(三話)この門をくぐる者。
美味しいお菓子を求めて、魔界を抜け出したルーナとミミ。
いよいよお菓子の山に突撃だ!と思ったら……。
あらあら、なんだかお日さまが変だぞ。
『ごめん、次元門が別の場所に繋がってたようだ』
ミミが申し訳なさそうにわたしを見た。
『人間界って魔素が一定じゃないから、これまでも薄い所に出ちゃった事はあったけど。そんな場合は、多少の時間は掛かるけど、回復はするんだよ』
「なーんだ、回復するんだ。だったらいいじゃない。あれ? あー! わたしの魔力がいるとか、念話をおぼえろとかも、全部からかったってことね!」
なんだ心配して損した!「にゃー」しか言わないミミを前にして、わたしがどれだけ不安で悲しかったか。がんばって泣くの我慢してたのに。
「ばーか! ミミのばーか! サンマの塩焼きは、もう頭しかあげないんだからね!」
「にゃー!にゃにゃにゃ。にゃにゃ、にゃにゃー!」
なによ。念話魔法使ってやらない。ふんだ。もう、ふんのふんのふんだわ!
「にゃーーーー」
「なによ! ミミが自分で使えるようになるまでわたしは使わないわよ!」
「にゃー。にゃー。にゃー」
ミミが必死に首を振ってるけど、何なのよ。分かんないって。
しょうがないなぁ。少しだけよ。お菓子の街にも早く行きたいし。
「もう……『はい。ついだわよ』わたしは念話しないよ!考えていることと伝えていることがゴッチャになって使いにくいんだもの」
『ふー。怒るなら話を最後まで聞いてからにしてよ。そんなとこ、ルーナの母君そっくりだよね。それと念話は使って慣れておく方が良いよ。じゃないと人前に出た時、ネコと喋るかわいそうな子って思われるよ』
うわ、なんか一気に念話が来たよ。
「おしまいまで聞けって、そんな大切なお話ならはじめに言ってよ。それにネコとおしゃべりしてても大丈夫。だって“あたち5ちゃい。にゃんこと、おしゃべりできゅの”って感じで平気なんだもん」
『うーん。まあそれでも良いならね……。あ、先に謝っておくね』
「なによ」
『ボクも最初は、また位置が少しずれて、魔素薄めの所に出ちゃったんだなって思ってたの。で、良い機会だからルーナには念話の練習をしてもらおうと思ってさ。それであんな事言ったんだけど』
「えーやっぱり騙してたんじゃない!」
意味わかんない。なにが正しいの?
「まあそうなんだけど。母君にも“あの子は、普段から魔法にもお勉強にも本気を出さないから、練習の機会があれば遠慮なく追い込んでね”って言われてたしね。良い機会かなと思ってさ」
母さまめー、余計な事を……。くっ、(あたち5ちゃい。おべんきょうとか、まだはやいの。おそとであしょぶのがすき)って心の中で言ってみる。
『それ、母君の前でやってごらんよ』
あっ? あぁ、念話かぁー! やっぱり念話嫌い。
「で、ミミが魔法をうまく使えないわけは?」
『うん。それでこの場所と魔法の事だけど、ここはボクの知ってる人間界じゃなく、全く別の世界だと思う。人間界も太陽はひとつだし、魔素の質がここは全然違う。だからこの薄さだとほとんど吸収出来ない。そして、大気中の魔素も使い勝手がすごく悪い。だからボクが魔法を使うには、ルーナの助けが必要って事』
「でも、わたしは平気だよ。なにも不便なことないし」
『それはルーナだからだよ。だってキミは……。あ、いや、えっとそれは、うん、真祖さまの直系だからね』
「じゃ問題なしね」
『問題大有りだよ。ボクが魔法を使えないと、次元門が開けないし、元の世界に帰れないよ』
「えーーー! 大変じゃない」
『そ、だからマズイかもって最初に言ったじゃない』
「ちがう世界って! ……お菓子は⁉︎ ……ハロウィンは⁉︎」
『そっちかーい!』
せっかく来たんだから、ココもどんな世界かちょっと楽しみよね。こっちにもハロウィンってのがあるかもしれないし。
(あたち5ちゃい。むちゅかちいお話ちは、わかりゃないの。おかちのまちに、れっちゅごー!)
『ねぇ、少しは緊張感持ってよ……」
しおたれてるミミが何か言ってるけど気にしない。
さーて、この世界の人はどこにいるのかな。わたしたちが出てきたところは、なにかの遺跡みたいね。お掃除とかされてるみたいだし、近くにきっと街があるはず。
「ミミ、近くに街はない?」
『ボクもココは初めてだからわからないなぁ。でもこの道の向こうの方から、騒めきが聴こえてくるよ。そんな事より、魔法をなんとか……「よーし! あっちね。ミミ行くわよ!」……ふぅ』
ミミの言った道をしばらく歩いて行くと、チラホラと人の姿が見える。
わたしたちを気にして、こっちに視線を向けてくる人もいるけど、ほとんどの人はあまり気にしていないようね。
「ねぇ、ここってやっぱり人間界じゃない? 人族が普通に歩いているわよ」
『そうだね。耳が尖ってたり、色が緑だったりする人も居ないし。ボクの知ってる人間界と変わりないみたいだね』
わたしの前を歩いていたミミも、少し安心した様子で、シッポをゆったり左右に振っている。
「見てみて、門が見えてきたわ。わりと近かったね!」
あの門をくぐればお菓子の街ってわけね。待ってろ門。待ってろお菓子。
『お菓子はどうかな。ハロウィンは元の世界のお祭りだからね』
「いじわる言わないの!“希望を持って門をくぐるものに、お菓子の栄光を与えん”って言うじゃない。気持ち大事に、いのちだいじによ」
『誰の言葉だよそれ。お菓子の栄光ってなにさ。すごく嘘くさいんだけど』
「あ、ほらほら。門が開いたままだよ。たくさんの人がそのまま出入りしてるし、衛士さんはいないのかな」
魔界の門にも、街の門、お城の門にも必ず衛士さんが立ってるが普通って思ってた。
『平和だから居ないのか、諦めてるから居ないのかで大きく違うけどね』
わたしたちが門をくぐったところで、長い棒を持ったおじさんに声をかけられた。
なんだろあの棒、木の棒だから武器じゃなさそうだし、杖にしては長すぎだよね。門も木で出来てるっぽいし、木製品が自慢の街なのかもね。
「お嬢ちゃん、お使いの帰りかい? もうすぐ一つ目のお日さまが沈むから早くお家にお帰り。今日は女神さまが、子供たちに“守護と祝福”を与えてくれるお祭りの日だけど、安全だからってあんまり遅くまで遊ばないようにね」
「あたち5ちゃい。ありあとうごじゃいましゅなの」
『ミミーー! 聞いた? お祭りの日だって! きっとハロウィンだよ! お菓子の日だよ!』
よし! お祭り、見つけた! 次はお菓子もゲットしよう!
『ルーナ。5歳児ってもう少し普通に喋るよ。それやりすぎだからね』
がーん……もっと早く言ってほしかったよ……。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
吸血幼女のルーナと黒猫のミミは、異世界のお祭りと出会えました。
果たして異世界のお祭りはどんな祭りなのでしょう。
そしてルーナは待望のお菓子をもらえるのか。
(つづく)
横道に逸れそうになったのを頑張って軌道修正(汗
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