(10話)お菓子が無ければケーキを食べればいいじゃない
高くそびえる白い塔が、真っ黒な月を突き刺すみたいに立っていた。
「ふふふ。ここが、“母さまの教会”」
わたしは黒マントをひらひらさせて、扉の前でちょっとキメ顔をしてみた。
『中には知識の宝庫があるって言ってたね。帰るヒントでもあればいいんだけど』
ミミはわたしの勇姿なんて気にも留めず、さっさと教会の中へ入ろうとする。
左右の扉には、金属っぽい太陽の顔が大小ひとつずつ取り付けられている。
教会には少し似つかわしくない、不思議なデザイン。
創った人、たぶん「芸術が爆発」したんだろうな。
顔の表面には、うっすらと光の膜がかかっているように見えた。
「吸血鬼お断り」の張り紙もないし――入っても大丈夫、よね。
ギィ……と静かに扉が開く。
中はひんやりとしていて、どこかお香のような匂いが漂っていた。
白い床、ステンドグラスの光、飾り棚には見慣れない道具の数々。
そして――本、本、本!
人々が飾られた道具や本の前で、静かに語り合っている。
祈りの場というより、まるで博物館か図書館のようだ。
わたしのテンションは一気に上昇した。
「うわー……すご……!」
その時、奥からふわっと光の人が現れた。
いや、“現れた”というより、“発光している”という方が正しい。
まるで月そのものが歩いてきたみたい。
「ようこそ、旅の子ら。今日は“母さまの日”。あなたたちにも祝福を」
声はとても優しいのに、どこか人工的な響きがあった。
喋るゴーレム巫女――そんな感じ?
「どうぞこちらへ。ここで立ち話もなんですし」
ふわっと光る巫女さまは、先に立って奥へと歩いていく。
まるで、わたしたちがついてくるのが当然だとでも言うように。
『ねえルーナ。あれ、人でもゴーレムでもなさそう。魔力の流れが変だもの。ついて行くなら、十分注意してね』
ミミは真剣な顔をしていた。シッポが警戒するように、ゆらゆらと左右に揺れている。
『わかった。……でも、ついて行かないと始まらないしね』
案内されたのは、応接室のような部屋だった。
そこにも、やっぱりたくさんの本が並んでいる。
「少しお待ちくださいね。お茶とお菓子の用意をしてまいります」
そう言って、巫女さまは部屋を出て行った。
「ミミ。お菓子だって!」
『ルーナはこんな所でもお菓子なんだね。いっぱい持ってるくせに』
「それはそれ、これはこれよ」
『念話! 見られてるかもしれないんだから、気をつけて!』
『はーい』
教会のお菓子ってどんなだろう。“母さま特製”の大きなケーキとか?
残ったら「持って帰っていいですよ」なんて言われたりして……。
お菓子への期待で胸を弾ませていると、巫女さまがワゴンを押して戻ってきた。
紅茶のセットと、真っ白なケーキがのっている。
手際よくお茶とお菓子を並べ終えると、巫女さまもテーブルについた。
わたしの前には、カップに入った紅茶と、イチゴの乗った真っ白なケーキ。
ミミの前にも、ミルクのボウルと小さなクッキーが山盛り。
「どうぞお召し上がりください。ネコちゃんも遠慮せずどうぞ」
「えっと……このイチゴが乗ってるの、ケーキですよね?」
ちょっとお行儀悪いかなと思いつつも、気になって聞いてしまった。
「ええ、そうです。イチゴのショートケーキですよ」
やっぱりショートケーキかあ。でも、見た目がすごくふわふわしてる。
フォークを刺すと、するりと沈み込むように切れていった。
なにこれ、すっごく柔らかい。
たまらず一口――ぱくり。
口に入れた瞬間、しっとりふわふわの甘さとミルクの風味が広がって、
お口の中が幸せでいっぱいに。
わたしの知ってるショートケーキは、もっと硬くてボソボソしてたのに……
うん。さすが“母さま”の教会!
「お口に合ったようで、良かったです」
「すっごくおいしいです!」
ミミも、さっきまでの真剣な顔はどこへやら。
夢中でクッキーをかじっている。
『それ、美味しいの? 少しちょうだい』
『美味しいよ。お魚味で、いくらでも食べられる』
『お魚味のクッキー……うん、ミミ、よかったね。全部食べていいよ』
わたしはケーキを攻略することにした。
上に乗ってるだけだと思っていたイチゴは、中にもたっぷり。
上のイチゴ、どのタイミングで食べようかな……悩むー。
ふと視線を感じて顔を上げると、静かに光っている巫女さまが、にこにことこちらを見ていた。
――あ、きっとケーキに夢中で変な顔してた。絶対、見られた。
「どうぞ、そのまま召し上がりながらで大丈夫です。少し、お話を聞かせていただけますか?」
顔が赤くなってないか気にしながら、わたしはほほを押さえて答えた。
「えっと、なんでしょう。なにをお話しすれば?」
「こちらの世界には、どうして来られたのですか?」
「え!?」
『え!?』
「『えーーーー!』」
秋祭りの季節なのですね。
家の前の道をお神輿が通ってゆく。
子供達の声が、近づいて来たと思ったら、呆気ないほどあっさりと通り過ぎて行く。
ただそれだけの昼下がり。
よし! コーヒー飲も。




