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猫と、吸血鬼(ただし幼女)と、ハロウィンと  作者: 真野真名


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10/12

(10話)お菓子が無ければケーキを食べればいいじゃない




 高くそびえる白い塔が、真っ黒な月を突き刺すみたいに立っていた。


「ふふふ。ここが、“母さまの教会”」

 わたしは黒マントをひらひらさせて、扉の前でちょっとキメ顔をしてみた。


『中には知識の宝庫があるって言ってたね。帰るヒントでもあればいいんだけど』

 ミミはわたしの勇姿なんて気にも留めず、さっさと教会の中へ入ろうとする。


 左右の扉には、金属っぽい太陽の顔が大小ひとつずつ取り付けられている。

 教会には少し似つかわしくない、不思議なデザイン。

 創った人、たぶん「芸術が爆発」したんだろうな。

 顔の表面には、うっすらと光の膜がかかっているように見えた。


 「吸血鬼お断り」の張り紙もないし――入っても大丈夫、よね。


 ギィ……と静かに扉が開く。


 中はひんやりとしていて、どこかお香のような匂いが漂っていた。

 白い床、ステンドグラスの光、飾り棚には見慣れない道具の数々。

 そして――本、本、本!


 人々が飾られた道具や本の前で、静かに語り合っている。

 祈りの場というより、まるで博物館か図書館のようだ。

 わたしのテンションは一気に上昇した。


「うわー……すご……!」


 その時、奥からふわっと光の人が現れた。

 いや、“現れた”というより、“発光している”という方が正しい。

 まるで月そのものが歩いてきたみたい。


「ようこそ、旅の子ら。今日は“母さまの日”。あなたたちにも祝福を」


 声はとても優しいのに、どこか人工的な響きがあった。

 喋るゴーレム巫女――そんな感じ?


「どうぞこちらへ。ここで立ち話もなんですし」


 ふわっと光る巫女さまは、先に立って奥へと歩いていく。

 まるで、わたしたちがついてくるのが当然だとでも言うように。


『ねえルーナ。あれ、人でもゴーレムでもなさそう。魔力の流れが変だもの。ついて行くなら、十分注意してね』


 ミミは真剣な顔をしていた。シッポが警戒するように、ゆらゆらと左右に揺れている。


『わかった。……でも、ついて行かないと始まらないしね』


 案内されたのは、応接室のような部屋だった。

 そこにも、やっぱりたくさんの本が並んでいる。


「少しお待ちくださいね。お茶とお菓子の用意をしてまいります」


 そう言って、巫女さまは部屋を出て行った。


「ミミ。お菓子だって!」


『ルーナはこんな所でもお菓子なんだね。いっぱい持ってるくせに』


「それはそれ、これはこれよ」


『念話! 見られてるかもしれないんだから、気をつけて!』


『はーい』


 教会のお菓子ってどんなだろう。“母さま特製”の大きなケーキとか?

 残ったら「持って帰っていいですよ」なんて言われたりして……。


 お菓子への期待で胸を弾ませていると、巫女さまがワゴンを押して戻ってきた。

 紅茶のセットと、真っ白なケーキがのっている。


 手際よくお茶とお菓子を並べ終えると、巫女さまもテーブルについた。


 わたしの前には、カップに入った紅茶と、イチゴの乗った真っ白なケーキ。

 ミミの前にも、ミルクのボウルと小さなクッキーが山盛り。


「どうぞお召し上がりください。ネコちゃんも遠慮せずどうぞ」


「えっと……このイチゴが乗ってるの、ケーキですよね?」


 ちょっとお行儀悪いかなと思いつつも、気になって聞いてしまった。


「ええ、そうです。イチゴのショートケーキですよ」


 やっぱりショートケーキかあ。でも、見た目がすごくふわふわしてる。

 フォークを刺すと、するりと沈み込むように切れていった。


 なにこれ、すっごく柔らかい。

 たまらず一口――ぱくり。


 口に入れた瞬間、しっとりふわふわの甘さとミルクの風味が広がって、

 お口の中が幸せでいっぱいに。

 わたしの知ってるショートケーキは、もっと硬くてボソボソしてたのに……

 うん。さすが“母さま”の教会!


「お口に合ったようで、良かったです」


「すっごくおいしいです!」


 ミミも、さっきまでの真剣な顔はどこへやら。

 夢中でクッキーをかじっている。


『それ、美味しいの? 少しちょうだい』


『美味しいよ。お魚味で、いくらでも食べられる』


『お魚味のクッキー……うん、ミミ、よかったね。全部食べていいよ』


 わたしはケーキを攻略することにした。

 上に乗ってるだけだと思っていたイチゴは、中にもたっぷり。

 上のイチゴ、どのタイミングで食べようかな……悩むー。


 ふと視線を感じて顔を上げると、静かに光っている巫女さまが、にこにことこちらを見ていた。

 ――あ、きっとケーキに夢中で変な顔してた。絶対、見られた。


「どうぞ、そのまま召し上がりながらで大丈夫です。少し、お話を聞かせていただけますか?」


 顔が赤くなってないか気にしながら、わたしはほほを押さえて答えた。


「えっと、なんでしょう。なにをお話しすれば?」


「こちらの世界には、どうして来られたのですか?」


「え!?」

『え!?』

「『えーーーー!』」







秋祭りの季節なのですね。


家の前の道をお神輿が通ってゆく。

子供達の声が、近づいて来たと思ったら、呆気ないほどあっさりと通り過ぎて行く。


ただそれだけの昼下がり。


よし! コーヒー飲も。



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