にお城住まいの子がひとりでいるなんて変すぎるでしょ』
「おし……。ミミどうしたのおしっこ?」
「にゃー!『ひど! 誤魔化し方酷い!』」
「おじいさんごめんね。ミミが騒いじゃって」
「なにかまわんよ。ほー良い猫じゃな。良い目をしておる」
「ぜんぜん。食いしん坊でわがままネコだよ」
『自分の事じゃん。その爺さんに気をつけてね。変な事喋るんじゃないよ』
「で、子どもたちはどうなったの?」
ごまかす意味もあって、わたしはおじいさんに話しの続きをお願いした。
おじいさんはわたしの態度をあやしむ事もなく、気軽に話を続けてくれた。
「…………おおそうか、それでじゃ……親もそんな辛い事を子供にさせたく無いが、参加しない子の家はその村共々罰せられておった。あまりの仕打ちに、人々が国や教会に対して反旗を翻そうとした時……反旗……武器を持って襲おうとしたのじゃ。じゃが、その前日に聖王国中の聖母教会に雷が落ち、建物は不思議と無事じゃったが、外壁が真っ黒になり、また、聖王城の広場にも教会の行為を諌める言葉の書かれた石碑が降ったそうな。今でもその石碑は広場にあるはずじゃが、また懲りずに聖王国の祭りが年々大規模になり、その費用を捻出する為に、年貢も増えていると聞いておるの」
そこまでお話してくれたおじいさんは、串焼きをわたしに差し出した。
「ほれ、良かったらお食べ。まだ温かいはずじゃ。それとも毒味をしない物を食べるのは禁じられておるのかの」
わ! 串焼き! すっごく美味しそう。ハロウィン最高!
「大丈夫。ミミがいるもの」
「にゃ!『おい! 言ったそばから!』」
「えっと、ミミは食いしん坊だから、おいしいモノの匂いがわかるの。今、にゃ!って言ったからきっとこれはおいしいのよ」
よし! 完璧!
『どこがだよ……』
「そうかそうか、じゃその猫にもあげんとな。わしも食うとするか」
そう言いながら、おじいさんはまた串焼きを二本取り出した。
一本は串を外しお皿の上に乗せ、それをミミの方に差し出し、自分も美味しそうに串焼きにかじりついた。
それを見てわたしもかじりつく。
「おいしーい! 甘辛くてとってもよいお味!」
「そうかそうか。これはこの街でも一番の串焼きじゃ。この甘辛いタレも“母さま”からの授かりものと言われておるの」
「“母さま”すごいね」
うちの母さまは怒ってばかりなのに……。
「“母さま”の事をもっと知りたければ、教会へ行くと良い。聖王国の教会と違って、住民の慕われておるからの。子ども向けの絵本も揃っておるはずじゃ」
「うん。行ってみるね」
『ねぇ教会大丈夫? 奴らが居る所だよ』
『ここのは大丈夫じゃない? おじいさんの話だと“母さま”って人の教会みたいだし』
さぁ教会に行きましょ。お菓子もらえるかもしれないし。
『忘れてないねぇー、お菓子の事』
「おじいさん串焼きありがとう。お話もありがとう。教会に行ってみますね」
「気をつけて行くんじゃぞ。“母さま”に感謝を」
そう言うとおじいさんはわたしの手に紙袋を渡してくれた。
「これは?」
「“母さまの日”のお菓子じゃ」
「え! お菓子! ありがとう」
「街中の家を廻ってもらいに行くのも良いが、道ゆく知らない人からいきなりもらうお菓子も良いモノじゃろ」
「よそのお家でもらえるの!」
「そうじゃ。パンプキン、ナンキンか。ナンキンのランタンを飾ってある家ならどこでももらえるぞ。家に行って『とりっくおありーど』って唱えれば貰えるのう」
「『とりっくおありーど』どう言う意味?」
「意味は、読まないと悪戯しちゃうぞ。って意味らしいの」
「なにを読むんだろ?」
「それはわしも知らん」
ハロウィンってふしぎなお祭りだね。
「じゃ、行きます。お菓子もありがとう!」
「ああ、またの」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
ルーナとミミを見送ったおじいさんは、一人ベンチで考え事をしている様です。
いったい何を考えているのでしょう。
……不思議な子じゃったの。
“収納魔法”にも驚いた様子を見せなんだし。抑えられていたが、あの魔力はとんでもないのう。見た瞬間震えが来たわい。
あの猫もただの猫では無さそうだし。
パンプキンをナンキンとも……。
他国の王族がこの街に入ったとも聞いておらんし。“母さまの日”に出会った奇跡の子とでも思うとするか。
縁があればまた会えるじゃろ……
(つづく)