六月にギャルを連れてきてスイカを食わせる村の因習
この村には古くから伝わる因習がある。
毎年六月になるとどこからかギャルを連れてきて、村人たちが飾り立てたステージの上でスイカを食わせるというものだ。
それは「ギャルにスイカを食わせる儀式」と呼ばれ、村人の誰もが神聖視していた。
しかし、なぜ六月にギャルにスイカを食わせる村の因習などというものがあるのだろうか。そこに疑問を持ってはならない。
それは神の決めた事なのだから。逆らう者には『ノベプラ~!』という叫びとともに罰が下されるのだ。
「ねえマジ意味わかんないんだけど〜、アタシなんでこんな辺鄙な場所まで連れてこられてスイカ食べさせられんの?」
今年選ばれたのは、都会から来た高校二年の真白唯奈だった。明るく染めた髪に、大胆なネイル、そして日焼け止めの匂い。彼女はまさに「ザ・ギャル」と呼べる女の子だった。
彼女はなろう町にいくつもりだったが、どうやら間違えてノベプラ村に来てしまったようだった。
「唯奈さん、これは伝統なんです。深く考えてはいけません。逆らう者にはノベプラ神の罰が下りますぞ」
村の村長は言い聞かせるようにそう告げた。
村の外れにある古い社の前に素朴ながらしっかりしたステージが設営され、スイカが山のように積まれている。
連れてこられた唯奈のギャルらしい姿を村中の人々が集まって見守っていた。
「今年はあの子がやるのかあ」
「今年もこの季節がやってきたな」
「ギャル、スイカ、楽しみ」
などとのどかに囁き合っている。わけの分からなかった唯奈ももうさっさと終わらせるかと覚悟を決めたようだった。
「このスイカを食えって? ふつーに食えばいいの? タネ出してもいいよね?」
誰も答えない。村長はただ静かに頷いた。
唯奈は息を吸ってからひとくち、スイカにかぶりつく。
「むしゃむしゃぽりぽり……これうめーな」
そのまま次のスイカに手を伸ばす。
「これ全部食べていいの?」
ギャルの質問に村長は厳かに頷いた。
「ごちー」
そうして笑顔になった彼女が全てを平らげた瞬間、曇っていた空から光が差し込んだ。スイカの汁が彼女の口元を濡らし、光の帯がギャルを包んだように見えた。
そのとき、村の長老が低く呟いた。
「これで今年も災いは去った……ここにスイカアバターはもたらされ、ますます発展していくことじゃろう」
なぜギャルなのか。なぜスイカなのか。それを問う者はいない。疑いを持った瞬間、何かが起こると村人たちは本能で感じ取っていたからだ。
そして、それは今年も去った。だから誰も、問わない。
ただ六月になれば、ギャルにスイカを食わせる。それが村を守る、最も確実な方法だと伝わっているから行っているだけだ。
「もうスイカないのー?」
何も知らない都会から来たギャルに村長は厳かな顔をして
「おかわりならある」
そう答えるのだった。
ギャルの前にスイカは積まれ、村の因習はまだ続いていく。